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02-1   セレブタス侯爵夫人を救出せよ(前編)Ⅰ(1/5)

 祝霊歴1921年3月20日の21時手前。最初のミッションクリアの通知と共に新たなミッションが表示される。それが《セレブタス侯爵夫人を救出せよ》だった。セレブタス侯爵夫人とはコトリンティータの母、マユマリンさんのことで……現在行方不明。ミッションに表示されるということは生きているということだよな?


「……あぁ……ちゃんと確認しておけば良かった……」


 俺はさっき、書斎でコトリンティータに彼女の親父である侯爵の現実を突きつけてきたばかりである。今は彼女が事実を受け止める時間が必要だと思い、解散して中庭に休憩しにきていた。そんな時に見つけてしまったので、知っていれば朗報として母親の無事を報告……いや、できないか。……俺が何故、それを知っているのかという話になってしまう。


「何が?」


「おおぅ!?」


 不意に声を掛けられて驚く。……声の主は千寿だった。


「ビビった。死角から声をかけられると焦るっつーの」


「だったら、独り言は危険だからやめなって」


 ……それはそう。アストラガルドに来てからは注意していたのだが、やはり癖である。


「そんなことより、あそこ。光ってない?」


 そう指摘されて、彼女の見ている方向を見ると祭壇が光っているように見える。


「また来るデシ」


 マリアリス、ミユーエル、ユコフィーネも異変に気づき集まってきた。


「次は誰だ?」


 俺の心当たりはあと4匹。まぁ、誰が来たとしてもできる事が増えるのは歓迎なので、祭壇へ迎えに行く。


 祭壇には光の柱がたっていて、その光が消えたと同時に、祭壇の上に1匹が浮いている。


 腰に届くほどの毛先の青い銀髪。暗い青の瞳。それに青白い肌。見た目年齢は30手前の妖艶な美女。しかし、その正体は俺が中3の時に呼び出した特殊な事情を抱える不老不死故に年齢不詳のヴァンパイアである。


 俺が召喚できたということは、不本意ながら欠陥怪異である。


 コイツを召喚した日より数日前の話。当時の俺の貴重な友人はヴァンパイアが好きだと言っていた。今思えば、当然彼が好きなのは映画で役を演じた女優さんのことである。しかし、当時の俺は友人に『ヴァンパイアとはフィクションの存在であり、実在しない』と現実を突きつけてしまった。……とはいえ、存在しないと証明するのは難しいもの。『誰にも判らないだろう』と言われ、怒らせてしまった。そこで『召喚できなきゃ少なくとも地球上には存在しないだろう』と当時既に数匹の怪異を召喚していた俺は考えた。その結果がコレである。……後に俺がドラキュラと混同していたことに気づくが後の祭りだったとか。


「あれ? ここは何処?」


「ここは異世界。お前はユーリボン」


「誰も「あたしは誰?」って聞いてないでしょ!」


 ユーリボンも漏れなくポンコツで、その一番の特徴が吸血嫌いというところ。血が流れているのを直接見るだけで軽くパニックになり、最悪の場合は気絶する。ただ、血を飲むこと自体は好きなので、飲み終わった跡から滴る血が耐えられないとキレている。しかもコイツは土砂崩れで生き埋めになり、不老不死だったため死ぬこともできず、脱出もできず、ずっと生き埋めになっていたという残念なヤツだ。初めての召喚の際に血を吸われて以来、何故か俺以外から血を吸おうとはしない。


「いや、毎回このやり取りしているから……とりあえず、重要事項を伝えると、ここはアストラガルドという世界で、マジョロカーダ大陸全土を治めるプティライド王国のアルタイル領にある主都リベルタス。帰るための手段は判っていて現在攻略中。なお、コイツ等が小さいのは俺に協力するべく契約により結ばれたから。……あとは……こっちの世界でもユーリボンの姿は基本的に思念体で原則認識されない。その例外が2人。1人はこの世界での俺のペットであるマウッチュ。それと……コイツ。コイツの正体は千寿だ」


「あー! 何で言っちゃうの? 動揺する様子を見るのが毎度の楽しみだったのに!」


 千寿本人も俺が言ってしまうと察して口元を抑えようとしていたが、本気で阻止しにくる前に話してしまった。


 マウッチュに限っては確定ではないのだが、概ね見えているだろうという見解である。


「……まぁ、わからないけれど、わかった。それで、あたしも帰るために契約をすれば良いの?」


「うん。話が早くて助かる」


 ユーリボンも連れて書斎に移動し、即眷属契約を行う。


「ユーリボンの名のもとに、我が力、我が命を主、大牙に対価をもって献上することを誓う」


 キスをして契約が完了すると、彼女の姿も身長140センチくらいにロリ化されていた。ちなみにロリ化する仕様はない。……考えられるのは、俺の力の供給不足か?


 力の供給不足と考えた根拠はコイツ等の身長にある。姿を自由に変化できる千寿を除くレベル3のマリアリスとミユーエルは明らかにユーリボンより背が高い。そして、レベル2のユコフィーネはレベル3の2人より低く、ユーリボンより高い。多分、累積の供給量なのではないかと推理してみたが、正解を知らんのでわからない。


 ユーリボンを眷属にしたことで使えるようになった巫術は【操身眼】。見た生物に質量保存の法則を無視して変身できる優れもの。解除も意識すると一瞬で元に戻るし、飛びたければ鳥に変身すれば飛べる。また、敵に変身すれば、敵の身体能力も判明する。ただし、知識は無理っぽい。しかし、本当に凄いのはユーリボン本人が【操身眼】を使った場合。俺が使うと対象は自身のみとなるが、ユーリボンは視界の対象1人。そして、変身内容は無機物でない限りユーリボンの自由。しかも、解除の権利はユーリボンにある。


「また、呪文を考えないと……」


「ご主人様、まだ寝ないっちゅ?」


 寝室に来ない俺を心配して書斎へ様子を見に来たのはマウッチュ。この世界では21時を過ぎたら寝ている人の方が大半を占めるが、彼女は夜行性なので元気いっぱい。


「丁度良いところに。2つほど質問があるんだけど……まず、もしかして、コイツ等見えてる?」


「見えているっちゅ。何か言っているみたいでちゅが、声は聞こえないっちゅ」


 ……俺と同じ状態ってことかな?


「じゃあ、エルフとヒュームの話していることって判る?」


「ヒュームの言葉はわかるっちゅ。けれど、エルフはわからないっちゅ。あと、クラップン達の言葉もわかるっちゅ。でも、この姿だとクラップンの言葉話せないっちゅ。でも、メローリンの姿になると、今度はヒュームの言葉が話せないっちゅ」


 なるほど。獣人語はヒューム語に変換されるわけか。多分、獣の姿の時にヒューム語、人の姿の時に獣の言葉が話せないのは喉を含む身体の構造上の問題かもしれない。


「なるほどね。えっと、俺の周りにいる連中のこと、みんなには内緒にしてくれる?」


「内緒にするっちゅ」


 素直な良い子だわ。恐れられていた霊獣とは思えないくらい。俺のペットの中で一番優秀まであるかもしれん。


 翌日からは日中の面接が再開された。今回は基本的に不許可なので面接時間も短縮。多分、慣れもある。まず、密偵や買収された手先として活動したものを牢屋敷送りに。レベル持ちとその家族は許可。それ以外の元リベルタス住民は不許可を出して近隣の村で暮らすなり、元の場所へ帰るなりして貰う。そして、僅かな新規の中で商人以外は許可。商人は不許可とした。


 不許可の出し方もパターン化していて、大半の場合「近々他国の者がリベルタスに襲撃を仕掛けるという噂がある」という話をすると、早々に辞退してくれた。まぁ、物騒だから引っ越ししたんだろうし、引っ越し先に不満がなければ戻る必要性は低い。精々「住み慣れた(先祖代々の)土地で暮らしたい」くらいの気持ちである。そういう人達は安心して暮らせる土地があるのだから戻ってくる必要はないだろう。


 同時進行で夜は順番待ちをしている人の従属契約をしていきながら、今後の相談をする。特に騎士爵夫人達は従属契約を目的として夫の行動を密告したという経緯がある。ここで彼女達を後回しにするのは今後が怖い。


 面接再開から1週間後には騎士爵夫人全員と従属契約を行った。これで、次から兵士に契約順番を回せる。


 ……それと大きな変化がもう1つ。セレブタス家の屋敷の近くに各騎士爵の別邸が建った。今までギルドで寝泊まりして貰っていたのだが、その代わりに他の民家とは大きさもデザインの凝り具合も別格の貴族に相応しい屋敷が完成した。


 新しい民家も増設しているが、概ね全員に家が行き渡ったと言える。廃屋も減り、そろそろ外からのカモフラージュも無理になってきていた。……まぁ、バレバレだろうけど。


 面接を必死にこなして処理していると、聞き覚えのある「ピコン♪」という着信音が聞こえた。案の定【DM】のアイコンが点灯していて、確認してみると「前のミッションである《リベルタスを復興せよ》のクリアに関する疑問への回答とミッションクリアに対する報酬について」と書かれている。


[色々悩んでいるようなので、流石にノーヒント過ぎたかと反省しました。そこで、答えられることに関してお答えしますね。まず、前回のミッションのクリア達成条件に関して。その1つは街の機能の最低限の回復。個人的には武器屋や防具屋、道具屋、紋章屋、宿屋に冒険者ギルドなど、運営が開始されること……だったのですが、今回はギルド設営でその代行が可能と考えクリアとしました]


 店だったのか……だとしたら、普通にやっていたらアウト臭かったな。ギルドシステム考えておいて良かったと心から安堵する。その理由は簡単で、既に店を構えている人は簡単に場所を移動しないからだ。農耕師ならアルタイル領には沢山いるが、他の職業は人口が少ない上にノウハウがないと店も運営できない。……そもそも経済も破綻していたしな。


[2つはリバティアの里のエルフとの共存です。交渉の仕方次第で協力はして貰えても交流までは難しかったでしょう。土地に関しても、ただ譲れと言っても拒否されていました。譲歩できる材料を用意したことで、これについては達成となっております]


 何の脈略もなくエルフが来た時は驚いたが、これはスターシアが用意したシナリオってことだったのか。それに書かれていないけれど、エルフ達に伝わっていた【木精の召喚】を伝えることも彼女の目的だったに違いない。


[最後にコトリンティータの成長です。政治に関心が無く、他力本願の末に頼る人もいなくなり、やがて諦めの境地に至った彼女を、領主代行として成長させる。それもリベルタスの復興に欠かせない重要な要素の1つでした。彼女が今後どんな選択をするにせよ、今求められているのは領主としての決断なのです]


 ……その3点かい。結果オーライだったけれど……これを知っていたら、俺の行動は変わっていて、上手くいったかどうか謎すぎるわ。今回はたまたまラッキーだったってことだろう。もしくは、初ミッションだから、偶然でもクリアできる内容だったのかもしれない。


[さて、一番の疑問には答えさせて頂きました。他にも聞きたいことが沢山あることは知っていますが、多分ミッションを進める上で自然と答えに気づくことができると思っています。また、今回の初ミッションクリアに関する報酬ですが、貴方自身と従属契約者の内、条件を満たした者のみ、貴方の意思で短時間の間、対象の潜在能力を解放できるようにしました]


 ……おい、肝心の潜在能力の解放条件を教えろって。どうせ、ノーヒントなあたり、また偶然……というかスターシアにとっては必然で発動させるんだろうけどさ。もしくは、事前に条件を知る機会が得られるとか? ……使えないんじゃ報酬になってないんだよなぁ。


[追記。貴方へ与えた能力に関する考察は概ね正解です。大きなメリットのある能力であれば、それ相応のリスクも当然あります。上手に能力を利用してミッションを達成することを願っております]


 ……と、文章はここで終わっている。


 能力に関する考察とは、「そろそろ色々わかってきましたか?」というミッション達成の通達メールに書かれていた文面から考えたことである。


 まだ街人や囚人の中にも、レベル持ちは存在する。その人達はずっとレベル1なことから、従属契約をしないとレベルが上がらないことは確定として良いと思う。


 戦闘型のユニットはレベルが上がると単純に戦闘力が強化されるみたいだが、非戦闘ユニットはレベルがあがることで通常ではありえない速度で自分の役割が向上する。ゲーム的に言えば、得られるサービスの種類が増えるということ。このことから、攻略するには戦闘型ユニットだけレベルを上げれば攻略できるという単純なものではないのだろう。


 またレベル持ち全員と契約というのも難しい話で、そもそもインクの材料として使う黒銀鉱の粉が高価であるということ。契約時にMPを消費すること。一度契約した人達を維持するために定期的にMPを消費すること。つまり、MP枯渇による気絶のリスクも背負うことになる。


 現在は1日に何人も契約できるわけではない。つまり、誰を登録するかの選択によっては取り返しのつかないミスになるリスクがあるということである。しかも、出会ったレベル持ちが直近の問題に対応している人物というわけでなく、その人物がどのタイミングで必要になるかなんてわからない。もしかしたら急いで登録する必要のない人物かもしれない。


 一番難しいのは、必ず正解を選ぶ手段がないということだ。……そして、現在まで正解し続けている保証も確認手段もない。


 それでも選び続けることが、自称最弱を謳う他力本願な俺の勇者としての仕事である。

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