明日世界が終わるなら、悲恋になんてならなかった
『明日世界が終わるなら、悲恋になんてならなかった。』
そう、思うほどに苦しんで。
「そういえば、ずっと気になってることがあるんだけど、、、」
「なに??」
ソファで隣に座りながら手を繋いで寛ぐ私たち。流行りのドラマを流し目に観ながら、手をニギニギとしてくるあの子。ふと、そんなこの子を見ていたら、前から気になっていたことを聞いてみた。
「昔、、前世で、だけど。貴女、私の言葉が嬉しかったって。救われたって言ってたけど、私、何を言ってたの??昔も今、教えてくれなかったから、気になってたの。」
「………覚えてないなら、教えない。。。」
「えー、、、!私のことなのに、なんで教えてくれないの??私が言ったことなら、いいじゃない。教えてくれても。減るものじゃないんだから、、、」
プクと頬を膨らませながらあの子に問い質したけれど、プイと向いてこちらを見ない。教える気が、サラサラないみたい。
「減るわ。私だけの、貴女との想い出が、覚えてない貴女に言ってしまったら、覚えていないことが再認識されて、嘘みたいになるじゃない。そんなの、嫌よ。私にとっては大事な想い出なんだから、綺麗な記憶でありたいもの。。。それに、思い出したとして、そこにある言葉の感情が空っぽだと知ってしまえば私、単純に悲しくなるだけじゃない。。なんのメリットもないわ?」
腰まである長い黒髪、その横髪が顔に掛かるから、時折耳に掛ける仕草をするあの子。その仕草にドキリとしながら、、、
なんて、とてもロマンチックに冷めたことを言うのだろう。メリットがないなんて。だけど理由はあの子にとって、私との想い出を美化するために、大事にとってくれているみたいで。
覚えていない私には、全く回答をくれない。
教えてくれれば、想い出が共有できると思うのは、私のエゴなんだろうか。。。
彼女は、いつも優しく微笑んでいた。
時折、茶目っ気もあって私を揶揄うことがあったけど、ここぞという時は誰よりも頼りになる子。
それが、私の中にだけ残る彼女。私しか知らない、彼女の姿。
部隊でのあの子は、冷めたように淡々と任務をこなす子だったから、冷たく氷のような上官として恐れられていたんだ。出会った最初の頃の私も、周りに見えない壁がある子だと思っていた。
同期だったあの子の本当を知らない私は、真面目で、しっかり者で、それでいて誰にも頼らない、周りから一歩引いた1人で何でもできるような強い女の子。
そう、勘違いしていた。
出世も早かった彼女に、私はただそれを思い込んでいた。だって、私に掛ける言葉にも冷めたあの子は、「そんなことでは直ぐに死んでしまうわ。」「そんな攻撃なら、先に逃げなさい。」「どうして今その魔法なの?自分を痛めつけたいの?」「それなら、後ろに下がっていなさい。」なんて、壁よりも厳しい言葉を掛けてくるのだから。
そんなことを言われるものだから、私も勘違いしてたんだ。そのことを直接的に言ったことはなかったんだけど、あの子と一緒の任務になった時、食堂で相席になったから。上官だけど、思ったより公私を分ける彼女が、食事中は、同期として接してくれた。和やかな時間に、厚い壁が薄くなっていく空気に私、口を滑らせて。。。
迂闊にも、言ってしまったのだ。
「すごいね。私では出来ないもの。やっぱり才能もあるのかな?どうしたらそんなに強くなれるの??」
なんて、無神経な聞き方を。
今思えば傷ついた顔をしたあの子が、私にポツリポツリ話してくれた。
「……訓練中の貴女の笑顔で私は救われた。何気ない貴女の気遣いが嬉しかった。だからこの理不尽な世界を、終わらない争いを、誰かではない私が、終わらせる強さを欲しくなった。だから、誰よりも強くなることにしたの。争いの苦手な優しい貴女との未来を勝ち取りたくて。」
なんて、言って。
最初は驚いたけれど、戦うことが苦手な私は戦争が終わればいいのにと、ずっと思っていた。だけど非国民とならないよう、軍人としてあるまじき言葉とならないよう、密やかに、心の中でだけで思っていた。
だから、私の考えなんて誰にも知られていないと思っていたんだ。バレてなんかいないと、過信した。どこで知られたのか、そう、ドキッとしてしまったけれど。
「……貴女が、私に笑いかけた時、掛けてくれた言葉が、温かかった。私を気遣う一言が、嬉しかった。話す度に争うことを厭う貴女に気づいたから。だから、争いのない世界を望む貴女となら、もっと一緒にいられるのかもしれないと、思った。だから、元々強かったわけじゃなくて、貴女を、平和な国に連れて行きたいと思ったの。。。私に安息を、平穏をもたらした貴女に報いたいと。それだけ、なんだ。」
大した言葉を掛けた記憶もない私に、あの子はずっと覚えていた。その時の言葉が嬉しかったって思ってくれて。そんな事で私を、平和な国に連れて行きたいと大それた事、考えてくれるなんて、、、なんて、純粋なんだろう、一途なんだろうと思った。
「……私、そんな大それた事なんて、言ったのかしら?ごめんなさい。どんな事、言ったのかなんて覚えてないわ、、、?折角覚えてくれているのに、忘れていてごめんなさい、、、」
「それは、私の勝手だから、気にしないで。私は私のために、貴女と平和な国に行きたいと思っただけだから。。。貴女のためにいきたいと、貴女の笑顔を守りたかっただけだから。」
そんな私に彼女がとてもカッコいいこと、言ってくれたんだ。この時は、私を好きなんて気づかなくて。才能があって優しくて良い子だから、大袈裟に言ってるんだろうと軽く思っていた。
そんなことをツラツラ考えて、私は食事中に髪を耳に掛ける、あの子のその仕草を見つめていた。
元々魔力も強くて、威力も高い遠距離型の攻撃魔法を使いこなすあの子は、一撃が重かった。
だけど彼女は、その力を誰よりも使いこなすことを、正確に一直線に打ち込めるように、努力を、していたのだ。それは、他人を守るため、仲間を助ける盾になるため。引いては、私の望む争いのない世界へと導くため。影で努力を続けていたのだ。
そしてそれは、誰よりも強くなったあの子が、目標を達成した時、手に入れた。
わかりやすく、上官という地位を持ってして。。。
任務で一緒にいるようになって、私に本心を話してくれたその日から、私はあの子を誰よりも知ったんだ。
本当は繊細で優しくて、困った時には一緒にいてくれる、慰めてくれる温かい子だった。
そんなあの子を知った私は、彼女のことを好きなんだと、気づいてしまった。誰も知らない、あの子の温かさを独り占めできる愉悦に、浸ってしまった。私だけを信頼しているその感情に、優越感が、独占欲が、生まれた。
ああ、あの子が私に向ける感情と違えてしまった。私の感情に、暗い影が落ちたのだ。あの子のみせる純粋な感情とは相容れない。これでは、もう一緒にいる時間なんて望めない。。。
なんて、苦しいのだろう?なんて、悲しいことなのだろう、、、そう、思い詰めていたようで。
あの子が私に気づいてくれた。
「ねぇ、最近様子が変よ。体調悪いの??」
なんて、いつもの調子で淡々と言うものだから。カチンときた私、敢えてストレートに言葉を掛けた。
「……貴女が私を変えたのよ。私を、知らない感情に、染めたのよ?ずっと、貴女と話した時から貴女の仕草が気になって、貴女の気遣いが温かくて、貴女の全部が、目について、、、貴女のその感情を他人になんて知られたくないって、教えたくないって、独占欲、持ったのよ?私だけの貴女にしたいって、愛しいと、思ってしまったの、、、責任、とって。。。」
そしたら、彼女ったら。
「いいわよ。貴女が、私の気持ちを塗り替えたように、貴女も私の感情で気持ちが変わるなら、こんなに幸せなこと、ないもの。私は、貴女に言葉を掛けられた時から誰よりも愛していたのだから。貴女の望む未来しか私も望んでなどいないのだから。。。」
あの子は私に、応えてくれた。それは、とても誇らしく幸せな時間だった。
上官と部下になってしまった最初の頃から、どうしてか話す時に冷たくなったと戸惑っていたけれど、蓋を開ければ、それは、感情の裏返し。
私を気遣うその想いが、言葉に壁を作っていただけ。
それを知ることになったから。
話してみれば、感情は違って。ちゃんと言葉にしたらその想いに触れることができて。気づくことが出来た。幸せな時。
だから、そんな想いを掛けていると、教えてもらって、拍子抜けして、、、ちゃんと知ろうと目で追えば、愛しい気持ちが溢れてきて。
あの子も私も、同じ気持ちだと気づいたその時から、私たちはずっと一緒にいられると思っていた。
こんな世界でもあの子がいれば、心配なかったし、多幸感もあった。
私は、彼女の優しさが大好きだった。
だけど、その日は突然やって来た。あの子に、辞令が下った。どうして彼女だったのだろう?他の人でも良かったのに。何故あの子が、死地に向かう必要があったのか?まだその時ではないはずだった。
あの子は、まだまだ次の作戦まで時間があったはずなのに、次に行くことが決まってしまったのだ。これは、何かの謀略なのでないかと、疑ったものだ。
それでも、彼らを疑い従わないことは、裏切りであったから、私たちに拒絶をすることもできなかった。
もう、どうすることも出来ない、、、
私にとってのここは、安息の地であるはずだった。彼女を欲する私にとって、彼女がここに在るというのは、とても大きな意味だったのだ。
それを、この国から奪われてしまうなど、あってはならないのだ。どうしてこうも世界は非情なのか。
いや、これは敵のせいだ。そう、言い聞かせていた。
「ねぇ、私ってもう少しで次の地に行くことが決まってるのよ。」
「えぇ、知ってるわよ?急に、どうしたの??」
どうしたというのか。いつものあの子であれば、このような当たり前のことを言いになど来ることはない。
今日は何が彼女をそうさせるのか。私にもわからない。だから、直接言葉にした。
この子は言葉を端折ることが多いから、ちゃんと聞きたいところは、ちゃんと言葉にしないと答えてくれない。なんて、人と話すのが苦手な子なんだろう。いや、頭の回転が良いから、追いついてないのかもしれない。私が、心を聞き取りきれないのかもしれない。
そう、思ってしまうけど、そんなことよりも、私は彼女の気持ちを知りたいのだ。
「これから、次の場所は激戦区なの。だから、私もう貴女との時間を過ごせないかもしれない。それは、とても悲しいし、理不尽だと思う。それでも、私は貴女との時間を何よりも大切にしていたから、争いのない国のため、ここで曲げることも出来ない。だから、もし帰ってくることが出来るなら、その時に、今度はエンゲージリング揃えましょう?」
「……なんで、そんなことを言うの??私、貴女がいなくなる事なんて考えたくもなかったのに、、、私は、貴女との時間があれば、それで幸せなのに。なんで、戦争のない国を目指しに争いに、行ってしまうの??そんなの、理不尽だわ。」
「ふふ。そうね。理不尽かもしれない。それでも、貴女との穏やかな日常のために、いってくるから、次に帰ってくるまで、待っていて??」
「……いや。待ちたくない。私も、行くわ。同じ時に同じように、私、貴女と戦うわ。。。だから、志願をだすわ。貴女と、共にあるために。。」
「ダメよ!!今回の戦場、どれだけ危険かわかってるの?!貴女の実力じゃ、一瞬よ!!?」
「それなら!!どうして貴女は、いくのよ!!おかしいじゃない!貴女でなくても、良いじゃない、、、」
「……仕方ないわ。この国での実力者が、足りないのだから。いくしか、ないのよ。。。だから、帰ってくることが出来た時に、約束が欲しかったのよ、、、」
「そんなもの、しないわ。だって、約束なんて、守られるからするのよ??私、貴女のこと信用してるけど、もし、なんて、言うのなら、信じないわ。絶対帰ってくるなら、約束しても良い。出来ないのなら、私も志願していくわ。」
「……そんなの、ダメよ。貴女はいっては、ダメ。。」
「いいえ。これは決定よ。貴女が約束を守れないというなら、私は、志願するわ。これは、貴女でも止められないから、諦めて。一緒に、生きて帰る方法、考えましょう、、、??」
それでも、赴く先は、死地になると分かっていた場所。敗退するのが前提である、特攻を仕掛け敵を削るだけの部隊。それでも削られる数は決まっていて、次の部隊の捨て駒。最期に私たちは、駒となった。
ああ、どうして、明日世界が終わるなら、悲恋になんてならなかったのに、、、
私たちは、対のリングを揃えることも出来ないで、この世界との縁を切った。私たちの恋は、悲恋になって終わりを迎えた。誰にも、祝福を受けないまま。
知られないまま、戦いの中で散っていったのだ。
だから今度は、続く世界で、終わりのない国で希ったのだ。
もう2度と、争いのある国などに生まれてしまわないように。次の生では、平和な国で幸せな時間を刻めるように。
そして世界が変わり、私たちは、同じ時間に、同じ場所で、生まれ変わることができた。
転生を果たせまた出会えたことは、幸せなことなのだけど、どうしても許せないことがある。
「そのお菓子、あと一つだったんだけど、、、どうして、貴女が食べちゃったのよ??貴女もう、2個食べたわよね、、、??」
「いいじゃない、美味しかったのよ。それに、冷蔵庫に置いて3日たったわよ?生ものなんだから、直ぐに食べる必要あったでしょ??名前も書いてないんだから、貴女のものって、証拠もないわ?」
なんて、屁理屈。理不尽な言い訳、、、!大事にとって置いた、私のお菓子。。。冷蔵庫に寝かせておいただけで、食いしん坊に取られてしまった。いつも、こんな調子で取っていくのだから、私も怒りたくもなる。そして、食べ物の恨みは怖いのだ。
そんな時でもあの子の頭の回転は健在で、言い訳も健在、、、だけど子ども染みた行動は昔にはなかったこと。今は、こんな調子でちょいちょい言い争いをしてしまうのだ。
せっかく争いのない、平和な国に転生したはずなのに、何をしているのか、、、何故かこの子といつも、食べ物とかでこんな小競り合いをしてしまう、、
そして、いつも最後は。。。
「ねぇ、ごめんなさい。悪かったわ。だから、許して?貴女の好きなシュークリーム、買ってきたから、一緒に食べましょう??ね、お願い、、、」
こんな感じに甘えてきて、私の好きなものを買ってきて、私を上目遣いにみて訴えてくる、、、
なんてあざと可愛いのだろう、、、
私の好きな、この子の仕草、この子は、心得ているのだ、、なんという、ツワモノ。。
「……っ!もう!仕方ないわね。今回だけよ?次はないからね??」
なんて、いつも同じ言葉で、締め括って喧嘩はおしまい。仲直りをしてしまう。
なんという、単純な争いなのだろう。昔では考えられないことだけど、平和な国とはこうも、争いもバカバカしいのか。
「ところで、私たちのエンゲージリング、いつ買いに行く??」
………っっっ??!
最後まで、飽きさせないこの子のことが、私はいつまでも、これからも、大切で、愛するのだろう。。。
本当に、覚えていないくらい、彼女は普通のことだったのだろう。彼女のくれる言葉はいつも私に温かな感情をくれた。冷えた私の心にも届く言葉を投げてくれて。彼女といることの幸せは、何ものにも代え難く、とても、愛しいモノなのだ。
「ねぇ、大丈夫?訓練キツイものね。私も、もうヘトヘト。この後の演習も、緊張するわ、、、」
「それでも、この国のため、戦う必要があるのよ。弱気なら、辞めてもいいんじゃない??」
まだ訓練兵だったから、志願兵の彼らは皆んな辞められるタイミングだった。やりたくないやつは辞めればいいと思っていた。
私だって辞めたいのに、魔力が人一倍強く、強制的な入隊だったから、全てがこの国のために捧げられてしまったと、自暴自棄だったのだ。
だけど、彼女はそれを知らなかったのだろう。
「そうね。この国にいる家族や住んでる人たち、それに、貴女と私も。持ってる力が違って、みんなが皆んな、戦えるわけじゃないもの。せっかく魔力があって適性があったのだから、大切な人の代わりに、幸せに生きる国にしたいから。だから、緊張はしても、辛くても、辞めはしないわ。私が選んだことだからね。」
「甘いわね。人のためじゃない、お国のために戦わなければいけない軍人が、持ってていい思想じゃないわよ。人のためなんて思ったら余計に面倒よ。」
「ふふ。それでも、誰かのため、目の前にいる貴女のため、戦うわ。そんな風に思えていたら、少しは世界も明るくみえない?せっかくこうして一緒にいるのだから、仲間のために生き残る、そんな綺麗な気持ちでいきたいじゃない。。。」
行くのか生きるのか、どちらを言ったのか聞き取れなかったけれど、私のために、戦ってくれるのか。
平和な国を目指すのか。
そんな風に言ってくれる人はいなかった。私を、駒として最大戦略として捉える人が多い中で、力を恐れる人がいる中で、こんなにフラットに声をかけてくれることが、どれほど身体の力が抜けたのか、彼女は理解してないのだろう。
他の人なら、彼女より強いはずの私を守るなんて、思わないだろう。これが、彼女に興味を持った理由。
愛しいと、想うことになったきっかけ。
些細なことと思われようと、私の心を掬ったのは、彼女のこの言葉だけだった。
だから私は、彼女に心を救われたのだ。世界を明るくみることが、出来たのだ。
だから私は、彼女との未来を目指すのだ。
共にあるための誓いと、そのリングと共に。
主人公は彼女も志願兵だと思ってて、特に何も考えてないんです。隣で訓練する彼女に世間話をしただけでしたが、彼女にクリティカルヒットしただけです。




