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拓海のホルン(1年9月から)  作者: 鈴木貴


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10/21

010.朝からダンスとAIと

朝練は、吹部員は全員、学校回り2周走り込みの後、ロングトーン練習だという。


夏コンで金賞止まり、全国へ行けなかった原因の1つに基礎体力不足が上がった。


何なら俺もそっちへ行きたい。


が、1年男子はダンス練習となった。


山田先輩、船田先輩、江口先輩、白川先輩が1年5人を連れて入って行ったのは

『情報技術室』

だった。


そこには先生が2人と3年生の男性の先輩が1人いた。


山田先輩が

「おはようございます、よろしくお願いいたします!」

というのに続けて挨拶した。


続けて山田先輩は

「朝のお時間、いただきましてありがとうございます。」

と言って頭を下げたので、続けて同じように頭を下げた。


どういう事?

ダンスの練習って、聞いていたんだけど、ここで踊ったら機材とか壊れるよね?


40代ぐらいの白衣で眼鏡をかけて後ろで1つにまとめてある、女性の先生。

理科の光川先生だ。

授業でも集会でも、どんなに周りが騒いでいても淡々と話すため、自然に周りが静かになる。


後から、誰かが、

「なんか大事な事を言ってた気がする!」

と言って、聞きに行ったと言うのを聞いた。

その時のやりとりで、光川先生が

「私、人集めて雑談する程暇じゃない。

先生って教える事が仕事。

必要な事しか言ってない。

こうやって聞きにきたから、今回あなた達には特別に教えるけど、今後はこういうのないから。

話を聞いた上で、さらに疑問に思った内容の質問は受け付ける。

『さっき話した内容をもう一度』って聞かれても答えるほど、暇でも優しくもないから。

聞きに来たから、まあ、せめてあなた達にだけ特別に教える。

集会でも授業でも、話を聞いてメモ取っておくと、定期試験、日常生活でも役に立つと思う。」

と言っていたのを、陰で聞いていた生徒が

「あいつやべえ」

と言って、吹聴したことから、影でのあだ名が

「氷の光川」

となった。


もう1人は技術家庭科の『技術科』の先生、安井先生。

50代の男性で、どこにでもいる、普通のおじさんの感じ。

いつも無表情で太めの声で話すから、なんとなく怖がられている。

プログラミングの授業で、面白さを実感させてくれた先生で、実は多くの男子生徒が慕っている。


山田先輩は

「今年の吹奏楽部の演出の一つで、1年男子5人がダンスするというのがあります。

今回練習にご協力いただけるとのことで、こちらに伺いました。」

と言った。


どういう事だ?


状況がつかめず、1年男子がおろおろしていると

山田先輩に自己紹介するように言われた。


ダンス部に行った時とほぼ同じように、

全員楽器と名前を言った。


2人の先生の隣にいた3年生男子の先輩がタブレットを操作した。

色白で黒髪で丸い眼鏡をかけている。


前にあるスクリーンに昨日散々見て練習した茅野先生のダンス動画が流れ出した。


白川先輩が、その男子の先輩のところへ近づいて

「お、朝から準備してくれたんだー!ありがとう!」

と言って隣に座った。


その男子の先輩は白川先輩と仲良いようだ。

その男性の先輩を挟むように、白川先輩の反対側に江口先輩が座った。


「うん、実験段階ではうまく行ったよ。」

と穏やかに笑っていた。


山田先輩は

「後ろの空いているスペースに立って、そこで踊ってね。」

と言った。

教室の後ろのほうに並んで、スクリーンを見る。


ストレッチとか準備運動とかしないんだ?

まあ、学校まで歩いてきてるし、よしとするか。


奥から小松、黒沢、藤井、俺、齋藤の順に並んだ。


いきなりか。


目の前のスクリーンに映された動画が再生され、音楽が流れる。


それに合わせて必死に踊ってみる。

見たら、体はついて行くまでには練習してきた。

1分程度がこんなに長く感じるとは。


終わった後、山田先輩が

「一旦座って、水分補給しながら。」

と言ってくれたので、水筒の水を飲みながら、スクリーンを見ていた。


さっきの男の先輩を挟むように白川先輩と江口先輩がいて、

その後ろを覗くように、情報技術部顧問の先生が2人上から画面をのぞいていた。


男の先輩は何かを操作している様子が画面にそのまま表示されていた。


画面が上下に分かれ、上が茅野先生、下が1年男子の、さっきのダンスだ。

いつの間に撮影されていたんだ?


再生されると画面の右に、瞬時にピコピコと棒が表示されたり、消えたり、伸びたり、縮んだりしている。


こうやって5人動いているのを見ると、みんな家で練習してきたんだ。

俺も含め、えらいと思う。


1コーラス分終わったところで、男の先輩は

「今のはAIのダンス判定。

お手本に対して、君達がどのくらい近づけているか?っていうのを、関節の動きや角度、タイミングなどで一致度を表したり、違っている部分を抽出する、っていうっていうことをやったんだ。

ただ、完璧でも正解でもない。

情報量が足りないからね。

もらった情報の中で判断しているに過ぎないから。それでね…」


男の先輩は

「全体的なシンクロ率は65パーセント。

合ってないところを今からリストアップしてみていくと…。」

ずらっと画面にリストが表示され、

上からどんどん開いていく

「グーの向きが違うって。

それからステップのタイミングが若干ずれてるみたいだ。

リズムの取り方がかかとなのか、ひざなのか、腰なのか、でずれてる。

お手本はかかとも膝も腰も両方取っているね。

きっとこれは慣れている人…プロだから自然に体のあらゆるところでリズムを表現できるんだと思う。

あと、一番この曲で大事なところと思われる『めっ!』の部分だね。

顔の向き、指の幅、顔との距離、角度、視線、これがバラバラ。

僕個人の意見だけど、逆に、『めっ!』だけそろえると、かっこよくなるんじゃないかなと思う。」


自分の恥ずかしさと向き合う間もなく、

お手本と自分らの踊りをデータを出しながら、淡々と説明された。

すごすぎる。


安井先生が

「もう1パターンあったと思うが。」

と言ったので、男の先輩はうなずいて


「次に、動画とは関係なく5人のみのシンクロ率なんだけど…これが70パーセント。

映像を見ながら、というより、音に合わせて動いていたんじゃないかな?

だから、見本の動画と比べる時よりシンクロ率が上がる。

覚えたら、今度は自分らの踊りだけでやってやってみるといいかな、って思うんだ。

結構仕上がるの早いと思う。」


と話した。


1年男子ははい、と返事をした。


山田先輩は

「あ、紹介するの忘れてた。

こちらは、浜口 流、情報技術部の部長なの。

今回、演出の部分でスクリーンに映像流してもらう演出をしようと思っていてね。

事前相談はしていたの。

この前、ダンス部と吹部で生徒会と言い合いになった場にもこっそりいて、

状況はわかってたんだって。

で、今のこのメンバーで相談して、以前浜口君が作ったアプリなら、協力できるかも、っていうので、先日見せてもらったの。」

と説明してくれた。


AIのプログラミングでこんなことできるの?

てか、授業でやってないけど、情報技術部だから?


浜口先輩は

「うん、僕、運動できなくて。

ただ、ダンスだったら、授業前に動画がアップされて覚えてこいって課題だされるじゃん?

人に教わっても、何度聞いても理解できないし、動きが変だ、って笑われて辛かったから、プログラムで解決できるところはしたいと思って作ったやつなんだ。

光川先生と安井先生に見てもらって修正かけたからより実践的になってる。

ただ、これ使えるのが、この教室限定なんだ。

それで急いで、今朝にしてもらったんだ。」


と言った。

それに続けて光川先生が

「私もできれば、部活中に協力できたらと思ったんだけど…

子供が2歳だから、できれば15時ぐらいには、学校出発して保育園に迎えに行きたいっていうのがあってね。

子供って、よく熱だして、感染症だと私も子供からもらってしまって、学校休む時があるから、部長、部員、安川先生とslackで情報共有、タスク処理してるんだ。」


slack…

うちで、家族間でのみ使っているやつ…。

部活で使ってるんだ。


「俺、家族間でslack使ってます。」


一斉に視線を感じた。


「これ、俺の普段のスマホのアカウントで、浜口先輩のそのアプリ使わせていただけませんか?」


浜口先輩は

「お?いいんじゃないですか?先生?」

と聞くと、2人の先生は頭を抱えた。


安井先生は

「申し訳ない、情報技術部のslack運用は結構厳しいルールで管理しているんだ。

個人スマホのアカウントだけじゃなくて、情報技術部の以外のメンバー招待すると、色々ひっかかる…。」

と腕を組んで考えた。


俺は

「あ、それだったらいいです、ちょっと自己練でやってみようと思っただけだったので。

ありがとうございます。」

と言ってひっこもうとしたら、江口先輩が

「タブレット、音楽室で開けばいい。」

と言った。


浜口先輩は

「あ。江口さん、これ、使い方わかるかな?」

と言うと、江口先輩はうなずきながら

「さっき、操作みてたから、もうわかる。」

と返事をした。

浜口先輩はニコニコしながら

「じゃあ、託すね。

でもまだ未完成だし、管理もしたいから、他に出さないでね。」

と言うと、江口先輩はうなずきながら

「わかった。ありがとう。」

と言った。


何か距離感近い気がしたのだか…。


俺のそんな気持ちを察知したのか、白川先輩が

「江口は一時期吹部が辛かった、って夏コン前のミーティングで聞いた事あるだろ?

その時、江口を一時的に情報技術部に兼部させたらどうか?

って3人の先生に提案したのが、浜口。今年俺と同じクラス。」


と説明してくれた。


それか…。


浜口先輩が

「江口さんは、プログラミングできるから、『吹部嫌になったらいつでもおいで』

って言ってある。

今のところ、両方楽しんでるみたいで良かったよ。

たまに、走り込んでくる時は、何か面白いこと持って来たりするから、

それはそれで、話をきいてしまうんだけど。」

と、相変わらずニコニコと話した。


江口先輩は、ぼそぼそと

「師匠なんだ、プログラミングとか、アプリ連動とか、RPAの。」

と言った。


だからあんなに使いこなしていたのか?

そういえば、この間のきっと軽いハッキングも、もしかして…


突っ込むのはやめよう。

そういえば、生徒会長に耳元で何か言ってたな。

何言ったんだろう?

それだけは聞きたい。

部活中に聞きに行こう。


船田先輩は

「踊りは全部入ってるみたいだね。

ちょっと映像を消して、音楽だけで踊ってみてくれる?」

と言った。


はい、と返事をして、位置に着く。

音楽が流れ始め、踊る。


1分程度踊って、再度スクリーンに映像を映し出した。


浜口先輩が説明を始める。


「シンクロ率78パーセント。

音に合わせる、っていうほうが合ってるみたいだね。

多分、人間関係というか、相性もいいんだと思う。

いきなりでこの数字っていい方だと思うから。

やっぱり決めポーズの時の体と顔の角度、指の開き具合、ステップの幅と上半身の角度が違うみたいだ。

これは多分だけど、体のクセみたいなものかもしれないね。

ここまで出来たとしたら、今度はもう一回ダンス専門の人に見てもらって修正してから、

再度検証したほうがいいんじゃないかな?」


と言った。


確かに…、てか、機械でこんなことまで出来るんだ。

驚いた。


浜口先輩は

「よくカラオケAIとかで点数出たりすると思うんだけど、あれって、ミスが加点になったりして、よくわからないんだよね。

例えば、長ーく伸ばす音で息が持たなくて、音が揺れたら、それをビブラートって判断して加点してしまう。

人間が聞いてたら、息が持たなくて、外したなったって判断できるんだけど。

このダンスのアプリも同じで、ここまでの判定はできるけど、具体的なアドバイスは人間にしてもらったほうがいいと思う。」


画面を見ながら操作していた手を止めて、1年男子のほうを見て

「応援してるから、頑張ってね。

毎年吹部の演奏が一番楽しみなんだ。

また何かあったら相談してくれたら、プログラミングでできることなら協力するし、江口さんに色々託すから。」

と言ってくれた。


顧問の2人の先生も、授業では全く見ない笑顔でうなずいていた。


1年男子5人は揃って、ありがとうございます、と言って頭を下げた。


昨日怒っていた自分が恥ずかしい。


こんなに気持ちよく協力してくれる外部の方がいたとは。


最初にもっと説明してくれよ…、先生も先輩も。


怒りじゃなくて、ちゃんと期待を理解して練習できたのに。

無駄にイライラしなくてすんだのに。

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