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 王宮に帰ってすぐに、父との話し合いの場を取り付けた。


 父は偉大な王だ。

 威厳もあり、その双眸には力強い光が宿っている。

 子である僕でさえ、背筋が寒くなるなる事があった。


 『影』の話をすると父は渋い顔をした。

 そして怒りの満ちた顔で僕を見てきた。


「今更何を言うかと思えば。くだらん」

「わたしにとってはくだらない事ではありません」

「もう、終わったことだ。お前は関係ない」

「いえ、まだ終わっていません。レティシアのためにも終わらせてはならないのです。どうか・・・どうかお願いします」


 頭を下げた。


 少しの間沈黙がおりる。そして、陛下はため息をつく。

「『影』の意味は、わかっているだろうな・・・」


 わかっている。

 陛下の手足として一般的には知られていない存在。

 そんな彼らから情報を引き出そうとしているのだから、そんな顔をされても仕方ない。


「直接、わたしに言わなくても結構です。こちらも調べてはみます。きたるべき時に明らかにします」

「わかった。そして、事実が明らかになった時、お前はどうしたい?」

 

 我が父ながら、食えない人だ。

 きっと全てを知っているのだろう。それで、なお僕に問いを投げかけたのだ。


 判断を委ねてくる。

 そりゃあ、そうだろうが・・・。


 僕は・・・。


 もう、決めている。


 どんな結果であろうと・・・。



 父は、僕の言葉を聞いて、目を細め顎をなぜた。

 及第点といったところか・・・。


「では、その件は任されよう」

「忙しいなか、無理を言ってすみません」

「なに、息子の願いを叶えるのも親の役目よ」


  僕は、一礼して部屋をでた。


  次に向かったのは、弟であるアズベルトのところだった。


 一つ違いの腹違いの優秀な弟。

 嫉妬や妬んだ事などいく度もある弟。


 部屋に入ると、アズベルトと、その婚約者がいた。


「兄上。どうしました?僕に会いにくるとは?」

 

 僕を嘲笑うような表情。


 今までなら、そんな顔を見ては頭に血が昇っていた。

 だがー、脳裏にあのレティシアがでてきた。純真無垢な笑い。僕を忘れたあの彼女の顔。

 それを思い出しただけで、落ち着いてアズベルトを見る事ができた。


「アズベルト。協力してくれ」

 

 頭を下げて、願い出た。


「兄上?」


 驚いた声。

 こんな声がでるんだ・・・。

 


「僕だけでは無理なんだ。だから、アズベルトに協力して欲しい」

「はぁ?突然?嫌いな僕に頭を下げてまでの協力?なに考えてるんです?」 


 うわずった声。


 当たり前だろう。

 裏があるように思われても仕方ない。


 でも、今の自分にはこうするしか考えられなかった。


 顔を上げアズベルトを見ると、本当に戸惑っている。

 

 幼い時のアズベルトを思い出した。

 泣いて僕の背中に隠れていた姿。


 年を重ねる事で、周りから互いに比べられてきた。仲の良い兄弟はなりを潜め、溝だけが深まっていった。


 レティシアはそんな僕らを見て悲しんでいた。

 幾度か話し合いの場を設けてくれたと言うのに、僕は頑なに拒否をしたのを覚えている。


 ミランダと過ごすうちに、彼女は「兄弟なんですものけんかも当たり前ですわ。いずれロベルト様が国王になられれば、ひざまずきますわよ」と言っていた。

 

 違う。

 

 自らが近づかなければ、知りようのない事もある。


 僕はアズベルトのことを知らない。

 知ろうとしていなかった。


「アズベルト、話を聞いてくれ」

「今更!!」

「アズベルト様。落ち着いてください。一度、話し合いましょう」



 アズベルトの婚約者、スカーレット嬢が言ってくれた。



「スカーレット嬢。ありがとう」

「「!?」」


 驚いた顔。

 そんなに変な事だろうか?


「私は、席を外しましょうか?」

「いや、スカーレット嬢にも聞いて欲しい」

「わかりました」


 僕は、勧められた椅子に座るとこれまでのことを話をした。


「・・・わかった。協力するよ」


 アズベルトは少し考えた後頷いてくれた。


 その後も、三人で喋り倒した。

 ここにレティシアがいないのが寂しい。

 ()()をしったなら、彼女は喜んでくれたに違いない。「良かったですわね」と僕の隣で笑ってくだだろう。





 自室に飾られた薔薇たち。

 56本の薔薇。


 昔、庭師に薔薇の本数にも意味があると聞いた。


 だから、ずっと赤いバラにこだわり彼女に贈りつづけていた。卒業式に99本目の薔薇を、そして結婚式の直前に108本目の薔薇を贈るつもりだった。


 もう意味のない数だ。


 自分の愚かさの証になっている。

  

 薔薇の匂いが、涙を誘った。


 


 


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