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拓海のホルン(1年9月から)  作者: 鈴木貴


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18/21

018. 物産展祭りの3曲合奏

給食の時間以外、ウトウトと寝てしまいそうだった。


放課後は選管委員の仕事で動画編集の確認かポスター張りとか、

選挙時の順番や動線確認、明日は区役所から投票箱を借りに行くとか。


中学生活がこんなにハードとは…。


ダッシュで黒沢と藤井と音楽室へ行き、今度は小松と齋藤とダンスの確認。


合奏まで、あと40分がパート練。


息切れしながらパート練の教室へ向かう。


絵馬先輩が曲をさらっていた。


「遅くなってすみません!」

と言うと、


「うん、大丈夫。たくみん委員会だよね。おつかれ。

この後、物産展祭りの曲3曲合奏だって。」


「…マジすか…疲労困憊で…。」


「だよね…。」


「やります。」


「それしかない。」


「はい。」


絵馬先輩は色々察してくれて余計なことは言わない人なんだ。


俺は自分が逆側だったら、何か言ってしまいそうだ。


音階ロングトーンの後、あわてて譜面をさらっていく。


「たくみん、残り20分でパート練しない?」

と笑顔で声をかけてくれた。


「お願いします!」


と言って音を頭から合わせ始める。


2分音符の後のメロディ、その後はひたすら伴奏、サビ前にtuttiとなるようだ。


ぎりなんとかなる。


マツケンサンバ。

指揮はまったく見れない自信がある。

譜面にかじりつき。


アンパンマンのテーマ。


これが結構…いやかなり難しい。

音高め、主張強めのオブリガードがある。

そして、サビ前のメロディ。

これは吹きたい。


絵馬先輩も同じだったようで

「ここはいう事ない。ピッタリ。ここは何か吹きたいよね。」

と笑顔だった。


何か安心した。

同じ気持ちだったし、音が合ったから。


合奏の時間近くになり音楽室へ移動した。


船田先輩の指示でチューニングの後、全員で音階を8拍ロングトーンをしている途中で内田先生が音楽室に入って来た。


内田先生は指揮台の上の椅子に座り、黙って、部員の顔を見ているようだった。


ロングトーンが終わったタイミングで内田先生が話始める。


「ロングトーンが雑な奴が増えてる。

ただ、出せばいいってもんじゃない。

前にも何度か言ったと思うが、自分の調子、楽器の調子、みんなとあわせる時はみんなの調子も聞きながら、出来るだけ1人1人、楽器の音や体調や精神的な事などもわかるようになれるようになるといい。」


うーん、やってはみるけど、正直今自分でいっぱいいっぱいなんだよな。

ちょっと他の人を意識したら、音不安定になってチューナーの針はブレブレで、赤ランプ点滅しまくるし。


内田先生が続けて話始める。


「曲順は今のところ、ハッピー・ジャムジャム、マツケンサンバ、アンパンマンのマーチとする予定。

どの曲もそうだが、頭と最後の音は絶対にタイミングと響きを合わせる。

屋外で音が散らばるため、ばらばらに聞こえがちだ。

低音、特にチューバ、バリトンサックス、バスクラ、ファゴット、気持ち早めに音を出すこと。それで合うように聞こえる。

後でその調整もやる。


あと、出来る限り暗譜しておくように。

スタンドプレー、ステップ、ベルアップなどの動きを付ける。」


ちょっと何言ってるかわからない…。


スタンド?あと何だって?


内田先生は続けてタブレットの映像をスクリーンに再生した。


YouTubeに、とある高校の吹奏楽部のマツケンサンバの演奏があった。


演奏が上手いのはもちろん、立ち上がってステップしたり、

マツケンのように踊る人やダンサーズ達までいた。


今、くるっと回転してたよな?

演奏しながら?

このスペースで?

回るの?


怖いって。


てか、あと5日程度でこのレベルに仕上げるの?


演奏も?

動きも?


うげ…。


「じゃあ時間ないから、合奏、ハッピー・ジャムジャム」


絵馬先輩が立ち上がった。


「たくみん、1stだから、座席変わろう。」

「あ!はい。」


あわてて絵馬先輩と座席を入れ替わった。


となりに白川先輩がいた。


1stだけど安心の配置。


トロンボーンとチューバも1年生が1stやるようだ。

座席の入れ替えが終わった様子を見て、内田先生が指揮棒を上げる。


最初の4小節ぐらいまでは指揮を見ていたけど、それ以降は全く見れなかった。

楽譜から目を離せない。


最後まで通した後、内田先生の怒涛のダメ出しラッシュだった。


「今からとりあえず全部言っておく、次回合奏までにクリアした状態かつ暗譜してくるように。


まず前奏のメロディ、バラバラ。各自メトロノームで合わせるのと、アーチュキレーション、ガン無視しとるな?タンギングするところ、つなげるところ、アクセント、全部無視してるから、つまらない。クソ音楽。」


今、何とおっしゃいましたか?


「あと伴奏、2分音符、ただぼーっと音を出してるだけか?

音が上になっていくにしたがって、少しクレッシェンドするって夏コンで言っただろうか。

それに音の変わり目がわかるようにタンギング!そこスラーついてないだろ!?ということはタンギングだ!」


はい!

心の中ですみませんと謝罪している。


絵馬先輩にもあらかじめ言われていたところだ。

タンギングしていたつもりだけど、自分にとって出しやすい音域だとリップスラーでやってしまう悪いクセが出てきている。

疲れていて、無意識で手を抜こうとしていたのかもしれない。


「フルート、メロディがばらついている。音は1つになるように!

そのあとのトロンボーンも一緒!」


「途中でトランペットが入ってくる、そのままサビになるが、強弱記号を見て。

途中で入ってきて、その後強くなる。差をつけること。今全くなかったぞ。」


「サビの後ろで動くユーフォ、ホルン、ここはサビを引き立てるためにサビとは違う悠々とした感じで鳴らせ。」


「間奏の和音が終わってる。誰だ?音間違ってんのは?出してない者もおる。

サボってんのか?後日合奏で、あまりひどいようなら1人1人確認する。

ただ、その時間は無駄だから、できるだけしたくない。

チューナーみて、音覚えておく。」


「ホルンとトランペットで合わせるところがでてくるが、そこもばらばら。

だから汚く聞こえる。時間作ってセクション練しておけ。」


「最後らへんのクラリネット、細かい音符がすべってる。確実に1音1音出せ。

音抜いているのがおるな?これもあまりひどいようなら後日合奏で1人ずつ確認する。」


「最後の全員で同じ音だな。

こんなばらつきでどうする!?

最後ぐらい今覚えて指揮にあわせろ。

特に打楽器!指揮見なくても本当はおのれらが安定してたら指揮見ろとか言わない。

指揮と同じぐらい要だって自覚しろ!!」


部員は先生の注意を「はい!」と返事をしながら譜面に書き込んでいく。


個人練やパート練で強弱もどこでタンギングがあって、って確認して練習したのに。

合奏になったら、周りに圧倒されて、音を出すだけで精一杯になってしまっていた。

細かいニュアンスや強弱まで気がまわらなかった。


「じゃあ、もう1回通す!」

そう言って、内田先生は指揮棒を持った。


今言われたことをすぐはできないっすよ、俺は。


ただ内田先生の顔を見ると、目がつりあがって、額に血管が浮いている。


これは…やらなきゃ命の危険を感じるほどの緊張感。


あんだけ、おキレになられているのに、出来なかったら、指揮を見なかったら何が起こるのか、考えたくない程恐ろしい。


今度は指揮を見よう。


最初はもちろん 見る。


譜面を見て音を出して、ちらっと先生を見る、の繰り返し。


特に注意されたところで先生を見ると、左手をゆらゆらとさせて演奏のニュアンスを伝えてきていた。


これは見ておいてよかった…。

見てなかったら、ブチ切れられるところだったと思う。


曲は2分もかからないのだが、まるで10分やっただろうぐらいの緊迫感。


「まだできてないところあるから、個人、パート、セクションなど練習しておくように。

次、マツケンサンバ。」



絵馬先輩と席を変わって、譜面をめくる。


指揮を見る余裕はない。


譜面を見ないとわからない。


頭だけ見る。


叩けボーンゴのところのトランペットの音が頭に響く。


気持ちよさそうだ。


次のメロディがサックス。


ホルンは伸ばしとタンギング。


何とかついて行けた。

音ミスは…気づけた範囲で修正、指揮を一切見れてない。


終わったところで内田先生が話始める。


「最初の音!誰だ遅れてるのは?何度も出てくるんだ。

この音タイミング全員合わせろ!

遅れたらみっともないことぐらいわかるだろうが!」


「クラリネット!何吹いてるかわからない!そろえてこい!ごちゃつきすぎで話にならん!」


「サックス、適当すぎるわ。歌い方が全員自己主張しすぎ、まず譜面通りやれ。」


「トランペット、音こもってる!遠くに飛ばせ。」


「ホルン、和音違ってるぞ、チューナー見てやり直せ。」


「トロンボーン、スライドのスピード合わせろ。」


「チューバ、ユーフォ、音量だせ。まだまだ足りない。」


「打楽器、全員笑顔!」


…え?


「これは全員だな…。この曲をムスッとした曲でやるのか?

松平健がこれを無表情でやってたら怖いだろう。

他のダンサーズも全員笑ってるぞ、動画で見てみろ。

全員休符で楽器を置く時は笑顔で手拍子!わかったな!」


はい。


長めの休符のところに笑顔、譜面の出だしに笑顔、と何か所も書き込んだ。


「全員笑顔!」


え?


「笑えって言ってんだろーが!」


怖い怖い怖い。


「…全員、顔引きつってるか、泣きそうな顔になってる。

鏡の前で練習してこい。

辛かろうが、苦しかろうが、疲れていようが関係ない。

舞台で演奏する時に音が大事なのはもちろん、顔も、表情も大事だ。

全員譜面の左上の空いてるところにマツケンスマイルって書いとけ!

書くだけじゃなくて、出来るようにしとけ。

今、出来てるの1人もいないわ!」


はい、と返事しながらマツケンスマイルと書き込む。


なんだこれ?


内田先生は

「はい、もう一回、笑う!」


指揮棒を振りかざす。


笑ってみる


瞼と頬がぴくぴくしてくる。


内田先生は瞬時にスマホで撮影した。


やられた!


内田先生は撮った写真を手元で確認しながらため息をついた。


「後でこれ、吹部roomにアップしておく。みておけ。」


…嫌だわー!!



「もうマツケンはまたやるから、次の合奏までに仕上げるよう個人練、パート練、セクション練組んでおくように。コンマス!」


船田先輩がはい、と返事した。


あー、船田先輩の責任になっちゃうのか、できないと。

笑顔も。



「次!アンパンマンのマーチ!」



内田先生はすぐ指揮棒を構えた。


ファイルをめくってすぐに楽器を構える。


先生が指揮棒を振り始める。


前奏からバンバン音が出る。


『今を生きることでー』

のところからホルンがメロディ。


ホルンが2人しかいない。

ここでエネルギーを落とすことがないように。

精一杯鳴らす…が俺にはまだ高い音だったりして上の音がうわずる。

ちらっと内田先生を見ると…目線でぐさっと刺されたような感覚になった。


あわてて、譜面に目をやる。

もう内田先生見れない…。



このメロディは全部で3回ある。


2回目になると、なんとなくコツをつかんだ。

3回目は多分、大丈夫という気持ちになった。


演奏が終わったところで、内田先生は指揮棒を下す。


それに合わせて、楽器をおろす。



内田先生は

「…言いたいことは山のようにあるんだが…時間がな…。」


ふと、時計を見ると、完全下校時刻15分前だった。


「片付け後ミーティング、終わったら即刻門まで走れ!」


あわててつば抜き、楽器片付け、机を授業体形に戻して、座る。


ホルン磨いてない…、磨く時間が幸せなのに時間が取れない。


心残りでミーティング。


明日も部活があるので、特に連絡事項はなく、挨拶してそのまま解散し、上履きをスニーカーに履き替えて、門までダッシュした。



何か日常、走ることが多いな…。

忙しい。


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