何者であれ、生ける限りは
だいぶ間隔空いた。
よく覚えてねー。
「…つまり、馬防柵で騎兵を使いにくくした上で、どんどん細くなる通りに歩兵をあえて進軍させて、機動力を殺したところで矢をプスプス射かける…みたいなことを考えて通りは設計したんだと思うんだ。
まあ、以上の3つは時間稼ぎレベルだし、使われないのが一番だ」
「…極論すれば、砦の門前は一本道で、残りは水浸しなら完璧だったのに」
「逆にそれは防衛能力はゼロに等しいぞ」
「…なぜ?」
えーと。
「…あんたがさっき凍らせるって言ったじゃないか。
自分の口で」
ガーン!!
…今、ピアノのあの低音の効果音が聞こえた気がする。
「まあ、砦なんだから民衆のことなんざ一切考えずに堅砦を造るべきってのはわかる。
でも、当時の領主がそれを良しとしなかった。
しなかったまではいいんだが…」
「難しいところを全部設計者に丸投げ」
「だな。
砦としてのフスティリオと城下町としてのフスティリオを両立させろ、というほぼ無茶振りに近い命令だ。
俺なら辞表突き出して逃げるわ」
「やらないの?」
「絶対にやらないの。
俺は、首と胴が泣き別れしない限りは全力は出さない主義だ。
カッコ悪かろうがね」
…残念ながら俺はヒーローでは無い。
死んだところで還魂されることはまずなく、良くて共同墓地に埋葬か荼毘に付されて水葬がいいところである。
命をかけたり死をかけた戦略なんてものを打つようなことになった時点で人生の仕舞いだ。
死にたくはない。生にすがりたいって理由が特別ある訳では無いのだが。
ともかくこんな暗殺フラグが立ちそうな大仕事、バックれるのがベターに決まってる。
「だから頭を使う」
「…勝手に思考を読むなって。
彼女や奥さんじゃあるまいし」
「…矛盾してない?」
「…え?」
一瞬、思考が固まった。
脈絡も、それどころか何が矛盾しているかもわからないというのに。
「…矛盾、してない?」
…サリ・カニュは破綻に駄目を押すかのようにもう一度聞いてきた。
「………。
…実りの多い話だった。
合流」
どうやら、彼女の中で一応の議論の終結…というかお流れを見たらしく、合流に向かうことにしたようだ。
「あ、ああ。
あいつら今、何処にいるんだ?」
適当にぶらつく訳にはいかんしなあ。
『勇者ハーティの1人が単独行動をしたから離脱して随伴した』って理由で時間潰したら、減俸もんだ。
…今さら遅いか。
「今、探す」
トー………ン。
何か今、サリ・カニュから水紋みたいな輪っかが…出たような。
「2本東の通りにいる。
なんか…値切ってる?」
誰が?
それはともかく。
今のサーチか? 便利だな。
「2本東…職人街か。
水路通った方が早いな。
…泳ぐか?」
うわ、今俺絶対ニヤけ顔してる。
「………。
…えっち」
対してサリ・カニュは両腕で体を抱くポーズを取る。
セクシー…とはとても言えないが小動物的な可愛さが…あるような?
しかし、こちらの遊び心も読み取ったのか非難の色は無い。どうやら乗っかってくれたようだ。
「まあ、わかってるとは思うが冗談だ。
普通ならボートに載せて貰って移動するんだが、裏道があってな。
建物の店内を突っ切って行けば隣の通りに抜けられる。
…店主にいい顔はされないが」
「買ってけばいい」
「確かにそれなら何のいわれも無く通過できる…いや、もはや通過とは言えないだろうが。
金の無駄だろう」
「散財より、マシ」
…無意味な散財より理由があるほうがいいでしょ。
とでも言いたいのだろうか。
…女って怖いな、やっぱり。
「♪♪」
…女って怖いな、やっぱり。
矛盾が無けりゃあいいね、互いに。