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計略⑩

 誰もがハッとしたように視線を向けると、慌ただしい足取りで現王と王妃が広間の壇上へと現れるところだった。

 その表情は蒼褪めており、只事でないことが容易に察せられる。


「父上! 母上! ちょうど良いところに……!」


 味方を得たと思ったのか、心底安堵した様子で駆け寄ろうとするアレクセイに対し、国王がくわっと目を見開いた。幼い頃から見知っているセフォレッタでさえ初めて見る恐ろしい形相だった。


「この――大馬鹿者が!!!」


 華やかな王宮の広間に似合わぬ怒鳴り声が響く。空気が一気に緊張感で張り詰めた。

 突然のことに固まるアレクセイを国王が更に怒鳴りつける。


「よりにもよって公衆の面前で婚約破棄の宣言など、この王家の恥晒しが……! オルヴァーグ公爵家を敵に回すつもりかお前はっ! 何のためにワシが秘密裏の婚約破棄を了承したと思っているんだ! お前が卒業祝賀パーティーで馬鹿な真似をするとは聞いていたが、よりにもよって今日しでかすとは!」

「なっ!? 何故そのことをご存じで……!?」

「オルヴァーグ公からの報告だ!」


 アレクセイがセフォレッタたちを振り向く。その顔には「何故バレた?」と大きく書いてあった。


「卒業前に何としてでも止める手はずだったのに、お前という奴は先走りおって……!」

「こ、婚約破棄と新しい婚約発表は広く知られた方がいいと思って……」

「馬鹿者!!! 広く知られたのはお前の馬鹿さ加減の方だ!!!」

「で、でも! 既に婚約破棄がされているのなら事前に私に教えるべきではありませんか……! 知らなかったから、つい私も焦って……」

「この状況で婚約というタガが外れたお前がどういう行動を取るか考えずともわかるだろう……。ワシもここまでお前が愚かだとは思わんかった……」

「これまで上手くセフォレッタさんが対応してくれていたのに、それがなくなった途端にこうですもの……。やはり育て方が間違っていたのかしら……」


 額を押さえる国王の隣で王妃が顔を覆っている。

 育て方を間違えたのは一理あるだろうな、とセフォレッタは思った。唯一の後継者だからだと国王夫妻含め、アレクセイに対して甘いところはあった。そのツケがこの事態である。


「ひとまず、お前には謹慎を命ずる。しばらく大人しくしていろ。沙汰は追って知らせる」

「なぜですか父上……! 私は間違ったことは何もしておりません!」

「事前の相談もなくいきなり舞踏会で勝手に婚約破棄を宣言した奴のどこが間違っていないと言えるんだこの馬鹿者が!」


 国王の怒鳴り声が加速する。それに対するアレクセイの反論も加速し、舞踏会会場は一言で言って混沌(カオス)である。とてもじゃないが気軽に声を発せられる空気ではない。


「ああ、陛下。後ほど我が家から王家へ貸与している領地と今後の融資についてお話がございますので、よろしくお願いいたします」


 しかし、そんな空気は露知らず、レイヴィンが笑顔で告げる。ちなみにオルヴァーグ公爵家が王家へ貸与している領地は王宮の一部も含まれている。

 その言葉に国王夫妻が蒼褪める。にこにこと微笑むレイヴィンの横顔を何とも言えない表情で見上げていれば、くいっと袖を引かれた。


「セフォレッタ様……」


 不安そうな目をしたエセルがセフォレッタを見上げていた。翡翠色の瞳が不安そうに揺れ、同時にこの状況に対しての困惑がありありと伝わってくる。

 心許ない表情をする彼女を見つめ、セフォレッタは優しく微笑んだ。


「もう大丈夫よ。貴女のことに関しても陛下へ口添えしてあるわ。殿下はもう、貴女には手を出さないでしょう。……もう大丈夫。よく頑張ったわね」


 エセルの白い頬に手を添えると、翡翠色の瞳がみるみるうちに潤んだ。

 ぼろぼろと大粒の涙を零すエセルを抱きしめ、セフォレッタはほっと息を吐く。

 こうして、予定外の断罪劇は終わりを告げたのだった。



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