4話目 『探偵』 part2
私、綿貫たよは、現在外装は喫茶店みたいで、内装は古い木造のたくさんの思い出が詰まってそうな何でも屋「ナンヤ」で未知の体験をさせられている。
いっつもハンチングをかぶってるからあだ名がハンチな少年と
とても可愛らしいうえに頭脳明晰な少女ハナちゃんと
元気で活発で、それでいて真面目そうなリーダーのユウタくんと
4人で大きなテーブルを囲み今丁度入ってきた仕事について話し合ってるところだ。
いや、いやいや。私は全く会話に参加できていない。だって、訳が分からないんだもの。どうして、ここにいるのか、どうしてイスに座っちゃったのか、どうして私もメンバーに加わっているのか。どれもこれも1つも理解できやしない。
ただ3人の会話を聞きながら、こちらをにらみ付けてくるパンダに警戒しつつ、引きつった笑顔を見せているだけ。
「依頼主の少年ユウタ11歳、両親は共に"なめくじ電気"の社員」
「少年からは今日で3回目の電話」
「今日で3日、少年の母親は家に帰ってない事になる」
リーダーがたんたんとしゃべり始めた。
つまり、こういうことらしい。
私がちょうど間違えて「ナンヤ」に電話した丁度その日、ある少年から1件の電話が入った。それはお母さんが帰ってこないというもの。最初は、ただの寂しがり屋の少年だろうと社長は話し相手になってあげてその日は済んだみたい。
だけれど、次の日も同じ少年から電話が入ってきてまだお母さんは帰ってこないとの事。社長は少年に「お父さんと喧嘩でもしたんじゃないの?」とか「旅行にいったんじゃないの?」とか聞いてみたらしいんだけど、少年は「お父さんとお母さんは仲がいいし、旅行にも行ってない」そう、答えたんだって。うん。
だから、なんなのよ。
ばかー!私何考えちゃってるの。私、こんなところで働くつもりはない!こんな探偵みたいな事、してる場合じゃないの。もう家に帰ってバカバカと自分に言い聞かせながらベッドの上で転がりたい。
そんなことを考えてる間もリーダーは話を続ける
「今日で3日目、さすがに少年が可愛そうだ。何かあるはずだ。」
「親父さんは今まだ"なめくじ電気"にいるかな…よし、俺が行ってくる」
ああ、どんどん話が進んでいく。私はただただ黙り込み、にらみつけてくるパンダに怯えるだけ。
「んじゃ、たよ、ハンチ、おまえらもこい」
「え・・・?」
ガタガタと音を立てた車が「ナンヤ」の前に止まる。ナンヤは相変わらず喫茶店にしか見えない。運転席の窓があきリーダーが顔を出す
「おう、乗れ」
いやです。
なんて言える状況でもなく、しぶしぶと助手席に乗り込む。ハンチは後部座席で相変わらず漫画を離さず黙々と読んでいる。本当に、いろいろと不安。
「あの、ハナさんは…?」
「あいつは、あんま外出たがらないんだ。ずっと家に籠もってる。そういうやつ。」
「は、はぁ…」
気の抜けた返事を返してしまったが、車からでる防音にかき消された。本当にこの車、大丈夫なのだろうか。すごいカタカタ言ってるし、古くさい!
キュィキキキキキ…
キュィキキキキキキキキ…
エンジンを必死にかけようとリーダ-。ブォンッといい音を立ててエンジンがかかった時、リーダーは嬉しそうにニンマリと笑い
「よっしゃ、かかった。行くぜ」
と、一言。一気に車は出発した。
何となく沈黙を避けたかったのも、変なモヤモヤした気持ちもあってか、たよはリーダーに話しかける。
「あ、あの・・・」
「ん?」
「その、これって探偵とか、警察がやる仕事じゃ…」
「ん、まぁ…な。それらも俺が何でもやるから、何でも屋なんだよ」
…
「き、危険じゃ、ないんですか?」
「おまえがいるじゃん」
ラケットないし!って…あっても人を襲うようなマネしないわよ!ばか!
「どうして、この仕事についたんですか?」
「ん…・・・」
リーダーのユウタは黙り込んでしまった。
まずい、こういうの今日出会ったばかりの私が聞けるような質問じゃなかった。本当なら私が「どうしてこの何でも屋に入ろうと思ったのですか?」と聞かれる立場じゃない。私ったら・・・もう!
軽く冷や汗をかき、焦ってるのを誤魔化したくなり窓から外を眺める。サイドミラーにちらっと何かが写る。ハンチだ。
ハンチはテッキリ漫画を読んでいるものかと思ったら、窓ガラスを全開に開け顔を少しだし風を気持ちよさそうに浴びている。
そんなハンチをただぼうっと眺めていたらリーダーが口を開いた。
「なんでだろうな、こいつ、何考えてるんだろうな」
こいつ…?ハンチのこと?なんだか話のかみ合わない返事に思った。
つい、またここでたよは質問してしまう。
「リーダーはどこに住んでるんですか?」
何を聞いてるんだ、私。ばかぁ。
「俺らみんな、ナンヤに住んでるんだよ。」
「え…」
「いつからか、思い出せないくらい前からナンヤで暮らしてる」
リーダーは続けて話した。
「元々どこに住んでたとかも、わからないな…」
「パンダが家に帰してくれないんだよ」
い、意味がわからない。
リーダーは真っ直ぐで明るくて、普通の人だと思ってたけど、やっぱり変だ。私よりきっと変に違いない。
「よし、ついた」
「あれ?」
「ハンチ、たよ、お前らはここで降りろ」
「あの、ここ"なめくじ電気"じゃ…」
「ああ、ここは電話をかけてきた少年ユウタの家だ。」
「まぁ、親父の方は俺が会ってくる。うまく家に上がり込んでそれらしい事してきてくれよ」
そ、それらしい事って、探偵らしい事…?
リーダーはそう言って私とハンチを置いて真っ直ぐの道路を走らせていった。
私はただただ、ぼうっと見えなくなるまでその車を目で追っていた。
「おい、いくぞ」
「あ、はい」
ハンチに声をかけられ我に返る。本当なら家に帰りたい。と思うとまたしょぼんとしてしまった。その姿を見てハンチは意味ありげに睨み付けくる。何よ。
「まずはユウタ君に会えねーとな」
「そ、そうですね…」
私ったら、こんな高校生くらいの年下の少年相手にそうですねって・・・なんだか本当、先が思いやられる。
ピンポーン…
沈黙。
ハンチはムっとして
ピンポンポンポンピンポンピンポン
と、チャイムを連打する。
「ちょ、ちょっと押しすぎじゃ」
「おーい」
「誰かいねーのー」
こいつ、無視した…。なんか悔しい!
「ゆーーうーーーたーーー」
ハンチが叫ぶ。
留守なんだから、叫んだって無駄じゃない。そうたよは言いたくなったけど心の中で押さえた。結果、言わないで良かったと思うタイミングでガチャっと扉が開く。
「だれ」
中から小さな男の子が出てくる。ゆうたくんだ。
「おい、いるじゃん。」
「君たち、誰?」
「俺らおまえからの電話もらって調査に来てやったって訳」
「何でも屋さん…?本当に?」
「そーだよ、ゆうたくんがひとりぼっちで泣いてんじゃな」
ガチャン
ユウタくんは勢いよく扉を閉めた。
「ああ?なんだよもう」
「は、ハンチさん、そんな…挑発してるみたいですよ」
すかさずたよがハンチの前にでて、ユウタ君に呼びかける
「ごめん、ゆうたくん。からかいに来たんじゃないんだよ」
反応がないけど続ける。
「あのね、私たち何でも屋ナンヤさんから来たの。」
自分はナンヤの一員じゃない。そういう思いからつい、ナンヤさんと言ってしまった。
「ゆうたくんから、お母さんの話聞かせてくれないかな…?」
ガチャ。
扉がゆっくり開く
「あがって…いいよ。」
まずは、家に上がり込む事に成功した。
後ろから「ふん、」とハンチが言うのが聞こえた。