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僕と親父と絹ごし豆腐

作者: 小村るぱん

 親父の店は町でちょっとした有名店だった。

 なんてったってリーゼントをした豆腐屋なんて滅多にいない。

 なんでもエルヴィス・プレスリーという昔の歌手に憧れて、以来ずっとその髪型らしい。

 引っ込み思案の僕からすると、そんな風に目立つ父と連れ立って歩くのも恥ずかしかった。

 

 だから性格も全然合わない。

 何か難しい課題に直面すると「おめえは気合が足りねえんだ気合が」と昔のスポコン漫画宜しくの精神論。

 参観日に後ろから「淳也、手を挙げろ!」なんて叫ばれた時は赤面してうつむいていたっけ。

 そんな父から離れる様に、勉強に励んで東京の大学に進学。

 一流の商社に内定した。

 それだって父はうるさかった。

「じゃあなんでその会社に入るんだ。お前の夢はなんだ」

 夢なんて子供じみている。

 良い給料をもらって良い生活をする。

 一流の会社で華のある仕事ができる。

 それがシンプルな人生の答えだ。

 僕は親父を時代遅れの仕事人間として疎んじていた。

 

 だけどそんな僕の考えが甘いのだと、入社してから思い知らされた。

 営業職として張り切っていたのは良いけれど、客と打ち解けることができない。

 内気な性格が祟って、クロージングあと一押しという所で尻込みしてしまう。

 体育会系の上司には毎日詰められた。

 事務の女子からも視線は冷たい。

 こんははずじゃあなかった。

 都会で上手く世を渡り、誰にでも羨まれるような人生。

 寂れた豆腐屋なんかとは対極にあるはずだった。

 成績を上げられず、社内で居心地が悪くなる中、何とか必死でついて行った。

 だけど適性というものはあるもので、無理をすると体は正直だ。

 ある日、日報を書いている時に倒れてしまった。

 原因は過労。心因性のものだった。

 家で療養中、父と電話で話をし、事情を打ち明けた。

 父はその日に2県隣から駆け付けた。

 アパートに入ると、何も言わずにタッパーを差し出した。

「なーんもかけねえで食ってみろ」

 純白の絹ごし豆腐を箸でそのまま口に運んだ。

 子供の頃食べていた懐かしい味に、新鮮な甘みがある。

「どうだ、俺の豆腐もなかなかやるだろ」

 手が止まらなかった。東京のどんなお洒落な店でも食べられなかった心に染みる味。

「うん、うめえよこれ」

 本心からそう呟くと、親父は鼻をこすって嬉しそうに笑った。

 


 親父の店は町ではちょっとした有名店だ。

 なんてったってリーゼントをした豆腐屋。

 それも親子二人してだ。

 似合わない髪型に照れながら、僕は今日も美味しい豆腐を親父と作る。

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