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03-1   セレブタス侯爵夫人を救出せよ(後編)Ⅰ(4/5)

 翌朝は明け方から行動を再開する。


 ……ここだけの話、夜間に行動しなかった理由がある。


 本来であれば、夜間の内に街に潜む連中を掃除してしまうのがセオリーである。長引けば長引く程に街から出られない住民に不満が蓄積してしまうのだから。……そもそも、判っている敵はとっとと捕らえよって話になる。


 しかし、戦えばチート級の強さを発揮する従属契約済みのリベルタス兵だが、当然ながら弱点がある。もちろん、弱点を抱えながら戦えないわけではないのだが、危険を冒してまで戦う理由もない。……仲間が危険に陥ることではなく、弱点を知られて広まることが心配なのだ。


 つまり、これも手札の1つというわけだ。折角日中の疑似チートっぷりを見せつけたのだから、リスクを背負ってまで夜間は行動しない。……これにビビって戦闘を仕掛ける人が減ってくれることを祈るって感じで。


「それじゃあ、行こうか」


 出発の準備を終えてキヨノア達と合流した後に潜伏兵のアジトを見つけて強襲することが本日の予定。午前中で片付くことを祈りつつ。


「お待ちください」


 まさに屋敷から出る寸前。ユーカリンデさんが俺達を呼び止めた。


「わたしも同行させて下さい」


 チラッとコトリンティータに視線を向ける。


「ユーカリンデさんの手を煩わせるようなこともありませんし、怪我されると危ないかと」


 コトリンティータが言葉を選んで丁重にお断りを入れる。でも、早朝にも拘わらず、彼女の準備具合から判断するに最初から付いて来る気満々だったのだろう。


「心配無用です。わたし自身は後れをとりません」


 つまり、彼女の配下は敵わなかったわけか。


「コトリンティータ様。どうかユーカリンデ様をお連れ下さい。彼女には彼女の立場があるのです。どうか、ご理解を……」


 ユリアナさんからの言葉添えから断り難くなってしまった。コトリンティータが確認の意味でアイコンタクトをしてきたので、俺は苦笑しながら頷く。


「わかりました。ただし、不要な怪我させたら問題ですので、こちらの指示には従って下さい」


 彼女が了承するのを確認した上で、キヨノア達と合流。待ち合わせ場所には連絡役を務めてくれたカナリアリートと隊長のキヨノア。そして、リョーラン率いるフォックスベル班が揃っていた。


「あれ? ユーカリンデ様がどうしてご一緒に?」


「わたしが頼んだのです」


 ユーカリンデさんの答えを聞いて、尋ねたリョーランは思うところがあったのか納得したのかは知らないが、とりあえず会話が終わったようだ。


「これで全員かな。行こうか?」


「タイガ様。わたしは留守番をさせてほしいと考えています」


「おや、珍しい」


 キヨノアからの申し出がとても意外だった。


「どうした?」


「いえ、内部のじゃれ合いを止める人材が必要でして……」


 言葉を随分と選んでいるようだが、要は問題児同士の喧嘩の仲裁役ということか。


「わかった。……つーか、手間かけさせてゴメン」


「大丈夫ですよ、タイガ様」


 俺とキヨノアの関係性も随分と変わった。一応年上なので、最初は気を使っていたのだが、勇者とその従者という関係であることを自覚しないと他に示しがつかないと言われ、今の関係に少しずつ変化していったんだよな。


「んじゃ、行ってくる」


 俺の一言を合図にコトリンを先頭に街中を歩き始める。実は出発前に昨日も使った【透視眼】、【審判眼】、【魔晄眼】の3つを掛けており、見るだけで敵が判るという状態にしてある。


 昨日の様子だと遠目から俺達を監視していると思うんだよな……逃げるのに失敗していればだけど。昨夜の内に夜間警備の目を欺いて逃げ切る……なんて可能性はあるわけで。どちらにせよ答え合わせはできん。


 なお、ユーカリンデさんの相手はリョーランがしている。幼馴染みだという話は聞いていたのでボディガードとしてはうってつけと言えた。


「ところで、ユーカリンデさん。この辺で精霊術を利用した結界のような場所ってある?」


「精霊術を利用するような施設はないですけど」


 紋章術と言おうとしたが、巫術士がいるかもしれないし、念のために聞いてみたが、やっぱり無いか。


「なるほど。じゃあ、多分あそこだな」


「え?」


 俺の目には精霊術の使用反応がある建物が光って見えていた。


「あそこって何処?」


「……タイガ様に付いて行けば判りますよ」


 理解が追いつかないユーカリンデに慣れているリョーランが落ち着かせている。


「タイガ様の目は特殊でして。勇者の能力らしいです」


 ……と、ここまでで終われば良いものの、リョーランの説明は事細かく、俺の説明したことのある範囲を自分のことのようにペラペラと雄弁に説明する。


「リョーラン、話し過ぎだ」


 コイツは事の軽率さを全く理解していない。


「お言葉ですがタイガ様。ユーカリンデ様はタイガ様を勇者と知っております。隠す必要は感じられませんし、逆に隠すことで不信感を招く恐れだってあると思うんです」


「そうですね。でも、タイガさんが言っているのは、そういうことじゃないんですよ? そもそも、そんな重要なことを話して、誰が聞いているか判らないのです。ユーカリンデ様だけが聞いているとは限らないですよ?」


「……あっ」


 慌てたリョーランは周囲を見回す。……遅いけれど。


「大丈夫。疑わしい人はここにいない。だけど、今後は注意してほしい」


「……申し訳ありません」


 悪意無いし、反省しているし、実害無かったから手打ちにする。グダグダ言ったところで、ただのハラスメントにしかならん。


「さて、じゃあ、改めて向かうけれど……高確率で変装した連中とすれ違うことになると思う。だけど、気づかぬフリをするように。取り押さえるのは状況を確認した後ね」


 小声で指示を飛ばしつつ、精霊術の掛けられた場所……多分人払い的な何かだろう……へと向かう。


「タイガ様って、そんな目をお持ちなら無敵なのでは?」


 声を潜めてリョーランに問いかけている。……聞こえているけれど、このくらい小声であれば、俺達と並んで歩かない限り聞こえないだろう。


「ううん。タイガ様の世界は精霊の加護がないから、身体能力の上限がかなり低いの。だから、みんなタイガ様を護衛するの」


「じゃあ、しっかりお守りしないと……」


「だから、わたし達がいます」


 随分と誇らしげに言うリョーランは若干声が大きかった。みんな、2人の会話を聞いているものだから、リョーランの声の大きさには多少警戒心が強まる。


「リョーラン、そろそろ俺にまつわる雑談は終了で。……そこだ」


 視線の先には普通の民家と思われる一軒家。もちろん、平民基準。ただ、気になるのが、地下があるっぽいところ。……当然ながら普通の民家に地下室はない。何故判るかというと、【透視眼】の巫術の効果がマリアリスのレベルアップに伴い上がっているからだ。結果として地下の様子は見えないものの、名前の表示が見えるようにはなったんだよね。


「なるほど。建物内の見張りは2人。そして、外……あそこにいるのも多分仲間だ」


 思ったより人数が少ない。


「では、行ってきます」


「待ちなさい」


 リョーラン達がアジトと思われる民家へ突撃しようとするのをコトリンティータが止める。


「人質は?」


「地下にいると思う……だが、地下にいる人間が人質かどうかは未確定。視界に納めないと判断はつかないな」


「外にいる人は敵兵確定なの?」


「うん。昨日、俺達を見ていた時に敵兵として確定していた。間違いない」


 コトリンティータの質問に答えると、彼女は考え込む。


「外にいる人を倒して中の人に知られると、地下に居る人質が危険?」


「正解」


 まぁ、これくらいなら誰でも理解できることではあるのだが、言葉にして確認することで、気づいていないかもしれん連中との情報の共有ができる。


「……ということは中からね」


 正解……しかし、それが難しい。厳密に言えば、俺が1人で行けば今ならば制圧が簡単だ。マリアリス達のレベルも上がって、万能は言い過ぎではあるが、無敵には限りなく近い感じになっているんだよな。けれど、できれば俺はもちろん、コトリンティータやカナリアリートが加わらず、フォックスベル班だけで制圧してほしいんだよな。……今後を考えて。


「同時にやれば良いんじゃ?」


 ボソッとリョーランが言う。


「寝かすことで一撃必殺ができるのなら、それで無効化できるかと」


 ……まぁ、地下に敵が控えていて、中の人の物音で様子を見に来たらアウトかもしれんけど、現状では最善手かもしれんなぁ。


 チラッとコトリンティータが俺を見る。俺も彼女のアイコンタクトに対し了承の意味で頷く。


「判りました。現場指揮、お願いします」


「了解しました」


 大回りして総勢10名がアジトらしき民家を囲む。


「タイガさん、わざとリョーランさん達に任せようとしたでしょ?」


「正解。最近はすぐ気づかれちゃうなぁ」


 コトリンティータとそんな話をしつつ、準備が整うのを待つ。


「……全部、予定通りなのですか?」


 驚くユーカリンデの一言に対し、返事をしようとする前に、作戦が始まってしまった。


「とりあえず、行かないと」


 返事を考えている場合ではなく、急いで民家へと向かう。扉に辿り着くまでに窓から【薬球の放擲】が投げ入れられ、見張りの男性に対し別の者による【薬矢の行射】が放たれる。結果、成功していれば全員が眠っているはずである。


 コトリンティータとユーカリンデさんを連れて3人で扉から中に入る。多分裏口から入ったであろうフォックスベル班のメンバーが部屋の中にいる男女2名を縛っていた。


「地下への入り口は?」


「こちらです」


 どうやら【薬球の放擲】の音無き爆風に床が捲れて地下入り口が露わになっていた。数名ではあったが若い女性が囚われていて、その中に見張りは含まれておらず安心した。

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