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03-5   セレブタス侯爵夫人を救出せよ(後編)Ⅴ(2/5)

 祝霊歴1921年6月16日。会議という名の公開取り調べが行われた。個人的に取り調べ兼裁判と言っても過言ではないし、公開の対象が貴族の代表限定なのだから、厳密には違うよなとは思っているが、この世界の人間でない俺が口を出すには些細な問題かもしれん。それに、貴族達から住民達に告知されるだろう。……多分。


「初めまして。私はセレブタス騎士爵の第一子で、故セレブタス侯爵の長子でユーヤイズル=F=セレブタスと申します。この度は多くのご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」


 彼はそう挨拶すると、深々と……うん、もう慣れたよ……頭を下げた。本当にこの世界の人達は身体が柔らかいのだと感心する。


「さて、ユーヤイズルさん。何故、このようなことをしたのでしょう?」


「はい、それは母であるカズサーシャの境遇に強い憤りを感じたことが発端です」


 コトリンティータからの問いにユーヤイズルは偽りなく答え始める。ちなみに偽りがないことは、【審判眼】で監視していることで確認済み。


「知っての通り、母は侯爵に乱暴されたことで当時の婚約者に婚約破棄をされ、私が生まれたことで望まれぬ侯爵夫人となりました。そのことに彼が反省していなかったことは、ピースブルックを与えたことで証明されたようなものでしょう」


 まぁ、卿爵令嬢を騎士爵にして無税であっても不毛の土地を与え、放置なのだから客観的に見ても処分したと言っても過言ではないかもしれん。


「それでも母は養父……身分の差で諦めた初恋の相手である幼馴染みのタケニノマエと再婚し、幸せとは言っていました。ですが、養父と一緒になったのも結果論。本来は伯爵夫人になっていたと聞きました。侯爵は、母の人生を破壊した。脱法手段で母を捨て、自身は何事も無かったかのように幸福を享受している。私にはそれが許せなかった」


 ……なるほどな。言い分は理解できる。もちろん、心情に関しては経験者以外無理だろうけれども。


「それで幼い頃から、どうすれば良いかということを考えるのが娯楽のない村での遊びのようなものになっていました。結果として、どうすれば復讐として満足できるかということに関しては、侯爵が貴族の地位から脱落し、アルタイル領から追放できれば良いという結論に至りました。それを目指してアイデアをずっと絞っていました」


 ん? 追放か……最初から死を望んでいたわけではないということか?


「1つ伺う。今回の件でタケニノマエ騎士爵夫君が亡くなりました。そして、彼の魂はボーンドラゴンゴーレムに贄として使われたと聞いた。それも君の考えた計画の内か?」


「いえ、むしろ反対していました。養父には沢山の愛情を注いで頂きました。ですから、彼の死を望むわけもありません。残念ですが、彼が命を賭けたのは彼の希望であり、それを止めることができなかったことも含めて、全て私の責任でもあります。ですので、どのような処分も受け入れます」


 まぁ、アイナミスさんの質問に言葉を濁したけれど死ぬ覚悟だったようだしなぁ。


「では、わたしからも1つ。今回の計画と実行した結果に違いがあることは説明から想像ができます。貴方が計画を実行に移したキッカケは?」


「……タッツオウガとの出会いです」


 彼がリックアーネさんの問いに苦々しく答えたのを見逃さなかった。


「そもそも最初に立てた計画は、娯楽……趣味の延長のようなもので、とても実行可能のようなものではありませんでした」


 薄々そんな気はしていた。多分彼は計画するだけで満足し、実行する気は更々無かったのだろう。


「彼が現れたのは4年前。今思えば、彼にこの話をしたことが間違いだった。そう、話してしまったのは私の罪です」


 確かにそうではあるが……そこを強く責めることができる人は空気を読めないアホくらいだろうよ。普通、そうはならんって展開になっちまったしなぁ。


「具体的に彼は何をしたのですか?」


「最初は母に会いに来たようでした。母と話した内容は知りません。その後、彼と年齢が近いこともあって仲良くなった後、例の作戦を見られてしまったのです。不可能だから考えているだけだと言ったら、「面白そうだな。俺も混ぜてほしい」と。その後、彼は私の考えた計画をより具体的に考えて来て、そのタイミングから原案は私と持ち上げられていますが、彼の作戦のようになりました」


 みんなが顔を見合わせる。……俺の予想が当たってしまったわけだ。マユマリンさんの情報が無ければ、それも俺の中の都合の良い話になっていたわけなんだけど。


「それでも、当時は実際に行動へ移すとは考えていませんでした。ですが、暫く顔を出さなかった彼が現れた際に、「だいぶ段取りが整ってきた」と報告を受けました。何の話かと思ったら、「エーデルベル伯爵とブルームレーン伯爵の協力を取り付けてきた」と。タダで協力を得られるわけがない。何を引き換えにしたのかって尋ねたのですが、「彼等が欲しいものを先払いしてきた」と言いまして」


 辻褄、合っちゃってるなぁ。ここは想像だが、もしやエーデルベル伯爵がゴーレムに変わったのは、このタイミングなのではないだろうか?


「その先払いというのは、ワイズアル侯爵が亡くなる前の話ですか?」


「そうです」


 そこまで聞くとリックアーネさんは考え込んでしまう。


「俺からも3つ確認したいことがある」


「何でしょう?」


「タッツオウガの認識は、ユーヤイズルさんの計画の終わりを何処と認識していましたか?」


 ここが実は一番気になっていたこと。多分、コトリンティータやマユマリンさんは聴き難い話だろうから、俺が追及するのが役目だと思う。


「それは先程……」


「それはユーヤイズルさんの計画の目標。聞きたいのは、それを聞いたタッツオウガがどう目標を認識したのかって話です」


「? ……あっ……アイツが言った意味はそういう……失礼しました。彼の言葉をそのまま再現するのであれば、「ワイズアル侯爵の消失」と」


 確かに、ワイズアル侯爵が居なくなれば、侯爵の座は空白となり、アルタイル領で見る事が無くなる。そうすれば、ユーヤイズルさんの目標は達成されることには違いない。だが、これはワイズアル侯爵の殺害でも達成される……いや、そっちの方が簡単まである。そして、それはタッツオウガの目的にも合致する。


「なるほど、目標はあくまでワイズアル侯爵ということか。では、2つ目の質問。貴方は侯爵とカズサーシャさんの経緯をタッツオウガに話したことはありますか?」


「いいえ。母はその話をすることを嫌います。私も2度しか聞いたことがありません。恐らく家族は誰も話さないでしょう」


 そう断言されても、正直それだと辻褄が合わない。まぁ、でも彼が話していないことは確定だろう。


「最後に、タッツオウガさんに会う前のカズサーシャさんは元気だったのでは?」


「はい、確かにそうですが……」


 うん、ここでは辻褄が合う。だとするなら、やっぱり一番変なのはタッツオウガがカズサーシャさんに会いに来た理由くらいか。


「ありがとうございました。他に質問のある方は?」


「では、わたしから宜しいでしょうか?」


 そう声をあげたのはミーナイリスさん。ブルームレーン伯爵は加害者側の陣営ではあるが、ミーナイリスさんはその中でも犠牲者に分類される。だからこそ、エーデルベル伯爵の第一夫人であるサキシアレーゼさんが沈黙している中、彼女は声を上げられているのだと思う。


「どうぞ」


 コトリンティータが許可すると、彼女は緊張して完全には落ち着けない中、それでも確かめようと話し始める。


「我々の間では、ユーヤイズルさんの奥様であるワッカナイテが犯罪に手を染めていることは知識として共有しております。そこでお伺いしますが、貴方はワッカナイテを手駒の1つとして手元に置いていたのでしょうか?」


 多分、彼女の質問の意図はユーヤイズルさんにとって、ワッカナイテとはどういう人物なのか見極めようということなのかな? ……知らんけど。


「そのようなことは断じてありえない。……そもそも、妻は平民の生まれで彼女からのアプローチを受けて一緒になった経緯がある。もし、彼女を手駒の1つとしてしか見ていないのであれば、わざわざ身内にせず、冒険者などを雇っていた」


 ……確かに、尤もだよなぁ。


「では、どうして彼女は貴方の計画に加担したのでしょうか?」


「それがわからないのです」


 ……わからない?


「先程も説明させて頂きましたが、この計画の大元は実行する予定のない趣味。何もないビースブルック内での私の娯楽でした。ですが、内容が不謹慎なことは当然心得ています。なので、妻にこの話をしたことはないのです」


「タッツオウガには話したのに?」


「そもそも彼にすら話すつもりは無かった。不意打ちで見つかってしまったというのが正しい表現で、メモを見られてしまったのです」


「では、そのメモを彼女が見ていた可能性は?」


「……わかりません。少なくとも私の目の届く範囲では見ていません。でも、不在時にこっそり見ていたかどうかまでは……」


 ……確かに。居ない間に勝手にしたことまでは責任もてんわな。でも、それで納得もできんだろうなぁ……。


「ワッカナイテが関与していることを知ったのは、いつですか?」


「侯爵が亡くなる少し前です。家を留守にしてタッツオウガと行動を共にすることが増えたことを不審に思って問い詰めた時、彼女が白状しました」


 これはつまり、確かめるまでもなく、ワッカナイテはタッツオウガに誘われて、タッツオウガの助手をしていたということになるわけだ。……まぁ、念を押しておくか。


「それはつまり、タッツオウガがワッカナイテを巻き込んだと言っていますか?」


 ミーナイリスさんが質問中と知りつつも、咄嗟に割って確認をする。


「いえ、そう断言はできません。妻がこっそり計画を見て、それをタッツオウガに知らせた可能性も無くもない。どちらにしても見てない場所での企みは、想像の域をでないと思います」


 ……確かに。


「そうですね。わたしからは以上です」


 でも、少し感心してしまった。さっきの質問、もしワッカナイテを庇おうと思えば、タッツオウガに責任を被せることも普通は不可能ではない。それでも誠実に答えているのは好印象ではあるんだよな。


「わたしからも良いかしら?」


 ミッドフランネル伯爵夫人であるアックォレアさんはここまで聞く専だったが、急な発言に注目が集まる。


「さて、何やらタイガ様には思惑があるようだけれど、ユーヤイズルさんは初期計画立案したことを認めている。そして、その結果『セレブタス侯爵殺害』、『リベルタス廃墟化』、『タリマイン、アルミザンへの襲撃』、『マユマリン様、ミーナイリス様、ミルヒトーミア様、ヨークォリア様殺害未遂』と、大きすぎる被害を被っています。正直、その責任は貴方の命1つでは償いきれるものではない。……貴方はどのように償うつもり?」


 そこにマユユンを加えてあげたいところだけど、今回は貴族に対するって意味なのだろう。……と思いたい。無意識的な差別じゃないよね?


 さて、先に「ユーヤイズルさんの命1つでは不足」と突きつけられて、彼はどう語るのか?


「それは……」


 ユーヤイズルさんの数十秒の沈黙。まぁ、咄嗟に出てこないよな。しかも、自分は想像しただけで、実行する気が無かったのだから。俺の感覚から言わせれば、「想像することすら罪なのか?」って話だし。でも、それはここに座る人全員が内心気づいていると思うんだよな。多分、その上で何を問われているのかを考えている? ……考えすぎか?


「死ぬまで罪と向き合う事しかできません」


「どう向き合う?」


「自分に求められることを応えるまで」


 そうだね。言い方が格好良いけれども、そんな風な答えを言わざるを得ないんだよね。何故なら、誰かの所為にして正論を述べれば、自分が死ぬだけでは済まないと、自分の想像が家族を殺すことになってしまうから。


「今の言葉、忘れませんからね? ……以上です」


 果たして、俺の思惑とアックォレアさんの思惑は一緒なのか知らんけど、彼女も思うところがあるのかもしれない。……多分。


「そろそろ時間的にユーヤイズルさんへの聞き取りを終了したいと……」


「最後に俺からも良いでしょうか?」


 これから言おうと思っていることは割と悩んだ内容である。何故なら常識が違う以上、その土地に暮らす人間が優先されるべきであり、異文化の主張は正当性があろうと、これまでの常識を破壊することになるから。常識とは人の営みの積み重ねによって生まれた規則であり、理由もなく時代遅れだからという理由で他者が押し付けて壊して良いものではないことを俺は知っている。だとしても、受け入れられなかったとしても、発言の自由はあると思うんだ。知らない人に言うのは怖いことで俺ならやらんことだけど、この人達なら……。


「先程、アックォレアさんから俺に思惑があると指摘され、その通りではあるのですが……種明かしをするならば……」


「『タネアカシ』?」


 ……おい、自動翻訳! 腰折らせるなって!


「えーっと……俺の考えを公開するならば、簡単に言うと彼にはアルタイル領の盾になって貰おうと考えてます」


「盾?」


「今、アルタイル領の矢面に立っているのは侯爵代行のコトリン。マユマリンさんが戻って来たけれど、コトリンが引き続き侯爵代行を続けるということは2人の間で合意されている。今後、敵が現れるとしたらアルタイル領の外からだ。もちろん、大きな軍団から個人的な盗賊や密偵だってありえる。その防衛ラインの責任者を彼にして、その計画力を充分に利用したいと考えている」


「裏切られたら……」


「裏切る? リベルタスにはこれだけの爵位持ちがいて、全員の目を欺いて裏切るって?」


 誰が言ったか判らなかったが、その発言はダメなんよ。


「ただでさえ、母親と妹を人質にされた上で裏切る? 言うまでもなく、彼は一生監視対象だ。その上で俺は彼が裏切った場合、カズサーシャ騎士爵に処分を頼むつもりだ。母親のために侯爵を憎んだ彼が、それを本気で望むと?」


 ……うん、らしくないことを言っているのは自覚している。とても説教できる立場ではないことは重々に自覚している。例え棚上げになったとしても、彼女達のためにも知っておいてほしいこと。


「ユーヤイズルさん。貴方は今後、一生を掛けて自分の罪と向き合い続けなければならない。君が望んだ侯爵と同等の仕事をコトリンの補佐として執り行う覚悟をして貰う。貴方を監視する者はリベルタスで暮らす人々全員だ。そして、何か問題が発生したら貴方の責任だ。仕事のことは貴族達から聞けば良い。彼女達は自分のために貴方へ仕事を教えるだろう。……そして、貴方が仕事を頑張った結果、貴方の家族が幸せで快適に暮らせることを忘れないでほしい」


「……肝に銘じます」


 年上にする説教ではないとは思う。でも、想像が罪だったという事は否定されるべきなんだ。


「以上です」


「……他にありますか? それではユーヤイズルさんへの取り調べを終えます」


 部屋を出る時、彼が深々と頭を下げた姿は来た時と印象が変わって見える……気のせいか。

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