017.生徒会長立候補者演説会
1時間目が生徒会選挙の演説会だった。
朝練が終わった後、準備のために俺、黒沢、藤井は職員室へ猛ダッシュした。
他の選管委員と学級委員もすでに集まっていた。
タスクは、生徒会長の候補者と応援の演説時間タイムキーパー、会場整理などがあるようだ。
軽く打ち合わせた後、そのまま体育館へ行き、ステージ上のセッティングとなる。
セッティングの図を見ながら、候補者が座る椅子、机、その前に名前が大きく書かれた紙を貼っていく。
演説会を体育館の来れない生徒や先生達、休んでしまった人達のために配信設定、録画して後日見逃し再放送もするということだ。
業務山積みだな。
次々と振ってくるタスクをこなしていくうちに、生徒が集まって来た。
そして、舞台袖には、今回の立候補者と応援演説の人達が集まっていた。
集まった生徒の手元には、立候補者の立候補者と応援演説者の名前が書かれた紙が配られている。
それには、名前が印刷されていて、それが投票の際、投票用紙と引き換えることになっている。
2年の選管委員長が舞台上で話始めた。
挨拶的なものはなく淡々と進行していった。
黒沢はクラスの方に戻って行った。
俺と藤井は2年の先輩と一緒にタイムキーパーをやった。
ストップウオッチを渡されて緊張したけど、念のため、藤井も同じことをやるということだった。
たまに押し忘れ、ミスなども発生し、時間が均等じゃなかったら不利になる人が出てくるのを予防するためだという。
結構しっかりしてんのね。
やってみてわかったことが沢山ある。
多分やらなかったら、ぼーっと聞いて、適当に投票してただろう。
そういう意味では、沢田先輩に感謝しよう。
嫌いだけど。
1人あたり5分以内、過ぎたら手元のチャイムをちりんと鳴らし、
それでも話す場合、ないとは思うが、マイクの音声切り、強制退場、となる。
強制退場要員に、生活指導の高野先生と、2年の先輩が、なぜか柔道着で舞台袖にいた。
どうしても疑問に思って聞いてみた。
「何で柔道着なんすか?」
一瞬高野先生が睨んできたが、2年の先輩が高野先生を手と表情で制してくれた。
「まあ、今はないとは思うんだけどね…、過去に演説で熱くなった生徒がいてね、時間が来ても中々止まらなかったから強制退場させようとしたら、制服が破れてしまったってことがある、っていうので、その役の生徒は制服以外を着るってことにしたんだよ。」
と教えてくれた。
「それならジャージでもいいんじゃないですか?」
と聞くと
「だよね、その次年度の生徒会選挙で、選管委員の強制退場要員がジャージを着ようとしたら、すごい臭かったから、あわてて部活用に用意してた柔道着にしたんだって。
確かに校則にも生徒会規則にも違反してない。
制服か体操着が部活指定のユニフォームで参加、ってあったから。
柔道着ってなんか効果抜群だったみたいで、特に決まりはないけど、柔道着…みたいな。」
苦笑いしながら答えてくれた。
俺は続けて
「警察官みたいなもんすか?あの制服の人に言えば何とかなるかも、とか、注意してくれる、とか、逆らったらえらいことになる、っていう?」
と聞くと、その先輩は、
「そんなところだと思う。それから柔道部の誰かがここにいる、ってなんとなく続いてたりするんだ。」
と、苦笑いしながら答えてくれた。
こんな風にかり出されるんだ。
俺と藤井は、ちょっと驚いて、へー!と声を出していた。
その先輩が今度は
「君らずいぶん人懐っこいね。部活とかやってる?何部?」
と聞かれ、藤井が
「俺ら吹部っす。」
と答えた。その先輩は
「そうなんだ、楽器できんのね、すごいな。」
と感心したように言った。
藤井は
「いや、中2でその黒帯のほうがえぐいっす。」
というと、先輩は
「いや、弱いほうの黒帯なんだよ。」
と答えたので
「いや、意味わかんない、黒帯は強いっす。俺、帯真っ白。」
と俺が答える。
「お前らそろそろ共有終わったか?」
高野先生の声で黙った。
演説が始まった。
最初はバトミントン部の人だった。
応援演説には3年のバトミントン部の元部長だという。
「誰もが安心して、のびのびと成長できる学校を作りたい。
そんな思いから、生徒会長に立候補しました。
私自身、小学校時代に突然友達に無視されるという辛い経験をしました。
理由も分からず、ただショックを受けるばかりでした。
その出来事をきっかけに、人間関係の不安から地元の中学校ではなく、今のこの中学校を選びました。
入学したとき、私は友達を作ることを諦めていました。
しかし、先生からの強い勧めで部活動に挑戦してみることになりました。
いくつもの紹介を見たり、見学を重ねた末、バドミントン部に入部しました。
そこでの練習や試合、反省会や打ち上げを通じて、友達、先輩、そして先生とのつながりを得ることができたのです。
この経験から私は強く思うようになりました。
自分が得られた「仲間とのつながり」を、もっと学校全体に広げられないか、と。
みんなが安心して成長できる学校。それを実現するために、力を尽くします。
どうか、私の思いに共感していただき、投票をお願いします。」
お辞儀をした。
横でぴっという音で、俺もあわててストップウオッチのボタンを押した。
聴き入って、自分の体験とも重なって、仕事を忘れてしまっていた。
1分40秒。
短くねえか?と思いながら記録用紙に書き込み、リセットボタンを押す。
俺はちょっとすばる先輩の事を思い出した。
応援演説は3年のバトミントン部元部長だという。
「バドミントン部の部員たちから『部長になってほしい』との声が上がったとき、彼女は一言、 『生徒会長になりたいから』と辞退しました。
驚きましたが、同時に
『確かに、彼女をバドミントン部の部長にしておくだけではもったいない。生徒会長にこそふさわしい』と思いました。
彼女のことは、1年生のときからずっと見てきました。
最初の印象は、小学校で『遊びでバドミントンをやっていたから』というふわっとした理由で入部し、静かで、どこか自信がなさそうな表情をしている子でした。
その背景には、小学校時代に経験した辛い出来事があったと後から知り、納得しました。
彼女は、練習に励み、試合では勝ち進み、ついにはブロック優勝まで果たしました。
その一方で、驕ることなく、2年生になった彼女は自分の練習時間を削りながらも、1年生の練習や基礎体力トレーニングに付き合っていました。
『それより試合に向けた練習や作戦会議に時間を使おう』と言ったことも何度かあります。
でもある時に彼女は、こう答えました。
『先輩たちがしてくれたことをやっているだけです。それで私は試合に勝てたんです。今度はそれを私がやる番です。試合に勝つためだけの練習だったら、部活が辛くて辞めていたかもしれません。私はこれが楽しかったんです。』
彼女は『初心を忘れない』姿勢を貫き、大事なことを常に心に置いて行動しています。
その姿勢を、生徒会長としても必ず発揮してくれると、私が保証します。
彼女は決して喧嘩腰で反論するのではなく、素直な心で自分の想いを語ることができる人です。
彼女のもとで、みんなが安心してのびのびと成長できる学校が実現することを、心から確信しています。 」
お辞儀をしたところでストップウオッチを止める。
2分3秒。
短くね?
藤井に聞いた。
高野先生がこそっと
「お前ら、候補者と応援演説、両方で5分以内だからな。
今合わせて何分?」
と聞いてきた。
藤井が
「3分40秒です。」
と答えた。
俺のメモでは3分43秒。
高野先生はぼそぼそと
「あー、記録用紙の方法考えないとな…。これだとミスりそうだな…。」
と言っていた。
高野先生、ごめん。
俺は演説に聞き入ってしまった。
だから誤差が出たり、認識間違えたりしてたんだ。
俺はこの人に投票する。
その後、デジタルと将棋に強い眼鏡をかけた先輩と将棋部の元部長が演説をした。
今度はストップウオッチの作業をミスらないように、今度は聴き入らないように注意…
が、つい聴き入ってしまった。
「今年の春、2年生の間で、学校に設定されたフィルタリングソフトをかいくぐり、いかがわしいサイトにアクセスする生徒が急増しました。
驚いたことに、アクセスした生徒たちにどのように設定を外したのか尋ねても、口を揃えて『なんとなく設定をいじっていたら解除できたことに気づいた。手順は覚えていない』と言いました。
タブレットは教育委員会が管理しているため、先生方や業者に問い合わせれば解決できるでしょう。
しかし、僕はその生徒たちの気持ちを理解したいと思いました。
好奇心を持つことは大切なことです。
だからこそ、ただ禁止するのではなく、その好奇心をより健全で、自由でクリエイティブで楽しい方向へ導く方法を提案したいのです。
たとえば、新しい技術を学び、アイデアを形にする場を提供すること。
そうすることで、興味を満たしながら、より建設的な活動へとシフトできると信じています。」
お辞儀をしたタイミングでストップウオッチを止める。
1分20秒。
応援演説には情報技術部の同じ2年生。
「自分自身、PCに詳しいこともあり、協力して、この設定を外した生徒を特定しました。
そのとき、自分の正義感から『この生徒の行動をさらすべきだ』と考えました。
しかし、彼は冷静に『さらすことが目的ではない。問題を解決し、みんなが安心して学校生活を送れるようにすることが大切なんだ』と言いました。
その言葉に僕はハッとしました。
ただ問題を指摘するだけでなく、その背景や理由をも理解しようとしていました。
特定された生徒がフィルタリングソフトを解除した理由も、好奇心から来たものであり、それを否定するのではなく、もっと健全でクリエイティブな方向へ導く方法を模索してくれました。
冷静な判断力と、他者への理解を大切にする姿勢は、生徒会長にふさわしい人間性を持っている証拠です。 学校全体を安心して学べる環境へ変えてくれると、自分は信じています。
応援お願いいたします。」
1分35秒。
煩悩雑念好奇心の俺は、その人にフィルタリングソフト解除をお願いしたいので教えて欲しいと思ってしまった。
迷うなあ。
さっきの人に投票するつもりだったけど。
そして、沢田先輩。
応援演説は…幼馴染らしい。
ネガティブな好奇心。
横にいた柔道着の先輩がこそっと
「吹部の子だろ?応援しに来るなんて、いい後輩だね。」
と言うと藤井が
「違う、嫌な奴っす。時間過ぎてないけど、背負い投げー!してもらえません?」
と答えた様子に、驚いた柔道着の先輩、横で高野先生も地味に驚いていた。
柔道着の先輩と高野先生はそのまま視線を俺に移動してきた。
俺はうなずくと、柔道着の先輩と高野先生は目を見合わせて下を向いた。
どういう感情なんだろう。
演説が始まった。
「私は、吹奏楽部での活動を通じて学んだことがあります。
それは、チームの中で自分の役割を果たしながら、全体の調和を大切にすることです。
時に意見がぶつかり合うことがあります。
私は、どうすればみんなが納得し、より良い演奏ができるかを考え、行動してきました。
その経験を通じて、責任感と、仲間を思いやる気持ちを育んできたと思います。
私は気が強い性格だと言われることもあります。
それは自分の信念を貫き、困難に立ち向かう力だと考えています。
その力を生徒会長として発揮し、学校をより良い場所にするために全力を尽くします。
そのために、意見を聞き合い、協力し合いながら、問題を解決していきたいと思います。」
1分3秒。
うそつけ。
かっこつけやがって。
調和乱してる張本人が。
はあ、と強い溜息に高野先生と柔道着の先輩がびくついていた。
藤井に
「鈴木、それ不機嫌ハラスメントだぞ。」
と指摘され、あわてて謝罪した。
「すみません!先輩と先生に関係ないんです。
ただ、あいつがほんと嫌いすぎて。」
先輩と先生が、「あ、ああ…」
と曖昧な返事でやり過ごしてくれた。
気を付けよう。
沢田先輩の幼馴染の応援演説。
「彼女とは昔からの縁で、その成長を間近で見てきました。
彼女は学校生活で困難にぶつかるたび、決して諦めることなく、どんな壁も乗り越えてきた人です。
例えば、彼女は体育委員として、運動会のスケジュールの遅延といった問題が山積みの状況下でも冷静に対策を講じ、みんなの協力を得ながら成功へと導きました。
その際、彼女の強いリーダーシップと決断力がとても印象的でした。
時に厳しい一面を見せることもありましたが、それはみんなの努力を無駄にしないため、真剣に取り組む姿勢から来るものです。
また彼女は、学業の面でも努力を惜しまず、クラスメイトをサポートする場面も多々見られます。
彼女が放課後に友人と共に問題を解決していた姿を見て、仲間を思いやる温かい心を感じました。
そんな彼女なら、生徒会長として学校全体をより良い方向へ導いてくれると確信しています。 彼女の情熱と行動力を、ぜひ応援してください。」
1分25秒。
へー、そうですかー。
と思ったら声に出ていた。
藤井に
「鈴木、眉間にしわ寄ってる。もう顔からハラスメント。」
と言われ、あわてて藤井に向けて笑顔を作る。
ふと見ると柔道着の先輩と高野先生の顔が引きつっている。
藤井に向けた笑顔をそのまま2人に向ける。
曖昧な笑顔で目が合った。
こんな空気を作ってごめんなさい。
これじゃ沢田先輩と同じじゃん。
気を付けよう。
仲間になっちゃう。
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