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03-5   セレブタス侯爵夫人を救出せよ(後編)Ⅴ(4/5)

 もう、最も時間を割かせられた面接の仕事も既に無く、日中に時間ができるようになった。リベルタス襲撃に関する事件も完全ではないにしろ、全貌が明らかになり解決状態。よって、次のミッションに向けて動き始めても良いのかもしれない。ただ、最近働き詰めで疲れが溜まっていたし、些細ながらも考えるべきことがあったり、従者希望の者に従属契約をしたりで数日過ごしていた。


 カズサーシャさんを登録後からだと、主に卿爵家の方々を中心に10人契約したことになる。伯爵家の方々も希望をすれば契約するべきだとは思うのだが、やっぱり問題だろうということで、コトリンティータに頼み、従属契約者84名と大勢の従者希望の者を呼んで会議室に入って貰った。流石に広い会議室でも詰め込み過ぎで、その密集度から窮屈さが伺えるが、短時間で済ますので我慢してほしいところ。


「タイガ様」


 まだ始まる前、2人の女性が近づいて小声で話しかけてくる。


「うん? どうした?」


 その2人とはマユユンとマナティル。凄く嬉しそうである。何かあったのだろうか?


「タイガ様、この度はありがとうございました」


「おかげで夫の無念を晴らすことができました」


 ……え?


「どういうこと?」


「あれ? タイガ様の指示ではないのですか? ワッカナイテの処刑役を推薦頂いたのだとばかり思いました」


「……処刑役? そっか。こちらこそ、ありがとう」


「お役に立てて嬉しいです。それでは失礼します」


 とりあえず話は流したけれども……正直、複雑な気分になってしまった。公開会議だったとはいえ、貴族のみの会議だったわけで。でも、被害者には一般人もいる。身内が殺害されたとはいえ、15歳の少女に人を殺させることを良しとするか……とか? まぁ、本人達は犯罪覚悟で犯人殺害をしようとしていたのだから、本懐を遂げさせてられて良かったと考えるべきか……。多分、この世界の常識で考えるなら良かったとするべきなんだろうけど、正直複雑な気分だった。


 複雑な気持ちを抱えながら、全員が集まったことが確認とれたので話を始める。


「忙しい中、集まって頂いてありがとうございます。これから話すことは、お詫びと確認です」


 正直、もっと早く話すべきだったなぁ……と内心後悔しているのだが、集まる人の都合もあるのだから、今回でも結構強引であり、最速の日だとは思うんだよな。


「まず、事情を説明します。説明するのは、従属契約に関する欠陥です」


 周りがざわめく。コトリンティータも何の話かと慌てている。……まぁ、仕方ない。誰にも話せていなかったし。悪手と本人が一番解っていたが、どうにもできん話だったからな。


「ご存知の通り、従属契約はみんなの身体能力を規格外に向上させます。それだけでなく、身体の欠損や状態異常、老化すらも生まれつきのモノ以外全てを回復します。解除をすれば、それらの回復したものを元に戻すという仕様までは確認していました」


 そう、例えばマユマリンさんは契約解除すると、再び四肢と歯、毛髪を失うことになる。皮膚に無数の傷があって、契約によって消えた者は再び傷が元に戻る。


「そして、一定日数契約をしていると圧倒的な身体能力と回復能力を得ます。俺は個人的にこの状態を本契約と呼んでいます。人形とはいえ、巨大なドラゴン相手でも重症を負わなかったことが全てを証明している」


 そう、この事は検証から知っていた。だからこそ、彼女達の命の安全を確保するために契約をしていたわけだ。


「ところが数日前に知った事実として、本契約に至った者は契約を解除できないことが発覚しました」


 そう、そもそも破棄できない契約なんて、常識的に考える事すらできなかった。でも、その契約を可能にしているのが人ではないのであれば、ありえる話と全く考えなかった。そう考えると精霊術というのは、かなり横暴な術である。


 これは推測なのだが、もしかしたら紋章術が実行可能なのは、精霊が人と契約を結んで既に解除できないモノだから道具として利用されているのかもしれない。……まぁ、邪推かもしれんけども。


「厳密に言うと解除する方法があります。それは俺が死ぬ時。対価が払われないことで契約不履行となり、解除されます」


 ……多分ね。でも、契約というのはそういうものである。合意した内容が得られなければ解除……契約を司るスターシアだって、不可能は可能にできないだろう。


「全員が契約維持を望まないのであれば、自分が殺されても仕方ないのかもしれない。でも、そうでない人もいます。……実質不可能なこと、本当に申し訳ございませんでした」


 そう言って、可能な限り深々と頭を下げる。多少膝が曲がろうが身体の硬さは仕方ないと諦めてほしい……限界まで下げ続け、そして頭を上げる。


 流石に周りが騒がしくなる。……まぁ、破棄できない契約なんて怖すぎるよな。


「その上で、牢屋敷にいた人物に関しては元々契約解除をする気がなかったこと。これも説明しておきます」


 そう、誰でも契約解除受け付けます……では、いろいろ問題が発生する。服役完了で釈放なんて言ったところで、まだ半年未満。反省させるには時間が短すぎるというモノ。


「ヴァレンシュタイン班の班員達は、意図的に動機はともかく、犯罪者経験のある者で構成されています。しかし、元々従者資格のある者達です。その状況に陥った経緯に同情の余地がある者ばかりだと信じたい」


 ……余地があるとは断言していない。


「とはいえ、行ったことに対する罪も無かったことにはならない。また、従属契約をしていることで、強制的に彼女達の行動を縛ることも可能であり、周囲に対して『彼女達は安全である』ということを証明するという意味と釈放して任命した俺自身の責任として、彼女達には解約希望があったとしても、解約することはない。これまでも、これからも」


 実は気にしていることがある。


 この世界……少なくともプティライド王国内では犯罪者に対しての扱いが、原則処刑であること。割と命が軽いことは気づいていたけれど、個人的な価値観は他人の命を奪っていない者は死ぬほどではないのではってこと。……もちろん、だからといって犯罪者を放逐するのは違うとは思っているけれど。……まぁ、命が軽いから一夫多妻や一妻多夫といった文化があるわけで、命が尊重される世界であれば、一夫一妻になるんだよな。


 それとこれは俺でも解る話として、牢屋敷に留置している間、食費が発生してしまうこと。だから、監視下での労働を強制させているのだけど、それは税金で飯食うための労働って意味合いだったりするんだよな。その上で、牢屋敷が快適にならないように『二度と来たくない』と思わせる内容でないといけないなって考えていた。


 で、どちらにせよ、処刑でない限りは釈放する時がいずれ来るわけで。ところが従属契約をすると一生俺の従者になるわけだ。なんか、日本に帰ったら強制的に解除されそうではあるんだけど。……従者と労働、どっちが良いのだろうとか思ってしまう。


「……いや、訂正する。本契約に至る前に処刑や監禁労働の方がマシと思った方は契約解除を受け入れよう。……うん、そんな奴がいるかどうかは知らんけど」


 食事極小量で風呂無しの強制共同生活は苦しいんじゃないかとは思うんだよな。


「あと実は2名ほど、申し訳ないが最初から契約解除をするつもりの無かった人物がいる。もちろん、今では2人とも既に本契約になってしまっているけれど」


 ピタっ。


 ……あれ? さっきまでザワザワしていた会場が急に静まった?


「タイガ様、それは誰のことでしょう?」


 尋ねてきたのはキヨノア。……何だろう? この圧迫感は??


「えっと……1人はカナ。カナリアリートだね。彼女の存在は俺が生活する上で必須な人なので、今後も傍にいてほしい」


「嬉しいです。喜んで最後までお供致します」


 喜んで貰えて良かった。何せ、あれから1万人以上の面接をしているのに、運命石に選ばれた人材がカナリアリートだけだから……当時はラッキー程度だったけれど、本当に貴重だと今なら思うわ。


「そして、もう1人。それは……マウッチュだ」


 ザワザワ。


 再び会場が賑やかに……いや、怒りが若干感じられるような? おかしい。全員笑顔なのに。


「マウッチュは厳密には従属契約ではなく、隷属契約だ。でも、彼女は仲間を裏切り、こちら側に付いてくる時、俺の家族として受け入れた経緯がある。何より2人とも兵士ではないということ。リベルタスの兵力を削ぐ対象ではないというのもポイントだな」


「もちろん、ずっと一緒っチュ♪」


 うん、嬉しそうで何より。それに俺の傍を離れたら、彼女は居場所を無くすだろう。


「ちょ、わたしはどうなの?」


「え? コトリン?」


 そんなこと、後で個人的に聞いてくれれば良いのに……。


「コトリンの場合は、何度か強制契約解除をしようと思ったタイミングがあったしなぁ」


 その一言で彼女がその場で崩れ落ちたため、それには流石に苦笑いしか出てこなかった。


「それでも、コトリンは契約解除されないまま、本契約に至った。それは、俺が彼女の成長に対し尊敬している証拠とも言える。……上から失礼な言い方ではあるけども、今はコトリンと共に行動できたことを誇りに思っている」


「……タイガさん」


 ……事実である。恥ずかしい台詞を公の場で言ったんだから、この辺で勘弁してほしい。


「さて、多分本契約を迎えた者は自覚があるだろう。もし、まだ本契約を迎えていない。または、従属契約を希望していたけれどキャンセルを希望するならば、受け付けます。今の説明を聞いて気が変わった方は手を挙げて貰えますか? 人数に応じてやり方は変えますが……」


 数名なら、この場で解除してしまっても構わない。でも、大勢だったら時間を取られるので話が終わった後に纏めて解除という形になるだろうけど。


「……いない? 本当に? 後悔しない??」


 いや、契約した人はその利点を知ってしまったため、解除を躊躇うというのも判る。でも、まだ未契約者は、今の説明で契約解除できない契約が如何に危険かは理解したと思うんだが。


「……マジか……」


「居るわけがないでしょ? むしろ、資格さえあれば契約したい人は山ほど居ると思うよ?」


 そう俺に言ったのはマオリスだった。


「まだ解らない? 勇者の従者であるというステータスは、タイガ様が思う以上のモノなの」


「なるほど」


 とりあえずそう返事してみたものの、内心は複雑だった。


「……タイガ様は全く解っていない。そうでなければ、こんな話をわざわざしないと思うけれど、タイガ様が仮に勇者じゃなかったとしても、契約された人は大当たりだと思って貴方に尽くすと思う。……それほど世界は残酷なの」


 それは薄々感じていた。マオリスはそれで黙ったのだが、


「タイガさん。散々アピールしたと思うのだけど、ここにいるほとんどの方が貴方の妻になりたいと希望する者なのよ? 半端な気持ちで身体を張ってないからね? わたし達の覚悟を舐めないでほしいの」


 そう言うメグムイッタの圧はユミューネさん譲りなのか有無を言わせない迫力があった。


「悪い。改めて、覚悟を舐めていたこと、本当に申し訳なかった」


 思い違いをしていた。……それを理解したので、再び深々と頭を限界まで下げた。

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