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01-5   リベルタスを復興せよⅤ(1/5)

 祝霊歴1921年3月16日。予期していた移住希望者の大群やドワーフの女性と共に予期していなかったエルフ達も現れた。彼等の目的は盟約違反に関するエルフの族長からの招集。……盟約とは何だ? 読み漁った書類にも、そのような記載は無かった。まだ見つけられていないだけか?


「先代の族長様が当時の領主様と交わした盟約で、森への侵入に関してと、里との交流に関するものです」


 護衛のエルフ女性……サキルティアさんは2人きりになると話を切り出した。


 彼女が話した内容は、簡単に要約すると一度に森へ入る人数は最大で10人まで。それ以上どうしても入るのであれば事前に族長の許可がいるというもの。


「問題は、最近ヒュームによる森の侵入が増えたということです。子供はともかく大人は流石に見逃せず捕らえています。その数だけで既に10人を超えています。その件について、族長様は意見を伺いたいと申しています」


 ……これって結構大問題では? ってか、心当たりが無さ過ぎる。


「話はわかりました。正直な話、我々は森の中に入ったという者達に心当たりがない。こちらとしても確かめなければならないし、状況も整理しなければ……少々時間を頂きたい」


「では、適当に時間稼ぎをしておきます」


 そう言うと、彼女は立ち上がって街の外の仲間の元へ戻ろうとする。


「あ、あの先程の失礼な男のことですが、言っても直りませんのでスルー推奨です。では」


 ……なんだろう……あの人も結構苦労しているのかもしれない。とりあえず、みんなと一度合流し、エルフの動向とサキルティアさんの話した内容を伝える。


「エルフにはね【森の加護】があるの。だから、森にいるのだと思う」


 コトリンティータはそう分析した。最初は迷信的な類だと聞き流そうとしたが、そうではなくて、この世界のエルフは森にいるだけで強い身体能力を得られるのだそうだ。彼らからすれば森の外に出ているだけで凄く弱体化されてしまうので、極力森の外には居たくない……ということらしい。文献にもあったが、昔から森はエルフの領域。ヒュームは不可侵とのこと。


「本来なら、わたし1人で行くところだけれど、わたしもエルフ語はわからないし……」


 あ、やっぱり彼らの言語はエルフ語という名称なんだ。


「俺も行くよ。彼らの言葉がわかるから通訳するよ」


「ごめんね、ありがとう」


 案の定、エルフとの盟約に関して、コトリンティータは何も知らなかった。それどころか、キクルミナさんも聞いたことがないらしく、コトリンティータの父親ですら、知らなかったんじゃないかという見解がでるほどだった。


「それにしても変ね。アルタイル領のヒュームであれば、森へ大勢で入ることは禁じられていることくらい常識なのに。ましてやエルフに捕まるほどの奥地へ行くなんて……」


 アルタイル領にいるエルフはアイツからは想像できないが温厚で気さくな人が多いらしい。遭遇しても優しく対応され、親切に早く帰るよう案内してくれるエルフが、捕らえるなんて相当なことだという話だった。


「対策、考える必要があるよね」


 俺の意見にコトリンティータも同意する。


 あまりエルフ達を待たせるのも得策と思えず、早々に意見をまとめた後にエルフ達の元へと向かう。


「お待たせして済みませんでした。彼女が領主亡き今、領主代行をしているコトリンティータ=M=セレブタス=アルタイルです。俺はセレブタス家で客人をしていて、今回は通訳として同行するタイガ=サゼです」


 期待通りのリアクションをしてくれるとは思わないが、とりあえず名乗っておく。


「フン。領主の娘のくせにエルフ語も話せないのか」


 そう言って、偉そうなエルフは先を歩く。俺達と彼の護衛のエルフ2人が後に続く。意外なことにエルフの里まではフォルティチュードより近く徒歩3時間の距離だと聞いて驚いた。


 エルフの里と呼ばれる場所は、国の内外問わず沢山あり、長寿のエルフ族でも正確な数は把握できていないらしい。しかし、これから向かう『リバティア』はヒュームがこの辺りをアルタイル領と制定する以前から存在し、少なくともマジョロカーダ大陸では大きさと人口を誇る、この国のエルフであれば一目置く最大勢力の里だという。


 エルフ族は漏れなく【森の加護】と名付けられた特殊能力を所持していて、身体能力向上の他に音による空間把握能力など森の恩恵を享受し、森を守りながら暮らしてきたらしい。


 他にも雑談のようなモノを主にサキルティアさんから。自慢のようなものは、そこの偉そうなハイエルフ……ガルタイキから聞いた話だ。もちろん、それらの内容はコトリンティータにも通訳して共有している。ちなみにガルタイキ自らが名を一度も名乗っていない。サキルティアさんが気を利かして紹介してくれたのだが、そんな彼女にガルタイキは余計なことを言うなと叱り飛ばしていた。


 3時間の道程は、お世辞にも歩きやすい平坦な道とは言い難く、体力をかなり消耗した。その上、里へ入る手前で俺達は丈夫な蔦で手を後ろに拘束され、囚人が連行されるような形で里へと入った。2人が必死に止めていたのに、ガルタイキが強行したことを俺は忘れない。


 里の中心へと向かって進み、開けた場所まで来ると、髪色と瞳色から判断して、ハイエルフの綺麗な女性と少女が待っていた。しかし、俺達の様子を見ると、女性の方が怒りの形相で近づいて来て……そして、ガルタイキが何かを言う前に彼をグーで殴った。


 彼女は近くにいる衛兵と思われる者にガルダイキを牢屋に入れるよう指示する。その間に少女が近づいてきて俺の手を拘束している蔦を切ってくれた。女性の方も指示した後にコトリンティータの拘束を切り落とし、その流れで深々……いや、それ以上に頭を下げた。


「大変、申し訳ございませんでした」


 それを見た少女も女性の隣に立って同じように頭を下げる。2人ともどのくらい下げたかというと、腰を曲げる角度が90度を超えている。


 ……なんか、出会った頃のコトリンティータを思い出す……。


 日本社会であればふざけているように見えるのだが、このプティライド王国では正式な謝罪方法である。土下座をする文化がないから、こうした形になったのかもしれない……多分。


「頭を上げてください。大丈夫ですから」


 コトリンティータがそう言うと、2人とも頭を上げる。どうやら、今の謝罪はヒュームが使っている言葉で行われたようだ。


「本当に大変失礼なことを……わたしはリバティア氏族の族長でパルマオ家のニーナレイアと申します。彼女は次期族長候補のユーロバイス家のチナーシャ」


「初めまして。ユーロバイス家のチナーシャです」


 先程とは違い30度くらい曲げる普通のお辞儀で彼女が挨拶した。


「……ねぇ、彼女は何て?」


「自分の名前を名乗ったんだよ。彼女はチナーシャさん」


 コトリンティータが聞いてくれたおかげで、彼女はエルフ語で話したとわかった。こういう時、オート通訳は困る。それにアプリの機械翻訳のように誤翻訳も時々あるし。


 その様子をチナーシャさんがジッと見ていたことに気づくと、彼女はニコッと微笑む。


「えっと、改めまして。彼女はアルタイル領の領主の娘で、今は領主代行を務めるコトリンティータ=M=セレブタス=アルタイル。俺はセレブタス家の客人で今回は通訳として同行しているタイガ=サゼです」


 そう紹介すると、コトリンティータがお辞儀し、俺も彼女に倣ってお辞儀をする。エルフの人達は何故か先程から俺をガン見している気がする。……気のせいか?


「通訳ということは……やっぱりリベルタスでエルフ語はもう使われなくなったんですね」


「やっぱり?」


 ニーナレイアさんの言い回しが気になって尋ねる。


「実は、先代の族長の時代からリベルタスとの交流がなくなったと聞いています。リバティアでもヒュームの言葉を喋れるものは僅かなのに、ヒュームの方々にエルフ語を話せる者がいると考えるのは難しかったので」


 ニュアンスから察するに、寿命の差の問題だと理解した。具体的にこの世界のエルフの寿命がどのくらいかは知らないが、今までの話からヒュームと比べれば遥かに長いことくらいは察しがついていた。


「どうして、交流がなくなったのかご存知でしょうか?」


 コトリンティータが尋ねると、ニーナレイアさんは悲しげな表情で答える。


「実はわたしも当時生まれたばかりで事実は知りません。ですが、原因不明の大増殖をしたクラップンによる森への侵食で計り知れないほどの被害が出たためと聞いています」


 クラップンというのは、森の大きな木に巣を構えるネズミのような、リスのような、モモンガのような生き物で、大きさは平均してバスケットボールほど。リスのような大きな尻尾とモモンガのように木から木へ滑空するための皮膜が存在する。大きな耳と神出鬼没具合はネズミのようでもある。森の果実だけでなく、人里の農作物まで荒らす農耕師にとっては敵である。俺でも見たことがあるくらいに近辺ではポピュラーな生物で、コトリンティータはコイツ等から果樹園と領民を守るために監視していたくらいだ。


「当時リバティアもリベルタスも深刻なほどの食料危機に陥り、問題の根幹であるクラップンの間引き……可能であれば殲滅をするべきという話になったのですが、森の入ることを臆したヒュームが我々エルフに丸投げをしたということになっています。それに怒った当時族長になったばかりの先代が怒って、そんなに怖いなら森に入るなと言ったところ、森の外にでることを許さないと喧嘩になって、現状の盟約に落ち着いたと」


「そうでしたか。でも、申し訳ありません。少なくとも、わたしには……もしかしたら父もですが、リバティエの里との盟約に関する内容は伝わっていません」


 そうコトリンティータが答えると、驚いてニーナレイアさんはチナーシャさんにエルフ語で伝える。


「……ですが、ヒュームの間ではむやみに森に入ってはいけない。森になれた狩人や薬草師、冒険者の方以外は危険だと、そう親から子へ教わっています。ですから、今回、そんなにヒュームが森へ入っているなんて知らなくて……」


「そうでしたか」


 一旦は驚いていた彼女だったが、許容してくれたのか優しい笑みを浮かべている。


「何だか寂しいものですね。ヒュームとエルフ。時間の流れ方の違いを感じざるを得ません。牢屋のヒューム達を確認しますか? わたし共もバカ息子の様子が気になるので」


「わかりました」


 ……通訳、必要ないかな……ニーナレイアさんはヒュームの言葉がペラペラなようだし。広場から移動して牢屋へと案内して貰う。牢屋へ向かう道中、ニーナレイアさんはコトリンティータと会話している。内容から察すると盟約について話しているようだ。一方俺はというと、チナーシャさんが隣を歩いているのだが、かなり距離が近い。


「あのぉ」


「何でしょう?」


「……ご結婚されていますか?」


 ……はい?


「いや、してないけど」


「えー! 何で、こんなにカッコイイのに……ヒュームの女性は趣味が悪いのか、美的感覚が違うのか……わたし、ヒュームの男ってカッコイイと思ったことなかったですけど、タイガ様は本当に素敵です」


 えーっと……逆ナン? それとも、揶揄われている? または、何か狙いでもあるのか?


「ほら、見て下さい。さっきから女性陣、ずっとタイガ様のことばかり見ていますよ?」


「まさか」


 いや、視線は感じていたけど、そういう意味? 違和感しかないんだが?


「お世辞だと思ってます? 何なら、わたしがタイガ様との子供産んじゃいますよ?」


「えぇ?!」


「……いい加減にしなさい」


 気が付くと、ニーナレイアさんが厳しい視線をチナーシャさんに送っている。


「他の娘達も同様。タイガ様は我々が招いた客人です。礼儀を弁えなさい!」


 そして、コトリンティータも俺に冷たい視線を送っていた。


「随分、モテモテなようですね、タイガさん」


「正直、初めてのことで困惑しかない」


 マジな話でモテたことがない。全ては今も近くにいるマリアリス達のせいなのだが、何故か人外にしかモテない。それこそ、幽霊だったり、妖怪だったり、犬だったり、猫だったり……それが初めて人間……ん?


「そうか、エルフはヒュームじゃないから……」


「そりゃそうですけど、それが何です?」


「あ、いや……何でもない」


 理解した。つまり、俺が今まで人間と定義していたのは、この世界でのヒューム。日本には知的生命体は人間しかいなかったが、この世界で俺はヒューム以外の種族には多分モテる! この結論に至って自己完結した。


 そんなことを考えている内に、牢屋へ着く。捕らえられた面々は当然ながらコトリンティータも知らない人達。しかし、少数ではあるがレベル持ちがいるのが気になった。

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