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盤上の街スーパウロ  作者: TAMI


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16/55

第16話 悪の証明

翌朝、スーパウロは騒然としていた。

市庁舎前の広場には報道陣が詰めかけ、

各国メディアがライブ中継を始めている。


見出しが並ぶ。

――「将棋協会会長アキヤマ、緊急会見を予告」

――「政府・警察幹部も同席へ」


昨日の決戦は、ただの文化行事ではなかった。

それは、この街の“秩序”そのものを揺るがす火種だった。


*


壇上に現れたアキヤマは、黒のスーツに身を包み、

疲労の色をにじませながらも、

その瞳はまっすぐ前を射抜いていた。


マイクの前に立ち、深く一礼する。


「……この街は、もともと混沌だった。」


一言で、会場の空気が変わる。

記者たちが顔を上げる。


「法は形だけ。

 警察も政治も、誰も市民を守れなかった。

 暴力が支配し、“正しさ”では生き残れない時代だった。

 だから私は、“悪”を選んだ。」


ざわめきが広がる。

フラッシュが連続で光る。


「“マルア”――それは秩序を保つための裏の組織だった。

 罪を抑えるために、さらに深い罪を築く。

 私はそれを“必要悪”と呼び、街を動かしてきた。」


壇上の後方で、政府関係者がざわつく。

警備員がインカムに手を当て、何かを伝える。


それでもアキヤマは止まらなかった。


「……そしてその裏では、市の幹部、警察、政治家――

 多くの者が金と権力で繋がっていた。

 その記録も、今日この会見の後にすべて公開する。」


記者たちがどよめく。

怒号が飛び交い、政府関係者の顔が蒼ざめた。


だがアキヤマの声は揺れない。


「私は悪で街を守った。

 だが昨日――“読み”に敗れた。

 暴力ではなく、理でもなく、

 人の心を見通す“読み”の前に。」


スクリーンには、タツヤの△5六銀が映る。

静かな一手が、街全体を揺るがせた瞬間。


アキヤマはその映像を見つめながら、かすかに笑った。


「タツヤ。

 お前が示したのは、“悪”を越える秩序だ。

 私はそれを見て、ようやく悟った。

 この街の秩序を、一度壊さなければならないと。」


壇上が騒然となる。

警備員が駆け寄り、アキヤマを囲む。

だが彼は、微動だにしなかった。


「……悪で支えた街は、悪の上にしか立たない。

 だから私は、壊す。

 それが、私のけじめだ。」


「アキヤマ会長! マルアの関係者は誰ですか!」

「市長も関与していたのですか!?」


記者の声を背に、

アキヤマはゆっくりとマイクを置いた。


「タツヤ。

 お前は“悪”を否定したわけじゃない。

 “悪”を読んだ。

 その先を生きろ。」


警備員たちが彼を連行する。

フラッシュの光が、まるで裁きの光のように降り注いだ。


「……あとはどう読むか、だ。」


扉が閉まる音。

その瞬間、会場の喧騒が波のように押し寄せた。


タツヤは群衆の中で、ただ黙ってその背を見つめていた。

怒りでも、哀れみでもない。

一人の“読み手”として、静かに。


(あなたはこの街を守った。

 悪でしか守れない時代に、悪で秩序を作った。

 けど――これからは、“読み”で守る。)


タツヤは拳を握り、息を吸う。

心の奥で、あの日の声が響く。


――守って、読み切って、刺せ。


*


夕方。

ニュース番組が世界を駆け巡る。


“アキヤマ会長、政府汚職を告発し自首”

“スーパウロ政界に激震”


テレビの映像を、遠くのアパートでタクミが眺めていた。

ソファに深く沈み込みながら、ぼそりと呟く。


「……すごいやつだタツヤ。」


しばらく無言で画面を見つめ、

やがて静かに目を閉じた。


「だが、その後が――本当の勝負だ。」


窓の外、風が鳴る。

その音が、盤上の駒音のように響いた。


――悪は終わった。

 だが、“読み”はまだ続いている。


スーパウロの空に、

新しい夜が、静かに降りていた。

後書き

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


これにて「マルア編」、ひとまずの完結です。


スーパウロという街で、“必要悪”を読み切った男・タツヤ。

彼の読みは、まだまだこれから続きますが、

まずはここで一息。

もちろん更新は続けていきます。


初投稿から、手探りで物語を綴ってきました。

感想もブクマもありませんが、

ユニーク数が少しずつ増えているのを見るたび、

「誰かが、読んでくれてるんやな」と嬉しくなります。


たまたま流れ着いて、読んでくれたあなた。

もしかしたら、全部読まずに去ったかもしれない。

それでも――

少しでもこの物語に目を通してくれたこと、ありがたく思っています。


タツヤの読みは、ここで終わりません。

この先、“悪”では守れない街で、

彼が何を守り、何を読み、何を刺すのか――

もし気が向いたら、またページを開いてください。


読みにきてくれてありがとう。

心から、ありがとう。

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