23(末). 春の終わりに
<これまでのあらすじ>
中規模商社の営業職、更科巧31歳は、夜の山道をドライブ中こっそり乗り込んでいた女の子を成り行きで街まで送ることになった。
女の子の名は有本藍子、地方銀行に勤める25歳。身に覚えのない周囲からの冷たい視線に耐えながら日々なんとか暮らしていたところ、行内で噂のエリート王子様(江口総一郎)に熱烈なアプローチを受けるようになる。
江口と食事をする事になった藍子だが帰宅途中、江口に襲われると勘違いから逃げ出し、その先で偶々たくみの車を見つけこっそり潜り込むことにした。
たくみに街まで送ってもらった藍子は家に帰る気にもなれず、たくみに縋ることを決意し、たくみは渋々それを受け入れる。
同僚の新道や先輩の美咲に相談したところ、藍子は美咲に引き取られることになり、たくみ達の会社(八笠商事)へ勤める事となった。
順調に見えた日々に、突然関連会社との共倒れ(倒産)の危機が訪れる。
たくみは新規取引先の開拓、アリア(藍子)は銀行融資説明の為の事業計画書作成に奮闘する。
アリアとたくみ、社員総出の頑張りでなんとか説明会は成功し、慌ただしい中にたくみも自分の前進を感じていたが、新年度からアリアとは別々の場所(職場)でのスタートとなった。
春の終わりが来る
ドラコーン・アリア
23(末). 春の終わりに(falling down)
四月半ばの金曜日、東南アジアへの出張帰りの俺は会社に少し顔を出した後車で自宅に向かっているところだった。
三週間ぶりの日本は肌寒く、遅咲きの桜も散り際ながら(帰ってきたなぁ)と感慨に浸るのに十分な演出を残してくれていた。
「今日から出勤です、頑張ります!」
アリアからのメールを出張先で受取ったのは一週間前、彼女は晴れて正社員となり、なんでも都内で一人暮らしを始めたとの事だ。
美咲さんは(優秀なハウスキーパーを逃すまいと)
「えーあっちでも一緒に住もうよ、家賃とか要らないからさー、てか出してもいいくらい」
と縋ったらしいが、アリア自身の『身も心も自立したい』という気持ちを汲んで、渋々承知したらしい。
――(あの人の事だから、本音はまだまだ心配だったんだろうな)
そんなことを思いつつ、また改めてしみじみと思う。
――(あの子と出会ってまだたったの一年なのか……)
これほど奇怪で奇抜で奇天烈で、だけど思い返せば毎日充実していてワクワクした一年は、今まで経験したことが無い。
そしてもう今後望んでも無かろう事と、降って湧いたような遅咲きの瞬きに慕わしい思いを馳せる。
ぼんやりと回想に耽りながら、気が付けばいつもの自宅近くのコンビニに来ていた。
遅ればせながら”花見気分で酒でも飲むか(アパートで)”と、ビールとナッツの袋をレジカウンターに置くと、バーコードを読み取り始めた店員の男の子が
「…… あれシビックですよね……」
と、外の俺の車を見ながら言ってくる。
――(?…… 去年くらいからここで見るけど初めて話しかけてきたな……)
多少面喰いながら
「ああ…… うん、良く知ってるね?」
若そうなのに珍しい、まだこんな子もいるのかと正直驚いた。
「車、好きで……」
照れながら言う姿がなんともいじらしい。
――(いいね)
「何か(車)乗ってるの?」
心ならずも嬉しくなって、促してみると、
「欲しいのがあってバイトしてるんですけど…… 86なんすけど」
とこれまた男子中学生のような初々しさで、恥ずかしそうに答えてくる。
――(あー…なるほどなー)
「カッコいいよね、けどそーか…… 古いのも今のも高いもんなぁ、いや前の方のが高いか?」
「⁉ そーなんすよ! メッチャ高くて全然資金がたま……」
その男の子がパァッと明るい顔になって勢い込んで話始めたかと思うと、途中で店の外に目を向けながら今度は不思議そうな顔をしている。
――(? ……)
俺も彼の目線の先を追ってみる。
――(………… ⁉ )
「あの人…… 前にもお店の前でずっといた……」
店員の子の言葉と会計もそのままに、俺は店の外に飛び出していた。
薄水色のパーカーにベージュのパンツ姿の女の子が、散り際の桜の花びらを身に纏わせて俺の車の前に立っている。
「あ、たくみさん! お帰りなさい!」
「………… ただいま」
「またドラゴンに乗せてくださいよ!」
――(…… なんだ? この高揚感(笑))
ある春の終わりの出来事
おわり
ありがとうございました。
いのもとゆうき




