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01-2   リベルタスを復興せよⅡ(1/5)

 祝霊歴1921年1月21日。アストラガルドという異世界にやってきて22日目も残り数時間という夕飯時より若干遅い時間。俺はまだ食事にありつけていない。朝から来てくれた労働希望者達を面接し、終わったばかりだからだ。声をかけた時は手応えが無かったのだが、36名も来てくれたことは嬉しい誤算だった。


 1人あたり約15分間を目安に面接時間だけで約9時間。実際には人の入れ替わり時間や食事休憩等が入って、更に時間がかかっていた。しかも、面接相手は14歳以下の未成年と、50歳以上の方々。それと身体障碍者がメインである。あとは、それ等の関係者といった方々が極少数。大半の面接にてこずったのは言うまでもない。


「長時間の面接お疲れ様です。大変お疲れだとは思うのですが……いい加減、この方を紹介して頂いても?」


 何故か機嫌が悪く、コトリンティータからイライラを隠す気もなく尋ねられた。


「あ~。俺もまだ詳しく話を聞けていないんだよ。確か、名前が千寿ってことは紹介したよね?」


 そう尋ねると彼女は頷く。


「そこのギャルは何を言っているの? そもそも、あたしは名前すら紹介して貰っていないんだけど?」


 俺の返答から何を言っているのか概ね察しているのだろう。千寿は密着する程の距離で俺の隣に座り、コトリンティータへ文句言っている。しかし、頭ではわかっていても幼馴染みのちとせに瓜二つ。別人とわかっていてもドギマギしてしまい内容が頭に入り難い。


 ……言われて気づいたが、これまで違和感が仕事をしなかった理由は彼女が見た目だけでいえばギャルのようなものだったからだ。もちろん立ち振る舞いや言動も気品があって、受ける印象は箱入りのお嬢様そのものなのだが、千寿には言葉がわからない以上、そう見えていても仕方ない。でも、何故かコイツの言葉からも悪意を感じるのは気のせいか?


「彼女はコトリンティータさん。この屋敷の主で俺が世話になっている」


 そう紹介するとコトリンティータは千寿へ向けて頭を少し下げる。


 実は2人、俺の言葉は理解できるのだが、言語の問題から直接対話は不可能。お互い、相手に向かって話している俺の言葉だけ理解できることから、俺が特別なのだと理解している。その仕様を知った時は内心ホッとしていた。……まだ、色々と奥の手は隠しておきたい。今はなるべく最小限の紹介だけして、あとで口裏を合わせなくては。


「というわけで千寿の紹介に戻る。コイツは確かに見た目が人に見えるんだけど、人じゃない。……とは言っても、信じられないよなぁ。まぁ、見た方が早い。千寿、証拠見せて」


「証拠?」


「なんでもいいよ。人間じゃないことを彼女に証明してくれ」


「え~……あっ!」


 何か思いついたのだろう。千寿は意地の悪い笑みを浮かべる。


「しょうがないなぁ……ほら、よく見ててね」


 千寿はパーカーのジッパーを下ろす。中はゆったりとしたサイズのTシャツを着ていたのだが、胸の部位がまるで風船でも膨らましているかのように大きくなっていく。それにはコトリンティータも絶句していた。


 人間ではありえないシャツが破れないギリギリのサイズまで膨らませたのを確認すると、俺をジッと見つめる視線に気づいた。目を合わせるとニヤリと笑う。


「もぅ、大牙のエッチぃ」


 あ~、そういうことか。と、納得しながらも苦笑いする。


「男の本能を弄ぶな。そんなところまでちとせの真似をしなくて良いっつーの」


 最初から俺を揶揄う気満々だったというわけだ。思えば、ちとせは俺のことを誰にも見られないようなところでよく揶揄っていたなぁ。……というか、千寿はそんなことまで知っていたのか?


「もっとわかりやすいのがあるだろ?」


「ん~、じゃあ……」


 胸のサイズが元に戻ったかと思うと、髪の色が全体的に銀色に変色し、毛先が茶色になる。瞳の色もより茶色くなり、印象がガラリと変わる。その上で指を1本鋭利な刃物へと変えた。


「まぁ、こんな感じで姿を自由自在に変えられる。骨も内蔵もないからね」


「……人間じゃないのはわかりました。でも……人間みたいですね」


 俺の説明にコトリンティータは納得する。それを察した千寿は元のちとせの姿に戻ると、俺の傍に寄ってきて腕に抱き着いてきた。


「ん……何?」


「暫くの間ちとせの姿がデフォだったんだけど、久しぶりに変身したものだから疲れちゃった。大牙のリクエストでやったんだから、これくらい良いでしょ?」


「え、普通に嫌なんだけど」


「まさか、あたしを意識してるの? 人間じゃないのに??」


「……」


 離れろと言っても離れないのは察することができたし、本気になられたら力で千寿に敵うわけがないのも既に知っている。


「あの、センジュさんとはどんな関係なのですか?」


「ん~、ストーカーと被害者?」


「ひどっ!」


 なるほど。自分がストーカー側だという自覚はあったか。


「えっと、すとーかーって何ですか?」


「簡単に言うと、一方的に付き纏ってくる人のこと。相手の迷惑顧みず、気がついたら傍にいる。……まぁ、千寿は人じゃないんだけど」


「その、そういうことが聞きたかったわけではなくて。センジュさんはどうやってこの世界にいらしたのでしょうか? それとも、所持品として扱われているのですか?」


 所持品! その発想はなかった。生き物を所持品と言われることに違和感があったが、自動翻訳的な何かだと思うことにして……確かに、マリアリスが異世界に来た原因を考えてみると俺の所持品(武器)扱いだと言うのであれば個人的には納得できる。しかし、それだと千寿は俺が召喚したわけではないのだから所持しているとは言い難い。考えられるとしたら召喚の有無は関係なく、怪異との縁によって繋がっていたからとしか考えられないのだが……。


「わからない。こいつに関しては元の世界でも行方不明だったくらいだしなぁ」


「わからない……ですか。てっきり貴方と一緒に来た存在だとばかり……」


「いや、多分俺が呼ばれたことが原因でコイツが来たのは間違いないと思う。人でもない千寿を誰かが召喚したと考える方が不自然だ。ただ、何故共に召喚されたのかには本当に心当たりがない」


「じゃあ、ここで一緒に暮らす感じになるのでしょうか?」


「うーん。そこはちょっと保留。まずは話を聞かないと」


 一応、千寿にもレベル表示はされている。眷属契約をすればレベルは上がるだろう。だが、問題は彼女にその意思があるかどうかである。


「それもそうですね。では、話を聞きだして下さい。どうせ立ち会っていても、話す内容はわかりませんし、わたしはタイガさんの食事を用意しに行ってきますから」


 そう言ってコトリンティータは椅子から立ち上がり部屋から出ていく。それを見届けた後、どのように話をつけるか考える。


 コイツと出会った当初は受肉しておらず、マリアリスと同じく人には認識されない存在だった。言葉も話せず、ゲームでよくある可愛いタイプのスライムではなくて、ドロドロとしたホラー系スライムだったため、その辺の浮遊霊と同じく特に気にすることもなかった。


 暫くして、言葉を話し始めた。カタコトでイントネーションも変だったが、コミュニケーションには困らず、自分で宇宙人だとか言う変な奴だったので、当時は愛嬌のある怪異として仲良くしていたのだが、その頃から外出することが多くなり、やがて帰ってこなくなった。


 ちなみに千寿というのは、俺が付けた名前である。千寿曰く、本名は人間には発音できないと言っていたし、そういう設定なのだということで名付けたわけで。


「さてと。コトリンが居ない内に、まずは……」


「あたしが受肉している理由と、何故ちとせの姿をしているのかって話からかな」


 気にはなっていたが、コトリンティータの前でその話をするのは躊躇われた。いくら千寿の言葉がコトリンティータに伝わらないとしても、俺の言葉から察することは不可能ではない。仲間内でも……いや、むしろ仲間だからこそ手札を見せるリスクは極力避けたかった。


「実はちとせって、中3の頃には白血病に侵されていたの。高校進学はしたけれど、一度も通うことなく死んじゃってる。あたしがちとせと接触したのは彼女が入院している病院。彼女が死んでしまうことに気づいた時、交渉するために近づいたの」


 千寿は以前からちとせの存在は知っていた。俺の周りの人については掌握していたのではないだろうか? しかし、いつの間に……。


「知っての通り、ちとせには霊感がないから、あたしを見ることはできない。でも、あたしから触ることはできた。流石に霊感のない人に認識させるのは大変だったけどね。そして皮膚をなぞるように文字を書いてきた。『生き続けたい?』って」


 大きなお寺と墓地を管理している紐鵜家は、地元では知らぬ人はいない名家。ほとんどの家が檀家であり、有力者と言っても過言ではないくらい発言力がある。ちとせの祖父は霊能力があり、幼い頃は大変世話になった大恩人なのだが、世間的には昔流行った霊能力ブームにのったエセ霊能力者と決めつけられていたのは、俺にとって深く悲しい思い出。また、ちとせ自身には全く霊感も霊能力の才能もなく、一緒に遊んでいた幼い頃は俺のことをよく羨ましがっていた。


「……もしかして、食ったのか?」


 受肉した理由、それはちとせの血肉を摂取したから……そう考えた。


「食べるか! ……あたしがしたのは消化じゃなくて同化。その証拠にあたしには大牙の小さい頃の記憶もあるよ? 例えば……」


「いちいち言わなくていい。千寿を見ていると感じる違和の答えもわかった。記憶や経験も千寿の中で生きている。だが、それはちとせが望んだことなんだよな?」


 理屈でわかっても、簡単には割り切れない。例えば、肉体は本人のモノでも別の記憶と人格の人と別の肉体に記憶を引き継いだ人のどちらが本人かという話。個人的に人とは心や記憶であると思っているが、肉体やそこに引き継がれた遺伝子を本能で求める人の否定は難しい。俺の定義の場合、記憶喪失の人は別人ということになってしまうのだが、それこそ当事者になったら割り切れないのではないかと俺自身が考えているからだ。


「うん……ちとせが望んだこと。千寿の記憶も反映されているけど、ほぼちとせ。……千寿のおかげで高校生活も体験できたし、こうして大牙とも再会できたし」


 だからこそ、ちとせベースで融合をしたのだとしても、人間でない千寿をちとせとは呼びたくなかった。


「まぁ、他にも気になることはあるけど……とりあえず俺は元の世界に帰りたい。千寿はどうしたい?」


「もちろん帰りたい。お母さんやお父さんのこと気になるし……」


「それなら、俺に協力してくれ。帰る手段に心当たりがある」


「わかった。何をすればいいの?」


「そうだな……まずは『眷属契約』を結ぼうか」


 そんな話を切り出して席を立とうとするとコトリンティータが戻ってきた。


「おまたせ。どうぞ」


 彼女は2人分の果物を持ってきた。それを俺と千寿の前に置く。すると、困ったように千寿は俺を見る。それで彼女が何を言いたいのか俺は察した。


「あー。千寿の分は要らないんだ。だから、それはコトリンが食べて」


「え? 果物お嫌いでしたか?」


「いや。例えば、精霊は食事をする存在か? それと同じ意味だと考えて良い」


 そう伝えると、彼女は納得したのか皿を自分の方へと引き寄せた。


「厳密には食べられなくもないんだけど……食べても意味がないし」


 彼女の食事とは、人のフリをする所作なだけなので、人間ではないとバラしている現在、食料を無駄にするだけと遠慮しているのだ。


「それで、どうなりました?」


「うん。一緒に協力して貰えることになった。悪いけど、千寿も世話になるよ」


 とは言っても、人間と同じ食料は必要としない上に睡眠すら不要な存在である千寿が何を世話されるかというと疑問ではある。強いて言うなら、屋敷を拠点にするので気を使わせてしまうことくらいだろうか?


「まぁ、そうなると予想していましたから構わないですけど……今後は具体的にどうしますか?」


「予定通り、果樹園……まぁ、種さえあれば農園兼用で構わないと思うけど……人口が少ない間は最小限の範囲で生活できるよう、食料生産を進めて欲しい。まずはまだ復活しそうな木を引っ越すところからだね。面接した結果、農業経験者がいたから、その人から技術を学んで子供達が農業できるように支援する感じで。日中の警備はコトリン。夜間の警備は千寿という感じで分担しよう。人の目がある時は、コトリンが目立った方が良い」


 千寿に睡眠は必要ないので、夜間警備にはうってつけの人材である。


「夜はわたし、やらなくても良いのですか?」


「うん。千寿が現れたから、ちゃんと働いてもらう」


「別にいいよ」


 千寿も問題ないと言わんばかりに気軽に応じる。事実、千寿を倒すのは難しいだろう。


「千寿も構わないって。ちなみに俺は1人、メイドを雇ったから、彼女に指導しつつ観察する」


「メイドですか?」


 それを聞いたコトリンティータは俺を嫌そうに見る。他にも視線を感じると思ったら、千寿も同じような視線を送っていた。


「何? 問題ある?」


「実際色々問題はありますが……どうしてメイドを?」


「2人での生活から40人近くに増えた。そうなると、コトリンは俺だけに付きっきりというわけにはいかない。かといって、俺が1人で行動するには、こっちの世界の事情や常識を理解していないし、雑務を代わりにこなしてくれる人材も必要になると思ったからだよ」


 実際はそれだけではない。ただ、まだ本人からメイドを続けられる意思を確認していない以上、未確定事項は伝えたくない。もちろん、面接時にその子からメイドをやる意思を確認している。しかし、やる気があるのと、続けられるのは別物である。やっぱり無理となった場合、俺の素性は可能な限り隠しておきたい。何が何の火種になるか怖いから。


「そうでしたか。……まぁ、そうですよね」


 何故かホッとしたような感じのコトリンティータ。


「うわぁ、わかりやすい……でも、大牙はチキンだからねぇ」


 千寿の言い方で俺は何を心配されていたか理解した。


「……俺、どう思われているのやら……まぁ、男である以上、どう否定しても疑惑は晴れないだろうけど。さて、食べ終わった事だし、『眷属契約』しようか?」


「その『眷属契約』って何?」


 まぁ、聞いてくるのは当たり前か。中身がちとせなら、全肯定するわけがないし。


「一緒に帰るための手段だよ。紐付けだと考えても良い」


「ふ~ん……まぁ、いいけど」


 この説明、毎回困るんだよなぁ。力を貸せって言って素直に聞くタイプじゃないだろうし、千寿の場合、結婚のようなものって言っても、逆に全力拒否するだろうから。


「書斎にあった薬品、また使わせて貰うよ?」


「黒銀鉱の粉ですか? 良いですけど……あれで残り全部なので」


 それを聞いて、初めて貴重品だったことを申し訳なく思い、


「あ、ゴメン。この世界ではありふれた品なのだと勝手に思い込んでいた」


「入手も難しいのですが、かなり高額で……それもタイガさんを召喚するために使用していた残りなのです。使い切ったら当面は購入できないと思って下さいね」


 それでも使わせてくれることに感謝しつつ、無事に千寿と眷属契約を結んだ。


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