そらとぶ おモチと おつきさま
ウサギのもっちりくんはおモチが大好きです。
ある夜、空をみあげたもっちりくんはおモチのような丸いお月さまがみえました。
武 頼庵(藤谷 K介)様主催『月 (と)のお話し企画』参加作品です。
むかしむかし、ある村に『もっちりくん』というウサギさんがすんでいました。
このウサギさんは、おモチのようにまっしろでした。
もっちりくんはおモチつきが大すきです。
毎日、おモチを作って村のみんなにふるまっていました。
もっちりくんのおモチは、村で一番おいしいそうです。
村のどうぶつたちは、それを食べることを楽しみにしています。
ある日の夜、もっちりくんは空を見上げ、明るくかがやくお月さまを見つけました。
まっ白でツルツルで、おいしそうなおモチのように見えました。
もっちりくんは友だちに言いました。
「みんな、見て見て! あの月にはきっと、ぼくがつくったものよりおいしいおモチがあるよ。みんなで行ってみよう!」
なかまのウサギさんたちはビックリしました。でも、みんなでいっしょに月に行くことにきめました。
みんなで大きなおモチをやいて、おモチの気球をつくりました。
もっちりくんとなかまたちは気球にのりこみます。
おべんとうには、おモチを小さく丸めたおダンゴをいっぱいもちました。
「さあ、おモチの国にむかってしゅっぱーつ!」
もっちりくんの合図で気球は月にむかってとびたちました。
村のどうぶつたちが、ウサギたちをみおくっていました。
さて、ウサギさんたちはそれからどうなったでしょうか。
まんげつの夜に、月を見上げてください。
きっとそこには、おモチをついているウサギさんが見えるでしょうね。
* * *
「ねぇねぇ、偉文くん。これってどこかの国の昔話? あたしが知ってる月のウサギって、ウサギさんが死んじゃう話だったの」
安アパートで独り暮らしをしている僕の部屋に、従妹の胡桃ちゃんが遊びに来ている。
彼女はとても元気な小学生の女の子だ。
「いや、僕が考えたオリジナルだよ。胡桃ちゃんが言ったように、日本昔話だとウサギが死んで天に召されるんだ」
今昔物語とかのネタだな。元々はインドの話だ。
お腹をすかせた老人のために、ウサギは火に飛び込んで自分を食材にした。
実はその老人は神様で、ウサギを月に送るんだ。
僕は胡桃ちゃんに月の絵を見せた。
「月には黒い影があって、これがウサギに見えるんだね。ウサギに見える国はアジアが多いかな」
「っていうか、あたしにはウサギにしか見えないけど、別のものに見える人もいるの?」
「中国ではウサギの他に、白い部分がカエルに見えるっていうのもあるよ。仙人の薬を飲んだ女性が、月に昇ってカエルになったっていう昔話があるんだ」
「カエルに見えるかな。ちょっと苦しい気もするけど」
「中国では他にも桂という木に見立てることもあるんだ。仙人に叱られた人が罰として桂の木を伐り続けるというお話があるんだ。そこから月の光のことを月桂と呼ぶこともあるよ」
「ふうん。お酒のコマーシャルでそういう名前をきいたような……」
「南ヨーロッパではカニに見立てることを多いね」
「片方のハサミだけ大きいんだね」
「東ヨーロッパや北アメリカでは、女性の横顔になるんだ」
「あ、言われてみればそう見えるかも」
「ドイツでは薪を背負った人に例えられているよ」
「しばかりをするおじいさんみたいだね」
「バケツで水をくむ女性というのもあるよ。これは世界中でその言い伝えがあるみたい」
「もちつきのウスがバケツになってるんだね」
「北ヨーロッパでは、男女二人で1つのバケツを持っている。満月の夜に丘の上に水を汲みに行くお話があるんだ」
「マザーグースの『ジャックとジル』っていう歌でも丘に水くみにいくよね。あれの元ネタかなぁ。丘の上に井戸があるのは普通は変だよね」
「北ヨーロッパや東南アジアでは、おばあさんが本を読んでいる様子とか、編み物をしているっていう見え方もあるよ」
「そうだね。言われてみるとそうも見えるかも」
「アラビア半島ではライオンと言われているんだ」
「たしかにこの角度で見るとそうなるかな」
「これが跳びはねているウサギに見える人もいるよ。で、ライオンは別のパターンもある。吠えているライオンの頭部だ」
「ライオンかどうかはわかんないけど、口をあけている絵には見えるね」
「南アメリカではワニに見えるみたいだ」
「ウサギの耳がワニさんの口になってるんだね」
「同じく南アメリカだけど、ロバに見立てられることもあるよ」
「南半球だから日本とは逆に見えるのかなぁ」
「この他にもいろいろな見え方があって、元になる昔話とかもあるみたいだ」
「そうなんだ。違った見え方があるのは面白いね。あ、そうだ。ねぇねぇ。月のことで思い出したんだけど、海の水で満潮とか引潮ってあるよね」
「うん。それは月の引力の影響だね。海の水が月に引っ張られて盛り上がる。それが満潮なんだ」
「それはわかるんだけどね。月のある方の反対側も満潮になるのっておかしくない?」
たしかに、引力だけで説明すると反対側が満潮になる理由がわかりづらいね。
「胡桃ちゃん、へんな例えだけどね。もしも地球と月が同じ重さだったら、月は地球の周りをまわるんじゃなくて、お互いの真ん中の点を中心にして、月と地球が同じ軌道をグルグルまわることになるんだ」
「えーと……そうなるのかな?」
「実際には地球の方がずっと重いから、地球の中心から月寄りの場所を軸にして、月と地球が回っているんだ」
「ってことは……。もしかして、月の反対側は遠心力で満潮になるのかな」
「正解。ある意味、地球も月に合わせて回っているんだよ。これは二十七日で一回転するよ」
「じゃあさ。偉文くん。地球は自転していて、月から見ると1日で地球が一回転するよね。でも地球から見た月は、いつもウサギさんの絵の方がぴったりとこっちに向いてるよね。これって変じゃないかな」
「そうだね。二つの説があるよ。一つ目は月の自転の周期が二十七日で、地球の周りをまわるのと一致しているという説。もう一つは、月の内部の重さが均一じゃなくて、一番重い面を地球に向けているという説だ。月の周回軌道は楕円形だから、たぶん後者だろうね」
「あ、そっか。起き上がり小法子と同じ感じかな」
「そうだね。ダルマの人形は下が重いから倒しても起き上がる。いつも下側を地球の中心に向けているんだ。月も同じことなのかもね」
そういいながら、僕は予め作っておいたオヤツをもってきた。
白玉団子にウサギ型の焼き印をつけたものだ。
「わ、偉文くん、すごい。うさぎさんのひと筆書きだね。ねぇねぇ、この絵はどうやったの?」
「ラジオペンチで針金を曲げて形をつくったんだよ。それをガスコンロであぶって団子におしつけたんだ。暦ちゃんにもお土産にもっていくといいよ」
暦ちゃんは胡桃ちゃんの妹で、とても物知りの小学生だ。
「ありがとう。へへへ……。帰ったら暦にも、他の国の月の絵のことを教えてあげよう」
「いや、胡桃ちゃん。あの子、全部知ってるかも。今回の絵本のネタは暦ちゃんからリクエストされたんだ。さっき月の模様がカエルに見える話をしたけど、元々あれを僕に書かせようとしてたんだ」




