お札(さつ)とお札(ふだ)の起源は同じ!?誰が作った?寺と神社の札の違いは?呼び名の違いは?
紙の起源について書いたはずが、いつのまにか札の歴史になり、最終的には札の語源の話に……何が起きたというんだ…!
お札ってご存知ですか?
千円、五千円、一万円……ああ、二千円札なんてものもありましたね!!
ちょっと待ってください。お札の知識なんてもう常識!!
お札に隠された防犯技術だとか、日本の紙幣硬貨を製造している造幣局が近代まで外国通貨を製造していたとか、勲章が埼玉県にある造幣局で職人の手作りで作られているとか、紙幣の原形は墓荒らしが副葬品を略奪した後に供えて行った紙だとか、世界初の紙幣は則天武后によって発行されたなどという事は、もう常識すぎてどなたでもご存知だと思います。
ですので、お札では無く、お札について詳しくは知りたくはありませんか?
札!神札、神符、護符、霊符などと書かれることもある、この存在について私たちはほとんど知りません。
神札、神符、護符など多くの札や符とつく名称のものに違いはありません。そのことは神道の神職やそれらに関わる学者向けに発行された本*にも書かれています。
紙幣を意味するお札と宗教的な象徴物としてのお札は同じ漢字を使いながら違う意味を持つ非常にややこしい言葉だと思ったことはありませんか?!
ですが、もし元々の意味が同じだったとすればおかしな事ではないと考えられるのではないでしょうか?
何もアナグラムやSNSで集めた情報を根拠に言っている訳ではなく、明確な関連性があるといくつかの文献が示しています。
このお札とお札の読みが同じ……お札問題を解決する為には、紙が何処で生まれたか、紙幣はどこで生まれたか、双方を理解し、比較し、紙が古代ではどんな使われ方をされて来たか知る必要があります。
世界初の紙幣は則天武后によって発行されたと先程述べたように、世界で初めて紙幣が発行されたのは中国です。
そして世界で初めて紙と言われる素材が生まれたのも中国です。
漢字が生まれたのも中国ですので、神道のお札が何処に起源があるのか何となく見えて来ました。
さて、世界で初めて紙が作られたのは中国と書いてみましたが、初期の紙は現在の我々が知っているものとは遠くかけ離れたものでした。
初期の紙はなんと、ほつれた布を集めて板状にしたものが起源とされています。じゃあ布に書いた方が良くね? と思われるかもしれませんが、紙が生まれた時、一般的には文字や絵は布に書かれていました。
しかし布は作るのに手間がかかり高級な素材でしたので、そこから出たカスを集めて紙を作る人物が現れた、ようです。
布の前に遡れば、竹を細く裂いたものや、それらを紐でまとめて巻物状にした竹簡が使われていました。
歴史漫画を見たことがある人ならわかるかもしれません。孔子が文字を書いている竹製のブラインドのようなものです。
さらにそれ以前は石や素焼の陶器、動物の角などに文字を刻んでいました。
布のカスを集めて作られた紙はやがて、そのカスを集めて板状に加工する技術を流用し、植物から紙を作るという発想に至りました。これが日本の和紙の原型となる技術です。
植物から生まれた中国の技術由来の東洋の紙は、柔らかくしなやかで水分を吸いやすいという特徴があります。
その為、筆で文字を書くのに適しています。
一方で異世界系アニメでよく見る西洋の紙は非常に硬く木版による印刷や筆で文字を書いても染み込まず、書いたものを保存することが出来ませんでした。西洋の紙は動物由来のゼラチンを染み込ませて繊維がバラけないように固めてある為、カチカチです。
そこで金属のペンや羽ペンなどの先端が尖った筆記用具で表面を削りながら書く必要がありました。
そんな余談はともかく、早くから紙が作られ普及していた中国では、紙は儀式用の道具として重宝されました。
おそらく小学生くらいの時に習ったと思いますが古代世界では人が死ぬと埋葬品を埋める風習がありました。
中国では古くは王が死ぬと家臣が生きたまま埋められたり、エジプトでは聖なる薬草だとか花だとかペットだとか金や宝石などの装飾品が、日本では金等の装飾品や渡来して来た貴重な青銅器、勾玉などが副葬品として使われました。
古くは生贄が埋められて来た中国でも、優秀な人材を埋めるのは可笑しいという理論が生まれやがて、装飾品や金銭、兵士を模した人形…兵馬俑のようなものが埋められるようになりました。
この金銭を埋めるというのが、六文銭という日本の仏教式葬儀の風習にも繋がっていると言われています。
中国で金銭が埋蔵されるようになると、市場にある金銭の総数が不足する、金銭を狙って墓荒らしが墓を破壊するなどさまざまな問題が発生しました。
そこで中国の政府であった朝廷は、紙で作った偽の金銭を模した、偽紙幣を作りそれを燃やして死者に届けるという儀式を始めたそうです。
その偽紙幣には漢字の他に、人を模した絵図、星や大地を図形化した模様が書かれていました。それが霊符と呼ばれるお札に発展したと考えられています。
霊符という単語は主に道教のお札を表す時に使われ、日本語では道教のお札と古神道や陰陽道のお札という様々な意味でも使われますが、古神道や陰陽道のお札は道教とほぼ同じなので、同じ意味と考えてもいいはずです。
道教というのは京都や横浜なら日常会話で耳にすることがあるかもしれませんが、中国の伝統的な宗教です。
道教はおそらくチラッと中学校か高校の社会史の授業で登場するはずです。
日本に仏教が伝わる際に、インドから中国、中国や朝鮮半島から日本に伝来した際に道教の風習が混じった、というような内容です。
この道教の歴史について宗教的な歴史と史実や文献に基づいた歴史があります。この二つの歴史という問題は日本の天皇はいつから存在したのかという問題に似ています。神話に綴られた神も天皇に含めるか、というような話です。
道教の宗教的な歴史では星の神の孔子が不老不死の技術を生み出して人に教えたとか、孔子は仙人になったとか、孔子は人の前に現れた星の神だったとか、いろんな歴史があります。
史実的な歴史では孔子は、人生の生き方について書いた著書を発行し、それに感銘を受けたファンが彼に教えを乞いて、ファン同士で孔子の言葉に隠された意味を探しているうちに神秘思想と結びついて妙な方向に向かっていったのが道教。という説です。
深い意味があるのでは無いかと考えて生まれるという部分は非常にイスラム神秘主義のスーフィーズム*に似ています。
道教では霊符が作られます。霊符はクチナシ色(黄色の一種)の紙に朱色(赤色の一種)のインクで文字や記号を書きます。文字は多くは筆で書きますが、桃の木で作られた印を使って印刷する場合もあります。
道教において、クチナシ色と朱色は魔除けとして効果がある色で、桃は聖なる木として知られています。
ああっ、桃が聖なる木だという話は芥川龍之介の桃太郎を読んでいたらわかるかもしれません。千年に一度身をつける聖なる桃の木から落ちた実が流れてきたのが桃太郎の桃みたいな話が出てきます。なんかジャンプの忍者漫画のラスボスの木みたいなストーリーですね。
日本に仏教が伝来した際、中国人僧侶から日本に道教混じりの仏教が伝わったわけではないそうです。
奈良時代、日本から数多くの留学生が中国に渡り最先端の技術を学び帰還しました。
最先端の技術の中にあったのが仏教でしたが、
中国文化や中国語を深く理解していなかった日本人は道教の違いと仏教の違いを理解出来ず、仏教の風習として道教の風習を混ぜたという訳です。
そして日本の仏教ではお札が作られるようになります。今でこそ日本の仏教と神道は分けられていますが、昔は一つの敷地に神社と寺があることはよくありました。
社に仏様と神様が祀られていたり、神道の神様にお経を読み上げたりと。
宗教史的な面ではほとんど見られることの無い、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康も比叡山を燃やす意外にも様々なことに深く関わっていました。
戦国時代以前までは神社や寺は地方豪族のように領地や兵士を持ち、座を管理し収益を得ていました。
戦国時代になると領地は荒らされ、野党のような連中に気まぐれに寺社を焼かれ力を失っていました。
そこで織田信長は神社や寺に対して、座を管理するのをやめさせ自由に商売ができるようにさせる代わりに復興支援をすると約束しました。これが歴史の授業で習う楽市楽座の真相です。
織田信長が死に豊臣政権になると、次の支援者として神社仏閣は豊臣家を頼りますが、徳川家康によって滅ぼされ、力をつけていた神社勢力の力を削ぐ意味も込めて、江戸幕府は寺が神社を管理するシステムを作りました。
明治政府によって仏教と神道が明確に分けられる以前は、このように両者は深く関わっていました。
ですから神社に仏教由来の儀式が伝わることが多かったようです。
また神社の儀式は、ほとんどが朝廷の儀式をモデルにしているため、天皇が仏教徒だったという歴史を見ても神道が仏教に影響されているのが伝わると思います。
道教から仏教、仏教から神道に様々な宗教的な儀式が受け継がれる中にあったのがお札です。今ではお札には神様が宿っていて……というような言い方をすることがありますが、古い時代において神社のお札は信仰していると証明する紙のような存在でした。
それが仏教や道教から強く影響を受け、紙に文字を書いて、それが効果を発動する、というようなものに変化しました。
道教と仏教のお札は、書いてある文字が一番大事で書いてある文字に由来した効果が出るというのが常識ですが、神道では書いてある文字がお札の効果という訳ではなく、祀られている神様の持つ力に由来した効果が出るという違いがあります。
しかし最初に述べたように、神符や護符という言葉に違いはありません。
余談が物凄く多かったような気がしますがいかがだったでしょうか?
偽の紙幣を燃やす風習から生まれた霊符、霊符が使われる道教が仏教と混じり日本に伝わり、日本の仏教神道が深く関わり混ざり伝わった札文化。
お札とお札には関係があったと何となく理解していただけたでしょうか?
私はうとうとしながら書いたので、いまいち何を書いていたのかわかりませんが、なろうに文章を投稿していなかったという事実に対するリハビリを兼ねて、とりあえず投稿しました。
霊符の書き方や、取り扱い、札の種類等が気になった方はビイングネットプレスという出版社から出ている大宮司朗という方の著書をオススメします。この方の正式な著書は豪華で内容も凄く良い内容ですがあまりにも難解で物凄く高価な為、オススメしません。
世界の紙の歴史について詳しく知りたい方は、紙の研究者として有名なダート・ハンター(dard hunter)氏の著書をオススメします。
神道の歴史については弘文堂"プレステップ神道学"と"縮刷版神道事典"がオススメです。この本は日本に二つしかない神道学科がある皇學館大学と國學院大学で教科書や参考書に指定されています。
その他の歴史については義務教育時代の教科書を読み返してみてください。
道教については"知の再発見双書 道教の世界:宇宙の仕組みと不老不死"という本がオススメです。入門的な内容でカラー図版でしかも安いのでいいとおもいます。
お札の起源に関する本は非常に少なく、確たる証拠があるものはあまりありません。
ここで書いた内容もその一つで、比較できる程の情報がある訳ではなく、都合のいい情報を寄せ集めた程度の内容となっています。
ですが、最近はお札や宗教的な儀式に関する本がたくさん売られているので誰かが書いてくれることに期待しています!!
雑註釈】
※神職向けに書かれた本
"神道の基礎知識と基礎問題"という本。古文で見たような旧仮名使い、現代訳の無い漢文、古い法律、専門用語、一般的に使われることの無いタイプの特殊な漢字、常用漢字が生まれる前の難解複雑な旧漢字が入り乱れる、タイトルに反して全く基礎的では無い本。神職をするなら使いそうな知識がたくさん書いてあるので基礎的とも言える。
※副葬品
死者と共に埋められる物のこと。だいたいは死者の為に埋められるが、死者が復活して化け物にならないように生きている側の為に埋められるものもある。ちなみに土葬した死体に棒を突き刺し土の下から復活しないようにする風習があるが、だいたいの場合その棒は副葬品扱いにはならない。
※兵馬俑
へいばいよう、と読む。中国の埴輪みたいなもの。埴輪と明確に違うのは現代彫刻のように非常に特徴をとらえて作られた実寸大の人形だということ。一体一体にモデルになった人がおり、現在ではほぼ土色だが昔は色もついていた。
※六文銭
死後、三途の川を渡る際に渡し船(昔は橋がわりに船に乗って向かい岸に渡らせてくれるサービスがあった)に払う料金として渡すお金。三途の川を渡れないと生きても無いし、死んでも無いという状態になる。
※スーフィズム
イスラム教の神秘思想。コーランの文字は見せかけの文字でその文字列に隠された本当の文章があるという、陰謀論的な思想から生まれた神秘思想。正確にはもう少しマトモな理由だがわかりやすく、ざっくりいうとそんな感じ。
※座
商人が集まった組合のこと。ファンタジー的に言えば商人ギルド。
戦国時代以前は神社や寺が座の管理者になっていた。
長々とクソブログ構文読んでいただきありがとうございました。
大正天皇・明治天皇・昭和天皇の葬儀!招待された外国人参列者はだれ?身分は?国籍は?人数は?
というエッセイを昨日投稿しています。よければ見ていただけたら嬉しいです。