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19. It's a show booth


<これまでのあらすじ>


 中規模商社の営業職、更科巧さらしなたくみ31歳は、夜の山道をドライブ中こっそり乗り込んでいた女の子を成り行きで街まで送ることになった。

 女の子の名は有本藍子(ありもとあいこ)、地方銀行に勤める25歳。身に覚えのない周囲からの冷たい視線に耐えながら日々なんとか暮らしていたところ、行内で噂のエリート王子様(江口総一郎)に熱烈なアプローチを受けるようになる。

 なぜか江口と食事をする事になった藍子だが帰宅途中、江口に襲われると勘違いから逃げ出し、その先で偶々たくみの車を見つけ潜り込むことにした。

 たくみに街まで送ってもらった藍子は家に帰る気にもなれず、たくみに縋ることを決意する。

 藍子との思わぬ再開をしたたくみは、しょうがなく申し出を受け入れ藍子を匿うことにしたが、解決策が思い浮かばず同僚の新道と先輩にあたる美咲に相談することにした。

 藍子を交えた新道達との飲み会の成り行きで、藍子は美咲に引き取られることになり、

たくみ達の会社(八笠商事)へ勤める事となった。

 順調に見えた日々に、突然関連会社との共倒れ(倒産)の危機が訪れる。

自分なりの出来る事をと、取引先の新規開拓を模索するたくみは以前付き合いのあった知人(元高荻の営業中西)から思わぬ開拓先の伝手を得る。

 たくみの提案にアリアは手応えを感じ手詰まりだった計画書の完成を急ぐが、一人で抱え込むアリアは長谷部から(たしな)められ自身のエゴを悟り、改めて周囲からの優しい協力を受け入れる。


 いよいよ計画書の報告(八笠→大間銀行)の時・・・


 

  19. It's a show booth(いざ勝負!)



「おーい、更科―!」

 また係長だ。最近(たくみ)を何かと呼びつけて来るのでいい加減うんざりだが、他部署との口利きや、課長への報告で度々(たびたび)時間を()いてもらっている手前、あまり無碍(むげ)にできないので極力(きょくりょく)顔には出さないように応じている。

「はーい」


「例の銀行への融資(ゆうし)依頼報告な、お前行ってこい」

「…… は?」

「『は?』って何だよ? 嫌なのか?」

「嫌というか……」

――(なんで俺が出るの? 意味わかんないんですけど?)


 重要な対会社としての場だ。少なくとも課長以上の役職、いや部長クラス以上が出席すべきところなのに、ヒラの俺が出席する理由の見当がつかない。


「課長のところに出席依頼が来たらしいんだが、一番内容に詳しいやつが出たほうが良くないかと相談されて、オレもそれなら更科だと言ったんだ。まあそんな訳だから行ってこい」

――(え?何それ??)

「…… でも俺じゃ何かあったら……」

「そんときゃオレと課長の責任だ、いいから出ろ」

「…… はぁ……」

――(何それ……)

 決定事項のようなので、何を言っても無理そうだと思って渋々飲み込む。


 係長が他の書類を眺め始めたので用件は終わったのだろうと席に戻ろうとしたところに後ろから声がかかる。

「あと、この件の結果とは別に今年の昇格認定は受けろよ。もういつもみたいに拒否は認めんからな」

「へ?」

――(そんで何それ??は???)


 出世とかには興味がない、というか面倒な事しか想像できないので年齢的に話があっても丁重(ていちょう)に辞退してきた。だからもう分かってくれているものだと思っていたが

――(なんで今?)


「『は?』とか『へ?』とかうるせーな、下が尻込むんだよ気付け。それにオレも上に行けねーだろーが、いいな、業務命令だ」

――(えー…… もうパワハラだろそれ?)


 これからもっと忙しくなるのは目に見えているのに、そんなことまで気にしている余裕はない。一応受けるだけ受けとけば納得するかと諦めて

「……はい」

とだけ答えておいた。



 12月27日 午後一時四十分現在。


 前日、これほど寝付けなかったのはいつ以来だろうと考えながら、ようやく寝入ったのは明けての朝方(今日)だった。


『どんな事を言われるのか? 失敗しないか?』


そういう緊張感からだろうと思うが、その失敗で皆の成果を台無しにしてしまうのではないかと考えると、とてもいつものように寝入る事が出来なかった。


――(アリアの頑張りだけは無駄にできない……)

が一番の要因だったが。

 


 本来こちらの会社(八笠)から大馬銀行へ出向いて申請書の正式な提示と、内容説明報告を行うのが筋であり、こちらもそのつもりでいたのだが銀行側から

「こちらから伺います」

との申し出があって、ウチの会社での開催となった形だ。


「これは例の黒幕(頭取)の意向よね」

と美咲さんが言って、俺もそういう事だろうと察した。

――(ひょっとするとご本人ご登場もあり得るか? ……)

とも考えたが、さすがにそこまで酔狂(すいきょう)(きょう)じる暇もないだろうと思っていたのが正直なところだった。


 俺が決戦の部屋に入ると榎本(えのもと)部長と美咲主任、それと補足要員として財務部担当が後ろに備えているという、(いささ)か…… いやかなり手薄な感じの陣形(じんけい)

――(長谷部さんはいない? 本来は会計部門だし美咲さんに一任か。そして……)


 アリアが緊張の面持ちで資料を机に置いているのが目に入る。


 アリアは入ってきた俺に気付いて”パアッ!”と明るい表情を見せたが、場の張り詰めた空気に()てられたのか、すぐに資料を並べる作業に戻った。


「なんだか戦が始まりそうな雰囲気だなー」

わざと冗談めかして俺からアリアに話しかけてみた。

「そうですね…… なんだか私もお(なか)が変な感じです……」

――(だよな、さすがに俺でも少し胃が……)


「お昼も食べれなかったんで、この辺りが…… グルグル動くような」

とアリアが胃のあたりをさする。

――(…… それ腹が減ってるだけじゃないか?)


「実際 “()るか()られるか” だからね今日は。あなた達気合入れときなさいよ」

美咲さんがいつになく真面目な顔で、いつも通りに物騒な事を言う。

殺傷沙汰(さっしょうざた)は相手方と主任だけでやってください」

俺の言葉に榎本部長も「うんうん」と頷いている。


 間もなく案内の事務員が会議室に入ってきて、銀行側のお歴々(れきれき)面々が通された。

 いかにも金融の精鋭という顔つきの、五十代前後と思われる男性。そしてこれまた切れ者の中堅と見て取れる二人が続き、最後に明らかに他とは違うオーラを放つ初老の男性が入ってきた。

――(これは……)

 ちらりと美咲さんを見ると、すまし顔ながら「やはりね」という顔をしている。


 こちらから言葉を発する前に最初に入ってきた男性が


「本日はよろしくお願いいたします。いきなりで申し訳ありませんが、こちら私共の銀行頭…」

と言いかけるのをさえぎって、その初老の男性が自ら名乗りを上げた。


「大馬銀行の江口幸三です、よろしくお願いします。ああ、今日私はただの付き添いなので気にしないで進めてください」

そう言うと机の上の資料を一部取って、後ろの席に座りパラパラと(めく)り始めた。


――(⁉ まさか本当に御大(おんたい)が直々に乗り込んでくるとは……)

これは波乱になりそうだと胃の奥がキュウと締め付けられる。



       つづく




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