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01-3   リベルタスを復興せよⅢ(5/5)

 予想以上に戦況は長引いていた。


 雑魚と思われる連中は全員無効化済み。幹部は10人の内6人は倒れている。多分装備を取り上げたり拘束したりする余裕は無かったのだろう。幹部4人とボスの合計5名がコトリンティータを囲むように前方で展開している。コトリンティータもポイントは心得ているようで背後……風上には相手を行かせないようにしていた。カナリアリートは作戦どおり視認できないところに潜んでいるようだ。


 カナリアリートの存在を知らないリョーランさん達4人は、コトリンティータと周りに転がる連中を見て驚きのあまり声も出せずに硬直していた。


「合流完了。千寿の手助けはいる?」


「無用です」


 声を張った俺の問いに、コトリンティータは短く通る声で答える。まぁ、実力的に差があるのだから、余裕というものだ。人質を奪還できた時点で俺達の勝ちなのだ。


 また、千寿を数に含めた場合、こちらは7名に見えているはず。数の上でもこちらが現状上回っている。相手がいつ降伏しても変ではない状況だ。


「このっ!」


 幹部の女の1人が短剣をコトリンティータに投げる。それをコトリンティータは難なく武器で弾くと、面白いように投げた女とは別の男の幹部に高速で飛んでいき、太腿に刺さる。多分わざと急所を外しているのだろう……カナリアリートが。


 知っていればどうといったこともないトリックで、彼女が死角から短剣を念動で操っているのである。まぁ、何も知らない相手からすれば、コトリンティータが弾いた上で敵にぶつけたように見えるだろうけど。


 ちなみに、俺はそんな指示はしていない。彼女には弓などで攻撃してくる者の相手を任せていた。それ以上の指示はしていない。なので、全てカナリアリートのアドリブだ。視界にさえ短剣が収まっていれば、詠唱無用で操れる。まぁ、市販の紋章術で同じ効果の術はない。だから敵はコトリンティータがやったと思って疑わない。


「大丈夫?」


 短剣を投げた女が刺さった男に声をかける。


「残念ながら、もう動けそうにない……もう飛び道具はやめろ。仲間を傷つけるだけだ」


 そう言って、地面に伏せる。当然命に別状はない。流石に今のはわかる。コトリンティータが短剣を弾いた際にソニアブレードの麻痺毒が短剣に付着。それが男に刺さった。男は麻痺をしたタイミングで巫術による影響を受け、眠りに落ちたのだろう。


 よく見ると、他の連中もフラフラして辛うじて起きている状態だ。1人の例外を除いて。


「意識を集中しなさい! この睡魔は精霊術による影響なのは間違いない」


 盗賊団の頭にしては可愛らしい声。しかし、凛として通る声は配下を鼓舞するのに充分のようだった。そして、彼女だけはコトリンティータの術に対し、完全にレジストしているようだ。


 4人は飛び道具による攻撃を止め、剣を抜く。


「あ、それは!」


 ボスが持っている剣にリョーランが反応する。


「もしかして……」


「わたしの剣です!」


 やっぱり。高品質の軽い剣なんて、盗られるよな。でも、紋章術で強化されているようにも見えないし、特殊な鉱物で作られているようにも見えない。それでも愛用の武器なのだから取り返してはあげたいとは思うが、ひとまず特殊な剣じゃなくて良かったと心から安堵する。よくファンタジーモノの話でありがちな魔法の武器とかだったら効果によっては危険かもしれないし。戦力がひっくり返ってもおかしくない。この世界に実在するかは知らんけど。


「直ぐにでも取り返したいだろうけど、ここはおとなしく観戦してくれ」


「……はい」


 彼女もまた、コトリンティータの実力をその目で見て、足手まといであることを認めたのだろう。反論もせずに引き下がった。


「マ……頭。俺達3人で一斉に仕掛けて隙を作ります。その間に仕留めて下さい」


「わかりました」


 うん、やっぱり盗賊団の頭っぽくはないわな。あの頭と呼ばれている女性だけは貴族だと思うんだけど……。彼女だけコトリンティータのような淡い金髪なんだよな。


「いくぞ!」


 男の合図で3人が一斉に攻撃を仕掛けるためにコトリンティータの間合いへと入る。その瞬間、鞭形態になっているソニアブレードの刃が高速で3人に襲い掛かる。3人とも必死でガードを固めるが、どうしてもかすり傷が付いてしまう。


「あっ……」


「ぐっ」


「クソッ」


 傷から入った麻痺毒により、身体が少しずつ動かなくなっていっている。あとは意識が散漫になるのを待って、巫術により眠ってしまうのを待つばかり。と、その間に頭と呼ばれている女性が完全に剣が届く間合いへと入る。


「はぁっ! ……あっ!」


 彼女が剣を振りかぶり、まさに下ろす寸前。ソニアブレードの刃が物理法則を無視して彼女の背中を傷つけた。一瞬の体勢の崩れを見逃さず、コトリンティータはサッと横に避ける。鞭状になっていたソニアブレードを畳み、剣状に戻すと、そのまま腹部を狙って水平に薙ぐ。とっさに女性は後方に身を引き、服の腹部が裂けて赤く染まる。


「降参して下さい。もう貴女に勝ち目はありません」


 コトリンティータが静かに告げる。巫術は精神力で抵抗は可能かもしれないが、注入された麻痺毒に抵抗はできないだろう。治療する術があれば別だが、現状そういった術を持っているようには見えない。


「降参して頂ければ、命の保証は致します。もちろん、現状生きている仲間の方達も」


 基本的に幹部とボスは殺さない予定だった。もちろん、例外もあったけれど全ての無力化に成功している。頭と呼ばれる彼女もそれは理解しているだろう。そして、全ては言っていないが、恐らく彼女は降参を申し出ない場合、仲間の命はないと考えるだろう。血も涙もない保身を考えるタイプであれば、仲間を捨てて逃げることを考えるだろうが、幹部からの慕われようから、そうはならないだろうと感じていた。


「……」


 彼女は何か悩んでいるようだ。しかし、彼女に助言する人はいない。全員ぐっすりと眠りに落ちているし、目覚めたとしても麻痺して話すことも大変なはずだ。


「……わかりました。降参します」


 そう言って剣を捨てる。慎重にコトリンティータが近づいて剣を拾い、持っている短剣も没収した。自害をされても困るし。


 実はこの作戦。俺的に一番ドキドキしていたのが、最後。もし、あのボスが「生き恥を晒すくらいなら、自らの手で……」と自害される可能性を少しは考えていた。ただ、そんな崇高な考え方の持ち主は村を支配する盗賊団なんてするのかと考え、自害する可能性は低いと考えていた。最悪、自害を試みそうだった場合は、それを阻止して拘束する算段ではあったが。


 その内、ボスと呼ばれた女性は立っていられなくなったのか、その場に座り込み、ゆっくりと横になった。麻痺毒がゆっくりと回って行ったのだろう。むしろ、かなり強力な麻痺毒だと聞いていたのに、耐えられたタフさに驚く。


「……終わった……ね」


 コトリンティータはフラフラと身体を揺らしながら俺に近づいて、そのまま体重を預けるように俺に抱き着いた。もちろん、俺はそれをしっかりと抱き留める。こうなってしまうのも無理はない。彼女は1種類しか使えない巫術を、戦闘開始してから使い続けていたのだ。精神の消耗も激しいというもの。俺からMPを供給されているから気絶はしないものの、無茶な戦い方をさせたことには違いない。


「お疲れさん……千寿、持って来たロープで生きている盗賊団を縛って」


 短く指示を出して、拘束させる。


「それと、どなたか避難所に戻って村の人達を呼んできてくれませんか?」


「わかりました。……ハルクーア、行って来て」


 リョーランの指示で、ハルクーアと呼ばれた女の子が走って避難所へ向かう。その間に俺はコトリンティータを近くの建物の中へと運び、座らせるように下ろす。その間に潜んでいたカナリアリートも俺の元へと戻ってきた。


「タイガ様、お疲れ様でした」


「期待以上の仕事をありがとう、カナ。今の内ゆっくり休んでくれ」


「あの、この方は?」


 宙に浮いて移動するカナリアリートに驚くリョーラン達に俺は彼女を紹介した。




 村の人達が戻ってきてから、大々的に片付けが行われ……主に俺が勝手に持ち出した服や武器類なのだが……その後は強盗団(仮)な方々を避難所にとりあえず置き、千寿に見張りを頼む。そして全員寝た。俺達3人はフォックスベル騎士爵の屋敷に宿泊し、寝るのが遅かったせいか、起きたら既に昼近くになっていた。寝坊したのは俺だけでなく、MP残量が少なかったコトリンティータやカナリアリートも同様だった。


「すみません、すっかり寝すぎてしまったみたいで……」


 代表してコトリンティータが謝罪する。


「いいえ。お礼を言うのはこちらの方ですので……疲れは癒えましたか?」


「はい、お世話になりました」


 彼女は現在この屋敷の家主。騎士爵夫人であるユリアナ=B=シュクレアさん。リョーランさんの母である。名前にフォックスベルが付かないのは、夫である騎士爵が亡くなったからだ。


「あの、すみません。皆さんの今後を左右する大事な話があるのですが……」


 一応、会話の切れ目だと思って、ユリアナさんに用件を伝えようとした。


「それでしたら、これから昼食を兼ねて、簡素ながらもお礼の宴を開くことになっています。そこでは村の人達も集まりますので、その場で話されてはいかがですか?」


「……わかりました」


 宴の場で話すには少し重い話になるのだが……大丈夫だろうか?


 起きたのが11時前だったため、お昼はすぐに来てしまった。宴は12時半くらいに始まり、俺とコトリンティータが一応主賓という扱いをしてくれている。カナリアリートはメイドの身ということで主賓扱いを自ら辞退していた。千寿達は食事をしないので、監視役を継続してくれている。本人曰く、「何話しているかわからない飲み会なんてつまらない」だそうだ。


「皆さん。お食事中かと思いますが、少しだけ。今回の主賓の1人であるタイガ様から大事なお話があるそうです……どうぞ」


 簡単な挨拶の後、食事開始から30分くらいはご馳走を頬張った。そう考えると食料に困っていたのはリベルタスだけだったんだなぁ……と、しみじみ考えてしまう。


「今から話すことは大事なことです。現在、リベルタスは過疎化が進み、人がいない状態です。これが何を意味するかというと、衛兵による巡回ができないということです。そこで2つの選択肢があります。1つは、危険を承知で村に留まるという選択。ただ、今回のようなことが再びあっても助けに行けません。もう1つは一緒にリベルタスで暮らす選択です。この場合安全は保障されます。現在起こっている問題が解決されれば村に戻ることも、街に残ることも可能なように計らいます。あまり時間に猶予がなく申し訳ないですが、近日中に決断して下さい」


 何故、数日の猶予があるかというと、このまま俺達は他の小さな村を周り、同じ説明をして回らなければならないからである。


「正直な話、今回のようなことは今後何度も起きる可能性があります。一部の人以外は強く要請することはありませんが、命があれば戻って来ることができます。協力お願いします」


 俺はその場で深々と頭を下げる。当然ながら、その後宴会はお開きとなってしまった。まぁ、それどころの話ではないからなぁ。


「……ということで、申し訳ないですが俺達は早々に村を発ちます。他の村も回ってきますので、戻った時に出発ということになります」


 ユリアナさんに申し訳なかったが、おかげで村人のほぼ全員に伝えることができた。出て来なかった人達にも口コミで伝わることだろう。


 ユリアナさんにそう伝えると、俺は村にいるレベル持ちをスカウトに向かった。




 フォルティチュードにもそうだが近隣のリベルタス直轄の小さな村々にもレベル持ちは数名存在していて、コトリンティータにその女性達とその家族がリベルタスへ来て貰えるよう説得して貰った。特に戦闘力のある人には申し訳ないがほぼ強制と言っても過言ではないくらいの説得という名の圧をかけて連れてきたと言っても過言ではない。……まぁ、背に腹は代えられないわけで。


 割と強行してまわり、何とか2日で全て回りきってフォルティチュードに戻ってきた。スカウトした全ての女性とその関係者はもちろん、どうしても地元に残りたいという一部を除き、ほぼ全員が賛同してくれたのは正直助かった。


「さぁ、帰ろう。リベルタスへ」


 現在リベルタスで暮らしている人数の約40倍の人達を引き連れて、帰途へとついた。

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