002.発表会準備/役員決め/ホルンが吹ければそれでいい
冬の新人戦?
運動部にある、アレと同じ感じか?
内田先生は
「3年生は、10月にある学芸発表会での演奏で、一度、仮引退となる。
その後は、各自進路確定後、部活動に参加して、3月16日に定期演奏会で正式引退となる。」
と今後のスケジュールを話した。
続けて
「3年生は、学芸発表会の曲決めのミーティングをこの後行う。
2年生は、10月までに次の部長、副部長、コンマスなどの担当を決定し、新人戦の曲決めをする。
学芸発表会と新人戦の曲と同時進行で練習を行う。
10月末まで今の3年生が主体、11月からは2年生となる。
3月の演奏会では抜け漏れない引き継ぎと魅力十分な演奏会になるように、2、3年の部長、副部長、コンマス中心に全体で『協力』すること。
1年生は来年の今頃は自分らがこの部活の中心になることを考えて、今から心構えを持って日々の練習だけでなく、部員として、運営にも関わっている認識を持ってほしい。」
と言った。
情報過多で、頭が追いつかなかった。
要は、やれって事は理解した。
学芸発表会とは?
定期演奏会とは?
てか、今の副部長って誰だ?
いたのか?
何してたんだ?
この疑問は誰に聞けばいいんだろ?
どこかに表示されてるんだっけ?
内田先生の話は続く。
「学芸発表会の1曲はコンクールの曲で、もう1曲は、夏コンのブレストで候補があった曲を用意した。
追加の曲を3年生で決めてもいいし、これはあってもなくてもいい。
パートリーダー取りに来い。」
そう言ってファイルから楽譜らしきものを取り出した。
パートリーダーが取りに行くと、わぁっという歓声が聞こえた。
そばに絵馬先輩が来て
「たくみん、1stやってみたら?」
と言って、楽譜を渡してきた。
タイトルを見ると
【青と夏】Mrs. GREEN APPLE
と書かれている。
おおおおおお!!
「めっちゃやりたい!この曲大好き!」
思わずそう言ったら、絵馬先輩は
「おお、やる気、いいねえ。」
と言ってニコニコしていた。
「あ!違う、Mrsの青と夏がいいって思って、でも1stっていうのは…。」
と言うと、絵馬先輩は被せ気味に
「好きな曲で1stやってごらん。
それに、この楽譜なら、たぶん練習したらできると思う。
どうしても難しいところだけ、音を2ndと入れ替えるよ。
学芸発表会で何曲もやるから、全部1st私だけだと、ちょっとしんどいな、
っていうのもあって…
何曲、どんなのをやるかってまだ決まってないからなんとも言えないけど…。」
と言った。
俺は
「どれくらいになるんすか?」
と聞くと、横から白川先輩が
「時間として40分もらってるよ。
実質30分は吹き続けるって考えておいたほうがいい。」
と言ってきた。
「そうなんですね。わかりました。じゃあ、やってみます。
あとついでに質問なんですけど、副部長って誰すか?」
絵馬先輩と白川先輩が、そろって青ざめひきつらせた顔で後ろにのけぞった。
俺が戸惑っていると、白川先輩が絵馬先輩に
「鈴木のこの顔は、マジのやつだな?」
「そうです。残念ながら。」
と言った。
何か聞く場所とか、聞き方とか配慮すべきだったんだろうか?
頭が色々ぐるぐるしてると、白川先輩が
「高橋のぞみ」
と言った。
…え?
俺は思わずのけぞった。
俺:「…知らなかった。」
絵馬先輩:「知らなかったとは知らなかった。」
白川先輩:「伝説増やしたな、鈴木。2学期早々ボケ飛ばしてくれる。」
絵馬先輩は
「4月頃、のぞみ先輩、山田先輩と一緒に、勧誘と部の運営とめっちゃ忙しくてね。
その中で1年生1人、ホルンで決まりかけてたから、運営に集中してたんだけど、
途中で、打楽器にしたいってことになって。」
と言った。
俺は
「え?なんでですか?誰すか?」
と聞くと、声を潜めて、絵馬先輩、白川先輩が
絵馬先輩:「1年生、今、打楽器の小笹さん。」
俺:「あの人すか。また何で?」
白川先輩:「気管支喘息でしんどくなったみたい。
でも音楽好きで、吹部にも入りたいっていうから、打楽器って提案してみたら、そこに決まった。
で、ホルン空席。そこに鈴木が入ったってことよ。」
絵馬先輩:「本人はもうホルン、やる気だったみたいだったの。
だけど、仮入部で練習の後、家帰って喘息発作起こしたんだって。
もう他の部活は考えられない、って泣いてたから、
どうにかしてあげたかったんだよね。
それで、呼吸器に負担掛けない打楽器になった。
続けてくれて良かったよ。
居づらいって辞められることのほうがダメージだったから。
たくみん入ってくれて、小笹さん的にも良かったんじゃないかな。
責任感じてた部分あったみたいだから。」
と言った。
ホルンって地味だから、人気ない、やりたい人がいなかったって聞いてたけど、実はやりたい人はいたんだな。
俺への配慮だったんだな。
そりゃわかる。
面白いもん。
OK、色々察知した。
内田先生の大きい声が飛ぶ。
「楽譜受け取ったら1年は教室行って基礎練と楽譜さらうこと!
3年は音楽準備室で曲決め、
2年はここ、音楽室で部長決め、
はい、動く!」
部員は、はい、と言って動きだした。
学芸発表会って何だろ?
聞きそびれた。
まあ、後から何となく、わかるだろうな。
楽器と楽譜、チューナー類を持って音楽室を出てパート練の部屋へ向かった。
久しぶりの練習で、最初は音がうまくならせなかったけど、
どういうわけか、途中から急に音が出るようになった。
口周りの休憩中に、指番号の記入をした。
それは、前に比べて減った。
多分、コンクールで慣れた部分がある。
16分音符が続いていたり、臨時記号があるところは間違えてしまいそうなので、その部分だけ記入した。
譜面をさらいたくなって、うずうずしてしまうが、
まずはロングトーンだ。
ほぼ基礎練習だけで、集合時間になったので、音楽室へ戻った。
音楽室入口には1年生がたまっている。
どうしたんだろう?
近づいて、目に留まった小松に
「何でみんな入らないの?」
と聞くと
「ちょっとどっちも入れる雰囲気じゃなくてさ…。」
と言った。
背伸びして中をのぞいてみると、音楽室の方は2年生が怒ったり、泣いている人がいたり、下を向いている人がいたりと何だか荒れているようだった。
それに比べて、音楽準備室は3年生が
「この曲!」
「どうやってまとめる?」
「1曲ぐらい指揮やってみるとかー!」
とワイワイ…というか、ゲラゲラぎゃあぎゃあという感じで盛り上がっている。
確かに、どっちも入りずらい。
何、部長決めるのとか、そんなに揉めるの?
怖いんだけど…。
壁一枚で天国と地獄。
内田先生がふとこちらに振り向いた。
閻魔大王に見える。
ガラッと戸を開けると
「何してる?入れ。」
と言ったので、1年生は入って行った。
内田先生は音楽準備室の方にも
「いったん切り上げて、音楽室集合。」
と言った。
1年生は楽器を持ったまま、空いている席に座った。
3年生はワイワイとした雰囲気を持ったまま、音楽室に入って来たが、
2年生の様子を見て、黙り込んで、椅子へ座った。
内田先生は
「まず、3年、演目決まったか?」
と言うと、山田先輩が立ち上がり
「一応、テーマは『始まるわくわく』で
曲リストは
ディベルティメント
青と夏
オーメンズ・オブ・ラブ
ルパン三世のテーマ
め組のひと
アンコールでWe Will Rock Youでどうかなってところまで決まってます。
詳しい演出とか曲順とか、もうちょっと詰める必要あるかもしれないです。以上です。」
と言った。
内田先生は、ほう…と言ってちょっと黙り込んだ。
「楽譜は全部あったはず。その中からか?」
と言うと、3年生は、はいと返事をしたり、ピースをしてたりと笑顔だった。
「わかった、来週中に一度合奏する。」
と言った。
5曲をいきなり来週に合奏?
ちょーっと俺には相当厳しいんだが。
内田先生は続けて、
「楽譜は次の部活時までに用意しておく。
あと、2年の役職決めだが…まだ引き続き話合いとなる。
次回の部活で話し合いをする。以上。」
山田先輩が終わりの挨拶をした。
俺は楽器をケースにしまって、帰ろうとした。
音楽室には、まだ先輩達が残っている。
3年生は、曲に関してワイワイと話している。
2年生は、役職決めで、何だか不穏。
それを横目に、気配を消して、音楽室を出ていく1年生。
1年生は1年生でグループが出来ているような感じだった。
男子は5人でまとまっている。
何となく帰り道で一緒になった。
藤井:「来年とか再来年とか、あんな感じの役職決めとか曲決めとかやるのかな?」
斎藤:「なんか来年は大変そうだな、揉めてるっぽいし。」
俺:「他のメンバーをあまり把握してないんだけど、部長候補っぽいのとか、もういるの?」
小松:「クロ」
黒沢:「いや無理。女子が誰かやるだろ。なんかやりたがるの多いし。」
確かに!とその場の全員がうなずいた。
俺はホルンさえ吹ければそれがいい。




