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01ー1   リベルタスを復興せよⅠ(3/5)

 ノンフィクションで生まれて初めてゴーストタウンというものを見た。


 リベルタスはアルタイル領の主都と言っていた。栄えていた都市が1年でこの状態になったとは考え難い。民家や店など建物も多く、街外れには畑や果樹園が広がっていた跡が見られる。が、長いこと放置されているようで荒れ放題。何よりシャッター街もビックリなほど人がいない。第一街人すら視認できなかった。


 散々歩き回った後は屋敷に戻って、街へ出る前までいた応接室のような部屋で休憩する。


「昨日まではまだ人を見かけていたのに……」


 現状確認のため、コトリンティータに街の案内を頼んだのだが、想定以上の惨状に案内していた彼女すら動揺の色が表情にでていた。


「現状の確認はできた。少し1人で考えたいんだけど、とりあえず屋敷で本が一番ある部屋に屋敷中の本を集めておいてほしい。それと俺の寝る部屋の確保も頼む」


「わ、わたしがですか?」


「他に誰もいないだろ?」


 街の中で、この世界の文字も読めることは確認済み。手っ取り早く正確な情報を入手するには本を読むのがベストである。仮に本がすごく高価な世界だったとしても領主の屋敷に本がないとは考え難い。……ここに無ければ何処にも無いまである。


「わかりました」


 不服そうにしつつも父親が使っていたという書斎に案内して貰う。他の部屋の本については部屋の前に積んでくれれば良いと伝え、部屋に入って扉を閉める。


「ふぅ」


 コトリンティータといったん離れたことで一息吐く。


「おかえりデシ」


「ただいま。他の連中は現れない?」


 問いかけにマリアリスは無言で頷く。俺が外出する際、彼女は留守番すると言ってきた。気持ちはわからなくもない。少し出歩く程度ならともかく、冬の日本よりかなり温かい初夏のような気温の街中を端まで歩くという苦行。元々外出が好きじゃない性格でもあるので、輪を掛けて嫌なのだと思う。最も実態の無い彼女に対し、気温差が影響するかどうかは疑問がある。


 ちなみに俺が言った「他の連中」とは、マリアリスと同じ境遇の怪異達のことだ。


「とりあえず、色々調べものをするから邪魔しないように。手伝う気があるなら、本のジャンルを適当に仕分けてくれると助かるんだけど……」


「えっと……ここの文字……読めないデシ……」


 あ~、そういうことか。オマケが有効なのは俺だけってことね。本好きのマリアリスには可哀想なことになったなぁ……面倒なことにならなきゃいいけど。


「そっか……そいつは残念。退屈だったら俺がこれらを読んでいる間に街中に生存している人の人数と居場所を把握してくれたら助かるんだけど……」


 そう伝えるとマリアリスは黙ったまま頷いて部屋を心から嫌そうに出て行った。……外へ行きたくない。しかし、退屈で限界が近いから仕方なく……と言った感じだろうか?


 一方、無職でゲーム三昧な俺は体内時計が狂っていて、今では完全に夜型人間。身体はまだまだ元気。ということで、この超便利オマケ機能について調べる。


 ちなみに現時点でわかっている機能は、元の世界へ帰るまでの【ミッション】という名のナビゲート機能。人物の名前とレベルの表示機能。会話と読み書きの双方向自動【翻訳】機能。あとは機能と呼べるものかは判らないが、スターシアからの【DM】(一方通行)機能だけ。でも、コマンドは沢山あって、それらを確認したわけではない。……というか、こんなにいっぱい機能があるならマニュアルか、せめてヘルプメッセージが欲しいわ!


 色々調べてみた結果、思っていた以上に便利な機能がついていた。その中でも有能だと感じたのは【検索】機能。俺が一度でも理解すれば、その後忘れたとしても、検索をかけることで関連した記憶を閲覧できるという忘却対策機能である。これは俺が生まれてから全ての記憶が対象のようで、昔読んだ教科書や漫画の内容まで閲覧できる。ネット検索できないから不便だと思っていたが、既に知っていた情報であれば、忘れていても大丈夫というのはありがたい。残念な点があるとすれば、聞いたこともないモノは当然調べられない。また完全に理解できていないものは理解できている範囲のものが表示される。そして、厄介なのが、間違って理解したモノは間違ったまま表示されるという点である。うろ覚えは要注意という奴である。それを差し引いても、多分これが一番の便利機能だ。


 更に検索機能を元にした【解析】機能。多分名前表示はこの機能に関連されているのだと思うけど、視界に入ったものの情報を表示してくれる。簡単に言えば見間違え防止機能という感じか……欠点は検索機能と同じく、知らないモノは不明のままだし、間違って憶えていた場合、間違ったまま表示される。検索機能ほどではないが、これも有能な機能には間違いない。


 あとは【オートマップ】機能。選択できるが何も表示されていない【アビリティ】機能。最後に一番謎な【ユニット】機能。これは選ぶことが出来ない上に色もモノクロでアイコンが表示されていて、まだ使えない機能だと露骨に表現されていた。


 1時間ほど試行錯誤して一通り確認した後、今度は蔵書漁りを始める。全部自動翻訳されているため、読むのには苦労はしない。問題は全てを理解しながら読むのに掛かる時間だが、残念ながら時間をかけることは状況が許してくれないだろう。


 1日で読み尽くすのは不可能。何せ理解しながら読み進めないといけないのだから。それに途中でどんなイベントが発生するかもわからない。そうなった場合、続きを読むのは暫くお預けなんて事態になりかねない。なので、まずは本のタイトルでどういったジャンルがあるのか分類しつつ、タイトルだけで判別できない場合は、少しだけ読んで重要度を決める。


 順調に仕分けは終わったが、どうしても気になるものがあった。この世界では『精霊術』と呼ばれる魔法の類の書物である。当然俺でも使えるかもと期待して最初に読み始めてしまった。


 この世界の精霊のほとんどはスターシアのような人型ではなく、シルフやノームといった、こっちの世界に伝承されているような精霊でもない。異世界だからとあまり気にしていなかったが、様々な色で発光する宙に浮く全長20センチくらいのクリオネのようなものが精霊であり、この世界の万象を司っているらしい。


 精霊術はおおまかに2種類、巫術と紋章術に分別される。


 巫術は発動条件も特別なことは何もなく、威力もコストに応じて調整可能で、応用が利くのでやれることも多い。だが、精霊に選ばれる必要性があり、生まれつきの素養のため、誰でも習得できるものではない。単属性しか使えないのも特徴だ。


 それに対して、紋章術は誰にでも使用でき、複属性も扱えるが、近くにその術に対応した属性の精霊がいる必要があり、効果も威力もコストも決まっていて、未経験者でも術に影響がでない。だが、紋章術の発動媒体である紋章は、それを構成する核となる精霊文字の伝承が既に廃れており、現在は見本に残る紋章を残すのみで新しく紋章を生み出す技術はないらしい。


 特に術を使う上で気を付けるべき点というのが、一部を除き、基本的にあらゆる生物は精霊を見る事ができない。紋章術を使う際には、その属性に応じた精霊の存在が不可欠だというのに、その肝心な精霊が術者に見えない。つまり、運が悪いと不発という代物。……まぁ、俺が見た感じ、火のあるところに火の精霊、水のあるところに水の精霊が高確率でいるようではあるが。また、巫術士は精霊を見る事ができるが、自分の相棒の精霊と同じ属性の精霊のみしか見る事ができない。そもそも巫術士は単属性……相棒の属性の精霊術しか使えないので、他属性の精霊を見る必要はないし、相棒が一緒にいるので、いつでも場所を選ばずに術が使えてしまうわけだ。そんな巫術士も属性を問わず1度でも紋章術を使用すれば巫術士の資格を失う。そういったリスクも抱えている。……どんな便利な術も万能ではなくリスクはあるってことだ。


 そういった条件を度返しできるのが精霊王達への干渉だ。精霊王に選ばれた巫術士は存在せず、紋章術を使用するしかない。その紋章もほとんどが廃れている上に精霊王が承認していない限り発動しない。ちなみに異世界からの召喚紋章術も精霊王の力……そりゃ、失敗率高いわな。そんなわけで、巫術士であっても精霊王に干渉する紋章術を使用できるし、巫術が使えなくなることもないんだと。


 もちろん、その本には細かい事や専門的なことも書かれており、理解することに専念。この世界は精霊術が進歩したことで、化学はあまり進歩しておらず、科学=物理学的な印象を受けた。もちろん治療師や薬が存在する以上、化学や生物学も研究はされているようだが。


「へぇ……『契約紋章術』か……面白そうだな」


 2冊目として手にとった古い本。かなりボロボロで少しでも雑に扱えば分解してしまいそうだ。各ページには手垢もついていて読み込まれた節はあるが、埃も被っていたので長い間読まれなかった本なのだろう。そこにはとても興味深いことが書かれていた。


 『契約紋章術』は元々初代勇者が使い始めて、それが世に広まった紋章術。建国当初は盛んに使用されていたらしい。使用されていたのは主に3種類。まず3種類の基礎となった『眷属契約』。これは巫術士が精霊の眷属となり、自然の声を人に伝える……という使われ方。例えば、「雨期が近づいているから収穫を急げ」とか、「山火事が発生するから逃げろ」とか。ただ、巫術や紋章術が発達した現代では不要な術となったらしい。


 次に五代目勇者が使っていたと言われている『従属契約』。眷属契約をアレンジして自作した術らしく、仲間を強化し助けを得るためのモノらしい。そもそも『契約紋章術』とは、「自分はこれだけ代価を払いますので、力を貸してください」という術である。五代目勇者は、代価を報酬と定義し、仲間が求める報酬を術による契約で約束してしまったという。……勇者に叶えることのできない無理難題を言う輩はいなかったのだろうか? ……まぁ、いたんだろうなぁ……何故なら、従属契約は後に婚姻契約と呼ばれるようになったらしいから。廃れた理由も察することができるというもの。


 最後に唯一現代でも残っている『隷属契約』。これは知能レベルが獣以上な生物を支配する紋章術。これは九代目勇者が開発した術らしいが、元々は言語の通じない獣類との意思疎通を図るために開発された術。しかし、時代と共に家畜制御の術として伝えられるようになってしまったということらしい。そして、残念なことに奴隷を管理するために使っているという犯罪行為も確認されているとのこと。


 どんなに素晴らしい志で開発されたモノでも使う人によってダメにする。これはどの世界でもきっと一緒なのだろう。悪用するものが増えて問題となったために使用禁止とされ、その内細かい仕様が忘れられて、膨大な時の中に埋もれてしまった。


 しかし、翻訳機能のおかげなのか、優しい象形文字や絵文字にしか見えず、それほど難しく感じない。むしろ、アイツ等を召喚した時の方が苦労したくらいだ。むろん、アイツ等というのはマリアリス達のことを指すのだが。


「もしかして、ずっと起きてたんデシか?」


 マリアリスが部屋へ戻ってきたタイミングで時間を確認して今が9時だと気づいた。精霊術関連の書物が面白くて、気づいたら朝だったようだ。夜が明けたのには気づいていたんだが、もうこんな時間だったとは……。


「まぁ、いいや。マリア、この世界だと俺と家族になれるらしいぞ? なってみるか?」


 厳密には違うのだが、こう言えば彼女は話にのってくることはわかっていた。


「いいの? わたしでいいんデシか? なる! なるデシ!」


 見た目は10代前半に見える童顔。身長は154センチ。毛先を緑色へグラデーションしているストレートロングの銀髪。蝙蝠状の漆黒の翼。背中の開いたゴスロリ調の漆黒のドレス。声も幼いため、本当に幼いのではないかと疑問に思うが、正真正銘年上。……だって悪魔だし。


 俺しかその姿を認識することはできないが、彼女の名はマリアリス。自称上位貴族の末娘で『箱入り娘』。その実態はただの物語中毒の引き籠りで無能なペット4号である。


 呼び出した当初こそ、その身分を聞いて期待した。しかし、希望を叶えることはできなかった。彼女が言うには両親に大切にされていたわけではなく、魔族としては邪気が無く、純粋だったため、貴族の娘としては出来損ないの恥ずかしい娘だったから、屋敷に閉じ込められていたらしい。実の両親にも愛されず、使用人にも陰口を叩かれる不遇な状態で俺に呼び出されたようで、優しい言葉にかなり弱い。本来、甘言を囁くのは悪魔の方なんだけどなぁ。


「オッケー。じゃあ、俺も初めてやるから成功できるかわからないが……まぁ、やってみよう」


 俺の血に書斎にあった特殊な薬品を混ぜて作った赤いインク。それを使ってマリアリスの両方の掌に少し改良を加えた眷属契約の紋章を描く。俺と掌を合わせるように手を胸の前で繋ぐ。最後にメモに書いた文言を彼女に読ませる。


「マリアリスの名のもとに、我が力、我が命を主、大牙に対価をもって献上することを誓う」


 唱えさせたは良いが心配は言語に影響されるかどうか。


「あっ」


 マリアリスから驚きの声が漏れるが、それは俺の唇によって塞がれる。合わされた掌の隙間から光が溢れる。液体が気化するような蒸発音が聞こえ、数秒後には光と蒸発音のどちらも消える。……発動したってことは言語に関係ないようで無事成功したようだ。


「良かった。発動したよう……ん?」


 発動したということは、成功したということ……そう思っていた。


「なんか縮んだけど……これで妻になったんデシ?」


 成功した証拠に154センチあった彼女の身長が約140センチまで縮み、見た目も更に幼くなっている。仕様に組み込んだ覚えはないが、発動したことには間違いない。髪の長さは股上までと背が縮む前から変わらず、服のデザインも変わらないまま縮んでいる。……そんなアホなと思ったが、そもそも彼女は実体ではない……多分思念体のようなものだと思えば不思議ではない……と思うことにした。どうせ、考えても理屈は解らない。


「いや、俺の眷属になっただけ」


 そう答えると、喜んでいた彼女は俺に背を向け、再び無言で部屋を出て行ってしまった。


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