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「次のライブは映像化することが決まっています。その際、特典をどうするか二人にも意見を聞きたいのですがいかがでしょう」

 美月の家を訪ねた翌日。元気たちは岩手とミーティング室にこもっていた。岩手は性格同様几帳面な文字で、ホワイトボードに「特典案」と書き出し、元気たちを見やった。

「リハーサルを映像化したら喜ばれるんじゃないか?」

「その意見はアリですね。検討しましょう」

 さらさらと、彼は大河の案を書きとめる。

「ライブ中のバクステとかも需要ありそう」

「インタビューと撮りおろしの写真とか?」

「オーディオコメンタリーもやってみたいな」

「……なるほど」

 ファーストライブが円盤化されたときと同じ企画もあれば、今回初めてあげた意見もある。それらすべて、岩手が好意的に書き出していっているので、元気は前からやりたかったことを口にしてみた。

「発売前にSNSでファンと交流する」

「それは却下です」

 即答。この案は何度も断られているので今更驚きはないが、元気は「えー」と不満の声をあげた。

「今の時代、SNSって結構重要なツールだと思うんですけど」

「ええ、知っています。それなので、公式ブログでは定期的にあなたたちの写真や活動の模様をアップしています」

「そうじゃなくて、俺たち個人が発信するからこそファンも嬉しいんだと思います」

「何度も言っていますが、元気はファンの心ない言葉を受け流すのが苦手そうなので、SNSを使わないでください」

「ちゃんとスルーしてるじゃないですか!」

 デビュー前にSNSをのぞいてショックを受けてから、あまりファンの反応を見ることがなくなった。それでも耳に入ってくる批判にも、いちいち目くじらを立てないようになったと思う。

 気にしていても仕方がないし、何より明るくて元気な姿こそがアイドル・西尾 元気の性分だと思っているから、ファンにそれ以外の――怒っているところを見せて、がっかりさせたくないのだ。

むむう、と黙り込んだ元気の代わりに、大河が自分のスマホを操作しながらため息をついた。

「元気は確かにいろいろスルーできるようになったと思うけど、俺はSNS反対」

「ええー、大河まで」

 事務所の先輩グループがファンと直接やりとりしているのが、とても楽しそうでうらやましかったのだ。口をとがらせながら大河に寄りかかる。

「大河は俺の味方してくれると思ってたんですけどお」

「俺はいつだっておまえの味方よ」

 そう言って大河が流し目をくれた。やたらサマになっていて笑ってしまう。

「何それ惚れちゃう」

「惚れろ惚れろ。一生大切にしてやるよ」

 肩に預けていた頭を抱き込まれる。ぐいと近づいた顔があんまりイケメンだったので、不覚にも元気は見とれてしまった。

「大河って本当にかっこいいんだなあ」

「ようやく思い知ったか。こんなイケメンに愛されておまえは幸せモンだな」

「そのとおりねダーリン♡」

 いつもの軽口をたたきながら大河に抱きつく。いちゃつくカップル風に身体を寄せたとき、大河のスマホの画面が目に入った。元気が使いたいと言っていたコミュニケーションツールのアプリが立ちあがっている。「満開ロマンティック」で検索したらしく、いろんなアイコンが満開ロマンティックについてつぶやいているのが見えた。

『満開ロマンティックの新譜にセカンドコンサートの応募券つくってマジ?』

『美月が休止中なのになんで満開ロマンティックライブやるの?』

『たいげんコンビがいてくれるだけで尊すぎ。絶対満開ロマンティックのコンサート当てる』

『美月がいない満開ロマンティックとか意味ないから。コンサートやる必要ないしむしろやんじゃねえよ』

「荒れてんな」

「……この人のつぶやき、めっちゃ拡散されてる」

 髪の毛をくるくる巻いた、かわいい女子の自撮りアイコン。一緒に映っているのは美月のブロマイド。アイコンの縁取りも白く、美月担だというのがわかる。そのつぶやきは千人以上の人に拡散されただけでなく、多数の返信がついていた。

『勝手に休んでるだけじゃん。なんで美月のためにたいげんがコンサートしちゃいけないの?意味不明』

『美月邪魔』

『そもそも美月の人気にあやかってたいげんデビューしたくせに』

『元気と大河のシンメが最高だから美月はいらない』

『元気が美月に憧れてるの知っててそれ言うわけ?そもそも大河が美月と仲悪いから美月が病んだんだろうが!』

『アイドルのくせに元気フツー顔すぎてまじ無理』

『美月だってたいしたことない。いないほうがマシ』

『は?美月最高だろうが。たいげんのがクソ』

罵詈雑言。ファン同士でいさかいが始まっている。見たくなくて、元気はそっとスマホの画面を閉じた。

「な? こんななかで発信しても炎上しそうで心配だよ」

大河が慰めるように頭を叩いてくる。いっぽう、これまで黙っていた岩手は、まっすぐ元気を射抜いた。

「この荒れたネットで、あなたは何も知らないふりしてファンと交流できますか?」

「……ううう」

誰のファンとか、誰をどう好きとか、そういうのは人それぞれだ。しかし、キラキラ輝くアイドルの姿でみんなを笑顔にしたかったはずなのに、自分たちのことでこんなに争いが生まれているのはしんどい。他人に攻撃的な言葉を投げつけているファンを一列に並べて喝を入れてやりたい。でも。

「……知らないふり、デキマス」

「できそうな顔じゃないですよ、それ」

「確かに」

 岩手の言葉に大河も同意した結果、SNSでの交流はNGになった。


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