眼鏡の電柱より
…私は今、かつて無い苛立ちに襲われています。
理由は明白。前方で両手に花でイチャついているハーレム一行のせいに他なりません。
おまけに、将軍も酔っ払いも知らないうちにどこかに消えています。
…あんにゃろーども。
「ジューンー? ねぇ、これ美味しそう。一緒に食べなーい?」
「ジュン様。お昼御飯も近いのですから程々にしてくださいね」
あのティソンドとやらが勇者殿の腕にしがみついて引きずり、尼僧ちゃんが斜め後ろに控えて勇者殿の不規則な歩調に難なく合わせてついていっています。
あの3人、羨望や嫉妬にまみれた視線を感じないのでしょうか。
…あの二人、ちゃんと女の子らしいですね。
目つきの悪さ、物心ついた時からの背の高さ、眼鏡に近眼を兼ね備えた私には、あんな少女のような装いはどうにも縁遠いものでした。
…羨望ではなく諦観なんです。…きっとそうです。
手を握り締めればわかる剣ダコ。
足元で鳴るのはヒールでもパンプスでもなく軍靴。
腰に佩いている2本の剣。
『花の乙女』にはどうにも縁遠いものです。
…最後は短剣を無数につけてたり、儀礼用にしてはいささか高級で大きすぎる錫杖を持っていたりとお互い様かもしれませんが。
兎に角、あの勇者の取り巻きたちと私とは縁遠い存在です。
…とりあえず、あの勇者たちを無心に追いかけるしか私には出来ることがありません。と言うよりソレが任務の内容のはずだったのに隊長…はローブのお守りだからともかく将軍はどこに雲隠れしたというのでしょう。
と考えると、少し苛立ってきたような気がします。