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03-4   セレブタス侯爵夫人を救出せよ(後編)Ⅳ(1/5)

 現在、渋々ではあるがビースブルックへ向かうための準備が完了するまで待機中である。というか、軟禁状態と言っても過言ではない。行動には制限がないものの、監視がついている状態だ。……非常に面倒臭い。


「タイガ君? ……あっ、いたいた!」


 以前、勇者扱いをするようにと指導されていたため、様呼びが定着し、最初はむず痒かった俺自身もかなり慣れてしまっていた。故に怪異達以外にそう呼ぶのは、今のところ彼女だけ。


「マユマリンさん、何かありましたか?」


 書斎であまり緊急性を感じない残りの書籍を読み漁っていたタイミングで彼女に声を掛けられた。


「ん? 何か無いと一緒に居ちゃいけないのかな?」


 ……うーん。断り辛い。


 実のところ、身体は完全に回復したものの彼女の心は若干壊れかけていた。……いや、壊れかけているように感じたというのが正しいか。正直、無理もない。むしろ、完全に壊れなかっただけでも強靭な精神力だと思う。……それとも、逆にそういった強靭な精神力を持った者のみがレベル持ちなのかもしれんけど。


「いえ」


「そうよね? タイガ君はわたしの傍にいるべきよ」


 最初はこんな感じでは無かった。だから、こんな雰囲気になった時、最初は冗談か揶揄っているのかさえ思ったのだが……どうやらそうではないと気づいた。


 知らないし聞くこともないが、恐らく囚われている間、想像を超える恥辱を与えられたに違いない。恥辱だけでなく暴行もされていただろうし。人権保護なんて概念のない世界で囚われるということは、末路が決まっているようなモノ。それでも理性的に日常生活を送れているだけでも大したメンタルと言って過言じゃないはずだ。


 でも、実際は男性に対し恐怖心が芽生えているようだ。頭ではブルームレーン伯爵だけが問題と理解しているようだが、多分フラッシュバックしちゃうんだろうな。……けれど、どうやら俺だけはその対象から外れたようだ。それがスターシアの都合による勇者特性なのか、従属契約による効果なのか、または自身を守るための本能による防衛行動なのか……どちらにせよ、この監視役を無碍に扱うのは、俺の良心が痛むので難しい。


「何をしているの?」


「いや、ビースブルックについて知識を入れようと……」


 本を探していた。だが、見つからない……時間を持て余しているのだから、焦る必要性も感じないため、気になる本を読んでいたのだが……動機と結論が直結しないことは稀によくあることである。……多分?


「何も判らなかったでしょ?」


「ですね」


「……じゃあ、教えてあげる。あそこは特殊な場所だから」


 変だとは思ってたんだよ。ルシャインの管轄内にある村の1つだとは聞いたけれど、俺は全ての村を案内され、既に回っていたはずなのに行った事がない。


「あの村はね、国への納税の義務の無い村なの。理由は人の住める土地じゃないから。作物は育たない。家畜も飼料が作れずに無理。食料を自給自足できない土地なの。しかも、その土地を与えられたのは情けのようなものと聞いたわ。……今なら、意味もわかるけれど……だから誰も住み着くことの無い名ばかりの村ということになっているの」


 そう話しながら彼女は近づいてきたかと思うと、首に腕を回し、脚に触れ……ち、近すぎる……って、ちょっ!


 まさに、注意しようと思った矢先……想定外の行動をされ、その様子を目撃されてしまった。


「タイガさん、少し良いです……か?」


「お母様、何でお姫様抱っこ……」


 これは、非常にまずい。まさに、一緒に座った状態で姫様抱っこの俺達。誤解が生まれることしか予想できない。しかも、この状況を目撃したのがカオリディアさんとコトリンティータなのが最悪である。


「ん? 貴女達の望み通り、タイガ君を見張っているのだけど?」


 俺は彼女の力技でお姫様抱っこをされていた。……いや、むしろ母親が赤子を抱く図の方が近いかもしれない。……我ながらデカい赤子だな、おい。


「何とかしてくれ。俺の力じゃ抜けられん」


「もぅ、暴れないの」


 ……この力の上限が違うという、アストラガルドの人達の仕様、何とかならんのか?


「お母様。タイガ様の世界の力は子供より低いのです。離してあげて下さい」


「……むぅ、見張りという大義名分が……」


 ……あっ、絶対知っていてやったな。


 マユマリンさんから解放された俺は、さっさと書斎から脱出しようとするが、それをカオリディアさんに阻止される。


「タイガ様、聞いて欲しい話があると伝えましたよ?」


「むぅ」


 逃亡失敗。


「……タイガさん、まだ諦めていないのですか?」


「……」


 悲しそうな表情のコトリンティータを見てしまうと申し訳なく思うけれど、事情も説明できないんだよな。


 実は既に何度か単身でビースブルックへ向かおうとしていた。理由はシンプルに残り時間が怪しいから。こっちとしては、マユマリンさんが全快すればミッション達成だろうと時間をかなり贅沢に使ってしまった手前、残された時間はもう僅かだろうと思うわけで。


 とは言っても説明することもできないのだから、単身で挑もうと思ったわけだ。もちろん、純粋な単身ではなく、千寿やマリアリス達は当然一緒なのだが。もしかしたら、マウッチュくらいは同行してくれるかもしれない。


「タイガさんが言ったんですよ? 失敗は許されないのだから、準備はしっかりするべきと」


「……ですよね」


 そう言われると返す言葉もない。いや、あるけど言えない。


「それで話って?」


「わたしもビースブルックへ連れて行ってくれませんか?」


 コトリンティータに尋ねたつもりが、カオリディアさんが答えた。


「何故?」


「見たことがないんです。色々知って、次期伯爵夫人として直接確認したいと思って」


 カオリディアさんは既に従属契約をしている。コトリンティータと同じくセレブタス家の娘だったのだから武術は学んでいるはず。


「間違いなく危険ですよ? 自身の身を守れますか?」


「大丈夫です」


「……じゃあ、その前提で良いんじゃない? あ、でも紋章術を最低1つは入手して貰うけど」


 【木精の信徒】は絶対憶えておいて欲しい。可能なら【若木の翼葉】という陽光下限定の徐々にHPが回復する術も憶えておいてほしい。まぁ、そっちは無料じゃないので好み次第だが。まぁ、紋章屋を覗いた時の興味次第だろう。


「わかりました。ありがとうございます」


 そう言って、頭を下げられる。……俺から見ても常識と思われる範疇の軽い会釈程度だが。


「……ねぇ、タイガさん。どうして、そんなに焦っているのですか? さっきも隙さえあれば単身で行こうとしてましたよね? まさか、最初から1人で行く気だから簡単に許可したわけではないですよね?」


 コトリンティータの問いに苦笑しつつ、内心は半分正解と思っていても現実的ではないだろうな……とも思っていた。監視が厳しいし。


「もちろん、そういう意味で許可したわけじゃないよ。ただ、焦っている理由は……もしかしたらカズサーシャという騎士爵、口封じで殺される可能性があるかもって考えていてさ」


「え?」


「考えても見て。侯爵が殺害され、ヨークォリアさんも殺されかけ、ブルームレーン伯爵も殺された。エーデルベル伯爵の人形は別として、事情を知る人物は殺害を試みられている。ならば、彼女も危険なのでは……と。まぁ、確証がないからアレだけど」


 ……即興で考えた嘘である。少なくとも「スターシアがやれって指示しているから」と言うよりは説得力が多分ある。この世界の住人はスターシアを見る事ができないだろうしね。


「よくわかった。それでも1人で行くのはダメです。向かうのは村ですし、人数を最低限に絞って行きましょう。そうすれば準備は短縮できます」


「ありがと」


 ……多分、嘘はバレている。嘘だと知りつつも事情があるのかもしれないと思ってくれているかもしれない。わからんけど、どちらにせよ正直助かる。


「ビースブルックはタイガさんが思っているより厄介なところなんです。戦力的な問題だけなら、村を巡った日に行っているとは思いませんか?」


 強く釘を刺されている。そこには絶対行くなよって意思をビンビンに感じているわけで。


「うん。千寿だけじゃどうにもならないことがあるんだね?」


「厳密に言えば、タイガさんだけなら戦力だけで何とでもなる話なんですけどね」


 つまり、俺が動くとコトリンティータ達が迷惑を被ると。いや、迷惑レベルの話ではないとか? ……知らなかったでは済まなそうだなぁ。


「わかった。大人しく準備が整うのを待つよ」


「そうしてくださいね」


 そんなわけで、話が終わって解散するかと思いきや、むんずっと首を背後から掴まれ、そのままマユマリンさんの膝の上に座らせられ、腕で完全にロックされる。


「……コトリン、助けて……」


「お母様。あとで交代してくださいね」


「コトリン?!」


 何気に怖い冗談を残してコトリンティータとカオリディアが書斎から出ていく。……冗談だよね?


「ふふっ、タイガ君。おとなしくしましょうね?」


 ……目が笑っていない……多分、これ……怒らせた自覚ないけど、仕返しな感じがする……気のせいか?


「あのぉ……」


「どう? 良い大人が赤ん坊扱いされる気分?」


 ……あっ。


 四肢が無かった時のマユマリンさんを介護する時、つい赤子扱いしてしまったことが復讐されている原因だと今気づいた。




 準備は3日で終わった。しかし、残念ながら雨天が続く。流石に時間がないとはいえ、弱みを見せるリスクを負ってまでは行けない。焦ってはいるけれど、これだけ待ったのだから、次の日には晴れるだろう……そう思いながら、おとなしく過ごす。


 その間にもブルームレーン家の地下に囚われていた少女、マリエルとジュリエール、マンビッシャー卿爵家メイドのイオーリア、それとフォルティチュードでの全裸少女、ヒサーナも本人が希望してきての従属契約となった。特にヒサーナはずっと剣術の修行を熱心にしており、アーキローズさんに推薦されたこともあって、4人ともキヨノア直下の部隊に組みこまれた。


「やっと晴れた……」


 祝霊歴1921年6月7日。6日間という長い準備期間を経て、俺達は寒村、ビースブルックへと出発した。

 読んで頂き、大変ありがとうございました!


 前回の投稿後にブックマークをして下さった方、ありがとうございました。筆者が確認できました5人目の読者様です。読んで頂けたことに感謝いっぱいでございます。


 もしも、「続きが気になる」、「読み続けても良い」、「面白い」と思って頂けた方は是非、ブックマークして頂けると嬉しいです。続読して下さる読者の数が筆者の励みです。


 次回アップ分(9月16日予定)でアルタイル領編最後です。よろしくお願いします!

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