4-1 あのときの"彼女"
2022年10月。彼女と別れてからもうすぐで4ヶ月ほど経つころだ。連絡も取らなくなってきたが、彼女と仲が良い友達からちょいちょい話を聞いている。聞いた話によると、彼女は先日書類選考を通過し、第2次選考まで進むことができたらしい。それなりに順調そうだという噂は入ってきている。
僕はいつも通り授業を受けに大学に来ていた。授業が終わった後、大学のフリーエリアに一人で座りながら課題をこなしていると、後ろから肩を叩かれた。振り返ってみると、どこかであったような女性がそこに立っていた。肩まで届くほどの髪の毛をした女性だった。時空のおっさん映画のインタビューが終わった後に話しかけられたあの女性だということを思い出すまでに、それほど時間はかからなかった。
「何でしょう?」
僕は彼女に問いかける。彼女と別れた今であれば逃げる必要性もない。彼女は、何も言わずに学生証を取り出した。そこには「池下凪」という名前が書かれていた。誕生日も僕と同じ2002年5月16日だった。この程度であれば奇跡的な同姓同名・同一誕生日だと思えるが、最も信じられないことに、学籍番号も自分の番号と完全に同一であった。
「どういうことですか?」
自分は何が起こっているのか全く理解できず、彼女に話しかける。彼女は、あまり大きな声で言える話ではありません、と言って、僕を周りに人のいないエリアまで引っ張った。そして、彼女は髪の毛をすくい上げるような仕草をしてから話した。
「私はもう1つの世界のあなたです」
僕は、正直何を言っているのか分からなかった。意味自体はわかるし、おそらくそういうことなのだろうとも思うが、それを実感として飲み込めていないという意味だ。
「ピンと来ていないようですね」
これを言われてすぐに受け入れられる人などいないだろう。少なくとも僕はまだ完全に受け入れきれてはいない。僕は彼女に、どうやってこっちの世界にきたのかを教えて欲しいと聞いてみた。
「2つの世界を結ぶ場所みたいなものがあって、そこからこっちにきました」
彼女はそういった。僕は、そうですか、と返した。色々聞いてみたいことが多すぎる。
「昔からさ、記憶したことないはずのものの記憶が入ってくることないですか? それ、多分2つの世界で混線してるんですよね」
自分に昔から発生していた謎の記憶混入は、並行世界の記憶と混ざっているとのことらしい。納得できる話ではないが、そう思うと合点がいく部分があるというのも現状だ。僕は手元のコーヒーを一口飲んで、今までに会った記憶混入について思い出すことにした。
「私の世界の情報が、多分そっちに行ってるんですよね。逆もあると思います。私自身男友達に関する記憶が多いのですが、逆にそちらは女子の記憶が多くないですか?」
彼女にそう聞かれた僕は、確かにやけに異性関係のものが多いように感じている。台湾の九份に行く予定があるという内容についても、確かに女友達のものだった、
彼女のいうことを無条件に信じるべきではない、ということは正しいかもしれないが、どういうわけか彼女が言っていることが正しく思えてしまう。




