「悪い友人と一緒に地位を高める話」
僕――リリア=アルフォンスは貴族の子女としては珍しく積み木崩しだ大好きだった。
形よく整ったものが崩れる。もったいないほど高く高く積み上げたものが一瞬でバラバラになる様に何とも言えない解放感を覚えるのだ。
だからだろうか、高い魔法適正があるにもかかわらず、魔法よりも手品の方に傾倒したのは。
淑女としての勉学や魔法の練習の合間に、大道芸人に密かに師事して手品を学んでいくのは楽しかった。
思いもよらぬことが起きると取り澄ましている顔の中に動揺の色が見て取れるのだ。
その崩れた様が楽しいものだった。
†
貴族の子女であるゆえに舞踏会に参加するのも義務だ。
実は僕は舞踏会が結構、楽しみでね。
簡単な手品を見せると手に取るように驚いてくれるんだよ。
その中でも出会ったカトリーヌという女の子はとても面白かった。
「リリア、あなた、わたくしと組みませんか? きっといい思いをさせてあげるわよ」
「へぇ、どういうことだい?
「わたくしはきっと一番になりますの。この国よりも誰よりも幸せになってみせますわ」
「君はどうしてそう思えるんだい?」
「わたくしがそう思うことに何の根拠がいるのかしら」
巻き毛に、調和を考えてないような派手なドレス、装飾品も多く、下品に見えないのは少女の華美さ。
ではなく、この服装をあつらえたものの腕前だろう。
やたら大口をたたく少女だった。
自信満々にいうものの言っている割にその根拠が乏しい。
でも、手品師としていろんな人間を見てきたからわかる。根拠や自身がなくてもカトリーヌの自信や語る夢に一切の嘘がなく、真剣にそう信じているようだ。
だから、僕はこの自信が揺さぶられたときにどうなるか、それを見てみたいと思ったんだ。
†
僕はカトリーヌの執事となった。
男装の執事だ。
少し無茶だったが、カトリーヌのローゼンブルグ家が僕のアルフォンス家より家柄が高かったことが幸いした。
カトリーヌ自身が望んだことも幸いし、僕は彼女の執事となった。
「うふふふ、あなたがわたくしの家に来てから物事が順調に進むようになりましたわ。さすがわたくし人を見る目はありますわね」
「そうかもね? それで次はどうするんだい」
「まずは――姉を追い出しますわ」
「姉を? それは穏やかじゃないね。どうしてそんなことをするんだい?」
「わたくしの姉は王子様と婚約をしておりますの。ですから、わたくしがそれを奪取して上り詰めるのですわ」
「それは穏やかじゃないね。でも、君の肉親だろう? それでいいのかい」
「わたくしも情はありますわ……ですから、辺境伯にでもくれてやりましょう。辺境の田舎にでもほうっておけば目障りにならないでしょう」
辺境伯といえば国境を守る重要な役職だ。
しかし、カトリーヌはどうやら田舎ものぐらいしか思っていないようだ。
うん、いつものことだね。面白そうだから放っておこう。
婚約破棄してその地位を奪取するとなると、やることが多いね。
うん、楽しくなってきた。
†
「――イザベラ、君との婚約を破棄する。カトリーヌへの数々の暴行やあくぎょうもこれまでだ」
うんうん、努力が報われるってうれしいね。
今、全校生徒の前でシャルル王子がイザベラに婚約破棄を告げている。
寝耳に水だったようでイザベラは困惑しているようだ。
コツコツと周囲の人間にコツコツと仲間になるように話しかけ、イザベラの悪評を吹き込んだ甲斐があるというもの。
手品の応用でイザベラが実際に悪事をしているように見せかけたりしりしたことも効果があるようだ。
魔法を使えば魔力の残滓が残るから疑われるけど、トリックなら魔力は使わないからね。
みんな魔法を使うこと前提で考えてるから結構な心理的な盲点になるんだ。
こうしてイザベラは追放されて、呪われた証といわれる赤目の辺境伯に嫁ぐことになった。
†
「おほほほほ、うまくいきましたわ。これでわたくしが一番ですの」
「ふぅん、これで終わりなのかい?」
「なにを言ってるますの。まだ、正式に結婚するまでは安泰ではありませんわ。わたくしみたいに婚約者の地位を狙っている人たちもいるにちがいありませんもの。あなたはわたくしの執事でしょう? さぁ、わたくしのために働くのです」
「わかったよ」
まだまだ僕の腕の見せ所のようだね。
あの追放劇を見てから君を恐れ居てるような空気がたまっていっているようだけど、どこまで積みあがるのか。
それを見るのが楽しみだ。