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03-4   セレブタス侯爵夫人を救出せよ(後編)Ⅳ(5/5)

「カナ、コトリンの身体、預かって貰っていい? 今日はもう起きないと思うから」


「あ、は、はい!」


 あっけにとられていたカナリアリートだったが、俺に呼ばれて我に返ったのか、俺の元へとやってきて、コトリンティータの身体を受け取る。


「タイガ様は?」


「騎士爵様と対面してくる」


 念のためキヨノアを護衛につけて、先程見つけた術の反応を示した場所へと向かった。


 村のはずれに割と大きめな小屋がある。そう、屋敷と呼ぶには貧相で、他のあばら屋と比べればマシというだけで、違いがあるとすればまともな建物であるということだけだった。


 本来であればコトリンティータと共に伺うのが礼儀ではある。が、無理である以上、俺が行くしかないわけで。しかも、騎士爵の夫君に命を狙われた立場としては、乱暴に建物内に入って、中にいる人達の命を狙ったとしても、文句を言われる筋合いはない……多分。しかし、今回は殲滅が目的ではなく、騎士爵との和解と保護が目的である。なので、相手を刺激するような真似はできないし、してはいけない。


 コンコン。


 女性が扉を開いて顔を出す。頭上には『騎士爵令嬢』と書かれている。


「えっと、俺は……」


「リベルタスから来られた方ですね? お待ちしておりました。どうぞ、中へ」


 何者か名乗る前に、中へ通される。


「えっと、俺が何者か確認しなくても良かったのですか?」


「はい。来られることは聞いておりましたので」


 夫君は来させないように頑張ったはずなのに、あまり驚かれてないなぁ。まぁ、俺達が来ることは想定されていたとは思うけど。


 通された部屋は多分居間である。応接間と呼ぶには生活感があり過ぎる。普段から団欒の場として使われている形跡が部屋のあちこちから見受けられるし、確認したわけではないが、外観かから考えて部屋数はそれほどないと思われ、居間と応接間を兼ねていると推察した。部屋の中には男性と女性が2人の計3名がいた。そして、男性が俺の前に跪くと、女性2人も後から男性に倣った。


「ようこそ、いらっしゃいました。私の名はユーヤイズル=F=セレブタス。セレブタス侯爵様の長子にございます」


「初めまして。タイガ=サゼです」


「勇者様、もう話は聞いているとは思いますが、全ての責任は私にあります。どうか罰するのであれば、私に全て……」


「待ってください」


 ……そういう筋書きなのか。でも、そうさせるわけにもいかず制止をかける。


「まず、皆さんを罰することを少なくとも自分はしない。目的は騎士爵様に会うこと。どうか会わせて頂けないでしょうか?」


 明らかに3人とも戸惑っている。予想と違ったかな?


「そ、そういうことでしたら、どうぞこちらへ」


 答えたのは先程の騎士爵令嬢と表示されている10代半ばと思われる少女だった。彼の見た目年齢と比較して、彼女がユーヤイズルさんと兄妹という感じには見えないんだよな。


「えっと、貴女は?」


「失礼しました。わたしはカズサーシャの娘でユックオルフェ=G=セレブタスと申します。兄とは種違いの兄妹でございます」


 ん? 俺が兄妹に見えないと思っていたこと悟られたか?


「そうでしたか。では、よろしくお願いします」


 彼女の案内で部屋を出て別室へと案内される。そこは完全に個室だった。俺には最初、そこに違和感があったが、入って見て原因は直ぐに理解した。部屋の主である彼女は、上半身を起こしていたが、酷くやつれている。歳は50歳前と聞いていたが、70歳以上に見えるほど老け込んでいた。


「こんな姿で申し訳ございません。わたしがビースブルックを治めるカズサーシャ=P=セレブタスと申します」


 そう言って、頭を下げようとしたので、それを止める。


「ご無理をされませんよう。自分はタイガ=サゼ。異世界人ですが、謝罪のために参りました」


「謝罪……ですか?」


 病人に告げるのは酷な話だが、隠すのはもっと違う気がして、恐縮しながらも彼女に告げる。


「セレブタス騎士爵主君様が亡くなりました」


「……そうですか。彼には大変申し訳ないことをしました」


 罵倒されることを覚悟で告げたのだが、彼女は意外にも穏やかなままだった。もちろん、内心はそうでないかもしれないが。


「わたしは息子が領主様を殺害する計画を実行した時から、こうなるのを覚悟しておりました。もちろん、事情は全て聞いた上で。そう息子に決断させたのも全てわたしが原因。ですから、可能であるならば、どうか生い先短いわたしの命と引き換えに息子を許して頂けないでしょうか?」


 そう言って、再び頭を下げようとするので、それを再び止める。


「なるほど、命を捨てる覚悟があるのですね。では、自分の話を聞いて下さい」


 あ~、また勝手に決めたって怒られるだろうなぁ……まぁ、今回は甘んじて怒られよう。


「結論から言うと、貴女やユーヤイズルさんが死んだとて、今回の件で混乱したアルタイル領は元に戻りません。よって、罪を裁くのは自分ではありませんが、混乱が回復した後に裁く権利のある人が裁くことになるでしょう。そこで、ユーヤイズルさんにはアルタイル領の混乱からの回復をコトリンティータの元で行って貰おうと考えております。コキ使われる覚悟なら死ぬ覚悟よりは軽くできると思いますので」


 そう言って、俺は意地悪く笑う。それを見ていた彼の顔が引きつるのを視界の端に捉えたがスルーする。


「その上で、貴女には彼の保証人となって貰う。悪く言えば人質です。信用なんて全く無いので貴女に保証して貰わないと困るんです」


「構いません。わたしにまだ価値があるというのならば、ご自由にお使いください……ですが、もう命も短く……」


「それ、治ります」


 術の反応があった時点で予想していたが、彼女も他の人達と同じく呪いに掛けられていた。それでも彼女が長生きしたのは、治療を受ける余裕がなかったからだろう。……多分。


「本当ですか? 治療師の方に見て貰っても原因不明で回復の術でも治らないと過去に言われたのですが……」


「自分が治しますので大丈夫です。もちろん、親切や慈善奉仕ではないのですが。そのために貴女には自分の従者になるべく契約を結んで貰います」


 本来であれば強制的な契約は結ばせたくないが、ここだけは背に腹変えられない。治療だけならば解呪だけで良い。だが、多分彼女は命を狙われる。……思い過ごしであれば問題なし。思い過ごしでない場合を想定した措置である。


「わかりました。それで子供達の命を守れるのであれば、契約をお受けします」


「待って!」


 それを止めたのは、ここへ案内してくれたユックオルフェさん。


「母だけを犠牲にすることはできません。わたしも従者になります」


 犠牲かぁ。全てを説明していないから、確かにそう考えるよなぁ。


「わかりました。では、明日には迎えに参ります。申し訳ありませんが、皆さんはリベルタスで生活して頂くことになりますので、そのつもりで準備をして下さい」


 ……あ~、仕方ないとはいえ、これはかなり怒られるだろうなぁ……。




 帰ってきてからは事後処理に追われた。


 心配されていたが、翌々日には気絶からコトリンティータが復活。しかし、髪と瞳は黒いままで、彼女の精霊であるエイロの姿を見ることができず、巫術も使えないということで軽くパニックを起こす始末。【木精の魂装】の反動であり、数日後には元に戻ることと、俺にはエイロが見えているので一緒にいることを伝え、髪と瞳の色が戻るまでは部屋に引き籠って貰った。


 午後には、もう打ち止めだと思っていた中庭の祭壇に怪異が召喚された。だが、一緒に住んでいた連中は既に全員呼び出されており、何が出てくるのか心当たりが無かった。


 現れたのは、他の怪異と同じ銀髪の女性の姿をしている。膝丈まである髪は毛先に近づく程に橙色にグラデーションされていて、顔は髪に隠れていて見えない。若干猫背で低く見えるが、実際の身長は170センチ前後あるだろう。


「ひ、ひさしぶり……大牙……君、お、大きくなった……ね……デュフ……か、禍夜だよ」


 どもり気味な話し方で俺から顔を逸らしている。笑い方が素で「デュフ」と笑う人を初めてみた。……あ、人じゃないのか。しかし、あの怪異、禍夜という名の響き、色は違うけど長い髪に猫背。何処かで見覚えが……。


「もしかして、カーヤ?」


 俺が尋ねると、オドオドしながらも、頷く。それで思い出した。コイツは幼い俺を神隠しという名の拉致をした最初の怪異。当時と見た目が変わらなく、最初は優しいお姉さんだと思っていたんだよな。危なく殺されるところだったけれど……どうやって助かったんだっけか?


「ずっと約束守って待ってた……のに、こ、来なくて……悲しくて……泣いていたら……スターシアって女がぁ、た、大牙君を助けろって……」


「え、あいつに会ったの?!」


 彼女の正体は鏡の妖。若干気持ち悪かったが、契約する気満々だったので、眷属契約をした。他の怪異同様に小さくなり、見た目が幼くなったことでキモさが無くなって、ただの内気な少女っぽくなった。また、スターシアからの伝言により、召喚されてくる怪異は禍夜が正真正銘、最後だと知った。


 禍夜が来た翌日の6月10日。カズサーシャさんと従属契約をする。即ミッションクリアの通達が来るかと思いきや、そうではなかった。だが、他に侯爵夫人と呼べる人に心当たりがない以上、彼女の回復を待つしかない。


 その間にも今回の一件の調査は進め、ユーヤイズルの妻であるワッカナイテもタッツオウガに協力し、片腕として動いていたことが取り調べにて発覚した。まぁ、初めて会った時、彼女の頭上に人形師と書かれていたのでバレバレではあったのだが。試しに聞き取り調査を行って、本人の意思に関係なく、しっかり自供してくれた。彼女が謎だった『治療師』で、呪いを悪化させていた張本人だと。


 動機はシンプルで、結婚を決める際に侯爵の息子だと聞いていたことから親からの強引な縁組にも了承したというのに、嫁いでみたら寒村で暮らす騎士爵で彼女からすれば話が違ったというわけである。治安の悪い村も嫌いで、全てに嫌悪していた時にタッツオウガと会い、唆されて、加担したという。上手くいけば、アルタイル領の領主夫人の座に納まる可能性もあると考えていたようだ。




 従属契約から3日後、13日にはカズサーシャの身体は完全回復したのを確認した。それと共にミッション達成の通知が届き、心の底から安堵する。


「クリア通知来たよ」


「……良かったぁ」


 怪異達に話すと、彼女達も心の底から安堵しているように見えた。


[クリアおめでとうございます。尚、本契約を果たした人達は例え【魔晄眼】であっても契約解除ができません。本契約の従者の数が多い程、貴方の力は増しますが、その分の維持コストも増えることにご注意下さい。今後は大きく勝手が変わりますので頑張って下さいね]


……と、書かれていた。

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