6.
僕とアレックスは街中の宿屋にいた。
公爵から日も暮れてきたので、泊まって行くように勧められたが、断りをいれた。
この4日間で、街の安宿に泊まる事も野宿する術も学んだ。人は切羽詰まればどんな環境にでも適応するものだと改めて思う。
なにより、街の宿にしたのは、冷静になって考えたかったからだった。
「レティシア嬢の演技は見事ですね」
今まで黙っていたアレックスが言った。
人を馬鹿にするような笑みを浮かべている。
演技?
レティシアのアレを演技と言うのか?
「ああまでして、殿下の気を引こうとするとは、醜いものですね」
「アレックス?」
「やはり、殿下にはミランダ嬢がふさわしいです」
にこやかに言ってくるものだから怖い。
何を思って僕にふさわしいと思っているのだ?
容姿に対して?
それとも知性?
はたまた身分にか?
どれだ?
どれもレティシアには劣るのではないか?
身分はさて置き、行動にいたっては廊下を走るし、バタバタとスカートを捌いて歩いている。マナーがまだわかっていないし、知性だって中の下といったところ。それのどこがだ。
レティシアは完璧だった。
その後も、アレックスは陶酔したようにミランダを褒め続けた。
「・・・アレックス。お前はレティシアがミランダを虐めていたと思っているのか?」
「ミランダ嬢がそう、言っています」
「アレックスは自分の目で見たのか?」
「いえ・・・。ですが、ミランダ嬢が嘘を付くはずはありません」
一方的な意見。
盲目的ではないだろうか?
そこまで、ミランダを信じる意味がわからない。
僕は意を決した。
真実を知ろうー。
みんなが言うことが事実なのか、自分の目で見てみたい。
「アレックス。頼みがある。お前にはミランダから虐めの実態を聞いて、公平な眼で調査して欲しい」
「殿下は・・・」
「僕が、しゃしゃり出れば、皆が萎縮するだろう。だから、お前に任す。ミランダに直接話を聞いて虐めの日にちや出来事、周りの状況を事細かに聞いて報告書にまとめてくれ。その上でレティシアの行動を調べろ。同じように報告書にしてくれ。あと、ミランダには上手く言えよ。僕に頼まれたとは、決して言うな」
早口で言うとアレックスは困惑した顔をしてきた。
「そこまで、する必要があるのですか?」
「アレックス。お前にも婚約者がいたよな。大丈夫か?」
アレックスは固まり、渋い顔をみせた。
視線が泳ぐ。
あまり、うまくいっていないか・・・。
そうだろう。
ミランダの側でずっといれば、相手もいい気はしないからな。
お前はこのままでいいのか?
「お前なら、婚約者とミランダのどちらを優先する?」
「・・・それは・・・」
「どちらを信じる?」
「・・・・・・・・・」
答えられず、下を向いた。
答えられないとは・・・。あきれる。
「僕は、どちらが真実なのかを知るべきだと思っている。レティシアとは既に婚約は解消されているとは言え、すこし前までは婚約だったんだ。わたしはレティシアの声を聞いていない。一方的に全てを決めつけては、レティシアにもミランダにも申し訳ないと思っている。真実を明らかにして、これからの事にむきあいたい。前に進みたい。だから、協力してくれ」
「わかりました」
アレックスはなんとか納得してくれた。
アレックスには、悪いが全てが本音ではない。
僕は、僕でする事がある。
僕にも、レティシアにも、そして、聖女たるミランダにも、『影』がついていたはずだ。
父に掛け合い、証言を得るのだ。
どんなに怒られ詰られようとも、僕はケジメをつけなければならない。
そして、弟であるアズベルトにも会わなければ・・・。