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02-4   セレブタス侯爵夫人を救出せよ(前編)Ⅳ(5/5)

 情報の筒抜けに関しては、もう疑念に思わないようにした。いくらチート能力があろうとも素人の知識量では頑張っても情報の完封は難しい。……これが結論である。


 リベルタス側の要望である「ギルド制度の運用」に関しても、大雑把に把握していて近日中に運用する予定だから、しっかり学ばせて貰うと積極的に申し出られたところだ。


 また、個人的な要望である「従者候補のスカウト」に対しても各村へ通達も既に出してあると言う。……もし、試されて相応しくないと判断した場合は拒否をしたというのだから、騎士爵夫人達と従属契約していなかったらと思うとゾッとするものがある。


 尚、予想通りマユマリンさんはこちらを通っていないらしい。


 重要な話を一通り終えた後。コトリンティータ達は全面的にこちらの話が通ったことに安堵しているようだったが、俺としては内心穏やかではなかった。……一方的に不利な条件をのんで、彼女に何の利益があるのか? もしくは、何を引き換えにされるのか?


「あの、話も落ち着いたことですし、ヨークォリア様にご挨拶をしたいのですが」


 やり遂げた感が滲み出ているコトリンティータの発言で思い出した。そういえば、先代卿爵夫人であるヨークォリアさんは身体の調子が優れないのだと聞いている。


「そうですね。では、確認しますので……」


 メイドに先行させて許可を得た後、俺達はヨークォリアさんの私室へと挨拶に訪れた。


「こんにちは、ヨークォリア様。お久しぶりです。……お身体の調子は如何ですか?」


「これはコトリンティータ様、それにナオリッサさんも……リエララさんはお元気?」


 ベッドの上に座る彼女は完全に病人扱いであり、かなり弱っているように見えた。


「はい、元気ですよ。ただ、遠出は辛いそうで……代理でわたしが来た次第です」


「そうね……彼女も少ししか歳は変わらない……もうそういう歳よね……」


 ナオリッサさんの言葉を受けて、彼女は納得しているようだった。


「ご紹介しますね。こちらが勇者のタイガ様です」


「初めまして、タイガ=サゼです」


「こんな状態で失礼するわね。若い勇者様。わたしはそこにいるユミューネの母親。今となっては何の力もない老体です。何もないところですが、ごゆっくりして行ってください」


 見た感じ80歳を超えた老婆にすら見える。これは老け込んでいるというレベルではない。


「タイガ君。この人、術で呪われているよ。解除する?」


 横でユインシアが俺に告げるが、返事はできない。代わりに首を左右に振る。


「わかった」


 誰にも姿を見られることがないユインシアの言葉を聞き流しつつ、改めてヨークォリアさんに問いかける。


「具体的に、どのような症状でしょう? 俺の力で対応できるかもしれません」


「そうですね。具体的には視界が狭くなったそうです。白い靄が掛かったみたいに見えない場所があるみたいです。それに関連して、歩行困難、頻尿、睡眠不足と、見た目通り老化の進行速度が異常に早く……」


 ヨークォリアさんに尋ねたのだが、答えたのはユミューネ卿爵。本人に答えさせるのは恥辱的だと思ったからなのか……いや、多分……。


「本当に情けない限りです。恐らく、リベルタスの危機に駆け付けることができなかったのも、わたしのような足手纏いがいたから……まさに生き恥を晒している状態で本当に情けない」


 恥ずかしいというより、屈辱的だったのかもしれない。


「コトリンティータ様には本当に申し訳なく思っています。こんなに良くして頂いたのにも拘わらず、いざという時に恩返しのために駆け付けることもできず……」


 単純な老衰……もしくは病気の類で動けなくなったのだとしたら、こんな風に自分を責めても仕方ないのかもしれない。


「お気になさらないで下さい。幸いなことにタイガさんを召喚することに成功しました。彼のおかげで自分の未熟さを痛感し、遅すぎかもしれませんが貴族として恥ずかしくないよう教養を学ばせて頂いている次第です。それと同時に彼の助けを借りて、何とかリベルタスも自分の力で理解した上で復興しつつあります」


「そうなのね。……タイガ様。わたしからも礼を言わせて下さい。コトリンティータ様にご助力頂きありがとうございました」


「いえ。自分はたいした事をしていません。口で言うのは簡単で、実際に実行している彼女こそ称えられるべきと俺は考えます」


 ……そう、リベルタスの復興はコトリンティータの努力の結晶。そのように立ち回ったのだから当然である。……まぁ、面接だけは俺の功績ではあるかなとは思うが、それだって近日中に誰でもできる方法を考えなければいけない。


「既にユミューネからは聞いているかもしれませんが、コトリンティータ様が来て下さると聞いた時点で、可能な限りの協力をけして惜しまぬようにと頼んであります。遠慮なく申し付けて下さいね」


 多分、頼むとは言っているが、実質は命令のようなモノだろう。


「ありがとうございます。ですが、そんなにして頂いても返せるものがあるかどうか……」


 おっ、気づいていたか! てっきり気づいていなかったかと思ったんだが、無料の怖さに気づいているなら、心配ないかな。……少なくとも、少し前までの彼女なら、貰えるモノを善意と信じて疑わなかったかもしれない。……まぁ、そんなことはありえないんだけどね。


「お気になさらなくて大丈夫ですよ。実は既にセレブタス家には何度も助けて頂いていたのです。ですから、今回のことは細やかながらの恩返しのようなものです」


「……そうでしたか。両親が何をしてきたのか、今回の危機を迎えることがなければ知ろうとすら考えなかったので、亡くなってもなお、わたしのために残してくれていた社会との関係に感謝しかないです」


 俺だったら、何があったのかと聞いてしまいそうではあるが、考えてみれば聞き出すということは卿爵家の片付いた恥を掘り起こす事にもなりかねない。あちらが話さない以上、深掘りは野暮というものか。……他人同士の会話であれば冷静に考えることができるけれど、当事者であればリアルタイムで俺はそんな判断できるだろうか?


「お母様が見つかると良いですね?」


「……そうですね」


 そう答えるコトリンティータの表情には若干の諦めのようなものを感じた。気のせいかもしれないが……でも、生きているということは伝えられないしなぁ。


「これまで、とても苦労なさったことでしょう。もう心配いりませんよ。ユミューネにコトリンティータ様の補佐をするように言いつけてあります。わたしの余命に賭けて、お守りします」


 ……余命に賭けてか……中々聞かない言い回しだよなぁ……というか、こっちの世界では稀によく聞くレベルの慣用句なのか?


「そんな……まだまだ長生きして下さい。教わりたいことが沢山あるのです」


「そうですよ、お母様。病気に対し弱気でいることは病状悪化を招くと言います。絶対に弱気は厳禁ですよ?」


「……そうね……ありがとう。でも、年齢的にも充分生きたと思っています。確かにコトリンティータ様にはお教えできることが沢山あるかもしれません。ですが、わたしが亡くなった後も遠慮なくユミューネを頼って下さいね」


 なんだかんだ言っても自身の死期を悟っているのかもしれない。ただ、ヨークォリアさんの年齢って確か50歳なんだよな。……いや、流石にこの世界であったとしても50歳はまだ老衰するほどでは無いだろう……誰もツッコミを入れないところに違和感があった。


「あの、もしかして気づいていないかもしれないので、お伝えするのですが……ヨークォリアさんは何者かによって呪いを掛けられていますよ。病気そのものは老化による免疫力低下が原因ですが、老化そのものが呪いの効果です」


「「え?」」


 どうやら本気で気づいていなかったようで……精霊術の影響を疑わなかったことに驚いた。


 いや……もしかして、術の影響下にあるか確認する術が無いのかもしれない。




「それは事実ですか?」


 ユミューネ卿爵からの確認。……ガチ?


「事実ですが……もしかして、術の影響下か確認する術がないのですか?」


 俺の問いに、ヨークォリアさんも卿爵を見つめる。


「わたしの知る限りはないですね。攻撃系の術であれば、受けた者は自覚があるでしょうが……衰弱を促す系は自覚症状を得ることが難しく……」


 探知系や結界系の紋章術って、失われた? まさか、存在していないとか?


 術者がいてダメージがあれば、それは攻撃されたと自覚できる。しかし、直接ダメージが無ければ……術者が疑わしい行動をしない限り怪しむことすらないだろうし、掛かった自覚もない。それでも、術の影響下に入る前、反射的に抵抗しそうなものなのだが……?


「そうでしたか。……それでは、仕方ないのかもしれないですね」


 腑には落ちていないが、今は犯人捜しよりも……。


「えっと、では、重要と思われることを先に。まず、俺の力で解呪することは可能です。ですが、解呪したところで老化速度は通常に戻りますが、本来の若さに戻ることはないです。それと、視界が狭くなったり、歩くことが辛くなったりなどの症状は先程も説明しましたが、老化したことによることが原因で発生した病状ですので、緩和は可能でも当然完治しません」


 ……ユインシアが言うには、この呪いは老化だけを司っている。だから、解呪が全てを解決するには至らない。現在も寿命を縮め続けている。


「……とまぁ、ここまでが一般論の話です」


「一般論?」


 ヨークォリアさんだけが聞き返す。俺がこう話したことで、他3名はピンときたのだろう。


「幸い、ヨークォリアさんも資格があるので、それらの問題は従属契約をすることで回復することが可能ではあるんです……どうしましょう?」


 言葉を投げた先はユミューネ卿爵だ。既にアリサリアさん達の件で従属契約の際のリスクに関しては説明済みである。彼女も俺の言葉の意図に気づいたことだろう。


「お母様、如何致しますか? 勇者様と契約するということは、当然ながら身体を治療して終了とはならないでしょう。それこそ従者として我々はコトリンティータ様にではなく、勇者様の傘下に入るということになります。また、契約の際にはタイガ様と唇同士を重ねる必要が出て参ります。わたしはお母様の選んだ道を尊重します」


 ……うん、そんなことを全く考えていないよ? 治れば終わりでも俺は構わない。ただ、これで先程までの無料行為に対し、対価を払ったことになればと思っただけですし?


「……わかりました。こんな老体で良ければ、タイガ様に差し出しましょう。これで娘達の足手纏いにならないと思えば、安い代償。是非、従者として末尾に加えて下さいませ」


 悲壮感漂う決断の仕方に気の毒に思ったので、思わずユミューネ卿爵を見る。しかし、彼女も目が合うと母親に追随する。


「お母様が助かるなら……何でも致します。是非、お願いします」


「わかった。こちらの準備が整い次第、契約することを約束します」


 ユミューネ卿爵の態度から、多分彼女の欲する対価を与えられただろうと安堵した。




「タイガ様、ありがとうございました」


 ヨークォリアさんの部屋を出て、改めてユミューネ卿爵に礼を言われる。


「いえ。もしも、ユミューネ卿爵よりも若くなってしまったら、すみません」


「え? ……それは困ります。とはいえ、母には死んでもらっては困りますから、わたしも契約してしまえば、わたしも若返って問題ないですよね?」


 そう言って、ナオリッサさんの方を見る。それに対し、彼女も苦笑いを浮かべるばかり。


「まぁ、動機に関しては冗談です。ですが、契約することに関しては本気ですよ? それとも、わたしでは力不足でしょうか?」


 ……そんな風に言われると、誰にも断ることはできなかった。

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