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1 落ちこぼれ魔法士、十塚さくら

 本日より投稿させていただきます。

 最低でも週一のペースで更新していきますのでよろしくお願いします!

「この世界のすべての事象は魔法、その十の特性から成り立っているのです」


 女教師が黒板に文字を書いていく。


「火、木、風、土、雷、水」


 その六つが円を描くように並ぶ。


「そして朝、夜、光、闇」


 その横に四つの文字が四角になるように並べられた。


「海も空も大地もそしてこの体も、全ては魔法によって形作られているんですよ」


 そう言って教師は宙空に人差し指で文字を書いていく。その文字は形作られるたびに光を発す。


(ほむら)


 教師が静かに呟くと宙空の文字がパチパチと炎に変わった。教室内からおぉ……と声が上がる。


「ここに風の属性を与えてやると」


 今度は逆の手の人差し指で別の文字を描き始めた。


(ふう)


 教師が呟くと光っていた文字は風へと変わり炎へと向かっていく。二つが合わさるとその炎はゴウと勢いを増した。


「魔法とは全てに通じる力。しかし一つでは弱い力しか発揮することはできません。火に風を送れば勢いを増す。こんなふうに二つ以上の力を合わせて初めて本当の力大きな事象を成すことができるのですよ」


 女教師は教卓に手を置きクラスを見渡す。


「みなさんはそれぞれが一つから三つほどの属性を持って生まれます。でも結局一人が成し得るのはその属性を組み合わせてできることだけ。だからこそ魔法士はそれぞれが助け合い高めあって生きていかなきゃいけないのです」


 クラスの一人が手を上げる。


「せんせー……わたしはぞくせいがひとつしかないの……。ひとりじゃなんにもできないの……?」


 桜色の髪をした女子、朝倉みゆが不安そうに尋ねた。

 教師は少し微笑みこう返す。


「私たちの心臓はね、それぞれが属性を持っていてその属性ごとの心臓から伸びる管によって指先へと魔力(マナ)が送られるの。でも一度に送ることのできる魔力の量は決まっているからたくさんの属性を持つ人は一つ一つがとっても弱くなってしまうわ」


 先生は三本の指を立て、その全てを光らせて見せる。


「でも朝倉さんのおうちのような一つの属性を守り続けてきた一属家(いちぞくけ)は違う。例え複雑な事象を起こすことができなくても、ことその属性になれば他を寄せ付けない圧倒的な出力で魔法を使うことができるの。そして一属家どうしが力を合わせて魔法を使えば」


 先生はぎゅっと拳を握る。。


「どんなことだって起こせる。例え”生命の創造”だとしても」


 教室がシンと静まる。先生の迫力と語ることの大きさに小学生の頭ではついていくことができなかった。

 先生はハッとして熱くなったことを恥じるように続けた。


「と、まあこのように魔法とは人と人が助け合い、繋がるための力。その反面恐ろしい力でもあります。みなさんはこれから魔法士として友達、仲間を大切にしてこの大きな力を正しく行使する術について学んで行ってくださいね」




 そして世界はぐにゃりと歪み小等部三年実力判定テストの一幕へと移り変わった。


「お前三年生にもなってまだちゃんと魔法使えないのかよ〜!」

「あ、仙田くん……。」


 そう言って俺の目の前で仙田は属性紙を土塊へと変えた。


「お前みたいな落ちこぼれが、なんでこの学校に入学できたのか分からんけど、お前みたいなのがチームにいるとメイワクなんだよ!」


 仙田は土塊に水の魔力を与えて泥にした。

 そしてそれを俺の顔に投げつけた。


「っぶ!!!」


 たまらず椅子から転げ落ちる。

 教室からはドッと笑いがおきた。


「こらー! また仙田はそうやって魔法をくだらんことに!」


 魔法実技の教師が仙田を注意するが仙田は悪びれるでもなく笑っている。


 どうして。こんな目にあわなきゃいけないんだっ……!

 物心ついた頃には施設で暮らし、親の顔も知らない。施設の方針で単身この魔法学校へと放り込まれたのだ。周りと違って魔法士になりたいわけでもなければ才能があるわけでもない。ただ行くあてもないのでここにいる。


「魔法は誰かを助け、誰かと繋がるための力。そんなことに使うもんじゃあ……ないっ!」

「hぶっ!?」


 教師の指から風の勢いによって放たれたチョークが仙田のおでこにクリーンヒットし、仙田もたまらず椅子から転げ落ちる。

 教室にはまたも笑いの渦がもたらされた。


「なんで俺ばっかり……っ」


 小声で呟くが俺に気を止めるものなどいない。弱い魔法士など誰も興味がないのだ。

 小等部から中等部へと進むときには三人一組のチームを組むことになる。普段の授業は自分の実力を見せつけ、その相手を探す場所でもある。

 つまり弱いやつなど眼中にもない。取るに足らない存在なのだ。


 自分の分の属性紙を握りしめぐしゃぐしゃにする。


十塚(とつか)は顔洗ってこい。今日のテストはここまで」


 起立、礼を終えて学園の校庭の隅の水道で顔を洗う。


「くそっくそっくそっ」


 泥を洗い流しながら流しのタイルに向かって悔しさを吐き出す。

 俺は魔法士になどなりたくもない。人を助け、繋がる力? 誰とも繋がれない俺が人を助けるなんて馬鹿馬鹿しい。そんなのは才能や人脈に恵まれた奴が道楽でやるものだ。


 拝窪(おがくぼ)魔法学園。小等部から大学部までが一緒に過ごす広大なキャンパス。数々の優秀な魔法士を輩出してきたこの学校には未来のある若き魔法士見習いたちが入学してくる。その中には一属家もおりとても高い実力水準、充実したカリキュラムによってその権威を示している。


「はっ……一つの属性も満足に扱えないで何が魔法士だよ」


 俺は入学した時から異常に魔力が弱く、属性すら分からない状態だった。3年経った今でもそれは変わらない。周りは自分の属性、特性を理解し鍛錬を積んでいるというのに。


「繋がりなんてなくていい。助けなんてなくていい。俺はこのまま息を殺して生きて適当に死ぬ、それでいい」


 自分に言い聞かせるように、殴りつけるように言葉を吐き出す。人には人の分相応の居場所があるのだ。


「あの……十塚くん」

「ん、ああ。朝倉さん」


 少し驚いて振り返るとそこにいたのはクラス委員の女の子だった。


 朝倉みゆ。綺麗な桜色の髪を腰まで伸ばした同じ小等部3年生。一属家、朝倉の一人娘。

 小等部にして朝の魔力を自在に操り、その実力はすでに学園内でも指折りに入るほど。


 俺とは、何もかもが天地の差だ。


「良かったらこのタオル、使って?」


 そう言って清潔そうな白いタオルをこちらに差し出す。


「ん……ありがと」


 そのふわっとしたタオルを受け取って顔を拭う。お日様の匂いと、ほのかに朝倉さんの匂いがした。


「どうしてこんなところに? もうチームの人、放課後の修練始めてるでしょ?」

「えっと……今日は樹木田(じゅもくた)先輩がおやすみでこのあとは何もないの」

「ふうん……」


 朝倉さんは小等部でありながらその実力を買われ、中等部の一属家“樹木田たいち”とその相方“愛中ことの”と共にチームを組んでいる。


「木の一属家の樹木田先輩とそれを支える圧倒的な土台、愛中先輩。その二人を照らし助ける朝倉さん。本当に完璧なチームだよね。学校始まって以来の秀才チームの名は伊達じゃない」

「全然そんなんじゃないよ……! 先輩たち二人はとっても凄いけど、私はそれにただついていっているだけだから……」


 謙遜するようにぶんぶんと首を振る朝倉さんだが、そもそもその二人に着いていけていること自体が異常なのだ。


「それに私なんかよりずっと凄い人はいっぱいいるよ……それこそ、十塚くんとか」

「んぁ?」


 この子は何を言っているんだろう。お世辞と謙遜はここまでくると普通に暴言よりタチが悪い。


「……あのさ朝倉さん。クラス委員として落ちこぼれを気にかけてくれるのはわかるけど、流石にそれは嫌味がすぎるよ」


 こんな同級生の女の子に哀れみをかけられている自分が情けなくて涙が出てくる。

 すると朝倉さんは怒ったようにこちらを見つめる。


「違うよ……っ! 哀れみとか庇護欲とかそんなんじゃ無いっ……。わたしは十塚くんの奥に何か大きなもの……他の誰にも無いものを感じるの」


 普段おっとりとしている朝倉さんがここまで感情を出しているのを初めて見たかもしれない。驚いた顔をしている俺にハッと気づき顔を赤くする。


「ご、ごめんなさい急に大きな声をだして……でも」


 もう一度真剣な顔をする。


「全てを包み、そして見通す朝の一属家“朝倉”の名にかけて絶対に嘘は言ってないよ」


 吸い込まれそうな茶色の瞳。ああ、俺は……。


 夕焼けが二人を赤く染める。部活と修練に励むみんなの声が遠くから聞こえてくる。


「お、俺……っ」


 俺は今どんな顔をしているのだろう。

 遠くから聞こえる目覚ましの音に思わず俺は。


「目覚まし?」


 バッとと飛び起きて枕元の時計を見る。


「やっべえええええええええええ!!!!」


 無意識に何度も止めていたのだろう。目覚ましは当初起きる予定の時間を30分超過して尚、健気に俺を起こし続けていた。

 慌てて転げ落ちるようにベッドを降り、共用の洗面所へと走り顔を洗う。


「さくちゃんやっと起きたかい? まったく呆れた。ご飯できてるからパパッと食べちゃいなさい!!」


 一回から寮母のじゅんこさんの声がする。


「ごめん!! 今日はいらない!」


 そう返事をして階段を一気に飛び降りる。着地の瞬間に軽く風の魔力を使い衝撃を和らげてそのまま玄関に走る。


「まったくもう。しょうがないねえ」


 呆れたように笑うじゅんこさんの気配を背中に感じながら靴を突っ掛ける。


「ほら、そう思ってお弁当にしておいたから持っていきなさい」


 お弁当の入った手提げを受け取る。


「ありがと!! 行ってきます!!」


 そう叫んで外へ飛び出す。寝ていた野良猫のたまがびくっとこっちを見る。


「うおおおお急げえええええ!!」


 自転車のカゴにお弁当を放り込み飛び乗る。


 今日から高等部一年生。


 “十塚(とつか)さくら”は愛用の自転車を転がして学園へと走り出した。


 お読みいただきありがとうございました! 

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