表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拓海のホルン(1年9月から)  作者: 鈴木貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/21

021.マインドを広げろ、音を飛ばせ!

放課後、1時間だけ体育館が使えることになり、俺たちは急いで楽器を運び出した。


コンクール練習で鍛えられたおかげで、この手の移動にはだいぶ慣れてきた。


バスケ部とバレーボール部が来るまでの限られた時間。


ロングトーンをする余裕もなく、慌ただしく音出しとチューニングを済ませると、内田先生が指揮台に上がり、鋭い合図で全員の音を止めた。


「曲順を変更する。

ハッピー・ジャムジャム、マツケン、アンパンマンの順だ。

この順番で楽譜を製本しておくように。

司会の山田と船田、原稿は入っているな?」


「はい!」と揃った返事。

二人が前方へ歩み出る。

先生の目配せで一礼したかと思うと、交互に声を張り上げた。


「みなさん、こんにちはー!鶴花中学校吹奏楽部です!」


元気な挨拶から始まった司会。


「今日はここ、鶴花都立公園に、元気いっぱいの音楽を届けにやってきました!


おいしい食べ物の香りに負けないくらい、おいしいメロディをたっぷり演奏します!


それでは最初の曲『ハッピー・ジャムジャム』です。


小さなお友達も、お父さんお母さんも、みんなで一緒に踊っちゃおう!」


驚いたのはその直後だった。



先生の指揮棒が振り上がる瞬間、二人はアニメボイスで叫んだ。


「ハッピー!ジャムジャム、UH~レッツダンス!」


まさかの展開に、出だしが遅れてしまった。

慌ててブレスなしで音を出す。


司会の二人は譜面も持たず、目の前で完璧に踊っている。

いつの間に練習したんだろう……まるで「歌のお姉さん」だ。


1stの席は落ち着かないが、絵馬先輩と白川先輩に挟まれているという不思議な安心感があった。

そのおかげで思い切り音を出せたが、案の定、いくつか音を外してしまった。


内田先生と目が合う。

つり上がった瞳が光り、ナイフのように突き刺さってくる。

胃のあたりがスッと冷える感覚。


曲が終わると、先生は無言で舞台袖へはける。

ヘロヘロになった唇を休めながら、絵馬先輩と席を交代した。


その間に司会の山田先輩と船田先輩が進行する。


「ありがとうございます!


さて、続いては『マツケンサンバⅡ』です。


この会場を一気に『お祭り』に変えちゃいます!


豪華な衣装は見えないかもしれないけれど、私たちの音と『マツケンスマイル』で、みなさんの心をキラキラに輝かせます!


準備はいいですか?!!」




今度は2人とも演奏の席に戻る。

今度は、深いブレスとともに曲が始まる。


後ろからトランペットの爆音、そして木管の「恵比寿、田町……」の呪文が響く。


必死に食らいつくが、暗譜できていない後ろめたさで先生の方を向けない。

ちらりと視線を上げると、またもや鋭い眼光。


「無茶だよ……これでも頑張ってるんだ、俺」

と心の中で毒づきながら、なんとか吹き切った。


最後の『アンパンマンのマーチ』。



船田先輩が

「会場のみなさん、ありがとうございます!


いよいよ最後の曲になりました。


『アンパンマンのマーチ』


その前に、私たちから、勇気と元気がわいてくるこの曲を贈ります。


各楽器の力強く優しいメロディにも注目して聴いてください!」


と凛々しく結び、クラリネットの席に戻る。

内田先生の合図で楽器を構える。


何度聴いても、吹いてみるとこの曲は恐ろしく難しい。

けれど、このメロディをしっかり届けたいという思いが、自然と指を動かしてくれた。


全曲終了。

全員起立の指示。


「ありがとうございました!」



退場の合図とともに、私たちは再び椅子に座らされた。

静まり返る体育館。

心当たりが多すぎて、恐怖で震えそうだ。


「おのれら……音が自分たちだけでまとまっているな」


予想外の言葉だった。

褒められたのか?


「隣の音を聞こうとはしている。

だが、遠くへ届けるという意思が欠けている。

音楽が教室サイズだ。

マインドをもっと広げろ!」


指揮棒が譜面台をカカカカ!と激しく叩く。


そこからは一気にスタンドプレーやベルアップの指示が飛んできた。


ホルンはアンパンマンのサビ前で「スタンド・ベルアップ」。


そうだな、このメロディこそ届けたいと思っていた場所だ。


練習終了間際、バスケ部が集まってきた。


慌てて片付けをしていると、「鈴木!」と声をかけられた。

帰り道の高坂だ。


「すごいな吹部。なんかめっちゃいいじゃん」


いつもとおバカな顔とは違う、真剣な表情。


「……ありがとう」


それだけ言って、重い打楽器や椅子を運び出した。


体育館を去り際、振り返ると高坂が鮮やかなシュートを決めていた。

あの顔は、確かにモテるわけだ。

悔しいけれど、いつもの高坂より少しだけ、かっこよく見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ