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004.一揆

基礎練習、楽譜を途中までさらった。

何となく気力に欠けてしまって、絵馬先輩と相談して、少し早めに音楽室へ戻ることにした。


すると中から、うおー!という歓声のようなものが湧きたっていた。


何事かと見てみると、さっき帰ったはずの江口先輩がタブレットを開いて、その周りを囲むように、山田先輩、船田先輩、白川先輩、北村先輩が囲んでいた。


江口先輩は

「多分、これ、奴が温めてるプログラム原稿、生徒会長挨拶、あと個人のPCだかスマホでアカウント連携してる。

そのアカウントでカレンダー共有している。

中で見つけたのが定期的にある17時頃の『沙由』っていうのがある。

共有先のアドレスで検索かけると、このSNSが検知できた。

おそらくだけど、この学校に通う女の子と思われる。

妹か姉かその他親戚か、友達か…彼女か。

今できるのはここまでの情報提供のみ。

完全にアウトなやつだから、今メモして。

履歴も消し去るから。」


と言うと、山田先輩と北村先輩が、OK!ありがとう!などと言いながら、ノートにペンを走らせている。


少しすると江口先輩は

「そろそろ閉じる。検知される。」

と言って、開いていたウインドウを閉じた後、何か真っ黒な画面を開いて、英語らしきものを打ち込んだ。


江口先輩は、深いふーっというため息を吐いて、椅子の上にぐったりとしていた。


山田先輩:「えぐっちゃん、ありがとう!」

北村先輩:「まじ、天才!吹部にこんな人がいたなんて!」


江口先輩は声にならない、ああ、うん、と言って、疲れた様子で、また椅子にもたれた。


江口先輩以外の山田先輩、船田先輩、北村先輩、白川先輩が目を合わせて、

相当悪い顔で笑っている。



山田先輩は

「先に先生にも手を回しているとは思わなくて、詰んだ…と思ったけど、

こちらに切れるカードがいくつも手に入ったわね。」

と言った。

目が座っている。


続いて北村先輩も

「外堀を埋めて、言う事聞かせるだけにするなんて汚い、って思ったけど、

それなら、こっちだって手段選ばないから。」

と笑っている。


先生に相談したけど、あまり良くない経過だったんだな。

そこに江口先輩がスキル発動したんだ。

てっきり、ブチ切れて帰宅したのかと思ったら、

実は軽くハッキングして、音楽室戻って来たんだな、ってところまでは察知した。


船田先輩は

「プログラム原稿には

『吹部ダンス部コラボ』って組み込んでるし、

生徒会長のスピーチにはさらっと、『初めての試みが成功しました。

皆さんも挑戦、協力の価値を感じていただけたのではないでしょうか。』

って組み込んでたな。勝手に話進めやがって…。」

と、低い声のトーンで言葉遣いが乱れていた。

相当お怒りのようだ。


白川先輩は

「あいつに正面突破したところで、もうかなわねえ。

どんな手使ってでも、吹部は吹部の舞台をやるんだ。

学芸発表会で吹部のプログラムを作りたくて、

3年間続けて来たといっても過言じゃねえんだ。」

と言うと、いつの間にか3年の先輩が集まって、そーだそーだと盛り上がっていた。


そこへノックの音がした。


失礼します、と言って先輩らしき女性が入って来た。

白川先輩が

「てめ…」

と言って机をバンと叩いた。


船田先輩が

「なんか用?副会長。」

と、冷たく突き放した言い方をした。

吹部のコンマスで見る表情とは全く違う、冷淡な表情だった。


副会長の

「さっき、小谷…生徒会長が来てコラボ依頼の話があったと思うんだけど…。」

という声に被せて、北沢先輩が

「依頼じゃないよ。命令だった。

こっちの意見も気持ちも聞かず、いきなり企画を押し付けられて、迷惑してる。

吹部もダンス部もこの学芸発表会に気合入れてんのよ。」

と、早口で、怒り口調で言った。


すると、副会長は

「気持ちはわかるんだけど…、どうにかやっていただけないでしょうか?」

と、頭を下げた。


「却下、帰れ。」

「不信任にすればよかった。」

「学芸発表会で生徒会最後だからってやりたい放題だな。」

「生徒会の駒じゃねえんだよ!」


3年の先輩が次々に反論した。


パート練から戻って来た部員達が、その騒ぎを見守っている。


「もういい!今からダンス部員で生徒会室行くから、待ってろ!」

と言って、北沢先輩は音楽室を出た。


音楽室のそばで、ダンス部員がすでに待機していたようで、

行くぞ!の声にダンス部員たちの「ぅおー!」という雄叫びの集団が、

生徒会室に向かって行った。


山田先輩が

「私も行ってくる!」と言うと、3年の先輩が俺も、私も、と後に続いた。

江口先輩を除いて。

江口先輩は椅子でぐったりして「いってらっしゃい」と言っていた。


「俺も行こうっと」

黒沢が先輩に続いて出て行った。


「俺も戦うぜ」

岩尾先輩が追いかけて行った。


「俺も行きたい!いいっすか?」

藤井がユーフォ2年の野村先輩に聞いた。

「行ってこい!楽器は片付けておくから。後で経過報告よろしく!」

「あざっす!」

藤井をユーフォを野村先輩に託して一礼し、走って行った。


「私も行く。」

「私も。」

クラスの女子2人も楽器を置いて、教室を飛び出していった。


それぞれのパートの飛び出していった人の楽器を、音楽室に残ったメンバーが片付けていた。


俺は絵馬先輩と顔を見合わせた。

「どうなるんすかね…。」

「うーん、こんな事が起こるとはね。」


俺は、ホルンのつば抜きをして考えた。

会長の強引さな企画を副会長がどうして進めてるんだ?

しかも低姿勢で。

そこに違和感を持った。

もしかして、付き合ってる?

何か、そういうアニメあったよな。

ダメだ、夏コンの影響で、そういう思考回路になってしまった。


楽器を磨きながら考え続ける。

ぽっと出の中学生が、いきなり吹部の指揮とかできるんだろうか?

俺は、指揮台に立っただけで、吐いたんだが。

生徒会長は、いつも高い台の上で話す事に慣れてるから、

指揮台程度、そんなにプレッシャーには感じないんだろうか。



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