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読後感最悪シリーズ

【読後感最悪シリーズ】恵まれし村(AI作品)

作者: りるる
掲載日:2026/04/07

 最初のころは、ただの自慢だった。


「うちは三人とも男よ」


 縁側で茶をすすりながら、姑たちは笑った。


「隣は二人目が女だったらしいじゃない」

「まあ、かわいそうに」

「やっぱり嫁の体質ってあるのよ」


 言葉は軽く、しかし鋭かった。


 村では昔から、男の子が尊ばれた。

 理由はいくつもあった。


 家を継ぐから。

 田畑を守るから。

 苗字を残すから。

 先祖を祀るから。


 女は嫁に出る。

 男は家を残す。


 それが当たり前だと、誰も疑わなかった。


 


 最初の「事故」は、誰にも事故とは思われなかった。


 女の子が生まれた。


 体が弱かったらしい。

 乳を飲まなかったらしい。

 夜のうちに冷たくなっていたらしい。


 仕方がない。

 そういうこともある。


 次は男だった。

 よかったね、と皆が言った。


 


 似た話は、少しずつ増えた。


 不思議なことに、女の子はあまり育たなかった。


 昔からこの村はそうだった、と年寄りは言った。

 男が強い土地なのだ、と笑った。


 


 やがて、露骨になった。


「次は男を産みなさいよ」


 嫁はうつむいた。


 誰も、それを咎めなかった。


 


 孫が生まれるたびに、姑たちは比べ合った。


「うちは四人とも男」

「うちは五人よ」

「まあ、立派ねえ」


 隣の家に負けたくない。

 あの家より多く。

 あの家より強く。


 男の数は、誇りだった。


 


 女の子が生まれると、空気が変わった。


 祝いの声は小さくなった。


 乳の出が悪い。

 体が弱い。

 運がなかった。


 理由はいくらでもあった。


 


 十年が過ぎた。


 村の学校は、男の子ばかりになった。


 運動会は勇ましかった。

 声は大きく、足も速い。


 誰も、不思議とは思わなかった。


 


 二十年が過ぎた。


 嫁いでくる女が減った。


「最近の娘は都会志向だから」


 そういうことになった。


 


 三十年が過ぎた。


 婚礼の話がほとんどなくなった。


 若い男は村を出ていった。

 しかし帰ってこなかった。


 嫁が見つからないからだ、と言われた。


 


 四十年が過ぎた。


 村の寄り合いに、違和感が生まれた。


 若い顔が、すべて男だった。


 


 五十年が過ぎた。


 気づいた者がいた。


 


 五十歳より下に、女がいない。


 


 噂はすぐ広がった。


「たまたまだ」

「偏りはあるものだ」

「いずれ生まれる」


 しかし、生まれなかった。


 


 村の景色は変わっていた。


 洗濯物が、暗い色ばかりになった。

 声が低くなった。

 祭りの踊り手が足りなくなった。


 


 嫁が来ない。


 


 縁談の話を持っていっても、断られた。


「あの村は、女が育たない」

「女を大事にしないらしい」

「怖い」


 噂は、村より速く広がった。


 


 若い男たちは焦った。


 家を継げない。

 子が持てない。


 


 年寄りたちは言った。


「昔は、こんなことはなかった」


 


 だが、思い出す者もいた。


 


 あのときの言葉。


 


「次は男を産みなさいよ」


 


 あのときの沈黙。


 


 あのときの夜。


 


 


 ある日、村の外から調査に来た者が言った。


「出生記録を見せてください」


 


 古い帳面には、名前が並んでいた。


 


 生まれた日。

 生まれた家。

 性別。


 


 そして、ときどき


 記録のない子。


 


 


 誰も、何も言わなかった。


 


 


 最後の婚礼が終わってから、二十年。


 


 その子にも、嫁は来なかった。


 


 


 村の灯りは、少しずつ消えた。


 


 畑は荒れた。


 


 家は閉じた。


 


 墓だけが増えた。


 


 


 男ばかりになった村には、


 子どもの声が、二度と戻らなかった。

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