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魔法1 アカウントバーン

 この世界の名はナーロ。魔法の世界でもあるが、文字と言葉の世界でもある。無詠唱で魔法を使うことも可能だが、文字や言葉が込められた魔法は強大な力を放つ。


 そんな世界の、コミカライのダンジョンの最下層に、ボクはぼっちでいた。


 召喚魔法のコーツージーコの暴走が、世界の理を歪め、大きな歪みをつくり出し、ボクは光の中に飲み込まれた。


 全身を襲う衝撃は、ボクの感覚を麻痺させ、体だけでなく魂や記憶さえも壊し奪い去る。そして、このまま消えてしまうのだと覚悟した時に、声が聞こえてくる。


「はあっ、間に合ったわ。まだ大丈夫そうね。また怒られるところだったわ」


 薄れる意識の中で、聞きたくない言葉が聞こえてくる。


「ねえ、起きて。早くしないと、私が怒られるの?」


 繰り返される、無視したい言葉。このまま意識を手放した方がイイとさえ感じる。


「あっ、しまった。忘れちゃった!今からじゃ間に合わない。どうしよーっ」


 不覚にも、その言葉でボクは目を開けてしまった。薄れかけたボクの体が、再び色を取り戻す。徐々に痛みが和らぎ、ぼやけた視界も鮮明になってゆく。


「あなたは、誰?」


「私は女神ドジコヨージョよ。これでも、ナーロの女神様なんだから安心して」


 ボクの前に現れたのが、ナーロの世界の自称女神様。数多の神が存在するナーロの中でも、最も新しく誕生した神の名がドジコヨージョ。


 そしてボクは、この女神を忘れない。必ずや復讐する為に、このコミカラのダンジョンを脱出する。それだけが、ボクがナーロで生きる為のモチベーションとなる。


 不運な事故に巻き込まれ、この世界に転移させられたボクには、ナーロの世界の理と力が授けられるはずだった。

 ナーロの世界にも大きな破壊をもたらす為に、転移先がコミカライのダンジョンの最下層だったのも納得出来る。そして、そこから脱出する為の理と力。


「ゴツゴーシュギ」

「テンセーヨージョ」

「ザマアザマァ」

「ケッキョクハーレム」

「リンゴクオージ」

「アクヤクレージョー」

「コンヤクハーキ」

「ケモミミサイキョー」

「オーサンテンイ」


 8つの理が何なのかは、ボクには理解出来ない。ただボクが転移した、コミカライのダンジョンから脱出する為には絶対に必要なもの。


 そんな肝心なものを、忘れてくるなんて有り得ない。そして、長い沈黙が流れる。


「じゃあ、頑張ってね。応援してるから」


 沈黙に耐えきれなくなった、ドジコヨージョが軽く右手を上げて逃げようとする、


「ちょっと待て!なんで、忘れてくるんだよ。早く取ってこいよ!」


「忘れてなんかないわよ。何処に置いたか覚えてないだけなの」


「取ってくるのに、どれくらい時間がかかるんだ?」


「直ぐよ、直ぐ。そんな時間なんてかからないわ」


 ボクの問いに、食い気味に返事するドジコヨージョは信用出来ない。


「嘘だろ、それ!」


「えっ、女神が嘘なんてつかないわよ」


「じゃあ、ボクも一緒に行く。それでイイよね」


「えっと、それは無理よ。神しか入れない世界に、あなたを連れてゆくことは出来ないわ」


 再び、長い沈黙が流れる。


「それなら、ここに何か置いていって」


 異世界の女神に財布やスマートフォンなんて無いだろうが、少しでも逃げないようにさせる為の担保は必要で、その代わりにとボクが預かったのは一振の剣と、五角形の形をした盾。


 そして、どれだけ待ってもドジコヨージョは、戻ってこない。ボクに残されたのは、剣と盾だけ。


 剣の名はブクマー、所有者に最強の力を与える。盾の名はスタア、所有者のどんな願いでも叶える。2つとも、ナーロの世界では伝説の武器と防具になるらしい。


 何故、“らしい”になるかといえば、ボクが持っても伝説と謳われる力を発揮してくれない。この剣と盾と一緒に教えて貰ったのが、2つの魔法のダイニオージとエタール。


「ダイニオージッ」


 ブクマーの剣を掲げ、呪文を詠唱すると、剣身がギラつき炎に包まれる。しかし、それだけで何も起こらない。炎の斬撃が飛ぶこともなく、ボワッ燃えているだけ。暗いダンジョンの中では、灯りとなってくれるだけの効果しか感じない。


 そして、もう一つの魔法を唱えてみる。


「エタール」


 しかし、何も変化は起こらない。何度試しても、何も現れないが、ボクの体が少しだけブレる感覚だけがある。もしやと思い、少しだけ移動して、再度エタールを唱える。


 がっかりだった。エタールは、ボクが転移した場所に戻ってくる魔法。コミカライの最下層から脱出したいボクが、迂闊に唱えてしまえば···。再び、ここからのスタートになる。


「文字を想像し、言葉には思いを込めて」


 そう言い残して姿を消した、ドジコヨージョを思い出すと、沸々と怒りが込み上げてくる。そもそも、“ダイニオージ”も“エタール”の言葉の意味も知らないのだから、思いが込められるわけが無い。


 その時、頭の中に言葉が浮かび上がってくる。


「アンチナー ロッテイッ テルワリニ オマエノサ クヒンタ イトルナゲー」


 ブクマーが急に、蒼く輝き出す。コーツージーコの魔法とは比べ物にならないくらいに強い光。


「イップ ンデサン ワヨメルワ ケネーダロー」


 今度はスタアが紅く輝き出すと、蒼と紅の光に世界は包まれる。


 アカウントバーン。それが、この世界の終わりと始まりを告げる。

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