18. No (three) quarter
<これまでのあらすじ>
中規模商社の営業職、更科巧さらしなたくみ31歳は、夜の山道をドライブ中こっそり乗り込んでいた女の子を成り行きで街まで送ることになった。
女の子の名は有本藍子、地方銀行に勤める25歳。身に覚えのない周囲からの冷たい視線に耐えながら日々なんとか暮らしていたところ、行内で噂のエリート王子様(江口総一郎)に熱烈なアプローチを受けるようになる。
なぜか江口と食事をする事になった藍子だが帰宅途中、江口に襲われると勘違いから逃げ出し、その先で偶々たくみの車を見つけ潜り込むことにした。
たくみに街まで送ってもらった藍子は家に帰る気にもなれず、たくみに縋ることを決意する。
藍子との思わぬ再開をしたたくみは、しょうがなく申し出を受け入れ藍子を匿うことにしたが、解決策が思い浮かばず同僚の新道と先輩にあたる美咲に相談することにした。
藍子を交えた新道達との飲み会の成り行きで、藍子は美咲に引き取られることになり、
たくみ達の会社(八笠商事)へ勤める事となった。
順調に見えた日々に、突然関連会社との共倒れ(倒産)の危機が訪れる。
自分なりの出来る事をと、取引先の新規開拓を模索するたくみは以前付き合いのあった知人(元高荻の営業中西)から思わぬ開拓先の伝手を得る。
たくみの提案にアリアは手応えを感じ手詰まりだった計画書の完成を急ぐが、一人で抱え込むアリアは長谷部から窘められ自身のエゴを悟り、改めて周囲からの優しい協力を受け入れる。
どうにか形になった計画書を美咲が榎本(美咲の元旦那で部長)のもとへ持参し・・・
18. No (three) quarter(部長室)
「どう思う?」
美咲が、完成した事業計画書を確認している榎本(美咲の元旦那で部長)に問いかける。
「正直なところ……」
「ところ?」
「俺はこれで自分の会社を興したいくらいだな」
「私だってそこを抑えて持ってきたんだから許さないわよ。長谷部なんて『やるなら一枚嚙むわよ』って真顔で言ってたからね」
「…… 君ら二人だと冗談に聞こえないんだよなぁ…… で、勝算と希望額に変更は?」
「あちらの思惑が不明だから何とも言えないけど、希望額はそのままで、五分五分ってところかしら」
「…… ちょっとそれは楽観的過ぎないか? 普通はあり得ない話だし、ここはもう少し希望額を現実的な線にすれば……」
美咲がそれを受けてはっきりと言う。
「普通はあり得ない話だからよ」
不敵な笑みで美咲が計画書を指さす。
「その気(融資)が無ければ申し出なんか初めから無かったことを良い方に捉えるなら、十分勝算はあると思うのよね。ま、ダメ元的な開き直りの気持ちも大きいけど」
「…… その辺りのお前の勘が外れないのは知っているからな、嫌というほど……」
「外した記憶はないわね」
既に確信を得ているような顔で美咲が答える。
――(ハハ、相変わらずロックな女だなー……)
榎本がその顔を見て安心した(覚悟した?)かのように計画書を握り美咲に掲げた。
「…… 次の役員会で上げて承認取るから君も一緒に出てくれ」
「ありがとう、よろしく」
美咲は”当然”という面持ちで、にっこりと微笑む。
言葉少なのやり取りなのに、どこか確信めいた信頼と安心感が懐かしく、そして嬉しくもあり、二人はお互いを見ている。
「それとこれ…… その… 有本君はどこまで……」
榎本が窺うような視線で美咲に問いかける。
美咲が我が子の自慢タイムとばかりに胸を張って語り出す。
「凄いわよ、基本的なところはアドバイスしたけど、ほとんどのストーリーと補足材料はあの子よ。一課と長谷部のところのメンバーの協力も勿論だけど、そこも含めて彼女の計画書ね」
「……」
「いえ、もう作品と言って良いと思うわ」
互いに顔を見たまま、またしばしの沈黙。
「…… これは部長、いや会社としての立場で言うが、有本く……」
「あげねーよ?」
「…… だよねー」
榎本は『知ってた』という顔でがっくりと肩を落とした。
後日役員会での報告となったが、役員全て何も文句を言えなかったのは前代未聞だったらしい。
あまつさえ最後に相談役が
「どうかよろしく頼む」
と頭を下げた件が、逸話として社史の中で語られるのはずっと先の話。
つづく
”No quarter” :1,(訳)情け容赦ない
2,レッド・ツェッペリン、ジミー・ペイジ、ロバート・プラントのライヴ音源
アルバムで楽曲




