【読後感最悪シリーズ】恵まれし村(AI作品)
最初のころは、ただの自慢だった。
「うちは三人とも男よ」
縁側で茶をすすりながら、姑たちは笑った。
「隣は二人目が女だったらしいじゃない」
「まあ、かわいそうに」
「やっぱり嫁の体質ってあるのよ」
言葉は軽く、しかし鋭かった。
村では昔から、男の子が尊ばれた。
理由はいくつもあった。
家を継ぐから。
田畑を守るから。
苗字を残すから。
先祖を祀るから。
女は嫁に出る。
男は家を残す。
それが当たり前だと、誰も疑わなかった。
最初の「事故」は、誰にも事故とは思われなかった。
女の子が生まれた。
体が弱かったらしい。
乳を飲まなかったらしい。
夜のうちに冷たくなっていたらしい。
仕方がない。
そういうこともある。
次は男だった。
よかったね、と皆が言った。
似た話は、少しずつ増えた。
不思議なことに、女の子はあまり育たなかった。
昔からこの村はそうだった、と年寄りは言った。
男が強い土地なのだ、と笑った。
やがて、露骨になった。
「次は男を産みなさいよ」
嫁はうつむいた。
誰も、それを咎めなかった。
孫が生まれるたびに、姑たちは比べ合った。
「うちは四人とも男」
「うちは五人よ」
「まあ、立派ねえ」
隣の家に負けたくない。
あの家より多く。
あの家より強く。
男の数は、誇りだった。
女の子が生まれると、空気が変わった。
祝いの声は小さくなった。
乳の出が悪い。
体が弱い。
運がなかった。
理由はいくらでもあった。
十年が過ぎた。
村の学校は、男の子ばかりになった。
運動会は勇ましかった。
声は大きく、足も速い。
誰も、不思議とは思わなかった。
二十年が過ぎた。
嫁いでくる女が減った。
「最近の娘は都会志向だから」
そういうことになった。
三十年が過ぎた。
婚礼の話がほとんどなくなった。
若い男は村を出ていった。
しかし帰ってこなかった。
嫁が見つからないからだ、と言われた。
四十年が過ぎた。
村の寄り合いに、違和感が生まれた。
若い顔が、すべて男だった。
五十年が過ぎた。
気づいた者がいた。
五十歳より下に、女がいない。
噂はすぐ広がった。
「たまたまだ」
「偏りはあるものだ」
「いずれ生まれる」
しかし、生まれなかった。
村の景色は変わっていた。
洗濯物が、暗い色ばかりになった。
声が低くなった。
祭りの踊り手が足りなくなった。
嫁が来ない。
縁談の話を持っていっても、断られた。
「あの村は、女が育たない」
「女を大事にしないらしい」
「怖い」
噂は、村より速く広がった。
若い男たちは焦った。
家を継げない。
子が持てない。
年寄りたちは言った。
「昔は、こんなことはなかった」
だが、思い出す者もいた。
あのときの言葉。
「次は男を産みなさいよ」
あのときの沈黙。
あのときの夜。
ある日、村の外から調査に来た者が言った。
「出生記録を見せてください」
古い帳面には、名前が並んでいた。
生まれた日。
生まれた家。
性別。
そして、ときどき
記録のない子。
誰も、何も言わなかった。
最後の婚礼が終わってから、二十年。
その子にも、嫁は来なかった。
村の灯りは、少しずつ消えた。
畑は荒れた。
家は閉じた。
墓だけが増えた。
男ばかりになった村には、
子どもの声が、二度と戻らなかった。




