表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拓海のホルン(1年9月から)  作者: 鈴木貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/21

015.すてきな日々

次の日の放課後、音楽室へ入った。


何か人数が少なかった。


内田先生と岩尾先輩が音楽室に入って来た。


岩尾先輩の号令で挨拶をした。


その後内田先生が話を始めた。


「3年生は修学旅行のため、今週はいない。

そのため、3年生が仮引退中に出場する、昨日話したコンクールの曲を練習する。

まず、課題曲のほうを渡す。

この後1時間パート練をした後、合奏練習とする。

自由曲はまだ準備中で、出来次第渡す。

課題曲の合奏の出来、長さの見込みが立ったところで、カットする箇所、つなげ方を検討する。

とりあえず、まだパートリーダー決めをしてないと思うから、パートの誰か、

譜面を取りに来い。」


俺は絵馬先輩を探すと、目が合った。

絵馬先輩はうなずいた後立ち上がって譜面を取りに行き、俺のところに譜面を届けてくれた。

「ありがとうございます。」

というと

「これ…一応2nd渡しておくね。ちょっと大変かも…。」

と言って顔を引きつらせていた。


あ、はい…、と言って受け取った。

譜面には、びっしり音が書いてある。

見たことのない記号がある。

知らない音楽用語が書いてある。


昨日聞いた音源でホルンぽいところなんてなかったと思ったけど、勘違いだったようだ。


内田先生は、音源を再生した。


聴いて分かった。


演奏するとこ、めっちゃある。

長い休符で4小節しかない。

無いと思ってたところは、他の楽器と一緒だったから聞き取れていなかっただけ。

オブリガードある。

ホルンのsoliが高い音である。出せない音だ。

全体的に超元気な曲じゃん。


ほとんど(フォルテ)で、勢いとか強い感じばっかりだ。

たまに出て来たmp(メゾピアノ)でそれも10小節程度。

これに( )が付いてるのは一体なんだ?

音楽用語もほとんど読めない。


これを1時間後に合奏?


無理無理無理無理。


内田先生は

「今のはプロの音源だが、今度は実際、中学生が演奏した音源。

金賞受賞校だ。」

再度音源を再生した。


え?


金賞受賞校だけあって、演奏にミスなんてない。

プロより気持ちが動かされるものがある気がしていた。


ほんとに中学生が演奏してるの?

こんな音出せるの?


だとしたら、授業免除で練習だけしてたらこうなれると思うけど、

部活の時間だけで、この譜面出来るようになるのだろうか…。


もっと簡単な課題曲ってなかったのかな?

簡単だと、賞から遠ざかるのかな?

夏のコンクールの課題曲ほどのトリッキーさはないけど、とにかく体力勝負っぽい譜面と見た。


譜面を見なければ、ただ陽気な曲。

天気は気持ちのよい晴れ、みんな笑顔で健康で元気。

人が笑顔で踊ってそう。スキップしてそう。おいしいもの食べてご機嫌そう。

飛んでる鳩とか、からすとかすずめとかも仲良さそう。

きれいなお姉さんが目の前を歩いてみ取れそう。

ああでもないこうでもないって女子がおしゃべりが聞こえそう。

サザエさんみたいな人が張り切って何かはじめそう。

土手でカップルがのんびりしてそう。

杖つい歩いているおじいちゃんおばあちゃんも杖でリズム取りそう。

公園で小さい子供が無邪気に走り回ってそう。


そんなイメージ。


譜面はこんなに音があるんだって思ってしまったぐらい、とにかく黒い。

そんな明るさを出せるのか、ってぐらい暗く沈んだ気持ちになる。


ホルンとチューナー類、楽譜を持ってパート練の教室へ行った。


簡単な音出しと音階を吹いた後、すぐ譜面をさらい始める。


これ今日合奏で最後まで通すのかな?


オブリガードとsoliのところだけでもやっておこうと思った。

ホルンがメロディのところもあったはず…。


高い音がまだ安定して出ないんだよな。


グリッサンドまでありやがる…。


音を出すだけで精一杯。

スタッカートとかアクセントとかガン無視。


なんて楽譜だ。

記号が多すぎる。


「たくみん」


絵馬先輩が話しかけて来た。

はい、と返事をすると、


「私が1stなのは、ほぼ決まりだと思うんだ。

ただね、内田先生のことだから、たくみんに対して、もしかしたら合奏で音のバランス次第で2ndだけじゃなくて、3rdや4thを部分的に指示される可能性があるかも…。」


「えーー!俺3つ分譜読みすか?」


「予想だよ、予想。構成がホルン4人なの。

音の高さ順で考えると、1st、3rd、2nd、4thになるじゃない?

今の1st、2ndの間の3rdの音がないと、音が足りなく聞こえるかもしれない。

前にもあったの、そういう事が。

私、2nd担当しようとしたら、3rdやれって言われたり、あるいは、2ndやってても『この部分は3rdの音で』って変更になったりして。

それからそのパターンが続いてるの。

それで、あらかじめ心も演奏も準備して吹いたけど、怒られる怒られる。」


「そんな、無茶な…。」


「1stだったら絶対変更ないから、安定取るなら…」

「いや、2ndで頑張ります。そして無茶振り事前対策で3rd、4thも対応します!」


1stとかのほうが無理だって。


あわてた俺の様子に絵馬先輩は笑いながら

「まあ、たくみん、そのうち後輩入ってきたら自動的に1stやることになるんだから、

その心構えはしておくんだよ。」

と言った。


「うーん。ホルン上手い後輩が入ってくれたら、俺喜んで1st譲るんですけど。」


「残念ながら、あんまりそういう子いないねえ。

小学校でトランペットやってましたー、って子は結構いるけど、ホルンそのものが小学校にあまりないし、教えられる人も少ないし。

ただ、金管楽器やってて、中学入ってホルン担当しますー、ってことはあるかもしれないね。」


「そんなもんすか?」


「うん。来年、2人は入って欲しいな。」


「そうっすね…。」


「たくみん、頑張って勧誘するんだよ!」


「え?俺すか?」


「もちろん!私、来年受験だよ。多分途中から部活との両立が厳しくなってくる。

今年たくみんが教わった事を、来年入ってくる後輩に教える準備も今からしておくんだよ。」


「うそー!俺、今でも手一杯なのに。」


「もう、あっという間に来るからね。まあその前に合奏、もう時間だね。」


「うわー、無理だー!」


「うん、私も同じ。もう合奏で練習するぐらいの気持ちになったわ。」


「そうっすよね…もう怖い。」


重い気持ちで音楽室へ向かった。



合奏練習で、内田先生は指揮台の上に座った。


ハーモニーディレクターでメトロノームの音を大きくした。



内田先生は


「マーチだからだいたい、120ぐらいのテンポを想定しているが、途中テンポを落とすところがある。まあ、今日初めての合奏だから、特に変更は加えず70ぐらいで。

70ならできるよな。」


と圧をかけてきた。


何言ってんの?できるわけないじゃん。無茶言うな。


言い訳すんなって言われるの承知だけど、こちとらホルン持ってまだ4か月。


という心の声を読まれたのだろうか。

内田先生は


「この曲の作曲者は音大ではホルン専攻。バンドではトランペットを演奏していた。

金管、特にホルンとトランペット、やりがいある曲だと思う。」


とホルンとトランペットへ目を向けられた。


あー…。

楽器が出来る人が書いた譜面なのね。

中学から始めた初心者には、鬼のような音ばっかり。



「じゃあやるぞ。」

と声がかかって楽器を構える。


3,4!の合図で、音を出す。


テンポ70でもついて行くのがやっとだ。

これ、120まであげられるのか?


頭は、ほぼ全員同じメロディ。


俺の音が音になってない。


なんなら、多分合ってない。


それもわからない。


隣の絵馬先輩の音が聞こえて、それをヒントに吹いていく。


ホルンの音が聞き取れなかったのは、他の楽器と同じところをふいていたり、

リズム打ちだったり、伸ばしの音だったからなんだな。


4小節のメロディはサックスと同じだった。

音源は音程がぴったりだったから、わからなかったんだ。


ただただ夢中で譜面にかじりついて

音を出すが、遅れるし、間違うし、高い音が出ないか、出てもかすれる。


最後のオブリガードとホルンのsoliからのクライマックス。


何もできた手ごたえがない。


しんとなった音楽室。

内田先生は黙って無表情で座っている。


しばらく無言。

何か圧力を感じる。


内容は感じ取れない。

ただただ空気が重い。


おもむろに内田先生がタブレットを操作した。


スピーカーから聞こえて来たのは、今の合奏の音。


あまりのひどさに、しばらく呼吸を忘れていたようで、途中で息苦しくなった。


耳から脳みそ吐き出しそうなその音楽とも言えない音は

これから訪れる地獄の日々を予感させるには十分だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ