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01-2   リベルタスを復興せよⅡ(4/5)

 カナリアリートに試行錯誤させるため、1度席を外して未読の本を読み進める。その合間に様子を見に来てはマリアリスからのアドバイスを伝言する。


「重さに関係なく1つしか動かせないよ。自分が実際に持ち上げられるくらいの重さでないと動かせないから注意ね」


「は、はい」


 アドバイスの内容はマリアリスに任せ、悪戦苦闘している彼女を横目に俺は呪文を考える。今使える巫術は全部で3つ。そして、今後増えることを前提とした憶えやすい呪文を考えなければならない。中二時代だったら……遅くとも高校時代だったらウッキウキで考えていたかもしれない。しかし、今では羞恥プレイに感じてしまって考えるのが億劫になる。あまり簡易なものにすると誤射することもあるかもしれない。セーフティ的な意味でも俺の中の中二心を思い出して考える。それがこの世界の仕様なのだから仕方ない。だって、異世界で魔法を使うのはロマンである。精霊術だけど、魔族の力を借りて力を具現化するのだから、魔法と言っても過言じゃない……多分。なら、折角の機会に『使わない』という選択は存在しない。


「あっ、いた! 大牙、何かお客さんが来て、今、お嬢様と話しているけど」


 さっき出て行った千寿が直ぐ戻ってきたので何事かと思ったが……。


「あの、こちらの方は?」


 やべ、どう説明しようか。カナリアリートにどう答えようか悩んでいた。だが、従属契約を結んだ彼女なら、概ね本当のことを話しても問題ないかもしれない。


「コイツは千寿。俺と同じ世界から来た、俺の眷属。ちなみに人じゃない。カナ達の言葉も通じない。人の姿に擬態しているのは存在を隠したいから。カナは立場上見かけることは多いけれど、俺も含め、コイツも異世界から来たことは隠しておきたいんだ」


「畏まりました」


 とは言ったものの、人の口に戸は立てられないもの。それは仕方ないのだが、極力伝播は遅らせたい。


 それだけ伝えると、俺は千寿の元へ向かう。


「それで、何処にいる?」


「今朝、あたし達が話していた部屋」


 さて、このタイミングでの来客というのは、実はかなり怪しい。この世界に来て30日目を迎えているわけなのだが、他所からの干渉がほぼ無い。この放置状態はかなり変である。そのことについて、何度かコトリンティータと話し合ったことはあったけれど、この状況を仕掛けた組織が1つではない可能性が高いこと。それと国内で派手に領地略奪を行った場合、大義名分がない限り、国から敵認定されかねないという2点が原因なのではないかという推論になっている。もちろん、仕掛けている側が何らかのトラブルを抱えているという可能性もある。しかし、そんなことを言い出すとキリがないので、あえて無視。トラブルにあっていたらラッキーと思う程度で良いかなと。


 ほぼ無いと言った他所からの干渉、全く無いというわけではない。実際、俺が初めて街の住人の所在を把握した段階でスパイはいた。もちろん、現在は処分済み。異世界から人が来たという情報を外へ可能な限り漏洩するのを遅らせるためだ。つまり、街の中には現状スパイは不在である。


 何故、それが断言できるかというと、魔法……この世界風に言えば精霊術のおかげである。とはいえ、その当時には俺とマリアリスの間に契約は存在していない。だが、マリアリスが自分の意思で力を使うことは当然可能である。【透視眼】……マリアリスの力の1つで、対象の過去も見ることができる。強力なのが、人、物、空間のどれでも対象が可能だという。言葉が判らなくとも見ることしかできない能力故に、外部と接触するようなことが近い過去にあったのなら、スパイ断定でOKということにしている。ちなみに即処分にしている理由は、捕らえたところで、素人の俺達にスパイから情報を引き抜く力があるとは思えないと判断したから。


 とはいえ、俺の存在が外へ漏洩していないと断定もできない。俺がマリアリスに指示をする前にリベルタスから撤収してしまっているのだとしたら、漏れた可能性は無くもない。どちらにせよ、放っていたスパイが報告を寄越さない時点で何かあったと悟るだろう。そうなると、相手の立場で何を求めるかといえば情報だ。適当に使い捨てを送り込んでも処分される可能性がある上に、身元がバレる可能性のある兵士も送れない。安易に思いつくのは、難民を大量に送って紛れ込ませる。または、コトリンティータとの顔見知りを使うかである。


 応接室の前にはコトリンティータの相棒精霊のエイロが入り口にいて、俺の姿を見かけると嬉しそうに手を振ると扉を貫通して部屋へと入って行く。エイロが2頭身の姿になってから、人の姿になっただけあって、表情とかも判るようになって可愛いと思う。相変わらず声だけは聞こえないのだが。


「あ、やっぱり来てくれたのね。中に入って」


 頷いて中に入ると、2人の女性が俺を見て席から立ちあがった。


「紹介するわ。彼が異世界から招いた勇者のタイガ様です」


 ……おい。


 機嫌良くコトリンティータが紹介する……顔見知りだから警戒していないパターンか。


「えっと、この方が2年前までわたしの武術の師匠だったアーキローズ様。お父様の従妹にあたる方です。そして、その隣にいる方が彼女の娘でキヨノア様」


 2人とも深くお辞儀をする。頭上にはレベル表示があることから、いずれは仲間になってくれるのは確定。問題はいつ契約できるかという話と、いつ必要になるのかという優先具合の話である。割と遠い先の話であれば急がなくても良いが、明日にも必要とかって人が現れたのならば、強引に仲間にする必要もある。……ただ、現在スパイ疑惑濃厚なんだよな、この人達。だから、俺が異世界人であることをまだ伏せておきたかったんだけど。


「駆けつけるのが遅くなってごめんなさい。いずれこうなることは予想できていたのに、まさかここまで早いとは思わなくて」


 アーキローズと紹介された女性は、再び座ると話題を切り出した。多分、世間話的なテンプレは俺が来る前に終了していたのだろう。だから、俺が来るのを待っていたのだと思う。


「知っていたのですか?」


 驚くコトリンティータ。……俺からすれば、コトリンティータが鈍すぎるのだが。でも、全員がポンコツということではないことに内心安堵した。


「まぁ、2年前に追い出された時はかなり強引でしたから。まさか、マユマリン様にまで手をだされるとは……」


 マユマリンというのは、コトリンティータの母の名前。元王族で、領内の異常の際に自ら助けを求めに実家である王都へと旅立って、そのまま行方不明になってしまっていた。


「けれど、本当にご無事で良かった」


「全て、タイガ様のおかげです。彼の知識と判断力のおかげで、ギリギリと呼ぶには恥ずかしいところですが、何とか生活がなりたっています」


 なんか、コトリンティータに様付けで呼ばれるのが違和感だらけなのだが、恐らく貴族同士の会話だからなのかもしれない。……知らんけど。


 さて、コトリンティータは援軍と信じて疑っていないわけだが、どうしたものか。相手が貴族なら失礼な態度は許されない。極力情報は出したくないが、俺が黙っていてもコトリンティータがペラペラ話すのは想像できるし止められない。レベル持ちなので、いずれは味方になるのだろうけれど……現状はどう判断したものか。


「異世界の方をこちらの事情に巻き込んでしまい、大変申し訳ありません。コトリンティータ様を助けて頂き、ありがとうございます」


「いや、気にしないで下さい。自分のためですから」


 今では結構情が移っていたりするが、それでも建前では自分の世界へ帰るため。……そんなことを考えていたら、俺以外の3人がクスクスと笑い始めた。


「ね? 言った通りでしょう?」


「確かに」


 得意げにコトリンティータが言い、アーキローズさんが笑顔のままで同意する。


「えっと、屋敷に入る前にタイガ様がどういった人なのかというのを聞きまして」


 俺の表情から察したのかキヨノアさんが説明した。しかし、その彼女も笑ってしまっている。いったい、どういった説明をされたのやら。


「コトリン。これはいったい?」


 俺が冷たい声で言うと、コトリンティータは表情が固まった。


「そんな風に怒らない。彼女は貴方を無欲な人と評していたの。言葉より行動で示してくれるって。信用できる人って、貴方の危険性を考えていたわたしを説得したんだから」


 ……あぁ、そういうことか。確かに何処の誰か知らん人が領主の家族を差し置いて復興指揮をしていたら、怪しむよな。……それにしても、そんな風に思われていたか。


 思わず苦笑いを浮かべるが、コトリンティータも顔が赤くなっているあたり、相当恥ずかしかったのだろう。


「そういうことか。ありがとう、コトリン。俺も尋ねたいことがあるんですが、宜しいですか?」


「どうぞ」


 尋ねる対象はもちろんアーキローズさん。彼女はさっき、気になることを言っていた。


「2年前まで、ここで暮らしていたのですよね? では、2年前の様子と追い出された頃の話を伺いたいのですが」


 もしかしたら、黒幕の1人はわかるかもしれない。彼女も俺の質問の意図を察してくれた。


「そうね。この屋敷で武術師範をしている時は、まだ主都として衰える様子は見られなかったわ。特に使用人達の入れ替わりも知る限りは無かったはず。気になる事といえば、ワイズアル様の客人が来たくらいだけれど、その辺からワイズアル様の容体が悪くなり始めたって事かしら。ただ、あの方がアルタイル領へ干渉した形跡はなかったわ」


 ワイズアルとは、侯爵でアルタイル領の領主。つまり、コトリンティータの父だ。従妹なのに追い出されたのか。まぁ、それはおいおい聞くとして。


「あの方って?」


「ポルクス領の領主、ナオヤルディン=B=エスカモール=ポルクス侯爵様よ」


 ポルクス領は、確かアルタイル領の北西に隣接する鉱石資源の多い領だったか。


「既に調査済みと……でも、別に本人が来なくても密偵やそれらに買収された人が介入していれば、まぁ細工は可能だよなぁ。ついでに言うと、王都へ向かうのに通過する必要のあるルートでもあるし」


 アルタイル領は大陸南東に位置する。王都は大陸中央。なので、王都へ向かうのならポルクス領は通り道になるという話。


「残念ですが、マユマリン様がポルクス領へ入ったということは絶対にありえません。もし、入られたら噂になっています。お忍びなら兎も角、護衛を連れての道中であれば、その痕跡を消すことは不可能。ですから、別ルートで向かったか、それとも……」


 領主夫人の動向も把握済み。その上で入っていないと断定。領内で囚われているか殺されているか……言葉を濁したのだってコトリンティータへの配慮だろう。そもそも、領内に余裕がないことを承知で夫人は助けを求めに行ってるはずなので、遠回りという選択をするのも難しいと思われ。どちらにせよ、相手にもリベルタスにいるのはコトリンティータのみと把握されているわけだ。生きていれば、流石に何らかのアクションはあるはずだから、現状がその答えと言っても問題ない。そうなると、俺の考えていたことが実現する確率はさらに上がってしまったというわけか。


「なるほど。……ということは、難民の押し寄せはこれから。そして、確実に人手が足りなくなるってわけか」


「何故、そう思うのかしら?」


「簡単な話。どういう理由かこれまで武力で街を制圧することができたのにしなかったということは、対外的な理由か何らかの目的から制圧は考えていない。しかし、送り込んだ密偵などは潰されている。それでも情報は欲しい。なら、密偵などを確実に送り込むために大勢の移住希望者をダミーとして紛れ込ませるのが簡単だろう」


「あら? 精霊術を使って、こっそり偵察される可能性はないのかしら?」


「ないですね。俺、全ての精霊が見えるので、変な動きしているのはわかるし、精霊術を使ってないで隠密行動をとっていたとしても、精霊を使って監視している以上、不可能」


 異世界人ということがバレている以上、俺の能力を可能な限り誤認させる必要がある。幸いにも、俺はまだコトリンティータにすら俺の能力を教えていない。正直、アーキローズさんの話を聞いても判断を悩んでいる。顔見知りを送り込むパターンの場合、アーキローズさんは買収されたことになる。だが、彼女は強引に仕事を辞めさせられている。自分から辞めていないのであれば、そのパターンの確率は低いのではないだろうか?


「もし、直接制圧しに兵が送り込まれたら?」


「考え難いけれど、どうにもできないくらいの数が送り込まれたら現状では降参するか逃亡するしかないですね。でも、中途半端な数では制圧されないし、それだけの数を動かせるなら、既にしているでしょ?」


「対応できる人数は何人を想定しているの?」


 あぁ、そうか。彼女は今、現状の戦力を計ろうとしているわけか。


「どのくらい早く気づけるかという話もあるのですが、最速で気づいたとして最大でも百人未満ですね。でも、何でそんなことの確認を?」


 もちろん、この数はアーキローズさんとキヨノアさんを戦力に含めていない。まだ、彼女達は協力するとは一言も言っていないから。


「当然、コトリンティータ様を逃がすことを何処まで考えているのか知りたいと……」


「それは最悪の手ですよ? 敵の狙いは高確率でそれなので」


 彼女を領の外へ逃がしたとして、他の領主の立場からすれば、彼女を保護すればアルタイル領内に兵を合法的に送り込む口実になるわけで。領内の勢力であれば、彼女が主都から逃げた時点で自分の兵を削らずに主都を制圧できるわけだ。敵側の目的はそこにあるのだと思う。


「だとしても、みすみす死なせるわけにはいかないでしょう?」


「俺に言わせれば、彼女だけが生きていても意味がない。街の価値は治める者の力量も大事かもしれないが、街で暮らす人々の労働があってこそ。そもそも、彼らを連れての逃亡は現実的ではないし、逃亡先もない」


 実はこのことについても以前コトリンティータと話したことがあった。最も、彼女は逃げるつもりは全く無かった。そして、彼女からも逃亡先はないと聞かされている。


「そうだとしても……」


 俺の言っていることが正しいとは理解していたのかアーキローズさんの言葉が詰まった。

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