魔法2 カンソーサーギ
アカウントバーン。強烈な閃光は、コミカラのダンジョンを破壊する。
塵すら残さずに消滅し、上から降りかかってくるものさえ残さない。広大な範囲を破壊し、見上げても遥か彼方に見える空は、針穴のように小さい。
「あのバカ女神、ボクに何て物を渡すんだ」
ブクマーの剣を眺めてみるが、古びただけにしか見えない剣。本当にあの破壊を起こした原因とは思えない。
出来れば捨てて逃げ出したいが、灯りが必要なので今は捨てるわけにもいかない。それに鞘が消滅し、抜き身となった剣は扱い難い。
幸いなのは、あの呪文を覚えていないこと。ふと頭に浮かんだ呪文は、もう出てこない。覚えていれば何かの拍子で、破壊衝動に駆られそうになる。
「重い、邪魔だ。何でボクがこんな目に遭わなきゃならないんだ」
ずっと手に剣と盾を持って歩き続けるのは、ボクにとって苦痛でしかない。耐えきれなくなって、地面に突き立てると、波紋が広がり大きく伝播する。
一瞬背中に嫌な汗が流れるが、特に破壊は起こらない。もしかして、遥か先のボクの見えない場所で、破壊が起こっているかもしれない。だが、それはボクのせいだとは分からないだろう。
それでも、暫くは動かずにジッと様子を窺う。振り返ってみると、ボワッと光るものがあり、何となく分かった気がした。
「エタール」
何の意味も無いと思った、転移の呪文を唱えれば、光っている場所に転移する。そこにあるのは、下りの階段。
「ここが、最下層じゃなかったのか?あの嘘つきダメガミめ!」
階段をゆっくり降りると、扉が見えて来る。異世界らしくない、アパートの一部屋のようなドア。しっかりと施錠されているが、そんなのはボクの前では意味がない。
何でも叶うスタアの盾があれば、どんな願いでも叶う。もし駄目なら、最強のブクマーの剣で、こんな安っぽいドアなんか叩き壊してやる。
ボクのそんな想像だけで、ドアからはガチャッと解錠する音が聞こえ、内鍵は外れてしまう。勝手に開くドアと共に、奥から聞こえるのは呑気なドジコヨージョの鼻唄。
音を出さないように細心の注意を払いながら、土足で部屋の中に上がり込むと、中からは鼻唄に混ざりカチャカチャと音が聞こえてくる。
「おい、ダメガミ!」
声を掛けると、ビクッと体が震え、呑気な鼻唄が止まる。慌てて、ハグハグッと口に頬張る音。
「聞こえてるのか?忘れ物は見つかったのかって聞いてんだ!」
ゆっくりと振り返る、ドジコヨージョの頬はパンパンに膨れている。
「口元に、チョコが付いてるぞ」
ガタンと椅子を倒し、立ち上がったドジコヨージョは首をブンブンと横に振る。さらに、ボクが近づくとテーブルがあるにも関わらず、ジリジリと後ろへ下がる。
ガチャンと音がして、テーブルの上の湯呑み茶碗が倒れると、ほぼ手付かずだった液体が一面に広がる。
それは、負の連鎖の始まりだった。
慌てて溢した液体を拭き取ろうとして、テーブルの上のものを派手にひっくり返す。それが湯呑み茶碗に当たり、床へと落下して割れる音がする。割れた湯呑み茶碗の破片を避けようとして、椅子にぶつかり派手に転倒するドジコヨージョ。
ピタゴ◯スイッチを見ているような、次々と起こる連鎖に、部屋の中は壊滅状態となる。
そしてボクの目の前には、正座するドジっ子女神がいる。
「それで、ボクに言うことがあるんじゃないか?」
「えっと、何も食べてない」
「まだ口元にチョコが付いてるぞ」
慌てて口を拭い、手に付いた黒いものを口の中に入れる。
「違う、これはチョコじゃなくてアン···はっ」
最強の剣ブクマーが、ハリセンへと姿を変える。ボクの思いを汲み取り最適な形に変わった。だから、遠慮なんてしなくてイイ。思いっきり振りかぶって、ドジっ子女神の脳天へと叩き付ける。
パアアアアッーーーンという派手な音はするが、ドジっ子女神の髪が風で靡いただけ。ボクの思いを汲み取ったハリセンは、派手な音だけを出してくれる。
「違う、これは何なんだ?」
ごみ袋に一纏めにされたジグソーパズルと、巨大な8枚のフレーム。少なくとも、軽く何万ピースはある。
「えっと、パズルよ。良かったら、やってみる?」
「じゃあ、フレームの裏の文字。これは何て書いてあるんだ?」
「んっとっ、えっとっ」
再びハリセンを、脳天に喰らわせる。ドジっ子女神に衝撃はないが、ボクの気持ちを伝えてくれる。
「これは、ケッキョクハーレムだったと思うの」
「思うのって、どういう事!違うかもしれないって事!」
「えっと、ケッキョクハーレムです」
「じゃあ、これは?」
「コンヤクハーキ···です」
「これって、ただのジグソーパズルじゃないだろ」
「はいっ、あなたに渡すはずの8つの理です。バラバラになってますが···」
分かっていたし覚悟もしていた。それでも、衝撃は小さくない。しかし、ボクには願いを叶えるスタアの盾がある。
「ゴジダ ツジホウコ クハカン ソウジャネー」
バラバラだったピースが浮かび上がると、それぞれのフレームの上へと降り始める。
「えっ、足りない···」