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おーら監督甲子園へ

作者: kaji

 甲子園地方大会予選決勝。僕たち能生学園(のうがくえん)古豪明帝学園(めいていがくえん)の対決は3回裏。0対0。ランナーを2塁に置いてうちのエース榊原君はピンチを迎えていた。バッターは富田林君。決勝までホームランを量産してきた大会屈指のスラッガーだ。

 僕は2年生だがレギュラー争いから敗れ、伝令係をしている。監督の指示を選手に伝える役目だ。

それはいいのだが実はこの監督にはある秘密があるのだ。監督はデータ用にとパソコンをベンチに持ち込んでいるのだがそこで作戦を77文字のミニブログおーら(Ora)にて相談しているのだ。

 僕は監督をセグイーレ(フォロー)しているのでこっそり携帯で監督のおーらが見える。僕を始め、チームメイトはみんな気づいているが監督だけは知らないと思っている。

 監督は山男のような髭面の男だ。今ベンチの隅で足を組んでえらそうにパソコンのキーボードを打っている。


「おい! 田村。ちょっと来い」

「はい!」


 僕は髭の監督から伝令の言葉を承り、マウンドへと向かう。


「すいません! 髭が際どいところをついて歩かせろだそうです」

「またあれやってるのか」

「やってますよ」

「まああの監督が采配するよりはいいか」

「ですかね」

「まずそういうことですのでお願いします」

「よし分かった。気合いれていくぞー!」


 僕はベンチに戻り、持ち場に戻る。榊原君は4番の富田林君歩かせて、五番皆藤君、六番野村君を打ち取った。今日も監督の采配はおーらのおかげでとても冴えていた。

 5回裏ツーアウト満塁の大ピンチ。監督も慌ててキーボードを打ち込む。僕は時間稼ぎのために伝令に行かせられた。何でもいいから世間話して来いだそうだ。僕はこっそりと携帯を持ってマウンドでみんなに見せた。



どこぞの監督さん 大ピンチおーら。たのむ。誰か指示をくれおーら。


きっちりマンデー  またお前かおーら。たまには自分で考えろよ。


野球魂  とりあえずピッチャー交代させおーら。疲れているだろ。


どこぞの監督さん よし。わかったおーら。交代させるおーら。



 これを見て榊原君は交代だと思って安堵の表情を見せる。さすがに今までの連戦で疲れが見られるようだ。昨日も延長まで投げたので今日は序盤からバテバテだったのは僕にも分かった。


「交代おーらか」

「まじかよおーら」

「了解おーらだ」


 今までもこういうことはよくあったのでレギュラー陣は納得して監督の交代の合図よりも先に榊原君を労った。僕が伝令から戻ると監督はのっそりと立ち上がり審判に交代を告げる。ライトの左利きの橘君がマウンドに上がり、榊原君が代わりにライトに入る。橘君は技巧派で球速はあまりないが多彩な変化球と制球力が魅力の選手だ。決め球は大きく落ちるカーブ。うちの二枚看板だ。

 橘君は2ストライクと追い込んだ4球目。7番藤堂君をカーブで引っ掛けてダブルプレーにした。またもや監督の采配は成功。全くおーらで相談した後の采配がかなりの確率で成功するので僕は妙にイライラした。


 7回の表。スコアは0対1で僕たち能生学園が負けている。6回の裏に髭監督が調子に乗って自分の判断で榊原くんを再びマウンドに戻したので先制点を奪われた。その後、すぐにおーらで相談後、マウンドを再び橘君に戻したので1点奪われただけで済んだ。

 7回表、ここでチャンス到来。先頭バッターの9番の河合君が出塁。次は1番の中村君の番だ。ここでもやはり監督はおーらだよりだ。素早くキーボードを打つ。



どこぞの監督さん 先頭バッター出塁おーら。指示頼むおーら。


きっちりマンデー バントだおーら。


野球魂 いや。中村はバッティングがいい。今日も相手ピッチャーにタイミング合っている。ヒッティングおーら。


どこぞの監督さん どっちだおーら。決めてくれおーら。


きっちりマンデー お前が決めろおーら。


どこぞの監督さん うーん。よし。決めたおーら。ヒッティングおーら。



 監督は右の髭を触ってヒッティングのサインを送る。中村君は監督のサインを見て深々と頷く。右の髭はヒッティングで左の髭は見送れのサインだ。前々から思っているが分かりづらいサインだ。

 中村は初球を思い切り打つ。打球は左中間を深々と破って同点。更に2点追加して3対1。ここで相手投手のエース木村をマウンドから引きずり落とすことに成功した。

 9回裏。相手に2点差をつけてリード。ランナー1、2塁に置いているが2アウト。

 後、一人でゲームセットだ。このバッターを討ち取れば僕たち能生学園は初の甲子園出場だ。監督は橘を信じてというかおーらのコメントを信じて続投させる。

 橘。ゆっくりとした間合いをとって振りかぶって投げた。最後は決め球のカーブが決まり空振り三振のゲームセット。橘君とキャッチャーの皆藤君がマウンドで抱き合って喜びを全面に表して喜ぶ。スタンドもお祭り騒ぎだ。


 僕たちベンチ陣も急いでマウンドに駆け寄った。今までの苦労が報われ伝令の僕も思わず涙をこぼした。後で見たがOraでは「優勝おーら。優勝おーら」とうるさかったようだ。

 もったいぶりながらゆっくりマウンドに駆け寄ってきた髭の監督を僕たちは2、3回と胴上げした。胴上げしながら僕の頭にはおーらで甲子園に行っちゃったよ。いいのかなと思った。


試合後。


 監督は「チームメイトみんなのおかげで勝てましたおーら」とコメントしていた。思わず口におーらと出てしまったようだ。それともわざとおーらの住民にありがとうの気持ちを兼ねて口にしたのかもしれない。次は甲子園だ。きっと甲子園でもおーらを使うんだろうなと思うと何ともやりきれない気持ちになる。どうかばれないで欲しい。それだけです。全国の高校球児の皆さんすみません。僕たちはおーらで甲子園に行きます。

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[一言] 突然の感想、失礼致します。 新着短編小説で偶然目に留まり、拝見致しました。 緩い短編らしく、テンポの良い文体でとても読みやすかったです。 ただ1つ、問題点があるとすれば、読みにくいと思った箇…
2010/07/11 12:05 退会済み
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