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盤上の街スーパウロ  作者: TAMI


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16/23

第16話 悪の証明

翌朝、スーパウロは騒然としていた。

市庁舎前の広場には報道陣が詰めかけ、

各国メディアがライブ中継を始めている。


見出しが並ぶ。

――「将棋協会会長アキヤマ、緊急会見を予告」

――「政府・警察幹部も同席へ」


昨日の決戦は、ただの文化行事ではなかった。

それは、この街の“秩序”そのものを揺るがす火種だった。



壇上に現れたアキヤマは、黒のスーツに身を包み、

疲労の色をにじませながらも、

その瞳はまっすぐ前を射抜いていた。


マイクの前に立ち、深く一礼する。


「……この街は、もともと混沌だった。」


一言で、会場の空気が変わる。

記者たちが顔を上げる。


「法は形だけ。

 警察も政治も、誰も市民を守れなかった。

 暴力が支配し、“正しさ”では生き残れない時代だった。

 だから私は、“悪”を選んだ。」


ざわめきが広がる。

フラッシュが連続で光る。


「“マルア”――それは秩序を保つための裏の組織だった。

 罪を抑えるために、さらに深い罪を築く。

 私はそれを“必要悪”と呼び、街を動かしてきた。」


壇上の後方で、政府関係者がざわつく。

警備員がインカムに手を当て、何かを伝える。


それでもアキヤマは止まらなかった。


「……そしてその裏では、市の幹部、警察、政治家――

 多くの者が金と権力で繋がっていた。

 その記録も、今日この会見の後にすべて公開する。」


記者たちがどよめく。

怒号が飛び交い、政府関係者の顔が蒼ざめた。


だがアキヤマの声は揺れない。


「私は悪で街を守った。

 だが昨日――“読み”に敗れた。

 暴力ではなく、理でもなく、

 人の心を見通す“読み”の前に。」


スクリーンには、タツヤの△5六銀が映る。

静かな一手が、街全体を揺るがせた瞬間。


アキヤマはその映像を見つめながら、かすかに笑った。


「タツヤ。

 お前が示したのは、“悪”を越える秩序だ。

 私はそれを見て、ようやく悟った。

 この街の秩序を、一度壊さなければならないと。」


壇上が騒然となる。

警備員が駆け寄り、アキヤマを囲む。

だが彼は、微動だにしなかった。


「……悪で支えた街は、悪の上にしか立たない。

 だから私は、壊す。

 それが、私のけじめだ。」


「アキヤマ会長! マルアの関係者は誰ですか!」

「市長も関与していたのですか!?」


記者の声を背に、

アキヤマはゆっくりとマイクを置いた。


「タツヤ。

 お前は“悪”を否定したわけじゃない。

 “悪”を読んだ。

 その先を生きろ。」


警備員たちが彼を連行する。

フラッシュの光が、まるで裁きの光のように降り注いだ。


「……あとはどう読むか、だ。」


扉が閉まる音。

その瞬間、会場の喧騒が波のように押し寄せた。


タツヤは群衆の中で、ただ黙ってその背を見つめていた。

怒りでも、哀れみでもない。

一人の“読み手”として、静かに。


(あなたはこの街を守った。

 悪でしか守れない時代に、悪で秩序を作った。

 けど――これからは、“読み”で守る。)


タツヤは拳を握り、息を吸う。

心の奥で、あの日の声が響く。


――守って、読み切って、刺せ。



夕方。

ニュース番組が世界を駆け巡る。


“アキヤマ会長、政府汚職を告発し自首”

“スーパウロ政界に激震”


テレビの映像を、遠くのアパートでタクミが眺めていた。

ソファに深く沈み込みながら、ぼそりと呟く。


「……すごいやつだタツヤ。」


しばらく無言で画面を見つめ、

やがて静かに目を閉じた。


「だが、その後が――本当の勝負だ。」


窓の外、風が鳴る。

その音が、盤上の駒音のように響いた。


――悪は終わった。

 だが、“読み”はまだ続いている。


スーパウロの空に、

新しい夜が、静かに降りていた。

後書き

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


これにて「マルア編」、ひとまずの完結です。


スーパウロという街で、“必要悪”を読み切った男・タツヤ。

彼の読みは、まだまだこれから続きますが、

まずはここで一息。

もちろん更新は続けていきます。


初投稿から、手探りで物語を綴ってきました。

感想もブクマもありませんが、

ユニーク数が少しずつ増えているのを見るたび、

「誰かが、読んでくれてるんやな」と嬉しくなります。


たまたま流れ着いて、読んでくれたあなた。

もしかしたら、全部読まずに去ったかもしれない。

それでも――

少しでもこの物語に目を通してくれたこと、ありがたく思っています。


タツヤの読みは、ここで終わりません。

この先、“悪”では守れない街で、

彼が何を守り、何を読み、何を刺すのか――

もし気が向いたら、またページを開いてください。


読みにきてくれてありがとう。

心から、ありがとう。

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