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拓海のホルン(1年9月から)  作者: 鈴木貴


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19/21

019.生徒会選挙結果

予想通りだった。

生徒会長はバトミントン部の先輩で、副生徒会長が情報技術部の先輩。

沢田先輩は生徒会役員となった。



それまでの仕事が大変だった。


高野先生に俺と藤井と黒沢が呼ばれて、力仕事の大半を任される。


昼休みや放課後に区役所に投票箱や記入する台を借りに行って運び込む。


「こんなん、学校で何かの箱で代用できるだろ。

机だって何か板か段ボールで仕切り作っておけばいいんだし。」


怒り気味に言ったら


「将来、大人になった時に選挙に必ず参加することになる。

その練習として生徒会選挙でも本物を使うんだ。」

と高野先生は真面目に答えてくれた。


怒られるかもしれないけど、さすがに働かせすぎだろ、と思って苦情を申し立てたつもりだったが、そうやって返されると何も言い返せず

「あ、そうっすか。了解でーす。」

程度しか答えられなかった。

いつも怒ってばかりの高野先生だったから、意外というのもあった。


「で、何で俺らなんですか?

結構ハードなところばっかり回してきますよね?

俺ら、文化部だからって勝手に暇だと思ってません?

今週末も学芸発表会と冬のコンクールに向けて、マジで過労気味なんすけど。」


藤井がぼやくと高野先生は

「生徒に適材適所っていうのがあってな。

本来ならタスク洗い出して、それぞれで話し合って担当決めるべきなんだろうけど…。

今回の事態はイレギュラーだろ。な、黒沢?」


黒沢に話を向けられる。

「俺が原因って言いたいんすか?」

と冷静に返す黒沢に高野先生はあわてて


「そうじゃない。

時間がないから生徒に負担掛けられないが、経験は必要でな。

図面見て判断して動いているのが黒沢、藤井、鈴木だった。

机や椅子の配置、距離感、実際に動いてみるとか。

動きが色々速かったんだよ。

それで、あてにした。

他の生徒には、投票引き換え券の印刷や各クラスへの配布、机設置後の小物とか、

見張りの番表とかを依頼している。

多分、吹部での楽器運搬とかで慣れてる、鍛えられてるんだろうなって思ったんだ。

黒沢、吹部はどっちかっていうと被害者だろう。

すまん。

それなのに選管委員で協力してくれてありがたいと思っている。」


「あ、そうっすか…。」


聞いて理解した。


先生はわかってたんだ。


高野先生は続けて

「まあ、生徒の立場なら教員ひとくくりで見てしまうだろうな。

教員という立場を考えると、勝手な、自分の考えでの行動言動が他の先生に影響が出てしまうからな。

あんまりはっきりしたことはできないんだ。

だが、1人の人間として考えると、『これは違うなあ』って思うことはある。」


と言うのを聞いて、俺は

「へー、大変っすね。」

と言うと、高野先生は


「軽く流すな。これでも結構お前らには色々…感じたことがあってなあ。」

と困り顔になった。


「あー、高野先生は生活指導担当だから、あえて厳しい態度を取らないと示しがつかないから疲れますよねー!」


と黒沢が言うと、高野先生は大きくうなずいて、視線が下に向いた。


「それなんだよ…。

俺、怒るために教員になったんじゃねえ。

中学時代って一番輝く時期だぞ。

吸収力が無限大の時期に、俺の扱いなんて『怒ってたな、あいつを怒らせないようにしよう』、とか、『めんどくせえ奴』として認知されるなんて悲しい。

明らかに教員が謝るところなのに、それをするな、って言われてるんだ。

それじゃ相手の心は閉じるだろ。

なのに、生徒同士のトラブルで謝罪をさせるように指導しろ、とか。

無茶だ。」


「謝るな、って何ですか?」


俺が聞くと、高野先生は


「暗黙の了解。正体は言えない。

万が一、お前らが教員になったら同じ職務になるから教える。」

と言って、ふっと笑った。


「気になるじゃん!教えてくださいよ!」

藤井が肩をぶつけると


「お前らが二十歳過ぎて、一緒に飲む機会でもあったら酔った勢いで全部喋ってやる。

俺は絡み酒だから、覚悟しておけよ。

それを楽しみに、今日も怒るか。」


と言って、顔を男梅のように引き締めた。


その変わり様、表情に、俺と黒沢と藤井は爆笑する。


「おい!お前ら、ふざけてないで、仕事!」


3人ではーい、と返事をした。



集計作業は、選管委員が全員集まったところから生配信される。


会議室に机をくっつけて並べて、その上で投票箱の鍵をあけ、ひっくり返し、中に何も残ってないことを確認する。


その中で、名前が正確に書かれていることを確認して箱に分けていく。


白票もあった。

中には「俺」「パンダ」「ミッキーマウス」など、立候補者以外のものが記入された紙を別にしておく。


枚数を数え、記入し、改めて先生が確認作業をして、決定した。


具体的な票数は公表されなかったが、その作業の様子を見れば、枚数の違いがわかるし、バトミントン部の先輩の圧勝は一目瞭然だった。

次いで情報技術部の先輩だった。


沢田先輩のは…20枚もあっただろうか。


俺がちょっとやったネガティブキャンペーン。


人の足を引っ張るなんてかっこ悪いのは分かっている。


真実だとしても名誉棄損になるということも、SNSの使い方の授業で知っている。


同時に、人の口に戸は立てられぬということも身を持って知った。


クラスの男子に

「沢田先輩ってどんなん?」

と興味本位に聞かれた。


見てくれがキレイだから興味を持ったのかもしれない。


「性格がキツいから、『俺は』仲良くなりたくない。

距離が近かったら、確実に疲れる。」


そう答えると、え?と目を丸くしていた。


その様子を見ていた、他の女子がひそひそと話を始めていた様子も見えた。

そこから先は自分の予想外だった。


女子の口コミ力のすごさ。


確認にくるのは知らない女子。

ただ、言ってないことまで含まれている。


「性格キツいって本当?」

「いじめられたの?」

「喧嘩してるの?」

「友達少ないの?」

「部長選落ちて、生徒会長?」

「殴られた?」

「告られた?断った?」

「元カノ?」


色々失敗したと思った。



生徒会長ではないにしても、沢田先輩は生徒会役員になった。

吹部での当たりも弱まるだろう。

生徒会活動でもしかしたら吹部への参加も短くなったりするだろうし、

忙しくなればエネルギー減って、八つ当たりも減るだろうし。


まあ部長決めの時に、色々思い知った後に、落選したけど、かろうじて生徒会役員だ。

色々謙虚になってもらえたら、絵馬先輩への当たりの強さを反省してもらえたら、それとも逆だろうか?

生徒会役員になったからって逆に圧が強くなる?




生徒会の認証式で校長先生から何かを受け取っていた。


生徒会長の挨拶と、校長先生のお言葉は全く覚えていない。


その後選管委員が呼ばれて、集合して高野先生の指示のもと、来年へ向けての引継資料を作成した後、高野先生は、

「少しいいか?この後部活とかもあるだろうけど、できたら20分ぐらい。」


と言った。

よくわからないけど、吹部のクセでつい、はい、と返事をすると、高野先生は段ボールを運び込んだ。


それを空けて1人1人に紙パックのお茶を「お疲れ、ありがとう」と言って配り始めた。


誰かが

「飲んでいいんすかー?」

と聞くと


「おう、この教室内で飲んで、捨ててくれ。

外で飲んだら、生徒指導になる。」


と言うと、みんなが一斉にストローを差し込んで飲み始めた。


高野先生は

「本当はもっと、ぱーっと打ち上げみたいのをしたいんだが、それぞれ、部活とか、塾とか、勉強とか、他にも色々忙しいだろうから、飲み終わったら、自由に解散で。」


というと、高野先生もお茶を飲み始めた。


何かおいしいお茶だ。


また誰かが


「選管委員って来年も高野先生が担当?終わったらこういう打ち上げある?

だったら、お菓子もつけてほしい。」

と言うと、高野先生は一瞬あきれ顔になって


「調子に乗りやがって。

お茶…俺のお小遣いなんだよな。

まあ、来年俺が担当で、やってくれたら、貴重な時間と労力を割いてくれたお礼に何かやるつもりではある。

お菓子ってなるとアレルギーとかあると色々配慮しなきゃだろ?

勝手に生徒の個人情報を必要以上に閲覧するのもな…って考えると…やっぱりお茶が限界なんだが…。

あ、他の生徒と先生には言うなよ。

委員会は生徒の自主活動の一環なのに、先生がお茶差し入れたってなったら色々不都合だから。」

と答えた。


案外いい先生じゃん。


お茶パックをつぶして、段ボールに捨てて、高野先生にお疲れ様でしたーと挨拶をして、藤井と黒沢と俺で音楽室へ向かった。


選管委員では、ネガティブな動機で動いていたけど、色んな発見があった。

ちょっとしたお祭りっぽくて今考えると面白かった。


そして部活中の沢田先輩は、良くも悪くも変わらない。


部長決めの時、反省したみたいな事言ってたけど、相変わらず口調はキツいし、

白川先輩と話した女子には当たるし、岩尾先輩は困ってるし。


ただ不思議なのはサックスパートの1年生の女子が被害に遭ってないということ。


沢田先輩のことだから、一番近くの女子を敵視しそうなもんだけど。


俺には見えてない壁とか、取引とか、情報交換とか、友情とかあるんだろうか?

機会あったら聞いてみよう。

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