03-5 セレブタス侯爵夫人を救出せよ(後編)Ⅴ(5/5)
契約者に謝罪した集会の翌日である6月20日。新たに建設されたセレブタス邸への引っ越しまで完了した。アストラガルドの建設技術をもってしても時間を沢山かけて作られたセレブタス邸はエーデルベル邸より大きく、誰が何と言おうと、俺は城だと思っている。そこに2人で暮らすのは寂しそうな気がするが、アーキローズさんとキヨノア母娘は変わらず一緒に暮らすらしいし、メイドも増やすだろうし。
尚、俺の住まいはセレブタス邸の離れとして別に建設された。離れ扱いで建設された理由は無税で維持できるようにとの配慮のためらしい。
離れとはいえ、書斎があり、風呂がある。もちろん、他にも生活に必要なものは揃っている『至れり尽くせり』な家となっている。そして、玄関にある大きな姿見の鏡。
実はこの鏡。日本での一般的な鏡をこっちの世界の物質で作れないかと試作して貰った一品である。禍夜が持っていた鏡と【鑑定眼】のスキルを使って試行錯誤した成果である。こっちの世界で水銀が手に入らなかったんだよね。……無いとは断言できないんだけど、有毒だから化学が遅れているアストラガルドでは有用な物質ではないのかもしれない。
まぁ、俺の家の話はそれくらいにしておいて。
新築にテンションが上がっていて、我が家をカナリアリートと満喫していたら、ホノファが来て、コトリンティータとマユマリンさんが俺を呼んでいるという。
コンコン。
「コトリン、マユマリンさん。俺です」
「どうぞ」
ホノファの案内の元、2人の居間的な部屋に通される。この部屋まで案内してくれたホノファは一礼して仕事に戻ってしまった。
「何かあった?」
2人ともリラックスした薄着の格好で目のやり場に困る。普段、そんな格好していないことから意図的なのではないかと警戒心が働く。
「タイガさんを屋敷のお披露目に招待していなかったので、今呼んだのだけど忙しかった?」
「いや、忙しくはない。むしろ、離れ扱いとはいえ、俺の家を建てて頂いてありがとうございました」
お金は1円も出していない。だからこそ、こういう事には深く感謝を示しつつ、無料という事実から何を要求されるか身構えていた。……いや、この世界の通貨単位は当然『円』じゃないし、自動翻訳でも円換算はされないからね?
「ううん。それより今後について……」
「今後か……多くは話さなくても当たり前だから省略するとして。コトリンはその重要性を理解していると思うけれど、セレブタス家……侯爵として知っていて当然の知識とかは、ちゃんとマユマリンさんに教わっておいてほしい。これまではアルタイル領内だけの話だったけど、今後は他の領主とも話をするのに知識不足は怖いからね」
……まぁ、不在になることが多くなるから課題的な意味で最後のアドバイスくらいはしても良いかもしれない。
「これの大変なところは、ワイズアル侯爵だけが知っていた情報というのもあるかもしれないということを念頭に置いて知識を得てほしいところなんだ」
「そうだね」
彼はきっと、もっと長生きして侯爵という権力を利用して幸せになりたかったに違いない。でも、自分の過去によって命が奪われてしまった。本人にとっては想定外で、本来なら伝達すべき情報も伝えられなかった可能性だってある。
「そのためにも当時の執事やワイズアル侯爵の傍にいた人達との接触を試みて、情報だけでも回収できるようにした方が良い」
「わかったわ」
……なんか、彼女からの「何故」や「どうして」を聞かれないことに違和感があった。
「ついでにマユマリンさんも。コトリンから巫術に関する知識を得て下さい。彼女には本に書かれていた知識から、ハイエルフに伝わる巫術の奥義のようなものまで伝えてあります。それはマユマリンさんにも可能で、コトリンの不在の間を守るリベルタスの守護として活動できるよう、可能であれば巫術技術を磨いてほしいと思っています」
「コトリンティータの巫術がこんなに使いこなせるようになっていたり、エイロちゃんの姿が変化しているのもタイガくんの指導だったのね」
「エイロの成長は従属契約の効果ですよ。ほら、マユマリンさんの精霊も」
「あら?」
マユマリンさんは現在レベル2。だからマユマリンさんの精霊は2頭身キャラになっているというわけだ。……多分? 例外があるから断言はできんけど。
「わたしもタイガくんから直接指導を受けたいなぁ?」
甘えた声で俺に強請るマユマリンさんにコトリンティータが冷たい視線を向ける。
「お母様。年齢をお考え下さいね」
「あら? コトリンティータ。嫉妬かしら?」
言っていないけれど、「お可愛いこと」って言いたそうな雰囲気だ。こういう時、異性が間に入ると無意味なダメージを受けることを知っているので、俺は賢くスルーする。
「すみません。指導できる時間は無いかも。随分ゆっくりしてしまったので、そろそろ次の仕事をしないと」
「次の仕事?」
「そそ。俺にも仕事が残されているんだ」
今日このタイミングで打ち明けなきゃだが、先に話すべきことは言っておかないと。
「それとユーヤイズルさんに対する巫術の指導なんだけど……」
ユーヤイズルさんに指導できるのは同じ木精霊を連れているコトリンティータ、マユマリンさんとエルフであるニーナレイアさんとチナーシャの4人に限られる。
「彼には精霊術に関しては詠唱までにしてほしい。【木精の召喚】は負荷が大きいし、ましてや【木精の魂装】すると暴走による周囲破壊もありえるから」
多くの巫術士は、何となくの意思疎通だけで精霊にお任せするのが基本らしいから、呪文詠唱により明確に術の形を伝えるという技術を得るだけで、断然使い勝手が良くなるのだから、それだけで問題はないはずだ。
「周囲破壊?」
「まぁ、それは可能性の話ではあるんだけど。コトリンには従属契約によって得られた驚異的な回復力がある。例えばだ。【木精の魂装】の場合、使い終わった後、元に戻らなかったらと心配しなかったか?」
「……した」
「だよな。でも、回復した。その回復が従属契約による恩恵だった場合、契約していない人が使えばどうなるか?」
そこまで言ってハッとしたようだった。
「更に言うと、【木精の魂装】が解除されたのも従属契約による回復力が原因だった場合、契約していない者が使った場合、解除されないというね」
「……まさか……」
「言ったろ? 可能性の話だよ」
「用心はしすぎることはない……だっけ?」
そう言ってコトリンは笑顔を作る。……やはり違和感。
「なぁ、コトリン。……何か企んでる?」
こういうのは単刀直入。速攻が有効……多分ね。
「企んでるし、既に言っているよね?」
「ん?」
「……今後の事を一緒に考えたいのだけど」
……ん? 今まで話していたのは一体?
「リベルタスを復興し、お母様を助けられた。全てタイガさんのおかげ。だから、その次に何をするかって話をしたいの」
「まず、全てが俺のおかげではない。むしろ微々たる手伝い程度のものだから」
限界かな。今の流れ的に絶対反対されるだろうなぁ。
「それに、実は次に俺がしなきゃいけないことは決まってるんだ」
「決まってる?」
「ポルクス領へ行く。そのために密偵を送り込んでいるわけだからね」
「わかった。では、ポルクス領に攻め込むということで、会議を開いて作戦を立てましょう」
……まぁ、そういう反応になるよな。
「悪いな。今回コトリンは留守番だ」
「え?」
笑顔だったコトリンティータから表情が消えていく。多分、初めて本気で怒っていた。
「そもそも、ポルクス領の問題はポルクス領民で解決するべきなんだ。広い意味で言えば同じ国民ではあるけれど、統治系統が別なのだから、自分達で解決するべき。……それくらいは解るよね?」
「それとこれは話が別よね」
うん、キレてる。過去で一番……それこそ、従属契約時に唇奪った時以上にキレてる。
「確かに1人ではなくて少数精鋭で行こうとは思っているけれど、同じくらいアルタイル領の防衛も大事なんだ。それを任せられるのは、俺の考え方をよく知っているコトリンしかいない」
……事実である。まぁ、本人がその気になるような言い回しであることは否定できないけど。
「それで誰を連れて行くつもり?」
「カナとマウッチュ。それとマキアティとユイクオールさん。あとはハルチーヤと従者資格のあるポルクス非正規兵の連中かな」
カナとマウッチュは元々手元にいてくれないと困る人材として、ドワーフの鍛冶師ユイクオールさんは元々ポルクス領の山出身らしく、役立つと立候補され、そのタイミングで用事があると機工師マキアティも同行を申し出ていた。ハルチーヤさんに限っては一緒に同行して商品の見定めと商売の糸口発見のために短期間同行という形をとっている。
「護衛を1人も連れて行かないの?」
「今のカナなら1人で充分。ハルチーヤも今は商売人とはいえ、元冒険者。従者効果で戦えるでしょ」
……多分?
「どうしても、わたしを連れて行かない?」
「連れていけないなぁ。コトリンはここに必要な人材だ」
そこまで言うと、彼女は大きく息を吐いた。
「タイガさん、こっちに付いて来て」
「ちょ、コトリン?」
そう言うと、俺の腕を引いて近くの部屋へ移動する。そんな様子にマユマリンさんは口を挟むことなく、笑顔で手を振って見送る……助けてくれないのかよ。
バンッと乱暴に扉を開けると、そこは寝室だった。部屋に置いてある家具類からもコトリンの部屋だとすぐに理解した。
俺を引っ張って部屋の奥へと送り出すと、部屋の扉を閉めて鍵を掛ける。
「こ、コトリン?」
「連れて行けないということは理解しました。ならば今、報酬を支払います」
そう言ってコトリンティータは顔を耳まで赤くしながら服を脱ぎ始める。
「ストップ。待て! 報酬って何?」
「何って、『リベルタスの復興を手伝って』って話で、わたしが『何でもする』って言ったじゃないですか!」
あ~、あの話か。
「それなら既に……」
「その時、タイガさんがわたしの身体を所望したじゃないですか! だから、それをあげるんです。もっと喜んで下さい!」
「いや、あのな……」
普通の日本人の成人男性であれば子供に欲情はしない。
「タダほど怖いモノはない。それを教えてくれたのはタイガさんですよね?!」
……ブチギレしてて怖かった……けれど、丁重にお断り申し上げて……死にそうになった。
祝霊歴1921年6月25日。出発準備を終えた俺達はタラセドの先にある領境に来ていた。
「タイガさん、無事で帰ってきて下さいね」
「大丈夫。みんなが守ってくれるから」
……いや、今日までの夜間のコトリンティータ……だけじゃなく、全員怖かったけどね。誰だよ? 『既成事実』なんて単語を広めた馬鹿は。安眠できんかった……。この世界ではセーフでも俺の倫理観がアウトだっちゅーねん。
そんな夜間にある意味死闘を繰り広げた女性陣の面々が俺を送るために集まってくれていた。
「忘れないで。タイガさんのお帰りを何時でも待っていますから」
「うん? ……あぁ、夕飯までには帰るよ」
そう答えた瞬間、全員が怒りだしたので逃げるように俺達はポルクス領へと旅立った。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
この作品を書き続けてこれたのは、完結までにブックマークして頂いた5名の読者様のおかげです!
おかげで無事にアルタイル領編を完結することができました。
まだ回収しきれていない伏線はあるものの、筆者の技量不足で読者を増やすことができず。区切りが良いここまでで完結とさせて頂きました。
尚、本日より『竜騎幻想 - 戦略SRPG世界に転生した俺は推しユニット達の幸せな後日譚を確認したいだけなのに前世から続く女難が邪魔をする -』を掲載開始しています。
こちらも異世界ハーレム系の作品ですが応援して頂けると嬉しいです!




