表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

11.最終話 レティシア視点

 今日もいい天気。

 雲一つない空は青く澄み渡っている。


 窓を開け空気を吸い込むと、胸の中が気持ち良くなった。



「お嬢様。おはようございます」


 リサが入ってきた。


「おはよう。リサ」


 彼女の手には薔薇の花を携えている。

 ピンクの薔薇を1本。朝露に濡れているのか、鮮やかな色をしていた。


「また、きていました」


 リサが呆れたように差し出してくる。

 わたしは、笑いながらそれをもらった。


 ピンクの花言葉は『可愛い人』『愛の誓い』

 薔薇の1本は『一目惚れ』『あなたしかいない』


 あまりに重い気持ちについ笑ってしまう。


 この花の贈り主は、3年ほど前からお父様が雇ったお抱え騎士である。


 その方は3年前に我が家にきた。その時はお父様も、頑なに拒否していたのだが、その方は一歩も引かなかった。だが、その時はお父様は頑なに許さず、その方も諦めたように帰って行った。


 その数日後に護衛をつけて街に出かけた。昔のこともあり行きたくなかったが領地の街だし、何より物欲に負けてしまい意を決して、出かけたのだ。

 だが、物取りに絡まれてしまった。数が多く、護衛が苦戦している時、その方が助けてくれたのだ。

 

 怖くて震えるわたしを、その方は落ち着くまで抱きしめてくださった。

 知らない男性に抱きしめられたというのに、嫌な感じがしなかった。逆にその胸の中は温かく、安心できた。

 落ち着いた時、はしたない行為にドギマギしてしまう。なぜドキドキしたのか、わからない。


 そのことがあり、お父様はその方をしぶしぶ雇うことにした。


 それから毎日、彼はわたしに薔薇を贈ってくれる。それも何も言わずに黙って。あたりを警戒しながら部屋の前に置いていくのだ。

 本人はバレていないつもりかもしれないが、幾人も証言者はいる。


 毎日、1本のピンクの薔薇。


 なぜ、わたしが薔薇が好きなことを知ってるのかしら。


「お嬢様。幸せですか?」


 リサが聞いてきた。

 どうしたのか?

 わたしは笑って答えた。


「ええ、幸せよ」

「そうですか・・・。それはよかったです」

「なに、その顔」


 仏頂面のリサ。どうしてそんな顔をするのか?

 リサは苦々しく呟く。


「だって、彼が来てから、お嬢様が明るくなられましたから」

「そう?」

「そうです。ふ、ふ、く、ですが」


 そうかしら?

 そんなに明るくなった?


 以前のような違和感はなくなっていた。

 そう、彼・・・ルトが来てから、確かに自分自身が落ち着いた気がする。


 時折不安になるわたしのことを彼だけは気づいてくれた。安心するまで傍でいてくれる。

 気になっていた右手も、もう大丈夫。誰もいない時にルトが握ってくれるから。


 それだけで、満たされた気持ちになった。


 身分の差があるため、()()()行為は許されはしないのに、どうしてか、拒否することができないでいた。


 お父様は黙認してくれた。


 ルトに注意は促しているのか、行き過ぎた行為はない。ただ、傍にいてくれたり右手を握ってくれるだけ。


 物足りなくなる自分がいた。

 嬉しくなる自分がいる。

 

 ルトが来た時は他の騎士とぎくしゃくしていたが、今では仲が良い。笑いあい、楽しそうだ。


 でも、どこか洗練されている。

 貴族だったのか?

 ルトは何も語ってくれなかった。


 貴族であればと、思うわたしは愚かである。


 



 朝食を終えたわたしは、廊下の窓から、訓練所を見下ろした。


 ルトがいる。彼が一目でわかった。

 

 みんなと訓練で汗をかいている。


 彼はこちらを見上げてきたと思うと破顔してきた。


「あっ・・・」


 胸が痛い。

 わたしは、あの顔を知っている?

 自然に涙が溢れてきた。

 あとからあとから、流れてくる。

 抑えることができないこの気持ちは何?


 気づけば、彼はの場から居なくなっていた。


 行かないとー。

 ()()()()


「お嬢様?」


 何故だか自分でも理解できなかった。だけど、ルトに会わなければと思ったのだ。


 わたしは廊下を走り出した。

 後ろでリサの声が聞こえたが、それどころでない。


 わたしは・・・。


 令嬢らしからぬ勢いで、階段を走り降りた。

 ドレスを捌ききれず、裾を踏んでしまう。


 落ちるー!


 あっ・・・。


 走馬灯というのだろうか・・・。


 思い出した・・・。

 あぁ、なんで今なのか?

 あの場面を思い出す。

 嫌だ・・・。


 目を閉じて、全てを受け入れた。


 でも、思った衝撃はなかった。

 なんで痛くないの?


「なっ!お嬢様!危ないじゃないですか!!」


 背後から声がする。

 固くて、それでいて暖かい。

 

 わたしは見上げた。

  

 そこには・・・。


「ルト。ロベ・・・ルトさ、ま・・・」

「お嬢さま?・・・レ、レティ・・・?」


 ロベルト様だ。

 ここにロベルト様がいる。


 間違うはずはないロベルト様だ。

 どうしてここにいるの?

 ロベルト様がルトとしている。

 なぜ、騎士としてこんな田舎に?王都は?

 3年も、なぜ?


 言いたいことが山ほどあった。

 なじってやりたいことも。


 だけど、できなかった。


 ロベルト様の目から涙が溢れていたのだ。子供のように流している。


「レティ・・・。僕がわかるの?記憶が戻った、の・・・?ごめん。ごめん。」


 わたしを抱きしめてくれた。

 震えていた。

 幾度も謝ってくる。

 

「・・・なぜ、ロベルト様が?どうしてここに?」

「君のことが忘れられなくて、全部捨ててここにきた。君の側にいたくて。君に謝りたくて。君を見ていたくて。君が幸せになる姿を見守りたくて・・・。ごめん。ごめん・・・」

 

 涙声。

 小さな声で謝り続ける。

 その姿に怒りが湧く。


「なによ、今更!!」

 

 幾度も、その胸を叩いてやった。

 なんで今更謝ってくるの?

 わたしの前になんでいるの!?

 嬉しいのに憎い。

 その行き場のない思いをぶつける。


 幾度も幾度もー。

 自分の手が痛くなって止めるまで叩きつけた。

 だが、黙って受け入れる。

 疲れたわたしを彼は抱きしめてくれた。


「ごめん。ごめん。レティシア。愛してる。愛してるんだ。レティ・・・」


 耳元で呟くその声が熱い。

 ひどい。

 本当にひどい人。


 彼を見上げる。

 まだ泣いていた。

 泣きながら笑っている。


「・・・ロベルト様。今度こそ信じても宜しいですか?」


 彼は力強く頷いた。


 この3年の事も覚えている。

 彼がわたしをどんなに思っていてくれたのかを。ずっとわたしを見ていてくれたことも。

 

 わたしは、知っている。

 

 わたしはルトが好きだった。


 彼は言った。


「赤い薔薇を贈り直していいかい?」

「続き、でなくて?」

「一から、君に捧げたい。以前のように毎回違う薔薇は買えないけど・・・」


 尻つぼみの声。

 わたしは笑ってしまう。

 そうね。騎士と言っても薄給だものね。


「赤い薔薇ならなんでもいいわ」

「君に赤い薔薇を贈るよ」


 わたしたちはもう一度抱き合った。



 甘くて優しい薔薇の香がした。



 わたしたちの未来は多難かもしれない。

 それでもいい。

 未来を紡いでいけるならー・・・。





             ーおわりー



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ