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8.

 国王陛下の生誕祭がまたきた。

 王都は華やかな花で飾られ、祝いの姿を見せてくれる。

 各国からも国賓がくる一大イベントであった。


 この2年間、聖女が現れた事で婚約者であるレティシアをエスコートもせず、ミランダをエスコートしてきた僕。


 今年もミランダのエスコートすることになっている。だが、去年と違うことが一つだけあった。ミランダが婚約者の位置でいることだ。


 ミランダも聖女としての白いドレスを身につけていた。

 そして、王族並みの宝飾を身につけている。本人は高価な宝飾を身につけることができて喜んでいた。


「ロベルト様」


 甘い声、甘い香。

 僕の腕に擦り寄ってくる。無駄にでている胸をこれでもかと押し付けてきた。


「とうとう婚約発表ですわね。私、もっと頑張るわ。ロベルト様のために」


 キラキラとした眼差し。嬉しそうだ。


 でも、僕の心は晴れない。


 本来ならば、ここにいるのはレティシアだった。

 ミランダの後ろにレティシアの幻影を見る。


 きっと、柔らかく僕に向かって微笑んでいただろう。

 美しい装いをしていただろう。僕はみんなに見せて自慢にしていたに違いない。でも、誰にも見せたくないとも思うのだろう。彼女の美しさを僕だけのものにしたくて醜い嫉妬をするのだ。


「ロベルト様?どうされました?」


 ミランダの声に現実に戻される。

 僕は頭を振る。


「いや、なんでもない。行こう」


 僕はミランダをエスコートして会場に入って行った。


 誰もが晴れやかな笑みを向けてくる。


 レティシアの存在などもともとなかったように・・・。


 父、国王の挨拶が始まる。


 通る声が会場に響く。


「最後に、王太子ロベルトと聖女ミランダの婚約ー「お待ちください」」


 礼儀に欠くことはわかっているが、僕は声をかぶせた。

 

「ロベルト?」


 陛下は話の腰を折られ、機嫌を損ねたのか眉を寄せ低い声で僕の名前を呼んだ。


「話の腰を折ってしまい、申し訳ありません。ですが、その言葉が有言実行される前に言たい事があります」

「・・・なんだ?」

「わたしは聖女ミランダと婚約するつもりはありません」


 ザワザワと周りが騒ぎ出す。

 ミランダも目を大きくして、僕を見てきた。


「ロベルト様?」

「ほぉ?王命に背くのか?」

「そうなります。わたしはレティシア・ヴィランデー公爵令嬢を愛しております」


 迷わない。

 僕の大事な人はレティシアだけだ。


「レティシア嬢とは婚約解消した筈だ」

「確かに。わたしの至らなさが原因です」

「ロベルト様。()()()は私を虐めた悪女ですわ!!」


 ミランダは胸に手を当てて、堂々と言い切った。

 自信に満ちたその顔に、吐き気がする。


「君はレティシアが虐めたというが、どこに証拠があるんだ?君とはずっと僕と一緒だった。朝、学園に来てから、帰るまでずっとだ。なのに、どけで、いつ虐められたというのか?」


 僕は自嘲気味に笑った。

 自分の馬鹿な行いが周りに明かされる。

 でも、それは僕のせいだ。

 レティシアはもっと辛かったはずだ。


「僕は日記を書いている」

「まあ、日記を。素晴らしいわ」


 こんな時まで感心できるなど、その心臓は鉄か鋼ででもできているのか?


「素晴らしい?そうだね。他人(ひと)から言わせれば、そうなるだろうね。でも、改めてそれを読んでバカらしくなったよ。()()()()()()()()()()()()()()()()

「私の事を?まぁ、嬉しいですわ」


 これの何が嬉しいのか?

 なぜミランダ(この女)に入れ込んでいたんだ?


「あぁ、この2年間。レティシアの事が書かれていなかったよ。名前さえ書いてなかった。大事な婚約者の事を、だ」

「それだけ、あの方を嫌っていたと言う事でしょう?」

「考え方、ではそうだな。でも、違う。書かれていなかったと言うことは、レティシアに無関心だったと言う事だ。もし、君が虐められていたなら、どこかにそのことが書いてあるはずだ」

「ロベルト様がいないところで、行われていたのですわ?」

「いつ?」

「いつって・・・」

「さっき言ったはずだ。学園では、僕はずっと君の傍にいた。だから学園内ではない」

「えっと・・・、そう!学園の外ですわ」

「僕はいつも君を馬車まで見送っていたよ」

「私だって、途中寄り道もしますわ」

「レティシアはね、王太子妃教育に行くんだ。行かない日は、すぐに屋敷に帰る。絶対に寄り道はしない」

「なぜ、そう言い切れますの?人には絶対なんてありませんわ」


 まだ認めない。

 僕は息を吐いた。

 レティシアは・・・。


「レティシアはするんだ。特に僕との約束は守る・・・」

「何言ってますの?」

「レティシアとは、二人で街を歩こうと約束したんだ。以前、拐かされた事があったから・・・」


 昔、一度街に出かけた際、護衛とはぐれてしまい、人攫いにさらわれかけたのだ。あれ以来、一人で街の中を行けないのだ。だから、二人で手を繋いで行こうと約束した。

 そんな彼女が、護衛がいようとも一人で街に行く事はない。


「ですが、本当に虐めていたのですわ」

「そうか。そこまでいうなら、検証しよう。ここに、アレックスたち数名に調べまとめて貰った書類がある」

 

 僕は傍にいるアレックスたちを見た。

 彼らの手の中には厚い封筒がある。


「えっ?」


 ミランダは顔色を変えた。

 真っ青になったかと思えば、ガクガクと震えだす。


 僕は封を切っていない、五つの封筒。

 事前に頼んでいた陛下の信用おける従者らがアレックスから封筒をもらいうけた。


 僕はアレックスの他に、ミランダに心酔している取り巻きたちにも同じことを頼んだのだ。


 理由もそれぞれ違うものにさせた。


 レティシアを追い詰める為・・・、ミランダの為・・・と、自分をよく見せる為の理由をつけている。


 それも自分の手柄にする為に、他の者に気づかれないようにしてもらった。

 聞き取った事柄にも最終確認してもらうようにも言ってある。


 彼ら以外は中身の内容は知らない。僕も見ていなかった。

 封を開けていないのは、改ざんしていない証拠としてだ。


 僕はレティシアを信じている。

 レティシアはいじめていない。


 だからきっと、この中身は・・・。


「ロベルト様、待って」

「なぜ?これで、レティシアが君を虐めていた事がはっきりするんだ。自信を持てばいい」


 僕は父の前で封蝋されていることを確認してから、封を切った。


 中の資料に目を通していく。


 僕は笑う。


 やはり、思った通りだった。

 

 

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