1話目 何でも屋さん
私の名前は、綿貫たよ。大学に通う至って普通な女の子なんだけど、就職したい企業と間違えて電話帳1つ下の番号にかけてしまった事から全く未知な企業の就職試験を受けることになってしまった。いやいや。受けるつもりなんてない!てきとーな態度をとって早いとこ帰ろう。
そんなことを考えながら、問題のマグロ町101番地の「ナンヤ」についてしまいました。
喫茶店・・・?
作りは喫茶店の様なお店。喫茶店なら働いてもいいかな・・・ってバカバカ。私は大手ナメクジ電気で働きたいの!ナメクジ電気さんでOLしつつ、たまに顔を出すイケメン営業さんと恋に落ち、素敵な結婚生活を・・・ーってバカ。そんな妄想いつでもできるわ。
とにかく、今は意を決してナンヤに入ろう。
ガチャ・・・
重い大きな扉を開けて店の中に入る。暗い…
左手に見える小さな窓口から、ゴソゴソっと物音が聞こえ、女性の声が聞こえた。
電話に出た人の声だ・・・一発で分かる。その特徴的な声。
「あら、アナタ、この前電話くれた子?」
「あ、えー・・・はい…」
こっそり入ったつもりが、早速バレてしまった。
べ、別にコッソリ入って怪しい事するつもりなんて全くないけど!
なんてまた自分の中で一人芝居。
「ふーん、可愛い子ね、でも、顔が引きつってる。」
「え、えええ、そんなこと、ないですっ」
就職活動とは思えないやりとり。突然言われた可愛いとかちょっと嬉しい!なんて思ってまだ心の中で私はバカだと思い聞かす。引きつってるなんてどうしよう・・・
ニコニコしなきゃっ
ちょっと無意味にニコニコ笑う。だけどもやっぱり引きつってるせいか作り笑顔なのが窓口の女性には筒抜けのようだ。どうしよう、どうしよう、、冷や汗が止まらない。
「あなた、ナメクジ電気に電話しようとして間違えてウチに電話したんでしょう?」
「!?」
ば、ばれてるー!
「え、ええっと、そ、そんなこと・・・」
どうしよう。ここでハッキリ言っちゃえばもう帰れる。
でも態々こうやって企業まで呼んでくれてるし、その為に時間作ってるかもしれないし・・・
可愛いって言われちゃったし・・・ってそこは違う!ばか!
「そ、そんなこと無いです!」
「あら、そう?ふーん、じゃあアナタ、うちが何の仕事してるか知ってる?」
最悪の質問だった。
分かる訳がないもの。本当は電話帳1つ上のナメクジ電気に電話しようとしてたんだもの。
店の雰囲気みてもサッパリ分からない。大きな扉を開けて見えるのは、まっすぐの廊下に、
小さな窓口。独特のにおいとかも無いし、仕事をするような場所にはさっぱり見えない。
適当な答えをいって帰ろう。もうこんなところ二度と来ないだろう。今日の帰り道、今日の夜、
明日の朝になってもきっと今日の出来事のせいでつまらない思いをするだろう。
電話帳みるたびにきっと思い出すだろうけど、どう足掻いても無駄なんだもの。
当たる訳のない質問に、思い切って答えた。
「えっと、、、その・・・」
「うん?」
「なんでも・・屋さん・・・なんちゃって・・・」
「うん、その通り。なんだ、本当にうちに就職しに来たのね。」
「はい!もちろん・・・え・・・?」
ええええええ!?
どういうこと!?窓口のお姉さん!?
ちゃんと聞こえてなかったのかな?何でも屋さんって、私何でも屋さんって答えたんだよ!?
何でも屋さんって、そんなのお飯事じゃないんだから、ある訳ないじゃない。
またからかわれてるのかしら、そうよ。きっとそうに違いない
「じゃあ、そうね・・・」
「うちの社員達を紹介しようかしら」
コツン、コツンとヒールの音。ガチャっと如何にもなドアの音を立てて窓口の女性が出てきた。
30歳くらいかな?とても綺麗な女性はニコっと自然に微笑んで「こっちよ」と手招きした。
長い廊下の先にあるこれまたいい音で開きそうな扉の前まで、コツンコツンと歩き
「さぁ、紹介するわ」
と言ってその扉を開けた。
これが私の新しい人生のスタートだった。