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06.タナトレー公国 常夜島



ゴールデンウィークの始まりは、雨だった。


まぁ、こっちの世界の天気はもう関係ないからいいんだけど。

それより最悪なのは、月のものがきてしまった事だ。

予測では来週のはずだったのに、朝起きたらコレですわ。

今のとこ体の不調は出てないからいいけど、ホテルのプールには入れないの確定。

あと洗濯日和プランの洗いたてのシーツを汚したら申し訳ないので、パンツ型のナプキンを急ぎ購入してきた。

これでモレ安心めちゃ熟睡。

あとドラッグストアに行ったついでに、水と麦茶も購入した。

まぁ、一応ね。念のために今回も水分だけは持ってくわ。



「さてと、そろそろ出発するか。」


時刻は午後14時。

出発前にもう一度、旅のしおりを確認しておく。

常夜島の案内パンフレットと、帰宅用の六芒星が描かれた羊皮紙。

それから、模様がいっぱい描かれた紙が1枚。

カラフルな四角や丸、三日月なんかの単純な図形が規則正しく並んで描かれているだけのコピー用紙だ。

これが、今回の移動方法である。


『決して目を逸らさず、絵を注視してください。

一定時間見続けて頂けますと、ホテルのロビーに到着いたします。』


錯視か何かでしょうか。

そう思いながらも素直に玄関に移動して、荷物を持って靴も履いた。

玄関扉にマグネットで紙を貼り付けて、正面からジーっと見つめてみる。

一点に集中するべきなのか、全体を満遍なく見るべきなのか。

何も分からないながら、ひたすらに見つめ続けた。

すると、どれくらいの時間がかかったのだろう。

脳内に知らない男性の顔がふっと浮かんで「お入りください。」と微笑まれた。



「え、なに?」


そう口にした瞬間、視界が360度回転して、周りの景色がぐるりと一変した。



「すっご⋯!」


豪華絢爛、極彩色のシャンデリアが目に眩しい。

床はふかふかで、花と蔓の文様を複雑に織り込んだ絨毯が全体に敷かれている。

ひとつひとつに美しい刺繍が施されたプフが、ころんころんと至る所に置かれているのも良い。


ホテル・ナジュム。そのロビーに、私は立っていた。


到底ホテルのロビーとは思えない芸術的な場所だ。

そちこちの装飾にウットリしながら、私はこれまた美しい生花で彩られた受付カウンターへ向かった。

エキゾチックな顔つきのイケメンフロントマンに、どぎまぎする私。いまだ交際経験ゼロの女。



「すみません、あの、予約した雨宮です。」

「アマミヤ様ですね。少々お待ちください。」



予約確認の名簿をめくる、伏し目がちな表情もイケメンだ。

なんて。無意識にじぃっと見ている自分に気が付いて、あわてて周囲に視線を逸らした。

客室数が多いホテルなのもあって、ロビーにも人がたくさんいる。

このホテルのスタッフさんは、白のノーカラーシャツと榛色のスカーフが制服のようだ。

スカーフは首に巻く人もいたり、頭に巻く人もいたりと様々で、遊び心があって良い。


てか、うちの会社も制服にしてほしいんだよな。

オフィスカジュアルな服装って、未だによく分からんし。

仕事用に服買うのもだるいし、かと言って私服でブラウスとか着たくないし。


などと、しょうもない事を考えてたら名前を呼ばれて狼狽えた。

そうだ、チェックインの途中だったわ。



「お部屋は1005号室でございます。

あちらの昇降機に係の者がおりますので、お伝えください。」


言われて、フロントマンが指す後方を振り返る。

あ、昇降機ってエレベーターのことね。

めちゃくちゃレトロな佇まいで、このホテルの雰囲気には合ってるけど⋯大丈夫そう?



「明日の夜明けは6時5分の予報です。

ラウンジではモーニングコーヒーを提供致しますので、是非ご利用ください。」



そのほか館内設備やサービスの説明を受け、ルームキーを手に昇降機へ。

係のおじ様が私に気付いて早々にお辞儀をしてくれたので、やや小走りに乗り込んだ。

昇降機は内部も大変レトロな雰囲気で、左側の壁に階数ボタンと謎の真鍮製の丸いハンドルがあった。



「扉を閉めますので、お気を付けください。」


硝子の引き戸と蛇腹式の鉄扉を閉じ、おじ様も昇降機の中へ。

私の部屋番号を確認すると、10の階数ボタンを押してハンドルをグルグルと回し始めた。

ガシャンと鎖が擦れる音がしたあと、昇降機がゴウンゴウンと振動しながら上へと動く。

ちょっとアトラクション感があっておもしろい。



「お待たせいたしました。10階でございます。」



チリリンとかわいい鈴の音が鳴ったと思ったら、ガタンッと上下に大きく揺れて昇降機は止まった。



「1005号室は向かって右側にございます。」

「あ、はい。失礼します。」



おじ様に軽く会釈をして、昇降機を下りる。

すると、かすかに白檀のような香りが鼻を掠めた。

どうやら客室フロアは、落ち着いた空間を演出してるようだ。

装飾も控えめで、照明も抑えられていた。

とは言え、ロビーと比較して控えめなだけでシンプルなわけではない。

花模様と部屋番号が手描きされた客室の扉はメルヘンチックでかわいいし。

埋め込まれた色硝子がほんのりと光る壁なんかは、見蕩れるほど素敵である。


私は客室フロアを端から端まで歩いて一通り歩いて見た後、蓮の花が描かれた1005号室の扉に鍵を差し込んだ。



「えっ、広!うわ、ガラス張りじゃん!すご!」


扉を開けた瞬間から、私のひとりごとを乱発した。

だって、そんくらいすごいの。めっちゃ贅沢なの。


まず、広い。

私がいま住んでるアパートの部屋より確実に面積がある。

ベッドはクイーンサイズだし、リビング部分なんてわざわざ小上がりなっている。


さらにはミニキッチンも付いていて、ルピ茶なるティーバッグと山盛りのトロピカルフルーツが置いてあった。

ウェルカムフルーツらしいが、滞在期間中に食べ切れる量ではない盛り方だ。

ミニキッチンには小型冷蔵庫と瞬間湯沸かし器があって、それらがなんとコンセントに刺さっていた。

それはつまり、この世界には電気があるってことだ。

残念ながらコンセントの穴の形は違ったので─川の字に波形の穴があいてた。

私のケーブルは使えないけど、何か嬉しい。


あと、ベッドの上にアメニティと一緒に線香花火が置いてあった。

『心ばかりの贈り物です。ぜひ、バルコニーでお楽しみください。』と書かれたマッチも添えられていた。

こういうの地味にうれしいよね。


で、そのバルコニーもすごかった。

部屋のいちばん奥に大きな掃き出し窓があって、透け感のある薄いカーテンがかかっていた。

で。そのカーテンを開けるとバルコニーなんだけど、まず驚いたのは外が夜なことだ。

だって私の世界じゃ、さっきまで太陽燦々だったんだよ。



「本当にずっと夜なんだ⋯。」



なんだか信じられない感覚で窓を開ける。

途端に、ムワッと湿気を帯びた暑い空気に包まれた。

突然の夏を感じながらバルコニーに出ると、映画でしか見た事がない豪奢なラタンチェアが置かれていた。

後で調べたら、エマニエルチェアって言うらしい。

そこから欄干にもたれて下を覗けば、屋台が立ち並ぶ色鮮やかなマーケットが見て取れた。

思わず心が躍るような、お祭りみたいな雰囲気がある。


ここまで全て、ほんとに贅沢で最高の部屋だ。



「でも、これはな⋯。」



ただ、ひとつだけ気になる点があるとするならば。

シャワールームが、全面ガラス張りで丸見えなことだ。

まぁ、私はひとりだからまだ良いよ。

でも、誰かと一緒だったら入るの恥ずかしすぎるでしょ。

特に親とはここに泊まれない。全てにおいて気まずさが勝ってしまう。



「うん。まぁ、オッケー。行くか。」


はい。じゃあ、ルームツアーはこれくらいにして。

これから常夜島の散策に出ようと思います。

と、その前に一度お手洗に行かせていただいて。

なんか若干、腰が重だるくなってきた気もするけど。

許容範囲でしょ。行ける、行ける。


呼び出しボタンを押して、私は再び昇降機に乗った。

さっきと同じ係のおじ様に操作してもらって、下へと降りてゆく。


「⋯。」


これ、毎回この手順踏むの結構めんどくさいな。

かと言って、10階分も階段を上り下りするのは無理があるし。

私は諦めて「3日間よろしくね。」と、心の中でおじ様に挨拶しておいた。



「あっっつ⋯!」


美しいロビーにまた見蕩れてからホテルを出ると、外ははちゃめちゃに暑かった。

まさに熱帯夜。いや、正確には昼だけど。


「えーと、キビル通りは⋯こっちか。」


案内パンフを見るに、常夜島はかなり大きな島だ。

ただ、島の大半が採石場で、実際に観光できる場所はいくつかに限られていた。

部屋のバルコニーから見えたマーケットは、島で1番賑わうキビル通りという場所にあるらしい。

主要な場所への行き方は、道路にルートが書かれているので迷うことはない。


ぼんやりと浮かび上がる蛍光塗料の矢印を頼りに、私はキビル通りへと歩き出した。


道すがらにもぽつぽつと点在していた屋台が、通りに差し掛かるにつれ一気に増えた。

電飾やネオン看板で彩られた屋台が並ぶ様は圧巻で、通りの中ほどは人人人でごった返している。

強烈な匂いがするスパイスや自然界にはない色の野菜、アクセサリーに鍋やカーテンまで。

食べ物も雑貨も入り交じって、ありとあらゆる物を売ってるのが賑やかで楽しい。

しかし、端までざっと見てから買い物しようと考えてたけど、多分無理だ。規模が大きすぎる。



「てか、めっちゃ喉かわいた⋯。」



とりあえず何か飲みたい。あわよくばご当地酒を。

私は一度立ち止まって、適当な店がないか見渡した。



「あ。あ、良いですか?すみません。」



目に止まったのは『スタンドバー 寄る夜中』という立ち飲み屋台だった。

店長さんだろう40代くらいの女性とバチッと目が合って、「ここよ。」と妖艶に笑いかけられた。


ズラリと並んだお酒の瓶とカウンターだけのシンプルな屋台で、お客さんは私の他に女性が二人だけ。

通りの賑わいに対して意外と空いてると思ったけど、考えたらまだ昼間なんだよね。

地元の人は基本働いてる時間なんだから、飲むには早いんだわ。



「メニューはこれね。飲み物は何にする?」

「あ、あ、その、この島っぽいお酒ってありますか?」

「んー。それなら、焼酎のルピ茶割がオススメよ。」



店長さんのしっとりした接客に、中学生男子くらいドギマギしながら注文をする私。

このあとも食べ歩きをしたいので、メニューは軽いものを中心にお任せした。



「はい、お待たせ。」



まずはお酒から。

オススメされた焼酎のルピ茶割である。

クラッシュアイスがたっぷり入ったグラスに注がれて、キンキンに冷えている。最高。

ルピ茶は、常夜島の日が当たらない土壌でのみ育つ茶葉で作られた紅茶だそうだ。

そういや、ホテルの部屋にもティーバッグが置いてあったよね。

味はダージリンに酷似してて、ほんのりマスカットみたいな香りがした。

飲みやすいし喉はカラカラだしで、料理が来る前に軽く1杯目を飲み切ってしまった。



「はい、できたわよ。こっちはおかわりかしら?」

「あ、はい。同じので。」



次いで出てきたのは、小皿料理が三品。

『ウールチーズ』と『コルコのお漬物』と『ガーリックプンシュ』

私は二杯目のルピ茶割を待ってから、ウールチーズに手を付けた。



「うまっ。」


見た目はぶどう味のグミみたいだけど、チーズだ。

味は生クリーム並にクリーミーで、食感はもっちもち。

常夜島で採れた岩塩をちょっとかけると、また更においしかった。


二品目はコルコの漬物。

薄黄色で星型の野菜コルコを店長独自のレシピで漬け込んだ一品で、結構しょっぱい。完全に酒飲み用メニューだ。ポリポリと鳴る歯触りが良い。


私はここで、3杯目のルピ茶割を注文した。

店長さんに「良いペースね。」と褒められ、わかりやすくデレデレしてしまった。


三品目のガーリックプンシュは、見た目も味もガーリックシュリンプだった。

強いて言うなら、ちょっと甘みが強かったかな。多分。

何にせよ、めちゃくちゃ美味しかったのには変わりない。

いつの間にか、私の手元には4杯目のルピ茶割があった。



「ありがとう。また来て頂戴ね。」



会計後、おつりと一緒に店長さんから投げキッスのサービスまで頂いた。

「こりゃ、酔いが回りますな。」などと口走りかけて、マジで酔ってるのを自覚する。


一度ホテルに戻って酔いを覚まそうかとも思ったが、腹具合的にはまだ何か食べたい。

まぁ、屋台は山ほどあるんだし、戻りがてら探せばいいか。


時間が夕方に差し掛かり、キビル通りはさらに人が増えていた。

来た時は閉まっていた屋台も営業を始めていて、ますます活気を帯びている。

揚げ物の香ばしい匂いやソースのような甘い匂いがそちこちからする中で、私はジュウジュウと一際良い音を立てる屋台の前で足を止めた。



「塩2本!タレ5本追加!よいしょ!」

「よろこんで!よいしょ!」



愛想の良いおじさん二人が立つ『串焼き ガラ』。

ブツ切りした島産の夜鳴き牛に、塩コショウか自家製タレの二択。余計な味付けや盛り付けは一切ない。

人気店なのかお客さんはひっきりなしで、煙がもくもくと辺りに充満している。


これはいいぞ。

私は生唾を飲み込んで、牛串を2本注文した。



「はいよ!熱いから気ぃ付けて!」

「またどうぞ!よいしょ!」



右手に塩、左手にタレの牛串を渡され、私は大喜びで屋台の横っちょに移動する。

周りも串焼き客だらけなので、人目を憚らずに肉にかぶりついた。



「!」



うますぎる。めっちゃ柔らかい。

脂身は少ないが、噛むたびに肉汁が口の中に溢れてくる。

それになにより、自家製タレがもう抜群。

えも言われぬ甘辛い味が、夜鳴き牛の旨味を十二分に引き立てている。


あっという間に2本とも食べ切って、満足するどころか食欲に火がついた。

私は勢いのまま、すぐ隣の屋台ではしまきっぽい粉物。

その隣でベビーカステラっぽいパン。

さらにその向かいでポテトっぽい揚げ物を買って、秒で完食した。

これだけ炭水化物を詰め込んだら、さすがに満腹だ。

また喉も渇いてきたし、ちょっとトイレにも行きたい。

今度こそホテルに戻ろうと、屋台ひしめく熱気の中を人をよけよけ先を急ぐ。



─ あ、やばい。



突然、視界にザザッとノイズが走った。

手足の血の気が引いて、顔や脇からぶわっと冷や汗が出てくる。

貧血だ。

暑さと人酔い、それとルピ茶割4杯が、月のもので弱った体に堪えたらしい。

私は朦朧としながらも何とか人の少ない場所を見つけて、しゃがみ込んだ。

不快感に目を開けていられない。私は汗だくの顔を膝に押し当てた。



「大丈夫?」


ふいに、頭上から誰かに声をかけられた気がした。

全然大丈夫ではないので、一回無視した。

経験上、しばらくじっとしていたら治まるはずなのだ。



「旅行客だよね?病院行くか、ホテル戻る?」


すごい心配してくれるじゃん。

でも、申し訳ないけど一旦ほっといてほしい。

私は無言で首を横に振って、じぃっと貧血が治まるのを待った。


そのうち、憑き物が落ちるみたいにスーッと不快感が引いてって、私はすこし上体を起こした。

その瞬間に、ふわっと、顔の前を涼しい風が行ったり来たり。



「えっ。あ、大丈夫。大丈夫です。」

「そう?なら、いいけど。」


なんと声をかけてくれた人が、団扇で私をあおいでくれていた。

緊急事態とはいえ、私めちゃくちゃ愛想悪かったのに。

お礼と謝罪、どっちを先にすべきか。

慌てて顔を上げた私は、目の前の、輝く瑠璃色の瞳に言葉を失った。



「それじゃ、気をつけて。」



ぼう然と惚ける私をそのままに。

その人は瞬きをひとつして、颯爽と人混みの中に消えてった。





***





私は無事ホテルに帰り着き、自室のベッドに倒れ込んだ。

さっきトイレついでに鏡を見たら、顔面まっしろで誠にブスであった。


あの人もこの貧血顔を見たのか。そうか。

親切にも声をかけてくれたあの人を思い出して、少ししょっぱい気持ちになる。


若い男の人だった。

私と同い年か、ちょっと年下かも。

顔の造形はよく覚えていないが、あの瞳が焼き付いて離れない。

磨き上げた宝石をそのまま目に埋め込んだような、美しい瞳だった。

あまりに美しくて、お礼も謝罪も忘れて見入ってしまった。

もう本当に失礼極まりない。穴があったら入りたい。

もしも明日明後日、島のどこかで見かけたなら誠心誠意お詫び申し上げたい。



「はぁぁ⋯⋯。」


とにかく、すんごい疲れた。とりあえず一回寝たい。

私は大の字に四肢を投げ出して、なかば気を失うように眠りに落ちた。




─ ⋯ン⋯ドーン⋯!



「⋯っんが!」


遠く聞こえる爆発音に目が覚めると、外は夜だった。

今度は夜みたいな昼じゃなくて、正真正銘の夜。

なぞの爆発音の出処を探してバルコニーに出ると、そのタイミングで夜空にパァッと大輪の花火が開いた。


「おぉ⋯たーまやー。」


明日の洗濯日和の前祝いなのかも。

打ち上げ花火なんて、久々に見た。


世界が違っても、花火は綺麗なんだなぁ。


しばらく欄干にもたれてボーッと眺めていたけど、またトイレに行きたくなって切り上げた。

今日はもう外に出る気力もないから、ついでにシャワーも浴びてしまった。


いや、しかし。

喩え部屋には私しかいないと分かっていても、ガラス張りなのは落ち着かなかった。

あと、ソープのポンプボトルが陶器でヒヤヒヤした。

オシャレなんだけど、この滑りやすい環境には不向きでしょ。絶対。



「はぁ、サッパリした。」


シャワールームから出ても、まだ花火の音が聞こえていた。

私が起きる直前から始めたとしても、30分以上は打ち上げていることになる。

あれかな。別の花火団体がそれぞれ別の場所で打ち上げてんのかな。知らんけど。


私は小上がりにあがって、部屋飲みを始めることにした。あ、さすがに今夜はお酒はなしね。

温かいルピ茶とウェルカムフルーツで楽しもうと思う。



「さて。それで⋯これは⋯なんだ?」


ミニキッチンに果物ナイフがあったので一応持ってきたが、皮のむき方が謎。

ていうか、全部どうやって食べるのか謎。

金平糖みたいな実が密集している丸いのとか、中の色が透けて見える膜に覆われたのとか、刃が1ミリも入らないカッチカチのとか、全部。

私はとりあえず、触った感じ柔らかい物を口に入れてみて、いけたら食べるを繰り返した。

まさか体に害のあるフルーツを客室に置かないだろうしね。

結果、7割は皮のまま食べられたし美味しかった。



「あー、お腹たぷたぷ。」


言うて、食べ過ぎたわな。

フルーツとルピ茶の水分に胃が溺れている。

私はお腹をさすりながら、後ろのビーズソファに身を沈めた。

明日はラウンジで夜明けを迎えたいので、さっさと歯を磨いて寝よう。

いつの間にか、花火の音も聞こえなくなってるし。

島の人も、あの人も、寝支度に入ったのかな、なんて。


うつらうつら考えながら、私の常夜島一日目は過ぎていった。








2023.10.01



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