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拓海のホルン(1年9月から)  作者: 鈴木貴


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11/21

011.交代準備

朝練は、踊ってはデータを見る、の繰り返しで思ったより楽しかった。

ただ言われたから、やらされているのではなく、表示されたデータから、

先輩や先生、男子5人でわいわいと、ああしよう、こうしようとアイデア出しで変化していく感覚が、これまでに味わったことがない面白さだった。

強いて言うなら、夏コン前のブレストに近い感覚だろうか。


そういえば、冷蔵庫!

あれ、どうなったんだろう?

レンタルって言ってたな。返却したのかな?

これも部活行ったら確認してみよう。

夏コン練習のアイスはおいしかった。


新人戦も冬休みつぶしての練習だろうか?

だとしたら、冬でもアイス、冬こそアイスといっても過言ではない。

もう、冷蔵庫の置き場所は確保しておいてもいいのではないか?

ていうか、冷蔵庫は吹部員のためにあって当たり前にしてもらえないだろうか?

公立だと無理だろうか。

お金持ち私立なら、きっとあって当たり前だったりするのだろうか。


そんな事を考えながら、1年男子は体育着から制服へ着替えて、各々のクラスへ入って行った。


席に座るとすぐに、有岡先生が教室に入って来た。


朝学活の時間に

「生徒会選挙が9月に前倒しになった。

今週、立候補受付、来週演説会、次の日選挙となる。

詳細はタブレットで、学校イベントのページに目を通しておいて欲しい。

今度の選挙で生徒会役員になったら、来年8月いっぱいまでが任期となる。

1年生も役員として出られるから、立候補したいものは担任まで申し出るように。」

と話しがあった。


え?


おそらくだが、あの事件が影響していることは察知した。

学校、先生、生徒会、そう来たか。


違和感があるけど、これが大人のやり方なんだろうか?

巻き込まれたのが、吹部、黒沢、藤井だったから、当事者感覚になってるのかもしれない。

これが、他の生徒だったら、何とも思わずに、そんな事があったんだ、へー、で終わっていたと思う。


高いところに上がって、視線が集中するところで話すとか、無理だと思う。


俺は出ないが、どんな人が役員になるのかは興味が出た。


吹部が、影響受けることになるって知ったから。


クラスの誰かが

「黒沢ー、立候補しろよー。」

と言った。


それはいいと思う。

だったら俺は1票入れる。


と、思ったら黒沢は

「俺は学級委員がちょうどいい。

最初やりたくなかったけど、やってみたら面白いぞ。

代わりにやってみるか?

俺が出たら、誰か学級委員やることになるぞ。」

と言ったら、誰かが

「じゃあ、いいや。そのまま頑張れ黒沢。」

と言った。


有岡先生は、呆れた様子で眉間にしわを寄せて

「学級委員でも生徒会でも、やる気出せよー!

誰かに押し付けるんじゃなくてよ。

私が!俺が!我こそが!って手を挙げて前に出ろよ。」

と大きい声を出した。


静かになった。


「内申狙いでもいいから。

公立だと、どうしても大きく響くから。

生徒会は、この学校の顔として、色々働くことになる。

先生の指導を日常的に受けているような奴が立候補する場合は、教員として反対するが、厳しい指導を受け入れ、心を入れ替え、品行方正になって、見本となる生徒となれると見込んだ場合は、これに限らない。」


ん?

どういうこと?


「言葉選ばずに言うと、ふざけた奴が立候補するなら、覚悟できてんだろうな?ってことだ。」


あ、ないです。

自分、元不登校児ですから。

学校と吹部で精一杯。

過労気味だし。

不登校じゃなくて、単純に疲れて寝たいから休みたいって思う時がある。

勉強の遅れとか提出物とか気にしないで寝たい。


有岡先生は

「じゃあ、よろしくな、授業の移動!」

と言った。


次の時間で、教室を出ていくと同時ぐらいに、次の授業でこの教室を使う生徒が入って来た。


中学校って忙しいんだな。

ちょっとは寝られる時間があればいいのに。

休み時間も10分とかじゃ移動で終わるよな。


-----


授業が終わり、部活の時間になって黒沢と女子2人と音楽室へ向かった。


何か空気がいつもと違った。


3年生がまた、隣の音楽準備室で、ワイワイと騒いでいるのに対して、

2年生が音楽室で、ピリピリとした雰囲気になっている。


そっと入って、空いているところに座る。

どうやら、部長、副部長、コンマスが誰になるかでまだ話し合っている…というか、揉めている。


「私コンマスやりたい!」

「俺は部長やる!」

「私が!部長やる!」

「私、部長!」

「もう、投票で1位が部長、2位が副部長で良くない?」

「俺副部長だったらやらねえよ!」


対して音楽準備室では、何かで盛り上がって大きな笑い声が聞こえてくる。


どっちにも入る勇気がない。

次から次へと入ってくる1年生も同じようで、そーっと入ってきて、なんとなく1年生が固まって座る。

ひっそりと息をひそめて、先輩達の話を聞いている。


もう、くじ引きでいいじゃん。

2年生のレベルだったら、誰がなっても同じだよ、と思ってる。

もっと言うと、2年の先輩、ほとんど知らない、わからない。


こんなに決まらないもんなんだなあ。


内田先生が音楽室に入って来た。


何かを色々察知したようで、ピキっと額に青筋が浮かんだ状態で、まず音楽準備室へ行って

「時間過ぎてんだが。」

と言った。


3年の先輩達は、あわてた様子で音楽室へなだれ込んできた。


2年の先輩達も椅子に座る。


内田先生は

「2年は、まだ決まらない様子だな。

部長、副部長、コンマス、それぞれ決まらなかったら、投票とする。

じゃあ、この後、1、2年は残って。」

と言うと、山田先輩が

「先生すみません、今日と明日、1年男子5人は、30分ダンス部に行って振り付けの確認をしてもらうようにスケジュール組んでまして…。」

と言うと、内田先生は、そうだった、とつぶやいた後、


「じゃあ、1時間後、1、2年は音楽室集合。

可能だったら今日決める。

場合によっては明日にずれるかもしれないが。

それぞれ役職希望の部員は後でスピーチ、ディスカッションを予定しているから、考えをまとめておくように。

また、その他の部員も、誰がいいかなども考えておくこと。

1年は来年、自分たちも運営する側となる事を心得るように。

じゃあ、各自練習。」

そう言って、音楽室を出て行った。


音楽室で話し合っている人、練習へ行く人、それぞれだった。


1年男子5人は山田先輩と船田先輩と一緒にダンス部にダンスをチェックしてもらうため、

多目的室へ行った。


-----------


多目的室の戸をノックすると、松田先生と北村先輩が迎えてくれた。


ダンス部がストレッチや個人練習や、何人かでまとまってパート練のようなものをしているようだった。


松田先生は、黒沢を見て

「体調良くなったみたいだね。ごめんね、みんなも。」

と謝罪した。


あ、いえいえ…と吹部メンバーは恐縮した。


北村先輩は

「吹部が内田先生を責め立てるって雰囲気は出せないんだろうけど…。

うちらダンス部は、色々納得できなかったから、まっつんの事は責めたよ。

ありえねえだろ、って。」


と、言うと、松田先生は

「今回の件で、残業がえらいことになって、妻に心配されてね。

事の次第を伝えたら、妻激怒してしまって、北村とおんなじことを言われた。

聞いてるようで聞いてなかった。」

と頭を掻いて、顔を引きつらせていた。


北村先輩は

「吹部が内田先生に言えないんなら、うちらから内田先生に言いにいってもいいんだよ。」

と言ったところで松田先生は


「内田先生は顧問であるのと同時に指揮者でもあるんだよ。

顧問というより、指揮者としてのスタンスで吹部にいるのだから、

各々のスキルで一体感を目指していくダンス部とは違う。

もちろん吹部にもスキルは必要だけど、指揮者ってのは、また…独特のポジションだし。

それに、吹部の保護者に強烈な…って言ったら、誤解を生んでしまいそうだけど、

弁論立つ方々に囲まれてて…、僕が君達にくらったものに比べたら…相当大変だったと思う。」

と言った。


「誰の保護者が、どんな事を言ってたんですか?」

と船田先輩が松田先生に聞くと

「そんな事言えないよー!」

と叫んで、後ろに下がった。


後ろの方で男子生徒の声で

「親のLINE見りゃいいよ。だいだいわかるから。見せてくれるだろ?」


と言うのが聞こえた。


はっと気づいて、よし、と言っている山田先輩や船田先輩の様子を見て、松田先生は

「…あんまおすすめではないが…。見る前に気持ちの準備があるかね?」

と言った。


吹部員がえ?と松田先生を見ると、続けて

「それぐらい保護者の方から内田先生は、辛辣な言葉を受けていたんだよ。

それを今日、内田先生は部員達に見せていないんじゃないかな?

通常どおりに振る舞っていたんじゃないかと思う。

うちのダンス部員は、思った事を直接僕にぶつけて来た。

それを僕は、結果としてスルーしてしまったのだが…。

茅野先生にも、相当詰められました。

吹部とは部員カラーや文化が違うから、保護者が出てくるしかなかったんだろうな。

逆に言うと、保護者の理解があるから、吹部の活動が、他の部活に比べて保護者の協力が得られやすかったりするんだよ。

そういう事を理解してから、保護者に聞いてみるほうがいいかもしれないと僕は思う。」

とやんわりと言った。


松田先生がこうやって、先生の実際のやりとりを教えてくれて良かった。

内田先生も結構大変だったということがわかっているのと、知らないのとでは、気持ちが違う。


先生という職業がブラックだ、っていうのはよく目にする情報だったけど、保護者集団で詰められることに耐えられるか?話をまとめられるか?って考えると、精神的にすぐ限界になるような気がする。


教員離職、不足の理由って、こういうことか。


さらに部活顧問やると大変とか、部活地域移行進めるとかの理由が少しわかった。


生徒側の都合としたら、学校で色々わかってくれてる先生が連携して授業も生活も部活も見てくれるほうが助かるんだけど…。

いずれ、しかも近いうちに変わるんだろうな。


北村先輩は、

「あ、最初の30分だけ、吹部のこの子たちにダンス教えることになってんのよ。

よかったらまっつん見て。

忙しかったら別に仕事してていいけど。」

と言うと、松田先生は

「じゃあ、ここで、事務作業する。なんかあったら声かけて。」

と言って、教卓にPCを開いて、作業を始めた。


北沢先輩は、

「こっちもレッスン始めよう。と、その前に、のぞむー!」


と言って手招きしたその先に、2年の男性の先輩がいた。


その、のぞむ、と呼ばれた先輩は、はい、と返事をしてこちらへ来た。


北沢先輩は

「次の部長の須永望(すなが のぞむ)、今日と明日、私とこの須永で教えるから。」

と言った。


北沢先輩がそう言うと、隣の須永先輩は

「須永です、よろしくお願いします。」

と挨拶した。


あわてて、よろしくお願いします、と挨拶した。


山田先輩が

「もう部長決まったんだ?」

と聞くと、北村先輩は

「うん、学芸発表会まで引継期間、学芸発表会終了と同時にようやく!引退。」

と、晴れ晴れした様子で言った。


須永先輩は真剣に

「あ、別に引退しなくてもいいですよ。」

と言うと

「頼むから、もうそろそろ受験勉強させてくれ、ほんと。てか、時間短くなるから始めようか。」

と言って苦笑いしていた。


1年男子5人は、はい、と返事をした。


須永先輩は、そういえば、あの時生徒会室で怒鳴ってた人だ。


その時の表情と声を覚えていた。


でも今は別人みたいに、にこやかで、耳の真ん中ぐらいまでくせ毛で、ふわっとした印象の好青年だ。


まずは一度、音楽に合わせて踊る。


北沢先輩と須永先輩は驚いた様子で

「何?急に出来るようになってんじゃん!」

「どうした?」

と言った。


山田先輩が

「そりゃあ、お金かけてプロダンサーのレッスン受けて、すぐダンス部にレッスンつけてもらうってなったら、やらんとな、っていう意気込みよ。」

と胸を張って言っていた。


俺は、違う。

ただ、逃げ道をふさがれたから、怒りを抱えて、やってた。


面白さに気づけたのは、今朝の情報技術部の方が力添えしてくれたからだ。


「もう出来てるんじゃないですか?」

と須永先輩が言った。


「ちょっと細かいところ修正してみようか?並び順とか。」


と言って、北沢先輩は小松を指差し、

「君、一番大きくて、リズム感出てる。真ん中がいいと思う。」

と言った。


さすが、打楽器。

てか、運動神経も良かったからな。

その右に黒沢、左に俺。


並び順は、向かって左から藤井、俺、小松、黒沢、齋藤となった。


北沢先輩に、ちょっとこれでやってみて、と言われ、はい、と返事をして、もう1回踊ってみる。


先輩達は、おお、印象変わる、と言っていた。

確かに、小松が真ん中でリズムを取ってくれているような気がする。



須永先輩は、

「めっ!っていう時、ちょっと表情つけるといいかも。

例えば、指をあててる側の口の端をくっと上げてみる。

2回目のめっ!は、両方上げて笑ったように。

笑え、って言われると、難しくなったり、恥ずかしくなると思うから、

口の端をあげる、って思えば、自然に笑ったりしてるように見えるから。

顔の動きも振りの一部だと思って。

でも、自然に何か感情が動いてそれが表情に出るといいなあって思う。

歌詞の内容が、素敵な女性に目が行ってしまう、って内容だから、

ちょっと笑顔が変になるのが1回目、

2回目はウキウキする気分の笑顔、っていう感じなんだ。」


さすが時期部長。

説明がすんなり入ってくる。

確かに、笑えって言われて笑う事が出来れば、苦労はしない。

ドヤ顔しろって言われて、無茶言うな、ってイラついたけど、こうやって出来そうなところまで落とし込んで教えてくれるってありがたい。


「あと体の角度、左斜め45度に向けて顔正面のパターンと、逆に右斜め45度に体を向けて顔正面にしてみる。そうすると、全体に向けてエネルギーを放っているように映ると思う。」


実際に『こんな感じ』と言って、歌いながら動いて見せてくれた。


もう、芸能人じゃないか。

思わず見とれる。


1分程、個人練習した後すぐ、じゃあやってみよう、と言われた。

自分らの前に須永先輩が立ってくれた。


「僕をそのまま見た通り踊ってみて。

反転させて踊るから。」


と言って動いた。


そっか、そのまま見ると左右逆になるのか。

向かい合って、やるって、お手本やるってすごいな。


見ながらやってみると、何だか楽しく感じるが不思議で。


それは須永先輩が、ダンスを心から楽しんでいるのが伝わって来たからだと思った。


見てるだけで、ワクワクするような感覚になった。


これは惚れるわ。


その後細かく、腕の角度、向き、指の開き方、などを指摘を受けて直し、

また踊るの繰り返し。

合奏の時のような練習をして、あっと言う間に時間になった。


吹部の部員が、北沢先輩と須永先輩、松田先生とダンス部員に、ありがとうございました、と挨拶すると


また来てねー、とか、頑張ってねー、とか、楽しんで!とか言ってくれた。

とにかくポジティブな言葉で応援されていたことに気付いた。


多目的室を出て音楽室へ向かう。


これは、ちょっとおもしろかった。

他のメンバーも同じだったみたいで、特に小松は

「俺、ずっと内田先生に『リズム!』って注意されてたから、自信失くしてたんだよね。

そうじゃなかったのかもしれない。そう考えるには早いかもだけど。」

と、笑顔になっていた。


齋藤は

「俺は無理って思ってたけど、須永先輩が一生懸命教えてくれたから、やれるだけやってみる。」

と、表情が真剣になっていた。


他のメンバーもうんうん、と明るくうなずいていた。


その温度が一気に下がるほど、入った音楽室の空気は重かった。


山田先輩と船田先輩はこそっと

「頑張れー」と言って、逃げるように音楽準備室から楽器を持ち出し、パート練習の部屋へ向かって行った。


そうだ、役職決めの話合いがあるんだ。


ダンス部の部長と次期部長を見て来たけど、

吹部の2年生に山田先輩や船田先輩のような人はいるんだろうか?

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