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拓海のホルン(1年9月から)  作者: 鈴木貴


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008.ダンス部留学

ダンス部は多目的室にいた。

他にも空きスペースを見つけて練習しているらしい。


さっきの私服の女性もいた。


ピリピリと緊張感のある雰囲気は吹部と変わらない。


その女性はほぼ罵声のように

「腕の角度が違ってる!

あと表情!ここで口角をぐっとあげる!腕と一緒に一瞬で!

顔からダンスしろ!」


は?

顔からダンス?


もう怖くて帰りたいんだけど…。


俺はこそっと男子に

「怖い、帰りたい。」

と言うと、斎藤も

「俺も、あんなん言われても無理だって。」

と怯えている。


目を合わせて、うなずき、そっと後ろ足で1歩、2歩と後ろへ下がる。


山田先輩に気付かれて

「大丈夫!」

と言って連れ戻された。


絶対大丈夫じゃない。

大丈夫なわけがない。


吹部での緊張感もあるけど

ダンス部のこの緊迫感は、無理なやつだ。


多目的室の戸が開いた。


「いらっしゃい、待ってたよ。」

北沢先輩だ。


山田先輩が

「今日、レッスン中だよね。

挨拶だけ。

明日から2日間、よろしくお願いします。」

と頭を下げた。


こうなると、下げなくてはならないだろう。


1年男子も恐る恐る

「よろしくお願いいたします。」

と、揃って頭を下げた。


奥から私服の女の人が出て来た。


「あ、さっきの吹部の子たちね。

中入って。

ざっくり話は聞いてる。」


女の人はそう言った。


北沢先輩は

「茅野先生、プロのダンサーで振付師。

週1でレッスンしてもらってるの。

急にコラボって話になって戸惑ってるって相談したら

詳細を聞こうかって言ってくれて、

で、さっきの音楽室でのやりとりになったの。」

と教えてくれた。


ここにもプロが。

しかも、怖い。

内田先生より怖いんじゃないか。


ただ、ダンス部って、発言が自由というか、批判がまっとうな感じがした。

茅野先生は

「よろしくね。

今回の事は、ダンス部に

『言うべき事も言わずに飲んできたのか?』

って聞いたら

言っても通じなくて困ってるっていうから、

状況聞いたら、思ったよりしんどい事態で驚いたわ。

まあ、元に戻って良かったよね。

で、吹部員も踊る、と。」


と聞いてきた。


プロにご指導いただくのか?

そんな、やったこともないのに…。

さっきの振り付けを先輩に教わるだけじゃダメなのか?


茅野先生は

「はい、15分休憩!」

と言った後、俺らの方に向き直った。


「で、音源と、仮の振りをやって見せてくれる?」

と言われた。


山田先輩と船田先輩が、はい、と返事をした。

山田先輩は

「音源はこれですが、全曲ではなく、1コーラスにします。

あと、トランペットのソロでは、踊りは控えてトランペットを目立たせます。

ダンスがメインというより、音楽を引き立てるような踊りになるようにしたいです。」

と言うと、茅野先生は、黙ってうなずいた。


山田先輩は、音源を再生した。

吹奏楽の『め組のひと』の音源が流れる。


山田先輩と船田先輩が2人で踊り始める。


めっちゃ笑顔でノリノリで踊ってる。

アイドルだったか、この先輩達。

吹部とは全く違う顔だ。



時間にして1分前後になる。


サビの部分が印象的な、『めっ!』のポーズが

めっちゃしんどい…。

ただ、これを俺がやるのか?

…まじかあ…。


うん、無理。

そっと逃げようと後ろ足で出口へ近づくと


「はい、じゃあ、吹部ダンサーズ、やってみようか。」


茅野先生が言った。


無理だって、こんなん。

見て覚えられたら、ダンス部入ってるよ。


「休憩中だけど、誰か、出来る?あと4人。」

すると、ぞろぞろと集まって来た。


4人でいいって言ったじゃん。



「じゃあ、ちょっと吹部の子の振り入れて。」

というと

「俺、できる!」

「私も!」

と言って、8人出て来た。


もうこの人達にお願いしたら?

コラボでいいよ、などと言ったら、黒沢の努力が無駄になるよなあ…。


「体育でダンスやってるでしょ?

それより大変なことはやらないから。

音楽を盛り上げるのに、視覚で訴えるっていうのはいいと思うよ。

しかも、吹奏楽部員がやるっていうのがまたいいね。」

とニコニコしていた。


山田先輩と船田先輩が、ありがとうございます!と言っていた。


まだノリについていけてない。


山田先輩と船田先輩の後ろに、ダンス部員が8人並んで、さっきの音源で踊り始めた。


もう覚えている。

しかも、かっこいい。


終わると、茅野先生は


「サビの部分の『めっ』が2回出てくるから、1回目は片手、2回目は両手とか、変化付けたほうがいいと思う。」

と言うと、山田先輩と船田先輩は、はい、と言った。


「じゃあ、1年生、やってみようか…というか、自己紹介してくれる?

簡単でいいから。」

と言った。


5人であたふたしながら

「トランペット担当の黒沢です。」

「打楽器の小松です。」

「ホルンの鈴木です。」

「オーボエの斉藤です。」

「ユーフォニアムの藤井です。」

と言って、お辞儀をした。


ダンス部の人たちは拍手と歓声で温かい。


「じゃあ、やってみよう。

下手だし、覚えてないと思うけど、やってみないと、どこがわからないかもわからないだろうから。」


と言って、山田先輩と船田先輩の後ろに立つように促された。


無理なんだが。


でも音が鳴り始めて、先輩達が踊り始める。


最初は左右にステップ。


こんな難しいもん?


さびに入って、腕を上げて、『めっ!』のポーズ。


必死についていく。


1分だけなのに、ものすごく疲れる。


「まずは、恥ずかしい、って感情が前に出すぎ。

見ているこっちも恥ずかしくなるから。

この子たち見てみ。

そんなの、捨ててるから。

だから下手でもかっこよく見えるのよ。」

というと、ダンス部員から

「先生ひでー」

と言って笑い声があがった。


「あとは、リズムを取るとき、体でっていうのが難しいみたいだね。

そしたら、歌いながら動くといいかもしれない。

聞いてあわせようとするクセがあるのかな?

まあ楽器演奏するのには必要なんだろうけど、

ダンスの時はそれより歌って自分から動くようになるのが理想だね。

まずは覚えられるように。」


そう言って茅野先生は前に出て来た。


茅野先生は自分のスマホを北沢先輩に渡して、撮影するように言った。


山田先輩に音源再生の指示を出す。


そして音に合わせて踊り出した。


動きはもちろん、視線や表情、など、見ててとても楽しそうだと思った。


その場が茅野先生のステージになっていた。


終わると思わず拍手が出る。


茅野先生はスマホを北沢先輩から受け取り、操作をして

「今のダンス動画を反転させたやつを北沢に送ったから、

それ転送してもらって、見て練習するといい。

あとは、ダンス部の子たちが教える。」

と言った。


ダンス部は

「おう!任せろー!」

「もういつでも教えてあげる!」

「がんばれ!」

などと声をかけてくれた。



茅野先生は

「ちなみにさっきのあなた達。」

と言って、5人が踊っている動画を見せて来た。


うーわー!

これは、恥ずかしい、地獄絵図だ。


5人とも思ったことは同じようだ。


「ほんとすみません、お願いですから消してください。」

と黒沢が言うのに合わせて、俺らも、お願いします、というと茅野先生は

「本番、いいダンスをしてたら、これは削除する。

でも、そうでもないな、って思ったら、内田先生に見せる。

『最初がこれだったんですから』ってかばってあげられるでしょ?」

とにやりとした。


優しさ、意地悪?だまし?


「私のレッスン料、高いんだよ。

吹部に請求行くからよろしくね。

きっちり15分、内田先生か松田先生か、学校宛てか。」


5人はムンクの叫びの顔になった。


とにかく、やるしかないようだ。


茅野先生は

「はい、じゃあ休憩終わり!吹部頑張ってね。

当日楽しみにしてるよ。見に行けるかわからないけど、後から映像でも見れるからね。」


え?


「後日、DVD販売あるから、それ見せてもらうね。」


残るのかー!!


山田先輩と船田先輩に促され、

ありがとうございました、と挨拶をして多目的室を出た。


きっかり15分間。


さすがはプロ。

15分間でそれ以上の教材と課題をくれた。


そして、レッスン料はいくらなんだろう?





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